滋賀県編
米・ミシガン州との姉妹交流に始まった英語教員ネットワーク

滋賀県立膳所高等学校 教諭 辻 美也子
2014.03.17
滋賀県は、湖が縁となり、1968年(昭和43年)にアメリカ合衆国ミシガン州と姉妹県州の協定を締結した。それ以来、現在に至るまで、行政、市民レベルなど数多くの交流を行っている。
本稿では、その交流が本県の、特に高校での英語教育に与えている影響についてご紹介したい。
1)姉妹交流との関わり
a.教員の派遣研修
滋賀県は、ミシガン州との間で生徒たちを派遣し合う「高校生海外相互派遣事業」を1990年に開始したが、その5年前の1985年には、教員の交換事業に着手している。事業内容は、滋賀県の若手教員らを毎年3~4人、英語研修と教育事情研修などのために、1年間、ミシガン州の公立学校に派遣すると同時に、ミシガン州からの教員を毎年数人(年によって異なる)、英語授業のリソースパーソンとなってもらうために半年~1年間滋賀県の公立中学・高校に受け入れるというもので、まさに教員を「交換」する事業である。
残念ながら、この事業は県の財政難を理由に休止しているのだが、この事業や「高校生海外相互派遣事業」が縁となって、参加した英語教員の間にネットワークができあがった。現在でも、毎年一度、高校生の相互派遣事業でミシガン州の引率教員が来県する際などには、集まって様々な情報交換をしている。ミシガンとの交流から始まった英語教員ネットワークが、現在も引き継がれているのである。
b.教員の県内研修
姉妹提携20周年を記念して、1989年に滋賀県彦根市に開設されたのが、「ミシガン州立大学連合日本センター(通称:ミシガン日本センター)」である。このセンターは、ハード面を滋賀県が、ソフト面はミシガン州がそれぞれ責任を持って運営管理を行っており、現在もアメリカからの学生たちが日本文化や日本語を、日本の学生たちが英語をそこで学んでいる。滋賀県の大きな国際交流拠点の一つである。
当センターの開設に合わせ、1990年に県がその費用を負担する「英語教員特別研修」が開講された。残念ながらこの事業も財政難を理由に休止しているが、ミシガン州立大学から派遣された教員たちから学ぶ英語教授法は、日々の授業の大きなヒントとなり、県内の英語教育を推進する大きな役割を担っていた。
c.ミしがンカップ・スピーチコンテスト
正式名称は「ミしがンカップ滋賀県高校生英語スピーチコンテスト」で、「ミシガン」の文字の中に「しが」が入っている。滋賀県とミシガン州の友好の印として、1991年から毎年、滋賀県高等学校英語研究部会がミシガン日本センターにおいて、同センターの教員がジャッジとなり実施している。県内の高校生にとっては、このコンテストで優勝することが大きな目標であり、毎年、非常にレベルの高いスピーチ・プレゼンテーションが繰り広げられる。コンテストは今年度で第21回を迎え、ミシガン州との海外相互派遣事業とともに、高校生たちの英語学習へのモチベーションを高める役割を果たす事業として広く定着している。
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2)その波及効果
ミシガン州立大学連合日本センター
(彦根市)
教員交換事業の開始から26年、ミシガン日本センターでの英語教育特別授業と高校生の相互派遣事業は21年、ミしがンカップ・スピーチコンテストは20年になる。このうち2事業は、現在、休止状態ではあるが、教員交換事業で派遣された教員たちや、高校生海外相互派遣事業で引率者として派遣された英語教員たちが築くネットワークが現在も続いているのは、前述の通りである。しかし、それだけではなく、事業開始当時20~30代であった教員たちが、現在では 40~50代となり、その多くが県の英語教育界の中心人物となって様々な取り組みの牽引(けんいん)役となっている。次に、その取り組みの例を紹介する。
a.フレンドシップカップ・レシテーションコンテスト
このコンテストは、英語をそれほど得意としない高校生たちにも、人前で英語を話すことにより、多くの人に認めてもらう経験をさせたいという思いから、ミシガン派遣教員を中心とする有志グループが実行委員会を作り、立ち上げたレシテーションコンテストである。第1回(1994年)は、6校30人の参加であったのが、毎年参加者が増え、昨年度(第16回)は、22校117人を数えるまでになった。多くの参加者を迎える大きなイベントとなったため、2009年度からは、滋賀県高等学校英語教育研究部会の公式事業となった。実行委員会が企画・運営を行うというシステムは変わっていない。
その実行委員会には、現在では、姉妹交流には直接関係のない私立高校の教員や新任教員3人をはじめとする若手教員たちも多く加わるようになり、姉妹交流をきっかけに始まった英語教員ネットワークが、今では公立・私立を問わず大きくなりながら若い世代にも広がり、新たな展開を見せている。
b.高校生ディベート大会、ディベートセミナー
レシテーションコンテスト実行委員会のメンバーを含む有志グループが、今度は、高校生たちに社会的な問題に目を向けさせ、議論する力と英語で表現する力を身につけさせようと、2008年に「英語ディベート推進委員会」を立ち上げた。現在では、その推進委員会が、全国高校生英語ディベート大会の県予選を兼ねる滋賀県高校生英語ディベート大会や、生徒や教員を対象とするディベートセミナーを実施している。参加者や参加校は年を追うごとに増え、ディベート大会は、第1回(2008年)の3校から、第4回の今年度は8校へと増えた。ディベートセミナーも、今年度は100人を超える参加者を迎え、ディベートへの関心が、徐々に県内に浸透している。この推進委員会にも若手教員が加わり、ディベートをきっかけとした教員ネットワークも全県へ、そして若い世代へと広がりつつある。
3)今後への期待
これまで述べたように、高校生に関わる姉妹交流事業は、2011年度現在では、高校生の海外相互派遣事業とミしがンカップ・スピーチコンテストが残っているだけであるが、姉妹交流がきっかけとなって築かれたネットワークは、姉妹交流を超えて県全体に広がり、様々なコンテストやセミナーを開催するなど、英語教員の意識を高めるのに非常に重要な役割を果たすようになっている。
県内には、県立米原高校、県立国際情報高校、滋賀学園高校という、かつてSELHiに指定された学校が3校あるが、3校とも、ポストSELHiとして現在も様々な活動を実施し、滋賀県の英語教育をリードする重要な存在となっている。
これからの滋賀県は、そのようなポストSELHi校の力を十分に活用しながら、時代のニーズに応えられる英語教育を各学校で深め、ネットワークを生かしながら情報を互いに共有することで、英語教育の実践力を高めていくことが期待される。
英検 英語情報 2012年1・2月号 掲載