インタビュー 新しい価値観に触れ、日本人である自分に気付いた

2015年07月24日

女子サッカー日本代表のなでしこジャパンで活躍し、2015年1月からINAC神戸レオネッサに加入した大野忍選手と近賀ゆかり選手は、2014年にイングランドの女子サッカーの名門チーム「アーセナル・レディース・フットボール・クラブ(アーセナルLFC)」へ移籍し、世界にその存在感を示した。海外のチームに所属し、チームメイトとはどんなコミュニケーションを取ってきたのだろう。 世界に挑んだ2人が今、何を感じているのかを語り合ってもらった。

海外に出たからこそ、見えることがある

【大野選手】海外でプレーしたいって気持ちはいつからあった?

【近賀選手】中学生の頃に初めてアメリカ遠征に行って、女子サッカーってこんなにメジャーなんだと衝撃を受けたのが最初かな。でも当時の私にとっては、サッカーはサッカー、勉強は勉強。英語の授業は好きだけど、会話ができるレベルではなかったし、サッカーと英語が結びつくなんて考えもしなかった。 あの頃にもっと英語を勉強しておけばよかったなと今になって思うよね。

【大野選手】そうだね。私は日本代表として海外で試合をするうちに、「世界で自分は通用するのか?」という思いが芽生えた。 でも、 英語の勉強をしっかりしてこなかったから、イングランドに行って、身をもって「言葉の壁」を体験した。最近は少しずつだけど、聞き取る力が付いているのは感じるね。

【近賀選手】でも、相手の言っていることが何となく分かっても言葉を返せなかったり、短い表現さえも出てこなかったりすると、歯がゆさを感じるよね。それでも、サッカーという“共通言語”があるから、チームメイトとは通じ合えることも多いかな。

【大野選手】練習中は、私たち2人がデモンストレーションをすることが多くて、その中で、間違えてもいいからという気持ちで英語を使って、覚えてきたよね?

【近賀選手】これは通じるんだとか、これが通じないなら、言い換えてみるとか、使いながら覚えてきたよね。言葉を覚えるにはいい経験だったと思う。

【大野選手】近ちゃんは積極的に相手とコミュニケーションを取ろうとするから、そばにいてくれて心強かったな。

 

日本の常識が世界では通用しない!?

【近賀選手】それでも、試合中のコミュニケーションは難しい。瞬間的に判断しなければならないけれど、とっさに言葉が出てこないし。相手の言葉を聞いて、自分の考えを伝え、相手の意見を受け入れる。 お互いに理解し合うために、試合後はホワイトボードを使って、ジェスチャーを交えながら、自分の言葉で気持ちを伝えるようにしてきたよね。

【大野選手】それでも、日本の常識が世界では通用しないこともある。

【近賀選手】そうだね。 たとえば、パスをしようとした時、私たちの感覚では、 あの選手はここにいるだろうと思ったところにはいないとかね。 それに物理的にできないことを求められることもあるし。

【大野選手】私は今、この選手をマークしているのに、 「あっちにボールプレッシャーに行け!」と言われるでしょう? そういうときの英語はなぜか、 感覚的に理解できちゃうんだけどね。

【近賀選手】時には強引な指示の方が良いこともあるけれど、 日本人にはそれができない。 それが弱点でもあり、 相手を思いやって、周りをよく見ているからこそ、うまく連携できる良さもある。 そういう違いは、海外に出てみて感じたことだし、自分は日本人なんだなと気付かされたな。

チャンスがあるなら海外へ出てみてほしい

【大野選手】最近、海外に出たくない若い世代がいるって聞くけど、チャンスがあるなら、どんどん海外へ出てほしいよね。 私は以前、フランスでプレーしたときは、言葉の壁やさみしさを感じて、 「もう海外ではやりたくない」って思った。 でも、イングランドへ行った。 決断できたのは、めったに意見を言わない父の「海外からオファーが来ているならもう一度行ってみろ」という言葉が後押しになった。 そして、イングランドでは「自分は一人で生きているんじゃない、家族が支えてくれている」と感じられるようになったので、父には感謝している。

【近賀選手】実際に飛び出してみると、楽しいよね。 日本代表の遠征でいろいろな国に行ってはいたけれど、生活したのは初めて。 言葉が通じないもどかしさや、さみしさも感じたけれど、チャンスがあれば他の国にも行ってみたい。日本では出会ったことのない価値観に触れたり、相手のお国柄を感じたりするのは面白いし。 ただ、 海外に出ることへの不安もわかる。それならまず、 日本にいる外国人と関わって、少しでも海外に目を向けられるようになればいいんじゃない?

【大野選手】そうだね。中学や高校の英語の授業で習ったことが実際に通じるかを、外国人相手に相談してみてもいいよね。

サッカーを続けてきたから海外とつながれた

【近賀選手】中高生のみんなにこれだけは言いたいのだけど、今のうちに、英語はしっかり勉強しておくべき! 私自身はサッカーしかやってきていないし、これからもサッカーしかない。大好きなサッカーこそが人生そのもの。でもサッカーを続けてきたことで、海外に出たり、いろんな人に出会ったりできた。 英語ができればコミュニケーションをもっと深められると実感している。

【大野選手】私は30歳になった今、もう一度、英語をがんばろうと思う。 英語力を付けて、ワールドカップで対戦する海外の選手たちと会話をしたいし、レフェリーともジャッジについて話せたらいいなと思うから。 今、英語をがんばっている中高生のみんなにも、ぜひ、世界へ羽ばたいてほしいよね。
 

Profile

大野 忍

1984年生まれ、神奈川県座間市出身。1999年に日テレ・ベレーザで一軍デビュー。 2011年にINAC神戸レオネッサへ移籍し、2012年12月にフランスのリヨンへ。 ASエルフェン狭山FC(現ASエルフェン埼玉)を経て、 2014年2月アーセナルLFC、2015年1月にINAC神戸レオネッサへ移籍。 2003年に代表デビューし、 2011年FIFA女子ワールドカップ優勝、12年ロンドン五輪銀メダルに貢献した。

 

近賀 ゆかり

1984年生まれ、神奈川県横浜市出身。2003年に日テレ・ベレーザに入団、2011年にINAC神戸レオネッサへ移籍し、2014年2月にアーセナルLFCへ。 2015年1月にINAC神戸レオネッサへ移籍。 2005年にデビューしたなでしこジャパンでは、2011年FIFA女子ワールドカップ優勝、12年ロンドン五輪銀メダルに貢献した。

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