「求められる小中の交流 小学校外国語活動の留意点と小中連携」

2009年度から小学校5・6年生を対象とした外国語(英語)活動が実質的にスタートします。教育現場の先生はいま、どんな課題を抱え、それをどのように解決すればよいのか。
小学校英語活動の留意点と重要な課題の一つである「小中連携」について、4人の先生に率直に語ってもらいました。
司会は武蔵野大学・長勝彦 教授にお願いしました。
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武蔵野大学客員教授
長 勝彦「中学校では英語入門期の指導法が確立されているので、小中連携の公的な研修の場を数多く設け、具体的な指導案作成などに着手することが急務」
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東京都港区立赤坂中学校教諭
北原 延晃「キーワードは気楽に。九九ができなくては次に進めない算数と違って、今日覚えられなくても明日できるようになればいいと励まして、子どもたちをへこませない」
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埼玉県春日部市立武里西小学校教諭
新海 かおる「ことばは使うものである。間違いを恐れずに、言いたいことを伝えようとする気持ちを、子どもたちの心に芽生えさせることを大切にしたい」
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東京都狛江市立緑野小学校教諭
野牧 道夫「日本語と英語で発音の違う5つの音は早速教えたい。市内の狛江一中の授業を見たり、研修会にできる限り参加して指導に生かしていきたい」
- 長
- まず、小学校英語導入期における問題点についてお話を進めていきたいと思います。文部科学省の「平成19年度小学校英語活動実施状況調査」によると、全国公立小学校21,864校のうち、なんらかの形で英語活動を実施している学校は、97.1%の21,220校と報告されています。とくに埼玉県は、全国の小学校英語活動モデル校614校のうち、1割強の65校がモデル校です。小学校英語先進県の新海先生の学校ではどのように取り組んでいますか。
- 新海
- 本校は開校6年目で、総合的な学習の時間を使って英語活動を、という流れに乗って開校当初から英語活動に取り組んできました。モデル校ではないので、時間数などは3~6年生を対象に年間10時間程度です。ほかに週3回、朝の10分間を使って全学年の子どもたちを対象に、英語の歌や身近なことについてのやりとりなどの、英語に親しませる工夫をしています。2009年度からは、5・6年生35時間、4年生20時間、3年生10時間の外国語活動を行う計画を立てています。
- 野牧
- 本校も開校4年目の新設校ですが、現在5・6年生は30時間、3・4年生が10時間の英語活動を行っています。2009年度も時間数については継続していく予定です。
- 長
- ALTの活用など、指導体制はどのように進めていますか。
- 新海
- 担任と、授業の補助をしていただけるJ T Eなどの地域人材で進めることが多く、ALTは年間に1~2回ほど1クラスに来ていただける、という状況です。
- 野牧
- 学級担任とALTが指導しますが、ALTが中心になって指導していますので、担任は何をしたらうまく機能するのか、模索している状況です。緑野小には2008年度に着任しましたが、以前は新宿区(東京都)の小学校に勤務していました。そこではALTの研修もしっかりしていて、ALTに任せることは任せたりして相談しながら授業を進めることができました。
英語が苦手で不安です - 野牧
一緒に学ぶことにしました - 新海
- 長
- 英語活動の授業に関する感想や問題点などお話しいただけますか。
- 野牧
- 英語が苦手だったので不安に思っています。現在英語の勉強会に入っていますが、私のように不安を抱えている教師は少なくないのではないでしょうか。子どもたちとどうかかわっていけばよいのかと。
- 新海
- 私も発音の問題などで英語の時間が嫌だった時期がありましたが、英語が苦手なら子どもと一緒に学んでいこう、と思い直しました。そして、子どもたちが学びたいと思う状況を作る、という小学校の先生ならだれもが持っている得意技を使って授業を組み立てました。私たちが苦手としている「英語を操る」という部分だけをALTやJTEにお任せしよう、と学校として方針転換したんです。
- 北原
- 大賛成です。小中連絡会で小学校の授業を見ますが、先生方の子どもへの気配りには感心させられます。全教科指導するので、子どもたちの長所や弱点を完全に把握している。それを英語活動にも生かしている。英語活動によって子どもたちの長所を発見する機会が増えた、と考えれば気持ちが楽になるでしょう。
英語ノート「でも」教える - 新海
- 長
- 教材のモデル「英語ノート」試作版が昨年4月に文部科学省から発行されました。ご覧になったと思いますが、使用予定教材や年間指導計画についての検討と合わせてお話しください。
- 新海
- 春日部市の英語活動推進委員会が作成した英語活動プラン集があり、それを活用してきました。引き続き使用しますが、時間数が増えた分英語ノートも参考にして、本校の実態に合わせて両者を組み合わせ、年間カリキュラムを作っていくことになっています。「英語ノートを教える」のではなく、「英語ノートでも教える」ので、英語ノートに掲載されていることすべてを子どもたちができる、と中学校の先生に思われては困ります。
- 野牧
- 英語ノートを見たことはありますが、使用法がよく分かりません。学校で決めた年間指導計画にしたがって進めていますが、当日の授業については、担任の中の英語活動担当者とALTが打ち合わせて決めていき、各担任がそれをもとに授業を組み立てています。
- 長
- 両校とも指導計画の細部は検討中のようですが、中学校の先生の立場から、ここだけは押さえてほしいという要点をご指摘ください。
- 北原
- 港区は英語特区として小学校1年から英語活動を週2時間行っています。狛江第一中学校から現在の中学校に2008年に着任して驚いたのは、英語活動の実態が違うことでした。発音で、狛江一中の生徒たちは間違ってもオーケーで次に正しく言えればいい、という態度なのですが、港区では間違いを指摘したときの生徒の落ち込みが激しかった。同じリスニングの問題を出したら狛江のほうが出来がよい。それは、生徒たちの心にバリアができてしまっているからです。聞き取らなければという強迫観念のようなものが芽生えてしまっている。また、聞かせるだけで、音を聞き取って絵と絵を結ぶなどのタスクをやっていないことが原因だと感じました。
親しませるのか、会話力か - 野牧
中学校の4、5月の授業を - 長
- 新海
- 授業の始まりは、子どもたちが自信をもって答えられる活動にしています。また、「今月の英語の歌」を歌わせたりして、算数や国語を学ぶ雰囲気から英語活動をする雰囲気に子どもたちも教師自身も気持ちを切り替える、そのことを大切にした指導を心がけています。
- 長
- 重要な視点になると思うのですが、地域の中学校との連携についてはいかがですか。
- 北原
- 生徒一人ひとりに動詞をあげさせ、それに続く語句を書かせたことがあります。playとくれば、tennis、baseball、soccerなどが、eatとくればfruit、lunch、pizzaなどが出てきてもよさそうなのに、あまり出てこない。なぜ小学校で習った語句が出てこないのか子どもたちに聞くと、ALTが一人でしゃべっていた、それを英語のできる友達がすぐに日本語に訳してしまう、自分が話すことがあまりなかった、という答えが返ってきました。意味が分からなくても音が頭の中に残っていればいいのですが、音も残っていないんです。これではもったいない。ALT主導で担任が補助という港区の特殊事情があるのかも知れませんが。
- 野牧
- 小学校で英語活動をして、子どもたちを英語嫌いにさせてはなんにもなりません。英語に親しみながら慣れさせていくのか、英会話のように話せるようにさせるのかも分からず、指導法が確立されていないと思います。子どもたちにも英語活動の目的がよく分からないのでは、と危惧きぐしています。担任が主導するのはいいと思うし、子どもたちも担任主導の英語活動を喜んでくれます。ただ、発音やイントネーションの問題で、私の日本語英語で子どもたちに接していいのかと疑問に思うのですが。
- 長
- 小学校外国語活動の指導法はいろいろありますが、現在中学校に、英語入門期におけるすばらしい授業実践のモデルが豊富にあります。映像資料もあります。小学校の先生に大いに参考にしてほしい、というのが私の思いです。とくに、4、5月の中学校の授業を見ることが重要です。
- 新海
- 4月、5月は手一杯でなかなか行けませんが、ビデオなどでぜひ見てみたいですね。これまでも6年生の授業を地域の中学校の先生に見てもらったり、中学校の授業が公開されるときに私たちが行ったりするなど、教諭同士のレベルの交流はありましたが、今後はもっと公的な小中相互の研修が不可欠だと思います。
子どもたちを英語にさらす - 北原
- 長
- 野牧先生が見た中学校の授業の感想はいかがですか。
- 野牧
- 会話を中心とした、コミュニケーション重視の授業で、英語でのやりとりのテンポのよさに感心しました。生徒もあきないで、最後まで集中していました。
- 長
- 中学校の英語の授業が大きく変化しているんです。私は学生たちにいつも、自分が教わったような授業をしてはいけない、と指導しています。繰り返しますが、4、5月の中学校の入門期の授業を見ることを強くお勧めします。
- 野牧
- 私に教えてくれる人、指導法を示してくれる人がほしいですね。英語ノートをもらっても、使い方が分からなければ、使い切れません。
- 北原
- ぜひ狛江一中に行ってください。緑野小の卒業生が映っているビデオを借りて、中学で英語を勉強している卒業生の姿を見せて、子どもたちを励ましてください。英語活動は、英語に親しませるのか、英会話ができるようにさせるのか、という疑問を出されましたが、どちらでもありません。小学校の入門期は、exposure、子どもたちを英語の世界に「さらす」ということが大切で、その素材を選ぶのが小学校の先生の役割だと考えます。教えなくてもいいんです。
- 長
- 野牧先生が求める指導者は、中学校の先生の中に必ずいます。その先生の指導を受け、5・6年生の段階で何をやらせておくべきかを押さえておく。小学校で、英語入門期の前提として中学校を考える。授業見学をし、研修をする。いままでのような学期に1回限りの連絡会ではなく、夏休みを使った長期研修などで、指導法や指導案の改善を実行する必要に迫られています。
f、v、th、r、lの5つの発音 - 北原
- 北原
- 中学校へ入ってよかった、英語が分かるようになった、という生徒がいました。よく話を聞いてみると、小学校では6年生の知的レベルに合った、自分を満足させる活動がなされていなかったことが原因だと分かりました。
- 新海
- 中学校へ進学したら、もっと本格的に英語が学べるんだ、楽しみだ、と思える子どもを育てて中学へ送り出したいですね。
- 長
- さきほどから話題になっている発音についてですが、保護者や中学校の教師の立場であえて本音を言いますと、いい加減な発音だけは身につけさせてほしくない、という思いがあるのではないでしょうか。私も発音については妥協してほしいとは思いません。しかし、小学校の先生に過度なプレッシャーをかけてはいけないので、視聴覚教材を活用してはいかがですか。
- 新海
- ビデオやDVDなどの映像があるものを活用しています。これらの教材は状況に合わせた英語が使われているので、子どもたちも興味を持ちます。ことばは使うものだ、と子どもたちに体験を通して学ばせたいので、子どもたちが持っている英語でなんとか伝えたい、伝えられるという場面を教師が工夫して作っていくのにも役に立っています。
- 野牧
- 学校にはありますが活用されてはいません。4月から使える、おすすめの視聴覚資料はありますか。
- 北原
- 話の方向としてすぐ視聴覚教材にいってしまいますが、小学校の先生に必要な発音指導は、ネイティブに発音させてリピートさせるとか方法はほかにもあります。視聴覚機器を使うことも大切ですが、それよりも日本語にない音をきちんと教えることです。日本語にない難しい音は、f、v、th、r、l の5つ。この発音のコツを教えればいい。
5分間を日本語でディベート - 長
- 新海
- 子どもたちに、意味が分かる英語をたくさん聞かせ、発音などの違いに気づかせることも大切だと思うのですが。
- 北原
- 子どもたちが、かっこいい、まねをしたい、と思える素材を発見して使うことが成功するカギでしょう。うまく言えなかったら何か問題があるからで、それはたとえば日本語にない音があるから、と子どもたちを指導する。
それと、それぞれの中学校に進学していく小学校では、どういう指導が行われてきたか、新入生の頭にどれほど英語が蓄積されているのかについて、データをとることがとても大事です。客観的な資料があれば中学校でしっかりした対応ができます。 - 長
- 一つ提案させてください。英語活動の45分間のうち最後の5分くらいを日本語によるディベートに使ってほしい、というお願いです。
中学3年生ごろから英語でディベートを行う学校がありますが、自分の考えも持てないのにそれを英語で言うのは大変難しいことです。日本語のディベートに慣れることによって、英語でコミュニケーションをする素地を作れるのではないか。そしてこの「素地」が将来の英語教育につながると思うからです。また、毎時間、最後の5分間は「日本語でディベート」と決めておくことで、普段積み重ねてきた指導力を発揮しながら授業を終えることができ、英語活動の授業に対する不安は解消されると思います。児童の生き生きしたディベートも期待できます。自信を持って英語活動に取り組んでください。


















