英検を通して次に何を見るか
学習そのものに対して視野の広い生徒を育む
1927年の開校から長い歴史を積み重ねてきた大阪学園大阪高等学校。これまでも学校全体として数々の学習活動を進めてきた同校ではあるが、その一つである英検の全校受験が、2008年度の男女共学化による生徒数の増加に伴い、今年度からは約1500名という大規模なものへと発展した。現在では同校の風土とも認識される英検の全校受験と、一人ひとりの生徒へのフォロー、さらには英語教育の先に見据える同校の目指すべき姿をうかがった。
1)英検のノウハウだけを伝えて合格すればそれで良しではない
岡本 進教頭
国際化、さらには共生化という時代の流れに合わせて、2008年度から男女共学校となった大阪高校。「全人教育」との理念に基づき、知育・徳育・体育を備えた生徒の育成に重点を置く同校では、単に学習面に力を入れるだけではなく、あいさつや言葉づかい、マナーといった、人としてバランスのとれた人格形成を目標に「面倒見の良い教育」に取り組んでいる。そうしたなかで、英検の全校受験を実施しており、生徒数が増えた今年度からは約1500名という大きな規模で取り組んでいくことになった。
「本校ではこれまでも、クラス代表による英語の暗唱大会を学年で取り組み、3年生では卒業研究レポートを書くなど、さまざまな学習活動を行ってきました。もともとこうした素地があり、英検も学習活動の一つとして実施するようになったのです」と話すのは岡本進教頭だ。
英検を導入した当初、学校全体として英語に対して苦手意識を持つ生徒も少なくなかったという。そのため、英語科担当の教諭が、受験級別に問題を編集したCDを作成したり、授業を使って受験対策を行ったりするなどしてきた。岡本教頭は「英検にチャレンジすることにより、3級や2級を取得することで英語に対するモチベーションを上げていくことができるようになります。達成感を持たせることができれば、ほかの教科にも取り組む自信につながるでしょう。まず学年ごとに取り組むようになり、現在では学校全体の大きな活動となっているのです」と振り返る。
「ただ、英検のノウハウだけを伝えて、合格すればそれで良いというものではありません。英語というものを身近に感じて、自分なりの自信を持ちながら、その先にあるものを見ることが大事だと考えます」
英語を学ぶことによって、生徒は日本語を相対化し、言語として見るようになり、文化として知ることができるようになった。だからこそ「異文化との交流という視点でグローバルに物事を考えられる環境を学校の中に作りたいですね。イングリッシュ・カフェのようなコーナーを設置し、普段から先生と英語でコミュニケーションをとれる機会を作ってあげたいと考えています。そうしたことを日常的に用意できる学校にしたいですね」と岡本教頭の夢は広がる。
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2)合格・不合格だけの狭い視野で英検の結果を捉えることはない
阿形章吾先生
今年度から1500名という大規模で実施することになった英検受験には、いくつかの課題もあったという。受験をけん引する英語科の阿形章吾先生によれば、英検は目標とする級や、それに対して結果が明確であるため、生徒もイメージしやすく、モチベーションも上がっていく。確かに全校受験は人手も時間もかかるが、生徒の熱意の高まりに後押しされて、英語科はもちろん、他教科の先生方も全校受験に協力してくれるようになったという。そして、生徒が目標とする級に合格し、笑顔を見る度に教員の英検への姿勢が変わっていった。こうして今では英検は同校の風土となり、担任の教員が教室内に受験日のカウントダウン・ポスターを作るなどの意識づけまでも行われるほどになっている。
現在は教育カリキュラムにも英検講座が組み込まれるようになった。特に、文理特進コースでは英検受験に向けた特別講座を設け、受験の結果によりクラスを編成し、一次試験を突破した生徒には集中的に二次試験の対策を行う。もう一度同じ級をチャレンジする生徒には、外国人講師による指導などで弱点を克服できるようにサポートを行うなど、きめ細かい指導体制を整えている。文理特進コースでは「卒業までに英検2級、さらには準1級の合格」が目標であるため、早朝学習・放課後学習などを利用した級別リス二ング対策も盛んに行われる。
もちろん、合格に届かなかった生徒のフォローは受験対策以上に大切にしている。「一人ひとり、具体的にどのような勉強をしてきたのかを顧みて、モチベーションを低下させないようにしています。語いで点数が足らないのであればピンポイントで指導するなど、単に合格・不合格という結果だけの狭い視野で英検を捉えることはしていません」と阿形先生は話す。それは同校の掲げる「面倒見の良い教育」という方針を実現するものとも言えるが、例えば二次試験の面接対策をとっても、一人の生徒に対して5~6回の練習を施し、試験に臨むのだという。「色々と大変ではありますが、生徒の『先生のおかげで合格できた』という一言ですべてが報われますね」と阿形先生が話すように、生徒との関係を築くうえでも、英検が良いツールとして作用しているようだ。「英語を一心不乱に勉強するというよりも、学習を通して自分をどれだけ相対化できるかが肝心です」。大阪高校ではこれからも「英語を学ぶということは何か」「英検を通して次に何を見るか」といった、学習そのものに対して視野の広い生徒の育成に力を注いでいく。
英検チャレンジャーにインタビュー!
将来は高校の英語教師になりたい
三輪仁志君
(高3・高2時2級取得)
将来は高校の英語教師になりたい
中学校の時に、大阪高校では学校として英検に取り組んでいることや、オーストラリアの短期留学のプログラムがあることなどを知り、入学することを決めました。実際に授業は、実践的で楽しく学べて、特に英会話など実用的なことを行う上で役に立つ授業が組まれているのがうれしいです。そんななかで英検はあくまで目安と考え、取り組んでいます。自分が積み重ねてきたものを、どれだけ試せるのかを知るためのものであり、級や点数で確認できるものです。やはり一定レベルまで行きたいという目標があって、それに対する努力の根源になるものと捉えています。ですから、これから英検を受けるという方には、英検取得だけを目標としないで、英語を学ぶその先にあるものを見てもらいたいですね。また、そういうふうに考えられる人間になりたいです。僕もやがては英語に携わる仕事がしたいので、将来は高校の英語教師になりたいという夢を持っています。
英語を楽しく学ぶことができています
東浦里恵さん
(高2・高1時2級取得)
英語を楽しく学ぶことができています
英検をはじめ資格取得に力を入れている点、先生の熱心さに魅力を感じて大阪高校を選びました。入学してみると想像していた通り、生徒のことを真剣に考えていただいている先生ばかりでした。例えば、テスト前の休日に、ある先生がわざわざ教室を開けて、勉強を教えていただいたこともありました。そういった環境があるので英語を楽しく学ぶことができています。英検は特別に対策を立てて勉強するというよりは、通常の勉強の一環として自分の力を測るものとして捉えています。だからこそ、英語を楽しむための発見もありますね。将来は英語が好きなので英語の教師になりたいです。もともと英語は、中学校の英語の先生から強く影響を受けたので、その先生のようになりたい、生徒に影響を与えられるような教師になりたいという目標があります。そんな想いを先生に伝えたら、「教育実習はこの学校においで。一緒に授業をやろう!」という言葉をかけてくださいました。
STEP英語情報 2009年9月・10月号 掲載