滋賀県内の他市に先駆け小学校英語活動が進む草津市。ただ、着実に成果を残しながらも中学校については各校に委ねられているのが現状である。そんななか、独自の取り組みによって中学校の英語教育モデルを作ることに力を注いでいるのが草津市立松原中学校だ。全教員が協力し、地域のボランティアの支援も受け、2008年度から全校生徒の英検受験を開始した。学力向上をめざす校風づくり、そのための工夫などをうかがった。
1)中学校で初めて学ぶ英語だからこそ校風につながる
利倉 章校長
松原中学校では、かねてから学習意欲や学力の向上が課題となっていた。様々な対策が検討されるなか、具体的な取り組みとして焦点を当てられたのが「英語」である。中学校で初めて学習する教科なので、あらためて生徒に学ぶことに対する意識の変化をうながすことができ、学習全般への波及効果をねらえるからである。特に草津市は、小学校の英語活動は進んではいるものの、その成果を踏まえた中学校英語教育のあり方は確立されていない。そのため、同校はそのモデルを作ることを責務ととらえ、取り組みを進めた。その中心に位置づけられたのが、全校生徒の英検受験である。
利倉章校長は「以前から勉強というものに、すべての生徒がもっと意欲的に取り組める校風を作れないものだろうかと考えていました。授業を少し工夫、改善しただけでは全校的なものにはなかなかつながらないのです。また、中学校は教科担任制ですが、教員が自分の専門教科だけを考えているのでは効果が見えてきません。つまり、学校を挙げて、学力向上をめざす必要があったのです」と話す。そして、英語への取り組みについて「中学校で初めて勉強する英語ならば、できるのではないかと思いました。これがほかの教科だとなかなか難しい。英語だからこそ勉強に力を入れようという校風につながると考えました。さらには、英検という社会的に公認されている資格試験にチャレンジすることの価値を、生徒は予想以上によく理解していました」と説明した。そのため、教員が「問題集を買いなさい」「前もって勉強しておきなさい」などと言わなくても、生徒たちは自主的に勉強しているという。
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2)英検を話題にすることで先生と生徒の関係もより深いものに
鈴木かおり先生
ただ、全校生徒が受験するというテーマを掲げても、実際には一人ひとりの生徒に前向きな姿勢がなければ実現することは困難である。一方的な強制では反発が起こる可能性もある。しかしながら、同校では生徒の誰もが、英検に対して、純粋に取り組んだという。その理由を英語科の鈴木かおり先生は「松原中学校のきめ細かな、そして温かく生徒に接していくという生徒指導がベースになっていたためではないか」と考えている。
また、教員も学校の教育方針が明確化されたことで、教科に関係なく全校生徒の英検受験に対して積極的に取り組んでいくこととなった。受験のための事前オリエンテーションは、各クラスの学級担任が行ったため、英語科でない教員も生徒にしっかりと情報提供するために、生徒の声を聞いて相談しながら受験に向かって一緒に進んでいったという。
英語科の林久枝先生は「生徒は、どうしてもというときに英語科の教員に質問するくらいで、まず担任の先生に受験する級の話や、勉強の相談などをしていました。それぞれの先生も教室だけでなく部活など、いろんな場面で英検を話題にしてもらえたのが良かったですね。生徒との関係もより深くなりました」と振り返る。
3)すべての生徒が前向きでいられるように
林 久枝先生
全校生徒の英検受験で、ポイントとなるのが受験級である。同校では学年を問わず生徒が希望する級を受験できるようにしたが、なかでも低学力の生徒に焦点を当て、3年生全員が5級に合格できることを重点目標に掲げた。「全校で受験することで、英語に見向きもしなかった生徒にとっても大きなチャンスになり、やればできるという気持ちを持たせたかった」と鈴木先生が話すように、勉強会でも5級に最も力を入れた。また、林先生によると「英検は無理して級を飛ばして受けなくてもいいし、実力に合わせて自分で決めていいということを生徒が理解できていたので、5級や4級に自信がない生徒であっても、受けてみようという一歩が踏み出せた」と言う。
さらに、その効果は不登校の生徒にも影響を与えることになる。「不登校だった生徒が英検の時に登校してきたんです。家で勉強してきた成果を見たいということで英検を受けて、2年生で4級に受かりました。その生徒にとっては英検が第一歩になりましたし、今後ますます意欲的に勉強するようになるでしょう」と林先生は話す。ほかにも、遅刻の多かった生徒が、英検のときにはきちんと時間より前に登校するようになるなど、同校が描いていた「英語を軸とした学力向上をめざす校風づくり」は着実に実を結んでいる。それだけに2年後、3年後と全校生徒の英検受験を継続していくためには、今回の結果を踏まえ、生徒へのサポートがより大事になっていく。すべての生徒が前向きでいられるように、例えば来年度も5級を受ける生徒のために、どのような取り組みができるかといった、きめ細かな対応が求められる。「とにかく5級は全員合格させてやりたい」と話す利倉校長を中心に、同校ではこれからもすべての教員が努力を惜しまずに、英語を軸とした校風づくりに取り組んでいく。
英検チャレンジャーにインタビュー!
勉強した成果がありました
岩本和真君
(中学2年生・3級合格)
勉強した成果がありました
3級を受けることになったときには、このままでは合格できないと思い、参考書でわからない単語を調べて勉強しました。期間は1か月ほどです。実際にテストを受けるまで不安でしたが、テストの後半になると勉強した成果が出て問題を解くことができました。英語の勉強をこれからもどんどん積み重ねて、将来は、できるなら英語を使える仕事をしたいですね。
聞き取りや文章力を身につけたい
斉藤渉君
(中学1年生・3級合格)
聞き取りや文章力を身につけたい
小学校のときにカナダにホームステイしたことがありますが、帰国して英語力が落ちないように、英語の音楽を聴くなどして、毎日英語に触れるようにしています。聞き取りや文章力を身につけたいですね。英検は単語を書いて覚えて、次の日に忘れていないか復習して勉強しました。3級に合格はしましたが、まだ1年生の勉強でもわからないこともあるので、まだまだ勉強が必要だと思っています。
サッカー日本代表になって世界を回りたい
新川佑麻君
(中学1年生・5級合格)
サッカー日本代表になって世界を回りたい
英検受験に向けて、参考書を買って勉強しました。リスニングが苦手だったのですが、毎日一生懸命やっていたら、だんだんわかるようになって、オバマ大統領の演説の単語も少しわかるようになりました。まだ、海外に行ったことがないので一度アメリカに行って、本場の英語を聞いてみたいですね。それで将来はサッカー選手、日本代表になって世界を回って戦ってみたいです。
英語でコミュニケーションをとれる力をつけたい
新庄真帆さん
(中学3年生・準2級合格)
英語でコミュニケーションをとれる力をつけたい
保育園のときにアメリカ人の先生がいて、英語を話すことを単純に楽しんでいました。中学では文法など規則的なことを学ぶことになりましたが、その2つの経験があるからこそ、今は英語が得意だと言えます。準2級に合格したことも自信になりました。特に英語に関係する仕事に就きたいとは考えていませんが、英語でしっかりコミュニケーションをとれる力をつけたいです。
リスニングをこれからもがんばっていきたい
立岡瑞姫さん
(中学3年生・4級合格)
リスニングをこれからもがんばっていきたい
英検は自分で勉強するより、放課後の勉強会での級ごとの対策に参加して勉強しました。普段の授業とは少し違った雰囲気で友達と勉強できたので、とても覚えやすかったです。また、今回は全員が受験したので、友達が2級に合格したのもうれしくて、一緒に喜び合いました。リスニングは、今でもあまり得意ではないですが、これからもがんばっていきたいです。
STEP英語情報 2009年9月・10月号 掲載