国技館や江戸東京博物館に隣接する東京・墨田区立両国中学校。江戸情緒の残る歴史文化に恵まれた環境にある同校には、場所柄もあってか、開校以来相撲部屋の関係者などの子弟も在籍するという。2年前に移転したガラス張りの真新しい校舎は、コンクリートの打ちっ放しで開放感溢(あふ)れるモダンなデザイナーズ住宅のような建物でありながら、随所に木の温もりが感じられる居心地の良い空間が広がる。文武両道で品格のある国際人の育成を目指す同校では、英検への取り組みも積極的だ。
1)生徒の学習意欲を高める英検
小川 崇校長
両国中は基礎・基本を定着させる計画的な学習や、個性を重視した多様なコース設定、受験直前の3年生を対象とした塾講師による正月特訓など、様々な取り組みによって学力向上に努めている。生徒たちの前に立ちはだかる「高校受験」という壁。それを乗り越えるためにも、学校としてできる限りの“しかけ”を用意して、生徒の学習意欲を引き出し、実力をつけたい、と小川崇校長は語る。英検はそうした“しかけ”の一つに位置づけられている。
英検は、希望制でありながらも、「1年生で5級、2年生で4級、3年生で3級」という取得目標を掲げているためか、生徒は積極的に受験している。昨年度は、準2級の合格をつかみ取る生徒が19人にも達した。また、学年別に英検セミナーを開催し、当協会が派遣する講師が英検を通じた英語学習の進め方について講演する場を設けて、学校を挙げて生徒の英検受験を奨励してきた。
「英検は各種検定試験の中でも、社会的にも通用する信頼性の高い試験です。生徒の最大の関心事である高校受験においても、英検資格によって入学が優遇されることから、生徒は入試を意識して、3級以上に合格しようと早い段階から取り組んでいます。客観的に実力を測定できる英検に合格することによって、生徒は自信をつけ、さらに上の級を目指そうと、モチベーションを高めることができるのです」と小川校長は話す。
両国中では、日頃から定期試験の上位50人を掲出している。生徒が達成感を味わい、互いに切磋琢磨(せっさたくま)することを目的に英検においても、合格者を全校生徒の前で表彰して、努力を讃え合う場を設けているという。これもまた、生徒のモチベーションを高めるきっかけとなっているようだ。
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2)英語の実力をつけるのに効果的
宮原正伸先生
英語科の宮原正伸先生は、今年4月に両国中に赴任したばかり。現在は1年生を担当し、英語嫌いを生まない工夫を凝らした授業を展開している。理解度や定着度を測る毎回の小テストに始まり、ビンゴゲームやアクティビティーを取り入れた活気溢(あふ)れる授業で、生徒たちは英語を使うことを楽しみながら授業に臨んでいるという。
「この学校の生徒は、授業に向かう姿勢が積極的ですね。わからないことがあれば授業後に質問に来る生徒もいます。英検では5級を飛ばして、いきなり4級から受け始める生徒もいて、個人差は多少あっても、実力のある生徒が多いと感じます」と、生徒の印象を語った。そして「英検は生徒にとって具体的で身近な目標になります。英検のための学習を通じて、熟語や会話表現が増えますし、リスニングのトレーニングにもなります。今後は授業などを通じて、生徒へ受験をさらに促し、学年の先生とも協力体制を築きながら、積極的に受験対策にも取り組んでいければと考えています」と意気込む。
3)国際人として日本の伝統文化を大切に
校内には生徒が英語に慣れ親しみ、国際感覚を養うための“しかけ”も用意されている。例えば、英語と日本語で表記された教室名は、普段の生活の中で自然に英語に触れる機会を作っている。また、毎日の登下校で必ず利用する昇降口に近い壁には、浮世絵が飾られている。
「単に英語力を高めるだけでなく、国際人を育てていきたいのです。世界の人たちとコミュニケーションを図るためには、日本人として、日本の文化や社会について語ることができる力がなければなりません」と、小川校長は強調する。だからこそ、両国という町に学び舎を構えている立地の良さを生かし、両国中では日本の伝統文化について学ぶ時間も大切にしている。今年は隣接する江戸東京博物館の館長を招いた講演会を開き、2年生は江戸しぐさを学び、3年生は国立劇場で歌舞伎教室を鑑賞する機会を設けている。
江戸情緒の残る下町で、伝統文化を身近に感じながら育つ国際人の卵たち。そうした豊かな経験が、生徒の学びへの興味・関心を引き出し、広く国際社会で活躍するための資質を養う土壌となっている。
英検チャレンジャーにインタビュー!
文法を覚えると英文が書けるようになるのが楽しいですね
手嶋ゆりさん
(3年生・準2級合格)
文法を覚えると英文が書けるようになるのが楽しいですね
家族で海外旅行やホームステイの受け入れをしたり、小学生の頃から英会話教室に通ったりして、英語が身近な環境で育ちました。私は理数系の科目が得意ですが、公式を覚えれば問題が解けるように、英語も文法を理解できれば英文を書けるようになるのが楽しく、文法に力を入れて勉強しています。英検準2級を受験するにあたっては、過去問を何度も解いて、わからないところは解説を読み、辞書で調べて理解し、弱点を補強しました。また、授業中の小テストや塾の単語テストを活用して、語い数を増やしました。二次試験に向けては、2級を取得している高校3年の姉にリーディングやスピーキングをチェックしてもらいました。高校入試までに準2級に合格することが目標でしたので、合格できてほっとしました。今は入試を控えているので、しばらく英検はお休みしますが、高校2年生までに2級を、いずれは準1級まで目指したいですね。
最近ずいぶん英語を聞き取れるようになりました
野川海斗くん
(2年生・3級合格)
最近ずいぶん英語を聞き取れるようになりました
中学生になって初めて英語に触れ、おもしろいと感じたので、英会話教室にも通っています。また、ラジオ講座はテキストを買って聞いています。最近、その効果が出てきたのか、英語をずいぶん聞き取れるようになりました。父と一緒に洋画のDVDを字幕なしで観ても、半分ぐらいは内容が理解できるようになったんです。聞き取れないことがあると悔しいので、リスニング力をもっとつけたいです。僕は書くことが苦手なので、教科書に出てきた単語を毎日書いて覚えるようにしています。英検3級を挑戦するにあたっては、覚えなければならない単語や熟語の数が4級よりも増えたので、語いを中心に毎日1~2時間勉強してから試験に臨みました。合格できてうれしかったですね。友達にも「すごいね」「勉強法を教えて」などと言われました。2年生のうちに準2級にも挑戦するつもりです。将来の夢はまだはっきりしていないのですが、いつか英検1級に合格できたらと思います。
STEP英語情報 2009年11月・12月号 掲載