再開発が進み、新しい街へと変貌を遂げている東京都荒川区の白髭西地区。大きく湾曲する隅田川の内側に位置するこの地域に、創立61年の荒川区立第三中学校はある。現在の場所に移転した7年前、東京ではまだ数少ない「ノーチャイム制」や、教科ごとに教室を移動して授業を受ける「教科教室型」へと移行した。現在、同校はキャリア教育や環境教育など、幅広い教育活動を行っている。学校と家庭、地域が三位一体となって生徒と向き合う同校の教育とはどのようなものなのだろう。
幅広い学びの機会から興味・関心を引き出す
清水隆彦校長
荒川区では平成20年度より、教育活動の活性化を図り、特色ある学校づくりを推進する「学校パワーアップ事業」を開始した。どの学校も「学力向上マニフェスト」「創造力あふれる教育の推進」「未来を拓く子どもの育成」の3本柱を掲げ、独自の教育活動に取り組んでいる。
「人間としてかがやく」を校訓とする第三中学校では、基礎学力を向上し、さらに発展させるための5つの施策に取り組むほか、これまで取り組んできたキャリア教育など独自の研究にも力を注いでいる。
そうした様々な教育活動は個々が独立したものではない。どれも生徒たちの将来を見据えて、社会でたくましく生きていく力を身につけるために必要であり、それぞれが絡み合うことで、個々の生徒の豊かな人間性が養われていく。例えば、社会の様々な仕事に触れる「おもしろ探究授業」や「校内ハローワーク」で、世界を舞台に働く人々の仕事ぶりを聞いた生徒は、自分が将来そうした仕事をするためには、語学力が必要であり、人間としての魅力も兼ね備えていなければならないのだと、生きた事例から実感として学ぶ。そして、それが英語を一生懸命学ぼうとする意欲へとつながっていく。
「学校は、将来を担う生徒たちが、これからの社会で個性や能力を生かし生きていく力を身につけていく場」と話すのは清水隆彦校長。「そのためには、基礎的・基本的な学力を身につけさせ、さらにその学力を基盤として発展させながら学んでいける力を身につけていく必要がある」と考える。そこで、家庭や地域と連携し、外部人材も積極的に活用し、生徒たちに幅広い視野で「学ぶ」ことへの興味・関心を引き出している。
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わかる喜びが学ぶ意欲を高める
校舎風景
毎週火曜と水曜の夜に実践している「夜間三中てらこや(学習会)」は学校、家庭、地域の三位一体教育の顕著な例である。全校278名中、毎回80名以上の生徒が参加し、外部講師の指導を受けながら英語や数学のドリル学習を進めている。用意されたドリルの中から、生徒自身が学びたいテーマを選んで問題を解くスタイルだ。外部講師を教員たちがサポートし、保護者や卒業生が採点を手伝い、さらには帰宅時間に合わせて町会の皆様がパトロールにあたり、生徒が安心して学べる環境が整えられている。「てらこや」で「わからなかったことがわかるようになる喜び」を味わった生徒は学ぶ意欲が高まり、日中の授業にも良い効果が現れているという。
英検への取り組みは「学力向上マニフェスト」でも、「受験者数35名以上、前年度比130%の合格者を出す」と、具体的な数値目標を掲げているほど。
「合格を手にするだけではなく、目標に向かって努力するプロセスを大切にしたい」と清水校長。英検の試験日清水隆彦校長が近づくと、放課後に希望者を対象とした勉強会が開かれる。3級以上を受験し、一次試験に合格した場合は、英語科の赤木勝彦先生とマンツーマンで、本番さながらの面接指導も受ける。現在、同校では3級合格を目指し、3年生の2学期に英検を受験する生徒が多い。なかには1年生で準2級に挑戦する生徒もいるという。
赤木先生によれば「英検は身近な目標として学習意欲の向上に大いに役立っている。合格すれば次の級を目指そうと意欲的になり、友だちが合格したと聞けば、それに刺激を受けて、次は自分もと受験を希望する生徒も出てくる」という。
基礎・基本を大切に、読み書きに力を入れた英語教育
赤木勝彦先生
同校の英語教育が目指すのは、国際的な視野を身につけた生徒を育成すること。英語特区である荒川区では、小学1年から英語を授業として取り入れているため、中学入学時点でどの生徒も6年間英語に触れてきた経験を持つ。そのため、英語を自然に受け入れることができる生徒が多い。第三中学校は汐入小学校との一貫教育研究も推進しており、小学校の先生との授業研究も日頃から活発にしている。
「本校では英語の授業は生徒の希望による習熟度別授業を取り入れているが、特に発展クラスの生徒は積極的に学ぼうとする姿勢が見られる。中学校の英語には『書く』という活動が入り、英語嫌いになる可能性も含んでいるため、小学校の先生と情報交換をして、ゲームなども取り入れながら、書くことが自然になるような授業を組み立てるようにしている」と赤木先生は話す。
冬休み明けに実施しているスペリングコンテストは、英文を書くために必要とされる単語力を身につけるためのもの。そこで、生徒たちは冬休み中に単語を覚えてくることが宿題となる。
また、授業では書くことはもちろん、読むことも大切にしている。英文を繰り返し読んで暗唱することにより、「話す」「書く」「聞く」の3つの力も同時に高められていくからだ。
「中学校の3年間を通じて、とにかく基礎・基本をしっかりと身につけてほしい」という赤木先生。「まずは、自分を表現できるようになること。そして、相手が話していることを理解できるようになること。コミュニケーション能力を高め、外国を見る眼を養い、将来、国際社会で活躍できるような人に育っていってほしい」と願う。
幅広い学びの機会に恵まれた同校で、生徒たちは個性を生かし、目標に向かって生き生きと学んでいる。高まる彼らの意欲に応えようと、清水校長を中心に教員たちは創意工夫を凝らした学びの環境づくりに努力を惜しまない。
英検チャレンジャーにインタビュー!
3級までは合格して、高校入試に備えたい
阿部悠輝さん
(中1・4級挑戦中)
3級までは合格して、高校入試に備えたい
小学校から英語の授業を受けてきたので、中学での発展クラスの授業も難しいとは感じていません。英検は4級にチャレンジしましたが、まだ習っていない単語が出ていたのでわからないところもあり、難しく感じました。英検は高校入試に有利だと聞いているので、中学在学中に3級までは必ず合格しておきたいですね。洋書を読めるようになりたいので、もっと英語の勉強をがんばります。
夢に近づくために英語の勉強をがんばりたい
鶴巻かりんさん
(中1・3級挑戦中)
夢に近づくために英語の勉強をがんばりたい
将来はキャビンアテンダントになりたいので、そのためにも今から英語の勉強をがんばっています。英検はすでに4級に合格していて、現在は3級の結果待ちです。自分の実力を試してみたくて受験しました。受験に向けては参考書を買って勉強しましたが、わからないことも多く、先生や海外勤務経験のある父に教わりました。中学在学中に準2級までは合格しておきたいと思います。
字幕なしで英語が聞き取れるとうれしい
鶴巻カンナさん
(中1・3級挑戦中)
字幕なしで英語が聞き取れるとうれしい
この学校ではゲームを取り入れながら英語の授業をするので、楽しみながら勉強できます。私は英語が大好きで、自宅では洋画のDVDを字幕なしで見るようにしています。少しでも英語が聞き取れると自信がつきますね。自分の実力を知りたくて英検を受験しましたが、3級は難しくて知らない単語も多かったので苦戦しました。将来は英語を使って世界とかかわる仕事がしたいです。
STEP英語情報 2009年4月・3月号 掲載