新しい時代を担う、創造性豊かでたくましい人間の育成」を教育目標に、今年度創立30周年を迎える草津市立高穂中学校。同市が策定した「草津市子どもが輝く学校教育充実プログラム」への取り組みにも積極的だ。草津市が進める教育改革プログラムや同校の取り組み、その成果について取材した。
基本ルールを押さえた上で実践的な活動へ移る
城 京子先生
「mustと同じ仲間はなんやったかな?」という先生の質問に、次々と手が挙がり、“can!”“will!”と生徒の大きな声が飛び交う。2年3組の英語の授業は活気に満ちている。教壇に立つ高野智加子先生は、教室に設置された電子黒板に単語リストを映し出しながら、助動詞mustを使った例文を書き出す。毎回、授業の最初には単語テストを行い、その後は教科書に沿って進める。この日の授業は文法学習が中心だったが、学んだ文法を使う実践活動として、ペアワークやグループワークなども多く取り入れているという。
高穂中学校の英語の授業の進め方について、英語科の城 京子先生は「4技能をバランスよく取り入れるという基本に忠実になり、生徒の頭に英語が定着するよう心掛けています」と語る。新しい単元に入るときには、単語や文法、表現などをしっかりと押さえてから、具体的な使い方の演習に移る。「意味をきちんと理解しないまま、とにかく聞いてみよう、音読してみようというのでは、中途半端になってしまいます。英語学習は、そのとき楽しく行うだけでなく、継続できることが重要と考えます」と、城先生は強調する。
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英検の全員受験で生徒の学習意欲が向上
北川 健校長
高穂中学校の英検受験は、1・2年生は第3回検定、高校受験を控えた3年生は第2回検定に設定されている。生徒は各自が自分の実力に応じた級を選んで受験する。試験直前になると授業の中でも過去問演習を中心に英検対策を取り入れ、マークシートの個人情報の書き方まで細やかに指導する。生徒たちには、「英検の勉強をすることで実用的な英語力が身に付く」ということも話し、動機付けを行うようにしているという。
全員受験を導入してからの変化について城先生は「全員受験は生徒にとっては良いプレッシャーになっているようです。『英検に合格したい』、『もっと英語を勉強したい』という意欲が高まってきているのを感じます。この前向きな気持ちを大切にしていきたいですね」と語る。
また、北川 健校長は「全員が受験することにより、生徒全体の英語力の底上げはもちろん、生徒一人ひとりの目的意識の向上と自信につながっています」と述べ、「学校の授業とは異なる角度で英語を学ぶこと」の重要性を強調する。2011年度に日本英語検定協会の「優秀団体賞」に選ばれたこともその成果の表れであり、学校の誇りだと言う。
「落ち着いて勉強や部活動に取り組める良い雰囲気が生まれています」と北川校長が話すように、同校の生徒や保護者対象の「学校生活に関するアンケート」では、「学校生活は楽しいか」「授業はわかりやすいか」という項目に対し、9割以上の生徒が最高の評価をつけている。活発な広報活動により「地域に信頼される学校づくり」を目指し、特に保護者との連携を重視し、生徒の心身の育成に力を注ぐ。英検の全員受験についても理解と協力を得ているという。「学習に対して前向きな生徒が多く、勉強が苦手な生徒も良い意味でその流れに乗っている。英検の全員受験のように、受験級は異なっても、みんなで同じものに取り組むことの意義は大きいですね」と北川校長は語る。
取得級に関わらず英検は自信や誇りにつながる
中村真理子専門員
草津市では、2010年度より市内の中学校で英検と漢検の全員受験を導入している(漢検受験は小学4~6年生も含む)。導入の背景には、その数年前に始まった市立松原中学校の成功事例がある。当時の校長が全生徒に英検受験を呼びかけ、対策を進めたところ、「全国学力・学習状況調査」の結果において、英語に限らず他教科の学力にも向上が見られたのだ。
この成果を受け、草津市全体の取り組みとして、英検の全員受験を実施することに決めた。だが、当初は不安の声も少なくなかった。英語教員を対象にした説明会では、「英検対策をどのように授業に取り入れるのか」「受験料は各自の負担なのか」「同クラス内の受験級の相違にはどう対処するのか」「事務処理をはじめ教員の負担が増えるのではないか」などの懸念が寄せられた。しかし、導入から4年目を迎えた今日では、教員の多くが全員受験の成果を実感し、今後も継続することを強く希望しているという。
草津市教育委員会学校教育課の中村真理子専門員は「現場の先生方の努力の結果、今では市内全体に中学生の英検受験が浸透しました。先生たちはみんな、生徒の努力する姿や笑顔のためにがんばっています」と喜ぶ。現在では、様々な理由で登校が困難な生徒も受験しやすいように別会場を設ける配慮をするなど、きめ細やかな対応も進んでいる。
草津市では、中学卒業までに4級以上を取得することを目標としているが、昨年度は秋の段階で中学3年生の4割以上が3級に合格、もしくは3級相当以上の英語力をつけている。その一方で、中村専門員は「英検はどこへ行っても通用します。級に関わりなく、自らの実力で取得した資格であり、自分の能力を堂々と証明するものです。英検受験は生徒本人の自信と意欲の向上に非常に大きな効果があるのではないでしょうか」と述べた。
学校、家庭、地域が一丸となって教育に携わる
三木逸郎教育長
英検、漢検の全員受験を含め、草津市では三木逸郎教育長を中心に教育改革を推進している。三木教育長は、私立や公立の大学で勤務してきた経験を生かして様々な取り組みに着手してきた。その施策の特徴は、「学校だけでなく、家庭や地域も一緒になって、草津市の子どもたちの力を伸ばしていく」という点だ。大学との連携による海外からの留学生を交えた国際交流、年配者が子どもに漢字を教える交流会や漢字探検隊など、オール草津で教育を活性化させるプログラムを数多く展開している。三木教育長は「良い取り組みを発信していくことが大切です。そのためには、さらに取り組みの内容を深めていく必要があります」と語る。
英検の全員受験については、「子ども同士が切磋琢磨(せっさたくま)することで、自分の力をもっと伸ばしたいという思いが自ずと生まれ、学ぶ意欲や知的好奇心が向上します。英検の全員受験はその好例で、教員から働き掛けなくても、生徒たちの中から主体的な学びが引き出されています」と話す。
橋川 渉市長が掲げる「教育の充実」を、名実ともに実現させている草津市。英検の全員受験導入もその一つに数えられる。教育改革成功の秘訣は、三木教育長を中心とする教育委員会と教育の現場である学校との協力体制にある。そんな草津市の動向に、教育界から熱い視線が寄せられている。
英検 英語情報 2013年8・9月号 掲載