佐倉駅から南に約2km。入試レベルは決して高くない千葉県立佐倉南高等学校だが、緑あふれる恵まれた環境下で、生徒たちはのびのびと学力、そして人間力を育んでいる。「わかる授業」を目指し、きめ細やかな指導とより実践的な教育に尽力する教師陣と、それに懸命に応える生徒たち。英語の「読み方」指導から生徒の基礎力向上を図る組田幸一郎先生と、その指導のもと、メキメキと英語力を身につけた3年生を取材した。
マイナスからのスタート
組田幸一郎先生
「彼女は入学当時、アルファベットの理解がやっとだったんです」
組田先生の言葉に、照れたような笑顔でうなずくのは髙野舞さん。彼女は昨年度、英検3級に合格した。しかも、長文問題はパーフェクト。
「中学の頃は、英語なんて右から左。板書をノートに写すのも、意味などわからず、単語もすべて絵のように書き写していました。当然、手も挙げず、発音もせず。授業に参加している意識そのものが希薄でしたね」
授業を受ける「ふり」をしていたという髙野さん。そんな彼女が、どうやって英検を受験するまでに成長したのだろうか。
「組田先生の授業で、英文を四角や括弧(かっこ)でくくったり、主語と動詞にアンダーラインを引いたりすることで、手と頭がつながった感じがしました。それから『A of Bは、BのA』など、リズミカルで単純なルールを覚えることで、英文そのものに抵抗がなくなっていったんだと思います」
四角や括弧、そしてアンダーライン。組田先生の基礎力向上につながる指導法とは、いかなるものだろう。
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名詞・前置詞から「読む」
「まず、1年生の一番初めにトライしてもらうのは、『名詞のまとまり』を四角で囲み、その意味をとらえることです」
[a box] [two pens] [big dogs]など冠詞+名詞に始まり、「この」「その」「私の」「彼の」などの限定詞+名詞、「大きい」「かわいい」「難しい」などの形容詞+名詞もすべて「名詞のまとまり」として考えさせる。ここが第一段階と組田先生。それらの組み合わせを理解し、短文の中での「名詞のまとまり」を見つけられるようになったところで、第二段階へと進む。
「続いては『前置詞のまとまり』です。(in ~)、(to ~)、(for ~)、(on ~)などのまとまりごとに括弧でくくり、意味をとらえます」
[of]は、その前後の単語にアンダーラインを引かせ、それぞれをA、Bとし、髙野さんの言う「A of Bは、BのA」と覚えることで習慣的な理解へとつなげていく。さらに[A of B]を「名詞のまとまり」として四角で囲むことができると、生徒たちの読解力はまた一歩進む。
「そこまで理解できたら、[the bird(in the cage)]といった名詞+前置詞という合わせ技について考えてもらいます。1つの名詞を説明する語句がどう並んでいるのか理解することが、読解の大きなポイントになります」
主語・動詞から「読む」
髙野舞さん
組田先生は、読解にはもう1つ大きなポイントがあると言う。それは主語と動詞の関係性だ。
「『SがVする』『A is Bは、A=B』という型を覚え、その型を文中から見つける力を養う。これがもう1つのポイントですね」
文中の主語には下線を引き、動詞には波線。そして名詞のまとまりは四角で囲み、前置詞は括弧でくくる。こうして英文にどんどん印をつけ、機械的に分析していくことで、その構造が理解できるようになり、読解力向上につながるのだ。
髙野さんもこう語る。
「当然のことながら、理解できると楽しいんです。組田先生の授業で『な~んだ。英語って、こういうことだったんだ』って初めてわかって。そうすると、英文の中の『区切り』も見えてくるから、長文を読むことも苦じゃなくなりました」
アルファベットが高校英語のスタートだった髙野さんにとって、英検3級は縁遠くもあこがれだった。今そこにたどり着いたことが、どれだけ彼女の自信となったか計り知れない。学習意欲の向上には目を見張ると、組田先生も太鼓判を押す。成功体験は他教科へもプラス効果をもたらし、ひいては足元に落ちていた視線が前を向き、ポジティブな思考を生み出すのだ。
「繰り返し」で耳を育てる
基礎的な「読み方」を身につけ、素地が整い始めた生徒たちは、積極的に声を出すようになる。組田先生の授業は、その音読方法も特徴的だ。
「単語も長文も、2人1組で向き合い、1人がワークシートを見て発音し、もう1人はその音と口元をまねて発音する方法を取り入れています」
組田先生が「対面リピート」と呼ぶこの手法は、お互いに手を抜けない環境を巧みに生み出している。髙野さんも「発音をごまかせなくなるんです」と笑う。
自分の発音通り、区切り通りに相手が発音する、すなわち自分が指導する側に立つという緊張感は、授業の中でも生徒の集中力を高め、良い耳を育てる。
また、ワークシートは視線が下がらないよう、高く掲げて持つよう指導する組田先生。これは、「視線を上げる」=「姿勢良く発音させる」ための工夫だ。
さらに授業ではCD音源により、同じ文章を何度も、丸暗記できるほどに繰り返し再生する。生徒たちはその度に黙読、音読を重ね、正確な発音を耳にする。ここにリスニングの力を鍛えるヒントがある。
焦らずゆっくりプラスへと
しかし、まだ課題も多いと組田先生。
「現状の授業には、コミュニカティブな要素が不足しています。時間的に厳しいものもありますが、今後、何とか入れ込んでいきたいと考えています」
「聞く」「読む」というインプットに対して、生徒が主体的に「話す」「書く」というアウトプットができてこそのコミュニケーション能力。インプットで「わかる」感覚を身につけた生徒たちに、今度はアウトプットを楽しんでもらいたい。そして生きた英語に触れ、英語はコミュニケーションの手段であると知ってほしい。組田先生はそう願う。
「とは言え、アルファベットが精一杯という生徒に、いきなりその目標を突きつけるのはあまりに酷です。生徒の歩みに合わせて、焦らずゆっくりと、確実に一歩ずつ進んでいきたいですね」
中学で持つようになった英語への抵抗感。高校でゼロからではなく、マイナスから始める学習は、さまざまな壁を乗り越えなければならない。組田先生はその壁1枚1枚を限りなく低くし、生徒たちがプラスの域へと安心して飛び込んでいけるよう、日々努力を重ねている。
高校三年生の英検チャレンジャーにインタビュー!
2度目の挑戦で準2級に見事合
真栄城渉さん
(準2級取得)
2度目の挑戦で準2級に見事合
「英語が好きと思えるようになったのは、やはり組田先生の授業を受けてからです。授業で『わかる』ようになったからこそ、英語に対して主体的に取り組むようになったんだと思います。英検は、過去問や課題など何でもトライして、高校2年のときに準2級に合格しました。将来は、体育科の教員になりたいんです。組田先生には『教員なんて大変だよ』と言われましたが(笑)、大変だからこそ挑戦しがいがありますよ」
勉強の傍ら、バスケ部のレギュラーとしても活躍し、県大会ベスト16を決めた。そうした持ち前の集中力と持久力を武器に、今度は大学の教育学部を目指して邁進している。
英語は楽しい!次は準1級を目指して
英語は楽しい!次は準1級を目指して
「中学時代は英語が嫌いでした。でも高校に入って組田先生の授業を受け、ESSに誘われて、そこで初めて英語って面白いと感じて。授業でグループ学習、というのも新鮮でした。みんなで答えをシェアするって楽しいんですよ。そのおかげで、英語に自信がなかった私でも臆せず参加することができたんだと思います。英検は高1で準2級、高2で2級に合格しました」(二上晃子さん・2級取得)
友達同士で教え合い、学び合う環境作り。組田先生の創意工夫あふれる授業の姿が見える。
将来は語学力を生かしつつ「人のためになる仕事がしたい」と語る二上さんは、準1級へのトライも視野に入れている。
STEP英語情報 2009年1月・2月号 掲載