英検の全校一斉受験を推進し、高めあい、支えあい、認めあう集団づくりにつなげていく
大阪府の東部、生駒山の麓(ふもと)に位置する大東市は、市立中学校8校全校に1名ずつAETを配置するなど、中学校の英語教育の充実を図っている。その中でも諸福中学校は、同市の市立中学校で初めて2008年度に英検の全校一斉受験を実現。2010年度までの3か年計画で年1回の実施を予定しているが、同校の「高めあい、支えあい、認めあう集団づくり」というテーマとも相まって、はやくも生徒の学習意欲には変化が見られるという。
1)英検の効果が他の教科にも波及し、全体の学習意欲を高める
笹尾 宏校長
1週間のまとめとなる週末課題や、ERIC(エリック)と呼ばれる朝の読書時間、数学と英語の2教科で少人数授業の実施など、様々な学習の工夫に力を注ぐ諸福中学校。その背景には、生徒に基礎・基本の力をしっかりと身につけさせ、応用力を伸ばしていくこと、さらには生徒同士の支えあう力を養っていくことが目的として存在する。「先生と生徒という一方的な教えの場から、生徒がお互いに教え、学びあえる姿を目標として学級づくりに取り組んでいます。生徒同士がより高いところで支えあえる人間関係を実現することで、学習に対する積極性も育まれていくでしょう」と話すのは笹尾宏校長だ。
その活動の1つとも言えるのが、英検の全校一斉受験である。「学校の取り組みとすることで、期待通り生徒の中で勉強の教えあい、励ましあいがありました。何より特徴的なのは、みんなで公的な資格試験を受けるという動機づけが、学習意欲の向上につながっている」という。笹尾校長はかつて英語科の教員であり、中学2年生のときに受けた英検をきっかけに教員をめざしたため、自身の経験を通して生徒に英検の魅力を話すこともある。「そのときは4級を受けたのですが、辞書を引きながら勉強したことを覚えています。その経験が糧(かて)になり、結果的に私は英語科の教員になりました。ですから生徒にも英検をがんばっていけば絶対に損はしないと伝えています」と話す笹尾校長の言葉通り、英検は早くも同校の生徒の目標の1つとなっている。そして、現在はそれが他の教科にも波及し、がんばって勉強しようという校風が生まれつつあるという。
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2)英検受験によって、英語に抱いていた夢と希望を取り戻させたい
小松正明先生
生徒に基礎・基本の力を身につけさせるために、教員の間でいろいろ検討がなされたが、具体的な方法として英検の一斉受験が選ばれた理由には、英語は本来、生徒の中にも大きな期待のある教科だと考えられたためである。英語科の小松正明先生によれば「英語は中学校に入学する際に、生徒たちに夢と希望を与える教科なのですが、授業を進めていくうちに苦手な生徒が出てくることが英語科の教員としても悩み」だという。そこで、英検と漢検に全校で取り組み、基礎的な学力を身につけさせることになった。全校での受験のため、費用の面での懸念もあったが、英検は、1年生は5級で1200円、2年生は4級を基本にして1200円、3年生は受験級に差は出ますが1300円を基本に、それぞれ学習費から充当し、3級の生徒は保護者の方から1000円を追加でいただくことでクリアすることができた。
そして受験の結果は、各学年平均77~78%以上の高い合格率を残すことになり、それが英語に抱いていた夢と希望を取り戻すことにつながっていくと小松先生は話す。「合格率以上に、生徒の英語に対する学習意欲が非常に高まったことが大きいですね。受けて良かった、これからも受けたいという生徒が8割近くいます。合格して、達成感があって、さらに自分で勉強をがんばろうという気持ちになれたようです」
3)一斉受験だからこそ、次は絶対にがんばると意欲的になれた
山岸夕里先生
一方、全校での一斉受験の際には、合格に届かなかった生徒のフォローも重要だが、英語科の山岸夕里先生は、逆に結果をしっかりと受け止める生徒の意見に喜んだという。「英検の結果は一人ひとり封筒に入れて渡しましたが、あと1点で合格という生徒には、点数がまったく足らないわけではない、といったコメントを書きました。ただ、残念な結果に終わった生徒も自分で実力がわかっているため、勉強が足りなかったので仕方ないと納得できたようです。そこから、次は絶対にがんばるというように意欲的になってくれたのがうれしかったですね」
このことを踏まえ、同校ではこれまで以上に生徒全員で勉強するという授業を展開していくという。山岸先生は「現在も班単位での学習を実施し、わからないところを他の生徒に聞いて教えあう授業を進めています。言われたことを聞いてノートにとるだけでは、生徒はあまり考えません。そのため問題を解く際にはすぐに正解を言わず、生徒に考えさせて、みんなで問題を解いていくように指導しています」と話す。班単位の学習は、他の生徒にも興味を持つことができ、生徒同士で学ぶことに対して意識を高めることができる。本読みでも恥ずかしがることなく、大きな声を出して読めるという。
このように生徒がお互いに関心を抱き、高めあい、支えあい、認めあう集団となることは学習意欲の高い校風につながるが、ただそれがすべてではなく、その大前提には、仲間を大切にできる生徒になってほしいという想いがある。「生徒には諸福中学校で3年間学んで良かったと言って卒業してほしい。そして保護者の方には、諸福中学校に入学させて良かったと言っていただけるようにしたいと考えています」と笹尾校長が話すように、今後も学習はもちろん、すべての面で生徒の育成に情熱を傾けていく。
英検チャレンジャーにインタビュー!
将来の仕事でも英語を役立てたい
森 晴香さん
(中学3年生・3級取得)
将来の仕事でも英語を役立てたい
英語は小学校の頃から兄の影響で勉強しています。兄の姿を見て、英語を勉強したいと思うようになりました。英語は他の教科よりも楽しくてやりがいがありますね。英検を受験したときには、わからないところはやはり兄に聞いて勉強しました。英語が好きなので将来の仕事でも役立てることができたらいいなあと考えています。今、水泳もがんばっているので、いつか国際的な大会に出て、英語で受け答えができればいいですね。
国際線のキャビンアテンダントになりたい
谷口恵理さん
(中学3年生・3級取得)
国際線のキャビンアテンダントになりたい
英検は教材を買って自分で勉強していました。わからない単語が出てきときは、とにかく辞書で調べて大変でしたね。今回は全校での受験だったので友達からも元気づけられて、がんばろうという気持ちになれたのが良かったです。将来は国際線のキャビンアテンダントになるのが夢。その後はカナダなど外国でのんびり暮らしたいですね(笑)。今は高校受験のために塾にも通って、クラブ活動でバドミントンもしているので忙しいです。
アメリカに住んで、いろいろなものに触れてみたい
柳井達也君
(中学2年生・5級取得)
アメリカに住んで、いろいろなものに触れてみたい
英検で良い級を取っていると高校受験に有利になると聞いたので、がんばっています。今回は1週間前から1時間ずつ勉強しました。今はブラスバンド部に入っていて、担当はアルトサックスです。音楽が好きで将来は作曲家になりたいと考えています。そのためにも大学を卒業したらアメリカに住んで、いろいろなものに触れてみたいです。そのときに英語が話せるように、3歳くらいから英語を習っています。
いつかは英検2級以上をとりたい
礒辺真理さん
(中学2年生・5級取得)
いつかは英検2級以上をとりたい
英語は2歳ごろから習っています。英検は今回5級を受けたのですが、いつかは2級以上をとれたらと思います。また、留学もしたいですね。音楽と美術が好きなのでニューヨーク、ロンドン、パリなどに行きたいです。今はブラスバンド部でクラリネットを担当しています。偶然ですが母も昔からクラリネットを吹いてみたかったと聞いて、私が上手に吹けるようになったら、母にも教えられるかなと思っています。
STEP英語情報 2009年7月・8月号 掲載