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英検TOP > 英語教育サポート情報 > 新学習指導要領へ向けて > 第9回 石川県立金沢桜丘高等学校

新学習指導要領へ向けて ~高等学校編

 第9回 石川県立金沢桜丘高等学校


 歴史と文化の町、石川県金沢市にある県立金沢桜丘高等学校は、今年で創立91年を迎える伝統校。3学年で計28クラス、生徒総数1,120名の大規模進学校であり、スポーツも盛んな文武両道をモットーとする学校だ。2009年度より文部科学省の「英語教育改善のための調査研究事業」の指定校となり、翌年には「教育研究開発事業」の指定校となった。様々な変革に取り組む同校の英語教育を取材した。

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他教科にも影響を与える、アクティブな英語の授業

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吉岡利恭校長

 校訓は質実剛健、校是は文武両道という同校の吉岡利恭校長先生は、「勉強と部活を両立させ、何事にも真摯(しんし)に取り組む姿勢が本校の生徒の特徴です」と語る。進学先は金沢大学や富山大学といった近隣の国公立大学から全国区の難関校と呼ばれる大学まで。運動部が県高校総体、新人戦で目覚ましい成績を残す一方、新聞部、放送部など文化部もコンクールで優秀な成績を収めている。

 同校は、石川県が指定する「スーパーハイスクール」5校のうちの1校。これは思考力、判断力、表現力等を高めることを目標に、各校が教育に工夫をこらす事業だ。「スーパーハイスクールの精神を実践するために、生徒に頭を使わせる授業をしてほしいと先生方には言っています。その1つの方法が、生徒同士が話し合いを通して新しい考えを生み出すペア・ワークなのですが、英語の研究指定校になり、英語科の先生方がペア・ワークを非常にうまく取り入れたことが、他教科の授業改善にとても良い刺激となっているようです」と吉岡校長先生は話す。


4技能の統合的な言語活動による発信型コミュニケーション能力の育成

 指定校になったことで、同校では従来の知識獲得中心の英語教育から脱却を図るとともに、英語によるコミュニケーション能力の育成を目標に掲げ、カリキュラムの中に指定校独自の学校設定科目を取り入れた。そこで、英語科教員は「生徒の発達段階に応じた4技能の総合的育成―4技能の統合的な言語活動による発信型コミュニケーション能力の育成」を目標に、新しい英語の指導方法を研究開発してきた。そして、この目標のもとに作成されたのが表1の教育課程だ。

 研究開発の中心となっている英語教育推進室の正村泉一先生は、「コミュニケーション能力を高める指導の在り方を考えるにあたり、私たちは、人間の頭の中に情報が入ってきて、その情報がどんな形で外に出ていくかという受信から発信への内的プロセスに着目しました。まず、何かを読む、聞く、見る、体験するといった形で情報が入ってきます。そしてそれを頭の中で認識する過程で自分の意見を持ったり、その情報に何らかの意味を見出したりしながら、最終的に「話す」「書く」といった発信活動へとつながっていきます。この内的プロセスを授業の流れに当てはめ、そのプロセスをすべて英語でできるようにしていこうと考えています」と説明した。

 正村先生たちの考えた、実際のコミュニケーションのプロセスを、「英語コミュニケーションⅠ・Ⅱ・Ⅲ」の授業に当てはめたのが表2だ。

 「英語コミュニケーション」では、スピーキングだけではなく、「4技能の統合的な言語活動による発信型コミュニケーション能力の育成」という目標の通り、リーディング、リスニング、そしてライティングもカバーしている。さらに、思考のプロセスを授業の中で言語活動として具現化することで、吉岡校長先生の言う「生徒に頭を使わせる授業」も実現できるようになっている。

 柱となる「英語コミュニケーション」の目標は、「英語で積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するとともに、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりする」こと。1年次の「英コミⅠ」では、パッセージの内容に日常的なものが多く、「英コミⅡ」「英コミⅢ」と進むにつれ、社会的、論理的、抽象的な内容の英文が素材となっていく。1年次に実施されている「ボキャブラリー&ストラクチャー」は、コミュニケーションをするために必要となる語彙、連語、文構造に関する基礎知識を学び、それらを適切に活用する力を身につけるための科目という位置付けだ。

表1、表2


4技能を駆使した、具体的な授業の流れ

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正村泉一先生

 「授業は英語で行いますので、1年生では英文が比較的やさしく、日常的なトピックが扱われている検定教科書を使用しています。レッスンの最初の授業はレッスン全体の導入で、英文のテーマに興味を抱かせる活動をさせたり、テーマに関連のあるティーチャートークを行ったりして、生徒が英文を読むための動機付けを行います。続いて、レッスンの終わりまでを通し読みし、概要や要点をつかみます」と正村先生。「2時限目からは、レッスンの中の各パートを順に学びます。まず、本文で使用されている文のストラクチャーを押さえたうえで、Q&Aを行いながら内容の理解を深めます。次に、パート内のキーワードを拾い、それを見ながら、書かれている内容をペアの相手に英語で伝える練習をしたり、パートを要約したりする活動を行います。全パートを終えたら、レッスン全体の単語テストや作文練習で言語知識の定着を図ったあと、もう一度通し読みをします。そしてそのあと、レッスンの内容に関連して与えられたテーマで、各自が自分の考えを英文で自由に書きます。その次の授業では、教員が添削して生徒に返却した英文をもとに、ペアで自分の考えを伝え合う活動を行ったあと、最後に、一人ひとりがALTを相手に自分の考えを伝える活動を行います(英コミ Ⅰ)」。

 3年生からは、文系、理系ともに「リーディング」の授業が始まる。入試の長文読解に対応する力をどのようにつけさせているのだろうか。3年生で同科目の授業を持つ前田昌寛先生に伺った。

 「今日の授業の読解テーマは“lateral thinking”です。従来型の授業では、先生が“lateral thinking”を『水平思考』という日本語に置き換えたうえで、それについて日本語で説明することが多いと思いますが、私の授業では、“lateral thinking”について、生徒自身の経験や体験を生かしつつ、英語を通じて理解させていくところから始めていきます。この方法は、抽象的な事柄や社会的な事象を扱った英文になればなるほど、授業に面白みと深みが出てきます」これを受け、正村先生は続けた。「多くの場合、試験で点が取れるというのは、大人が作った問題の大人が想定した答えに対し、生徒がどう答えるかということです。それは、社会で生きていくうえで、あるいは英語そのものの力をつけるうえで、1つの指標や目標になることは確かですが、それだけではなく、生徒にとっては、社会問題のように正解のないいろいろな問題について、自分で考えることも大切です。先生と違う意見を持ってもいい。生徒が授業の中で思考することがベストです」


新しい英語教育への一歩を踏み出した

 今年、金沢桜丘高校では、発信型コミュニケーションのカリキュラムで育った最初の生徒たちが受験を迎える。進学校での新しい取り組みは、入試でどのような成果を見せるのだろうか。「私たちよりも以前から英語教育の指定校として取り組んでいる先生方から、コミュニケーション能力を高める教育は受験にも対応できるという話をお聞きしました。音声面での練習や英語で思考するという経験の積み重ねが、そういう結果につながっているのだと思います」と語る正村先生は、発信型コミュニケーションの授業を行うようになってからの、教える側の変化を次のようにとらえている。

 「当然、定期試験の作り方も変わり、問題の作成にあたって、教員同士で出題方法を吟味する時間がとても増えました。問題を作成するときの目的意識が変わったと思います。確かに、生徒の思考を促し、発信させるための授業の準備には時間がかかります。時間をかけて授業の導入の活動やトークを考えても、生徒の興味に火がつかないこともあります。ただ、以前は、全部を理解させなければと思うところがありましたが、コミュニケーション能力を育成するための授業は全部を教えるということではないと思います。必要な内容をしっかり理解させたあとで、生徒の意見をどう引き出していくか。これが教える側に起きた変化であり、発信型の授業を進めていくうえで大切なポイントだと思います」


前田先生の「リーディング」の授業

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 黒板に、バス停に立つ3人の絵が描かれている。先生は、You are driving a car. The weather is very bad. At the bus stop, you found three people waiting for the bus. と状況説明をし、バス停に立つそれぞれの人物像を、an old lady who is suffering from a disease,an important friend who saved your life before,a perfect partner you want to date with と英語で説明する。そして最後に、車にはあなたの他に1人しか乗せられないが、誰を乗せるべきか、水平思考を使って考えなさいという英語の指示が出る。生徒たちは黒板を見つめながら、頭を働かせる。ヒントが英語で与えられ、生徒は各々の考えをまとめていく。「“lateral thinking”は水平思考という意味です」と教えるより、言葉の意味を深く体感できる素晴らしい導入だ。

文部科学省初等中等教育局教育課程課・国際教育課 教科調査官 向後秀明先生のコメント

 大学入試に合格させるためだけの授業を行うか、グローバル社会を生き抜くことができる思考力・判断力・表現力等を育成する教育を行うのか――。生徒たちの可能性を大きく広げ、一人ひとりが「生きる力」をもって社会に出ていくことを願うなら、答えは明らかだと思います。金沢桜丘高等学校では、まさに後者の教育が実践されています。文科省の教育研究開発学校の指定に伴う学校設定科目の導入と併せ、県の「スーパーハイスクール」に認定されていること、さらには吉岡校長先生の「生徒に頭を使わせる授業を」という考えが、コミュニケーション能力育成のための授業を後押ししていると思います。校長先生の後押しの効果は、当然、外国語科だけでなく、他教科へも波及していくことになります。

 読者の皆さんは、高校3年生の「リーディング」において、前田先生のような授業展開で言語活動を設定していますか。学年末が近づくと“大学入試を控えているから”などと言って授業公開を避けていませんか。3年生だからこそ、自ら思考し、互いに情報や考えなどを伝え合う授業が増えていかなくてはなりませんよね。


 (STEP英語情報 2012年1・2月号より)

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