福井県編
地域・校種を越えた英語教師の学び合い
福井県立高志高等学校 教諭 山内 悟
2014.04.30
はじめに
福井県は人口80万人強、学校数は中学校が約80校、高校が約60校、英語担当教員の数は中学校で約260名、高校で約330名という小さな県である。県内は、「嶺北」「嶺南」「奥越」と呼ばれるエリアに分かれており、エリア間または中学校・高校間の人事交流はそれほど頻繁に行われている状況ではない。
このような中、福井県における英語教育への取り組みはかなり熱心に行われているのではないかと思う。本稿では、福井県の英語教育を支えているものをいくつか取り上げ、簡単に紹介する。
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「福井県英語研究会」について
「福井県英語研究会」は、研究部、放送テスト部、企画部、広報部の4つの部と事務局から成っている。
(1)研究部
研究部は、以下の3つの委員会に分かれて活動を行っている。
1.リーディングテスト委員会
県内の中学生向けにリーディング教材(教科書を使った指導のpost-reading、各学年向けにA、B、Cの3種類)を作成しており、年間各6回分が各中学校に届けられる。また、過去の教材を集めた“Let’s Read”という冊子も各学年用に作成している。
2.リサーチ委員会
『Reading for Message』という高校生向けのリーディング教材 (SKIMMING, SCANNING, GUESSINGの3種類)を、年間3回作成している。また、過去に作成したものの中から良問を選んでまとめた冊子も作成し、各高校に届けている。さらに、リーディング指導のあり方を中心に実践・研究を行い、その結果を『研究部合本』で発表している。
3.TEFL委員会
「コミュニカティブ・ライティング」「スピーキングテストの開発」など、毎年、研究テーマを設定し、中学校・高校の現場で実際に指導にあたりながら仮説・検証を行っており、その結果も『研究部合本』で発表している。また、高校入学生のための橋渡し教材『Bridging』を作成し、各高校に届けている。
(2)放送テスト部
県内の中学校や高校で使用するリスニング教材を作成している。中学校1~3年生用に「放送テストA、B、C」、高校初級~中級用に「D」の4種類を作成し、年間4回、発送している。
(3)企画部
中学生・高校生対象の様々なイベントを企画・運営している。中学生を対象にした英語セミナーや弁論大会、高校生を対象にした英作文コンテストや弁論大会など、英語に興味を持つ生徒たちが目的を持って英語を活用できる場を提供している。
(4)広報部
各部の活動状況や講演会などの記録を『会報』や『英研ニュース』といった広報誌にまとめ、会員(県内中学・高校の英語教員)に配付している。
(5)事務局
庶務・会計などの業務のほか、毎年春に行われる総会、秋に行われる研究大会を企画・運営している。毎年多くの会員が集まり、公開授業や講演会などを通して研鑽を積んでいる。
このように、福井県英語研究会の活動は活発で多岐にわたる。これらの活動には中学校・高校の英語教師が自主的に参加しており、この研究会活動のおかげで地域や校種を越えた英語教員同士のネットワークが出来上がっている。共通の目的を持って活動する中で、日ごろの教材作りのヒントや授業のアイデアなどを得ることができる。私もその恩恵を受けた一人で、研究部に約20年在籍し、英語教師として大きな財産を得ることができた。
公開授業

公開授業の風景
(福井県立高志高等学校)
近年、県内の高校では、公開授業を行うところが増えてきた。4つの英語力強化プログラム拠点校が学期に1回ずつ授業を公開することになっているのに加え、自主的に公開授業を行う学校もある。多くの場合、外部から助言者を招くなどして授業研究会を行っており、参加者にとっては貴重な研修の機会となっている。私の勤務校では、平成22年度から3年連続で公開授業・授業研究会を実施しており、それぞれ40~50名の先生方に参加をいただいた。私自身は、平成24年度は8回の公開授業に参加し、色々と勉強させていただいている。中学校でも同じように公開授業が行われており、中学校・高校の教員が互いに授業を参観し合う機会も増えている。
中・高・大の連携
県内の中学・高校・大学の英語教師が日ごろの実践や個人的な研究などを発表する場として、「英語教育懇話会」もある。月例会が月1回、土曜日の午後に開催され、毎年、夏と冬にシンポジウムも行われる。また、「CC研究会(コミュニカティブ・クラス研究会)」という会も、毎月1回、平日の夜に開催されている。ここでは、コミュニカティブ・クラスの実践をテーマに参加者が実践例を持ち寄り、互いに議論を深めながら研究を進めている。
生徒の英語運用力・教師の指導力向上のための取り組み
県教育委員会からは、ディベート大会予選会の開催や英語キャンプ、さらには海外派遣・受入事業など、生徒が実際に英語を使用することで英語の運用能力を高める機会を提供していただいている。特に、平成23年度から始まった「海外語学研修事業」では、3月中旬~下旬の2週間、県内の高校2年生100名をアメリカの語学研修に参加させる取り組みが行われている。
また、教師の指導力向上を目的としたものについては、前述の公開授業などに加えて、様々な研修講座がある。海外研修としては、平成24年度より始まった「教員海外派遣事業」があり、夏期休業の1か月を利用してアメリカ・ニュージャージー州のラトガース大学で研修を受けることができる。
まとめ~新教育課程の実施に向けて~
以上述べてきたように、福井県では、以前から英語研究会の活動や有志の先生方の研究活動が草の根的に行われており、それが教師の指導力と、生徒の英語力の向上に効果を上げてきた。これは、福井という小さな県だからこそ小回りがきいて実現できたことなのかもしれない。
高校では、平成25年度から新しい教育課程が実施されることになっており、具体的な到達目標の設定やシラバス作成、より広い授業研究が求められている。これまでに築かれてきたネットワークにさらに多くの英語教師が参加して互いに研鑽し合うことで、県全体の英語教育が新しい時代に向けて一歩前進できるのではないかと期待している。
英検 英語情報 2013年3・4月号 掲載