「ゆるやかに、ゆっくりと、英語で話したい気持ちを育む」
秋田県大仙市立南楢岡小学校
秋田県は、文部科学省の「小学校における英語活動等国際理解推進事業」を『ファン・イングリッシュ推進事業』と名づけ、2007年度に県内9小学校を拠点校に指定した。拠点校の1つ大仙市立南楢岡小学校は、他校のモデルとなるよう、全校体制で実践的な取り組みに邁進してきた。
外国語必修化に備え県独自の活動を模索

板垣景子 教諭秋田県は、平成17年度から2年間「小学校英語活動支援事業」を実施し、県内の8中学校区23小学校にネイティブスピーカーの指導者を派遣したり、夏休み中に小学校4年生以上の児童生徒を対象に「イングリッシュ・キャンプ」を実施したりして、英語活動を支援してきた。
19年度から2年間実施した「ファン・イングリッシュ推進事業」では、地域のバランスを考慮して3管内に3校ずつ計9校を拠点校に指定し、学校訪問などを通してよりきめ細かい支援を行った。各拠点校は、学校の実情に応じて指導方法の改善や教員の指導力向上への取り組みを模索しながら、地域内協議会や自主公開研究会を開催するなどして成果の発信にも努めてきた。
大仙市立南楢岡小学校は、全校児童数が50人の小規模校で、2年生と3年生は複式学級である。15年度から、3年生以上の子どもたちに総合的な学習の時間を使って月2回、年間20時間程度の英語活動を実施(1・2年生はALTの来校時に4〜5時間実施)していた実績もあり、拠点校としての役割を担った実践活動に無理なく取り組むことができた。19年度から1〜4年生は年間20時間、5・6年生は35時間の英語活動に取り組んできた。
ネイティブスピーカーとのTTを重視
拠点校の指定を受け、南楢岡小の須田綾子校長がまず考えたのは、ネイティブスピーカーとのティームティーチングの推進である。これを可能にしたのが、大仙市がALTに加えて雇用しているCIR(国際交流員)の存在だ。市にCIRの派遣を依頼したところ快諾され、毎週1回来校してくれることになった。CIRはネイティブスピーカーであると同時に日本語の堪能なことが条件となっているので、担任の先生も安心して打ち合わせができる。ALTの来校は月2回で、5・6年生の活動を支援する。大仙市には小学校26校、中学校1 2 校があり、ALT 7人が各担当中学校区の小学校を訪問する。
活動は、CIRらの英語をたっぷりと聞かせ、触れ合わせることが中心となるが、だからといってすべて彼らに任せているわけではない。活動プランは担任が英語で作成する。そして、「忘れてもOK!」「間違っても、もちろんぜんぜんOK!」という温かい雰囲気で子どもたちを励ます。語彙の少ない子どもは、口が動かなければ、手が動き、表情が動き、そうやってどうにか伝えようとする。また、“Howdo you say〜in English?”と助けを求める。文法的な間違いは指摘せず、子どもたちが自ら気づくようにさりげなく繰り返すことをCIRらに依頼している。
授業の進め方の特色は、体験的に学ぶ機会を多く作っていることである。英語を使って積極的に外国の人たちと話したいという気持ちを子どもたちに持ってほしい、という願いからだ。5年生を担任する板垣景子教諭は、「英語活動を年2回しか実施していなかった学校から昨年赴任してきました。来校する多くの外国の人々と触れ合ううちに、英語で話したい気持ちが強くなり、子どもたちと一緒に楽しんでいます。日常生活の中で自然な英語が使えるように、意味のある活動をすることを心がけています」と話す。
南楢岡小では、通常の授業に加えて、近隣の秋田大学や国際教養大学の留学生、地域に住む外国人などの協力を得、かかわりを通して子どもたちが慣れ親しんだ表現を思いきり使える機会を多く設けた。その結果、子どもたちは英語を使ってコミュニケーションすることがどんなに楽しいことかを体感しはじめているという。須田校長は、ゆるやかに、ゆっくりと進めてきた活動によって子どもたちの道徳性もはぐくまれ、学校教育目標「夢きらり学びわくわくひびきあい」の「ひびきあい」とピッタリつながった、と感じている。
教員の指導力養成を最優先課題に

関谷美佳子 指導主事秋田県教育委員会は、現場の教員へのアンケート結果などを踏まえ、教員の指導力向上のための研修を最優先課題とする方針を立てた。これまでも、県独自の事業として、全校種・全教科の先生たちを英語圏の国に派遣し、ホームステイや大学での語学研修を行う「教職員海外コミュニケーション研修事業」(20年度は小学校教員に特化)を実施するなど、教員の英語コミュニケーション能力の向上に力を注いできた。ALTの資質向上も重要と考え、県内すべてのALTが参加する「ALT中間期研修会」において、小学校英語活動をテーマとしたワークショップも開催している。また、指導力が卓越した教育専門監(中学校英語教員)を小学校にも派遣し、各校の先生を刺激、指導しながら指導力を高めてきた。20年度には、全小学校を対象に「中核教員研修会」を実施し、外国語活動の在り方についての理解を深めたり、英語ノートを使った模擬授業を行ったりした。現在、各小学校は、2年間で30時間程度の校内研修に取り組んでいる。今後は、国際教養大学と連携して教員向け研修プログラムを共同開発し、「小学校外国語活動教員集中5か年研修」を実施する予定である。
県教育庁義務教育課の関谷美佳子指導主事は、「本県の先生方は、指導力がありクラス・マネジメントにも優れています。いまはまだ不安があるかもしれませんが、きっと近い将来には、外国語活動の授業においても自信あふれるすばらしい授業を展開してくれると思います。拠点校の先生方は、それを実証してくれましたから」と笑顔で話してくれた。
「伝えたい、と思う気持ちを大切に」
大仙市立南楢岡小学校
須田 綾子 校長
子どもたちは、いろいろな国の人たちとのコミュニケーションを楽しんでいます。必ずしも英語を母語とする人たちとは限らないことで「英語はコミュニケーションの道具として学ぶ」ということを認識し、英語の必要感を感じています。私たちは、小学校だからこそネイティブスピーカーとのTTを望んでいます。相手がネイティブスピーカーだと、子どもたちは、英語を使ってなんとか伝えたい、なんとか分かってほしいという意欲をいっそう高めることができると考えるからです。その気持ちを大切にしたい。やがて、日本の伝統・文化について英語で発信してほしいと期待しています。
タスクの難易度ということ
(財)日本英語検定協会検定委員長
和田 稔南楢岡小学校の授業を参観しながら、「タスク=活動」の難易度ということをしきりに考えました。タスクの難易度は学問的にも面倒な問題なので、英語活動を行う先生方には身近な問題でないかもしれませんが、英語活動の授業を設計するときに、頭の片隅に置いてもよいことだと思います。
タスクの難易度とは、簡単に言うと、タスクがむずかし過ぎると学習者は挫折してしまいますし、やさし過ぎるとマンネリに陥り学習者は退屈するということです。授業設計に当たる人は学習者に最適なタスクを選択する必要があります。では、どのような条件を満たせば、最適なタスクが選択できるのでしょうか。おそらく、先生方は「経験にもとづく直感」で選択しているでしょう。しかし、タスク中心のシラバスを作るときにはたくさんのタスクを用意しなければなりません。そのようなとき、ある程度客観的判断基準・条件があるほうがよいでしょう。
南楢岡小の授業では「ハンバーガー店でハンバーガーを買う」「薬屋さんで薬を買う」「土産店で土産を買う」という別々のタスクを同時に設定していました。子どもたちの「やりとり」(communication)を見ていると、当然のことながら、ハンバーガー店にたくさんの客が集まり盛況でした。薬屋さんと土産店には客は集まりませんでした。1つの授業に3つのタスクを同時に設けるというのはおもしろい発想です。そのために、タスクの難易度のことを考えることができて興味深いものでした。
難易度を決める条件として、すぐ頭に浮かぶのは、言語的要素でしょう。薬屋で使われる英語はむずかしい。それだけでなく、外国旅行で薬を買うことは子どもたちには身近な事柄ではないかもしれません。これはタスクの親密度(degree of familiarity)ということにかかわります。店員がALTであれば、「やりとり」はALTのリードでうまく進むかもしれません。つまり、対人関係という要素もあるかもしれません。
タスクの難易度は言語習得の研究分野でも難問です。英語活動の実践分野では関係がない、という立場もあり得ると思いますが、私は実践分野でも少しは注目してよいのではないか、と考えています。
英語と日本語を使い分けた無理のない授業
Drugstoreでは店員も客も大きなジェスチャーで見学したのは5年生の授業で、クラスサイズは11人。ロンドンに旅行して買い物をするという場面設定だ。Drugstore、Hamburgershop、Souvenir shopと店舗が複数設定されていることが新鮮である。Hamburger shopの店員になった子どもは、注文以外の品物を勧めるなど、型にはまったやりとりでないことに感心させられた。Drugstoreでは、英語が難しいせいもあり、英語と一緒に体の具合をジェスチャーで示す。店員は、どの薬が適切か考える表情まで浮かべて薬を選ぶ。臨機応変で笑いが絶えない。ALTはすべて英語を使い、CIRは必要なときだけ通訳する。
担任は英語と日本語の使い分けが見事で、子どもたちの使う英語も自然で無理がない。伝えようとするとき、「日本語でもジェスチャーでもOK」だが、英語で表現したい子どもはCIRや担任に聞くこともできる。ただしSouvenir shopの洋服売り場で、“For who?”という表現をALTが使い、子どもたちが理解できなかったときは違った。簡単に日本語にせず、いろいろな言い方で、子どもたちにさまざまに推測させる。分かったときの子どもたちが、お母さんに、お兄ちゃんに、などと口々に叫ぶ目の輝きが印象的だった。
秋田県教育庁義務教育課〒010-8580 秋田県秋田市山王三丁目1-1 TEL:018-860-5148
大仙市立南楢岡小学校〒019-1826 秋田県大仙市南外字田中田17 TEL:0187-73-1800


















