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わが地域の英語教育の取り組み


 熊本県編 〜KUMAMOTO〜

  「もっこす」と「わさもん」の観点から解く

 

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 熊本大学教育学部 准教授 島谷 浩

 「もっこす」と「わさもん」にスポットを当て、熊本県の英語教育に見られる熊本らしさを、紹介してみました。まったくの独断で、見当はずれもあるかと思いますが、「もっこす」で「わさもん」の熊本県の先生方の熱意と創意あふれる英語教育の一端をどこかに感じていただければ幸いです。

01熊本人気質 「もっこす」と「わさもん」

 熊本の人々の気質を表す言葉に、「もっこす」と「わさもん」があります。「もっこす」とは頑固者という意味で、熊本人の頑固で反骨的な性格を指す言葉です。「肥後もっこす」は、自己主張が強く、他人の言に耳を傾けないため、話し合いがなかなかまとまりません。「肥後の議論倒れ」ということわざもあるくらいです。「わさもん」は、新しがり屋という意味で、反骨精神に由来するとも解釈されています。熊本人は、流行に敏感で新しいものに飛びつきやすく、実際、熊本市のシャワー通りや上乃裏通りなどは、ファッションの先進地域として業界人の間では有名です。

 私は、熊本大学に赴任して10年程になるのですが、超保守的な「もっこす」と超先進的な「わさもん」という一見相反する気質をあわせ持つ熊本の人々に接しながら、この「もっこす」と「わさもん」が、コミュニケーション能力獲得の重要な鍵であると思うようになってきました。

 頑固で妥協しない「もっこす」は、かけひき下手でコミュニケーション能力に劣り、組織社会の落ちこぼれのように見えますが、一度信頼関係を築くとその後は決して裏切らず、強情なだけでなく細かい心配りができるため、近年では、高く評価される場合もあります。確かに表面的なコミュニケーションをすばやく成立させるのは不器用かもしれませんが、真のコミュニケーションを成立させる能力は高いのです。新しもの好きな「わさもん」は、外国語学習、異文化理解に向いています。どんな理由であれ、その言語を身につけたいという強い意欲が、外国語学習の大きな推進力になりますが、好奇心旺盛な「わさもん」は、外国語や異文化を学ぶ意欲は強いはずです。

02熊本洋学校教師 ジェーンズの教育

 熊本の英語教育の原点ともいえる熊本洋学校の歴史に、「もっこす」と「わさもん」ぶりがうかがえます。熊本洋学校は、1870(明治3)年に、熊本藩が、藩の生き残りのために開校したエリート養成校です。この学校に招聘(しょうへい)された米国人教育家L.L.ジェーンズ(1838-1909)は、日本語を話せませんでしたが、通訳もつけず、アルファベットすら知らない生徒たちに英語で授業を行い、英語、数学、物理、化学、生物、農業などを指導しました。彼の教育の特色として、「開発的、自学自習教育」(教育は与えるものではなく、その人が持っているものを引き出すもの)、「班別学習」(優秀な者が遅れた学習者の面倒を見る)、「演説教育」(英語による演説教育)などが挙げられます。また、彼は、自由・自主独立の気風や男女平等思想を教え、日本初の男女共学を実現させました。

 敬虔(けいけん)なクリスチャンだったジェーンズに薫陶(くんとう)を受けた生徒たち35名が、1876(明治9)年1月30日に、熊本市の花岡山でキリスト教布教を誓って結成したのが「熊本バンド」です。しかし、これが大きな反発を呼び、洋学校は廃校、ジェーンズはキリスト教布教の咎(とが)で、任期更新されず熊本追放となってしまいます。洋学校廃校後、「熊本バンド」のメンバーは、新島襄(じょう)の同志社英学校に移りました。同志社英学校は、1879(明治12)年に最初の卒業生15名を出していますが、全員が「熊本バンド」の学生でした。その後、彼らは、日本でのキリスト教布教に大きな足跡を残し、結果的にジェーンズの教育は大きく実を結びました。

 熊本を追われたジェーンズですが、晩年、熊本での5年間を人生最良の時期と述懐していたそうです。「もっこす」で「わさもん」の教え子たちと本物の信頼関係を築きあげていたからでしょう。「わさもん」的に開校し、「もっこす」的に廃校となった熊本洋学校ですが、ジェーンズの教育には、今日の英語教育に示唆を与える要素が多く見られ、興味深いものがあります。

03最近の熊本県の英語教育

 次に、最近の英語教育への取り組みを、小学校、中・高等学校、大学の各レベルで、「もっこす」と「わさもん」の観点から紹介させていただきます。

 熊本県の小学校英語教育への取り組みとして、特筆すべきは、英語教員免許所持者を対象とした特別枠の採用を始めたことでしょう。熊本県教委は、昨年、小学校教員採用試験において、英語特別枠10名の採用計画を突然発表し、実施しました。県下のすべての小学校において、英語活動の中心になれる人材を確保するまで実施する予定だそうですが、当時の文部科学省をも驚かせた前例のない決定でした。まさに、「わさもん」的な取り組みと言えます。しかし、おそらく慎重意見もあったはずで、この大胆な決定の裏に、強固な「もっこす」魂を垣間見るのは私だけではないと思います。

 熊本県教委は、「認め、ほめ、励まし、伸ばす」を教育行動指標とする「熊本型教育」を推し進めていますが、その授業の特徴は、基礎・基本の徹底指導と能動型学習のメリハリにあります。熊本県の中学・高校の英語教育においても、教えなければならないことは徹底的に教える「基礎・基本の徹底」と自分の考えなどを表現する能力を引き出す「能動型学習」を、メリハリ良く配置するように指導計画を立てるようになっています。「徹底」と「能動」を意識することにより、教師の指導目標は明確となりますし、生徒は、自分の学習目標を明確に持って活動に取り組むことができます。現行学習指導要領で、英語教育の目標となっている「実践的コミュニケーション能力」を獲得させるために、「徹底」と「能動」は、どちらも欠かせぬ重要な要素です。こじつけかもしれませんが、「もっこす」と「わさもん」の要素が、「徹底」と「能動」として、熊本型英語授業の根幹にうまく取り込まれているように思われます。

 私が勤務する熊本大学の教養英語教育は、コミュニケーション能力養成に重点を置いたカリキュラムを導入していますが、その特徴に、CALL(コンピュータを活用した言語学習)とNative(英語母語話者)による会話クラスが、全学必修科目になっていることを挙げることができると思います。2001年当時、必修英語へのCALL導入は先駆的な試みでした。CALLでは、授業時間外の自習が奨励されるわけですが、熊大のCALL環境は年々改善され、現在では、インターネットによる学外からのアクセスも可能となり、24時間年中無休の自習環境が実現しています。Nativeによる少人数の会話クラスは、全学生にオーラル・コミュニケーション能力を向上させる機会を平等に与えるために実現させたのですが、1学年に1,800名ほどの学生をかかえる大学で、これらの授業の質を維持していくのはかなりの苦労を要します。新しいものを積極的に取り入れながら、より良い英語教育環境を頑固に守る熊大の英語教科集団に、「もっこす」&「わさもん」精神が受け継がれているのではないかと我がことながら感じています。


 (STEP英語情報 2008年7・8月号より)

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