一人ひとりの可能性を引き出す
チャレンジし続ける英語教育
海外の機関が集まるインターナショナルな街、東京・広尾に位置する広尾学園。3年前、SELHiの指定を受けたことをきっかけに、様々な改革を実施。すべて英語で授業が行われるインターナショナルクラスの設置や土曜講座、朝テスト(P.L.T.)の実施など独自の英語教育が注目されており、英検の受験率・合格率も年ごとに増えている。草場直哉副校長と英語科の安藤裕二先生、鹿内芳貴先生にその取り組みをうかがった。
草場直哉副校長
大使館や外資系企業の集中する東京・広尾では、世界各国のレストランやあか抜けたカフェが並び、道を歩けば外国の人とすれ違う。そんな国際感覚あふれる街に建つ広尾学園。学校には珍しい木製の扉や日当たりのいいラウンジに、「イタリアンレストランか何かと間違って入ってくる人もいる」ほど街に溶け込んでいる。自由でのびのびとした校風もそんな街に学校があるからだろうか。
「周りの環境はいいですね。それに本校では生徒の自主性を大事にしています。自律と共生。これが広尾学園の理念です。自分で目標を設定して取り組み、問題を解決していくのが『自律』。年度始めに合宿をして、個人目標とクラス目標を設定します。修学旅行の行き先も先生ではなく、生徒が決めるんですよ」と草場直哉副校長。
まず、クラス内でみんなを説得するためにプレゼンし、クラスでまとまると、次は他のクラスへプレゼンする。そうして場所が決まると今度は、旅行業者も生徒たちが決定します。各業者にプレゼンしてもらい、自分たちのイメージする旅行に一番近い業者を選ぶのだという。
文化祭も模擬店などはない。今年のテーマは「環境」と決まると、「食」や「温暖化」などクラスごとに研究したものを発表するのだ。
「もう1つの理念である『共生』は、文字通り、共に生きること。クラスや友人とみんなで力を合わせて乗り越えていく。部活や文化祭、合唱祭、運動会などのイベントを盛り上げることで、社会で通用する力を身につけてほしいですね」
次を見るopen
君たちはできる
大正7年に創設された順心女子学園としてスタート、平成19年に共学化。「広尾学園」と名称を変更し、中高に高い英語運用能力を持つ生徒を受け入れるインターナショナルコースを設置したり、中学から特進選抜コースを開設するなど進学校としての様々な改革を行った。なかでも特に力を入れているのが英語教育だ。英語の能力が高い生徒がいる一方、中学で初めて英語を習う生徒もいるが、1年終了時には、ほぼ全員が英検5級以上を取得している。
「本校では、P.L.T.(Personalized Learning Test)を取り入れています。まず朝テストの実施。1400人の生徒一人ひとりに合わせて作成されたテストを受けると、その結果にもとづいて、放課後までには、個別の課題が作成されます。そのおかげで、自分の弱点のチェックと復習ができるのです。さらに、土曜特別講座では、各教科を代表する講師陣による実力アップのための学習プログラムも実施しています。
SELHiの研究成果を生かして
安藤裕二先生
鹿内芳貴先生
広尾学園には、日本人の英語教師15人とネイティブの教員8人がいる。授業を受け持つだけでなく、部活動の顧問をすることもあるので、インターナショナルクラス以外の生徒も、日常、自然に英語が話せるような環境がある。
授業でも講義型の受け身の授業ではなく、会話や音読ペアワークなど生徒参加型の授業を心がけていると英語科高校1年生担当の安藤裕二先生は語る。
「20年度でSELHiは終了しましたが、3年間の研究成果はその後の授業でも取り入れています。SELHiの間は、プレゼン型の授業を実験的にいろいろ試みました。発表や英語劇のほか、英語のアテレコなど。特に英語劇は生徒たちも熱心でしたね。去年は『シンデレラ』を取り上げたのですが、グループごとに張り切ってやっていました。同じストーリーなのに、各チーム、てんでばらばらで『えっ!これもシンデレラ?』と首をひねる劇もありましたが(笑)。結局、文化祭でクラス対抗で発表もしました。楽しく参加できたようで、英語が苦手な生徒も、積極的に授業に参加してくれるようになりました」。
一方、英語は「語い力が大事」との考えから、中学1年生から高校3年生まで全学年共通の単語テストを実施している。
「中学1年生の時点で中学2年生レベルの単語を、2年生で難関高校入試レベル、3年生以降、高校生には大学入試レベルの単語にチャレンジさせています。中学校は週1回、高校は週2回の小テストを授業のほかに実施しています」と中学1年生の鹿内芳貴先生。
語い力をつければ、英検の合格率も上がる。同校では、先ほど副校長が触れた「土曜講座」を開講しているが、英検に的を絞った講座も選択できる。
「土曜は4時限あるので、英語でも数学でも自分が苦手とする教科を4コマ選べます。各学期違う教科にしてもOK。例えば英検準2級講座を受講していて、準2級に合格すると次の学期では2級講座を受けることも。過去問題や面接対策など、中学・高校を問わず学年を超えて自分の実力に合わせて受講できるのが土曜講座の特色ですね」
英検合格者を毎年確実に増やしている理由は、「自律と共生」のしっかりした理念と、中高一貫教育ならではのきめの細かい教育がカギとなっているようだ。
英検チャレンジャーにインタビュー!
笹川結菜さん
(中学1年生・3級取得)
「児童英語教室」に通ったことはないのですが、小学校2年生から通い始めたミュージカル教室の先生がアメリカ人で、レッスンでは英語の歌を習いました。先生との会話も日本語だったりカタコトの英語だったりと、自然に英語に親しんでいたような気がします。中学に入学してすぐ英検5級をとりました。毎回受けて昨年の秋には3級に合格。ほかの受験者と放課後、英会話の練習をしたのがよかったみたいです。辞書を引きながら「書く」のが一番好き。次は英検準2級にチャレンジして、将来は英語を使った仕事をしてみたいです。
唐澤尋郷君
(高校1年生・2級取得)
英語はやればやるほどわかるので好きな教科です。学校の授業もわかりやすくておもしろいですね。英検2級対策としては、受験用のテキストについているCDを聞き込んで英会話の勉強をしました。また、書店で短い文章が載っている単語帳を買ってきて、文章ごと覚えるようにしています。将来は英語関係ではないのですが、農学部に進学したいです。小学校のとき、1年間を通して米作りを授業でやったのがきっかけで農業に興味を持ったんです。大学受験では英語が必須なので、希望の学部に行けるよう、在学中に準1級まで取得し受験に備えたいですね。
鈴木雄流君
(中学1年生・3級取得)
小学校までは数学が一番好きな教科だったのですが、中学に入って初めて英語の授業を受けてから、英語が一番になりました。広尾学園には帰国子女が多いので、わからないところを気軽に聞けるのがいいですね。授業の予習・復習は欠かさず、単語は繰り返し覚えます。英検受験前は、英検専用のオリジナルノートを作り、出題されそうな文法や単語などを書き込みます。次の英検準2級を受験する前には、学校で英会話の指導をやってもらえるので、参加するつもり。英検1級まで取って、将来は大学で英語を教える先生になりたいですね。
生徒さんの学年は取材当時のものです。
STEP英語情報 2009年5月・6月号 掲載