「学級担任が進める子どもと教師が共に楽しむ英語活動」
福岡県大牟田市立明治小学校
福岡県大牟田市は、平成12年度から市内全小学校で6年生を対象に年間35時間の小学校英語活動に取り組んできた。これまで1・2年生が年間10~15時間、3~6年生が35時間の英語活動を体験している。活動の特色は担任を中心とした指導で、明治小学校はその中核校として実践を重ねている。
不安を払拭した多彩な研修と実践の積み重ね
電子黒板とともに外国の「すごろく」でも「数」を学ぶ小学校英語活動を始めるときに大牟田市と教育現場が直面した課題は、だれが、どんな内容の活動を、どのように指導するのかだった。やるからには全小学校でと決めたが、指導者はいない、指導案もない、参考にする資料もない、ALTを十分に雇用できる予算もない、という状況を突破するために選択したのが、小学校の学級担任のよさを生かしながら、小学校ならではといえる英語活動である。
具体的には、子どもたちをいちばん理解している担任が中心になり、身近で分かりやすい題材を活用し、体験的な活動を中心に、という方針が立てられた。また、子どもと教師がともに楽しめる活動を工夫し、「聞く・話す」を中心に、英語に「慣れる」「親しむ」「楽しむ」活動を行うなどの方向づけも示された。だが、活動開始当初は必ずしも順調に進んだわけではない。授業運営、とくに発音に対する自信のなさから、英語活動を負担に感じる先生も少なくなかった。その不安感を払拭し、「できそうだ、やってみたい」と先生たちの意欲を高揚させる役割を果たしたのが、市主催の研修会である。
授業中心指導、理論学習、英会話力向上、実践交流(公開授業)など、先生方のニーズに応じた多様な研修会が開催された。公開授業は、英語活動の得意な先生が上手に活動する姿を見せることを目的とした発表会ではなく、先生たちが悪戦苦闘する様子も含めて、普段の授業を公開する形で行われた。参加は市内全員ではなく、希望者である。教育委員会のねらいは、参加したい、参加しなければ、と先生たちに感じてもらうことにあった。先生たちは市の願いに応え、自主的な研修サークルまで結成し、率先して英語活動に取り組み始めることになる。サークルでは現在も定例会を開き、アイデアを出し合い、さまざまな課題の改善に取り組んでいる。
「活動や体験を多く取り入れる」「どの子にも1回は発表できる機会を与える」「苦手意識のある子どもはしっかりと褒める」「子どもたちが忘れてもいいから、変化のある繰り返しで自然に英語に親しませる」など、指導にあたっての配慮事項が実践の積み重ねによって明らかになってきたことも、先生たちを勇気づけた。
全小学校の活動を促した情報の共有
大牟田市立明治小学校の安田昌則校長は、研修の実施、活動支援資料の整備、実践事例集の作成など、英語活動開始当初から中心メンバーとして活躍してきた。活動支援資料は、まずカセットテープ(簡単な単語、フレーズなどの発音練習用)が作成された。現場から「カセットは頭出しができない」という声が上がれば、スキットや単語、教室英語を収録したCDを作った。さらにCDでは動きが分からない、という要望に応えCD-ROMを作成した。これらすべてが市内の先生の手作りという点に、大牟田市の小学校英語活動の誇りがある。
ビデオの撮影から編集作業まで、発音については中学校のALTに協力してもらったりしながら、市販では得られない大牟田市の小学校ならではの教材を先生同士で作り上げ、蓄積していった。地域イントラネットが整備されたことを利用して、「実践編(授業風景)」「単語フレーズ集<児童用・教師用>」「クラスルーム・イングリッシュ編」といった3種類の「英語活動コンテンツ」も作成した。
また、TV会議システムを活用し、小学校同士の授業交流も試みた。互いの学校を知ることができて子どもたちは大いに喜んだと同時に、意欲が増す姿が見てとれたという。
さらに、A 4 版の「E C T( English Conversation Teacher)便り」を毎月発行。市の全教職員に配布し、各学校の様子や国の小学校英語活動に関する情報を共有化するなど、学級担任が進める英語活動は、市内全小学校が一丸となった活動へと発展していった。
知的に楽しく、人と心を通わせる
小宮武士教諭明治小学校は創立103年を迎えた伝統校。市の研究指定校であると同時に、文部科学省の拠点校にもなっていて、3年生以上35時間、1・2年生は15時間、学級担任が進める英語活動に取り組んできた。年に3~4回小学校専属のALTが1年生から5年生までの授業に参加し、LGT(Language Guest Teacher=元ALTで日本語も堪能な地域人材)が6年生の授業に参加するが、あくまでも支援のための協力である。年に30回強は、担任1人が机を取り払った教室を舞台に、教師も子どもたちも楽しむ活動に取り組んでいる。ただ単に楽しくではなく、「知的に楽しく、人と心を通わせる」という点に留意した活動を続けていることが特色だ。
活動時間以外にも、毎週水曜日の朝15分間を英語活動と関連させたコミュニケーションタイムとしたり、校内のさまざまな場所に絵とアルファベットを掲示して、子どもたちに文字を目にする機会を与えるなどの工夫が見られる。驚かされたのは「アナウンス・ショット」と名づけられた仕掛け。壁に掛けられた機材が、子どもたちが廊下を歩く姿を感知し、ALTの英語で挨拶や当日の天気をたずねる声が流れるのだ。子どもたちは自然に、その日の天気や気分を答えていた。
宮田久美子教諭市の動物園にいる動物をALTに紹介する2年生の活動実践例を紹介すると、子どもたちは自分が好きな動物を選び(自己選択)、3ヒントを作成し( 自己決定)、ALTにあててもらう。子どもたちは、ドキドキ・ワクワク体験をしながら英語を使う。3年生は、社会科で「町体験」をして果物の名を覚え、英語活動で先生の好きな果物ベストテンを聞き出し、果物を模した小物で先生たちにデザートを作るというもの。子どもたちが作ってくれたデザートを見せられたとき、安田校長の満面に浮かべた笑みが印象的だった。
明治小では年2回(5月、12月)子どもたちに英語活動に関する意識調査をし、7月と12月には「児童英検」(特別版)を利用。子どもたちの英語活動に対する意識と児童英検が示すデータを、子どもたち一人ひとりを適切に指導するために活用している。
子どもたち同士のかかわりを大切に
次の月の名前は? 積極的に発言する子どもたち見学したのは、5年生(クラスサイズ35人)と6年生(同38人)の授業。両学年とも昨年から「英語ノート」(試作版)を活用した授業を行っている。
5年生担任の小宮武士教諭は、電子黒板を巧みに操り、子どもたちにも操作させて、授業に活気を持たせる。11から20までの数字のなかから、子どもたちに好きな数字を選ばせるなどして、楽しみながら発話させ、聞かせていた。「ビッグボイスも大切だけど、2人で話すときの適切な声があるよね」と注意することも忘れない。
6年生担任の宮田久美子教諭は、月の名前を聞かせながら、冬至にカボチャを食べたり、ゆず湯に入ったりする伝統があるのはなぜかとか、雛祭に似た行事がインドにもあるようだ、韓国には日本のお盆のような行事があるらしいなどと話しながら、子どもたちの興味を引きつけていく。無理に発話させず、CDを操作し、英語による月の名前を聞かせ続けていた。両クラスとも児童数が多く、子どもたち全員への気配りが大変だが、感心したのは、うまく応えられなかった子どもをほかの子どもたちが助けていたこと。助けられた子どもは、悪びれることなく、楽しそうに活動を続ける。
「子ども同士のかかわりを大切にした活動を工夫してきました。その結果、だれかが困っていると、その子を助けようとする子どもが出てきました」と両先生は口をそろえた。
「担任中心の英語活動は必ずできます」
大牟田市立明治小学校
安田 昌則 校長
英語活動導入にあたって、さまざまな施策に参画する立場になりました。英語の専門家でないことにためらいがありましたが、教育委員会の先生から「小学校の先生は英語の専門家ではない。その不安を払拭するのは、あなたでしょう」と助言され、小学校の先生の特色を生かした英語活動はどうしたら可能かを模索し続けてきました。
平成23年度以降は、余剰時間を使った教育課程外で、これまでの実践を生かし、3・4年生は20時間程度、1・2年生も10~15時間程度の担任による英語活動を実施する予定です。英語ノートに沿う形を想定していますが、詳細は今後の課題です。今年度は11月27日に全学年公開の研究発表会を行うことになっており、ご参会をお待ちしているところです。
学級担任中心の活動に不安感を抱いている学校もあると思いますが、必ずできる、と励ましの言葉を送りたいと思います。
大牟田市立明治小学校〒836-0012 福岡県大牟田市明治町2-21-1 TEL : 0944-53-6017
過去と現在とをどのように繋ぐか
(財)日本英語検定協会検定委員長
和田 稔大牟田市の明治小学校の英語活動の授業を参観するにあたって、私が知りたいと考えていたことは、明治小学校は「過去」と「現在」との間をどのように繋つなごうとしているか、ということである。
大牟田市は全国でも早くから市をあげて小学校英語に取り組み始め、明治小学校は、平成12年から10年ほどの時間をかけて営々と実践を積み重ねてきた。その間、貴重な経験を集積しているはずである。一般的に言うと、過去の実践が豊富な学校ほどその豊富さゆえに、新学習指導要領で導入された英語活動や「英語ノート」などへの対応に戸惑っていることが多い。明治小学校はこの課題にどのように取り組んでいるか、私がもっとも知りたいことであった。
見せていただいた授業は電子黒板を使い、「英語ノート」の流れを忠実に追う授業だった。授業は遅滞なくスムーズに展開した。日本人教師が1人で進めて、けれん味がなかった。電子黒板を使う授業の姿を過不足なく伝えており、このような授業を全国で展開してほしいことを願って文部科学省は電子黒板を作成し、全国の小学校にその使用を呼びかけているのがよく理解できた。しかし、過去の経験を通して蓄積した知恵はどこに生かされているのだろうか、と私はふと思った。
中学校や高等学校での英語指導では、「教科書を教えるのではなく、教科書で教える」ということが言われていて、そこに教師は自らの創意工夫を生かす努力をしている。おそらく明治小学校では、まずは電子黒板をありのままに使うことから始めているのであろう。そのような姿勢が率直に伝わる授業であり、いま足元を固めることに専念している姿勢は正しい。その考えの堅実さはほかの学校も学ぶべきだろうと思う。そして明治小学校は新たな経験を加えて今後、過去の実践を積極的に取り入れる方向に向かうのではないか。そう私は期待したい。
私は明治小学校の授業に、過去に実績のある学校が英語活動をめぐる新しい状況に対処するモデルを見たと思う。長い視野を持ち、まずは足元を固めて、徐々に着実に先を目指すことが望ましいのではないか。


















