中央大学理工学部の学生たちが学ぶ、都心の後楽園キャンパスの一角に、「昼間定時制」という独自のスタイルをとるアットホームな雰囲気が漂う高校がある。その名は中央大学高等学校。中央大学の学風である「質実剛健」を強く受け継ぎ、「家族的情味」という理念のもと、生徒の個性を伸ばす教育環境を整えている。ここでは在学中の英検2級取得を目標とし、なかには準1級にチャレンジしようとする意欲的な生徒たちもいるという。“自分を育てる、世界を拓く”人物の育成を目指す本校の英語教育についてお話を伺った。
1)卒業後にリーダーシップを発揮できる基盤づくり
村岡晋一校長
大学附属校である中央大学高等学校では、受験勉強にとらわれずに、習熟度に応じた学習指導を行うことができる。どの教科においても、大学で求められる学力レベルへの到達を前提に、真の学力と知識を身につけ、高校生としての常識や良識を備えた生徒を育てることに注力している。1、2年次は徹底した基礎力の定着を図り、3年次には課題解決型の授業を通じて自ら考える力を養っている。また、2年次からは興味・関心に応じ、学ぶ意欲の高い生徒を対象に、第2外国語や理数系の特別講座なども設けている。さらに、週末には3つの附属高校と大学と連携して簿記講座を開設しており、高大一貫教育も実践している。
「中学は義務教育、大学は専門教育の場。その間にある高校は、生徒が興味ある分野を発見する場」であると、村岡晋一校長は考える。だからこそ、学業はもちろん、クラブ活動やホームルーム合宿などの課外活動といった、多方面での“学び”を大切にしている。
同大教授でもある村岡校長によれば、最近、自分が学ぶ目的を見つけられずにいる大学生が増えているという。目先の大学受験への合格が目的となり、本来の学びへの目的を持たずに入学してくるのだ。「だからこそ、高校生の段階で、自分がやりたいことを見つけることで目的意識を持つことができ、戸惑いなく大学での学びに入っていけるのです」
それゆえに、同校では高校3年間での学びを通じて、自分がやりたいことを追求するための基盤づくりを大切にしているのだ。
また、全校生徒500名余りの中規模校であるため、生徒一人ひとりに目が行き届く校風も特色である。教員と保護者が一体となって生徒を見守り、育てる体制が整っており、生徒たちは高校生活を謳歌(おうか)し、行事を通じて友情を深めていく。同校の生徒たちは大学進学後、高校時代に築いた友情関係を基盤に、リーダーシップを発揮している。
新しい時代を築く「真」のリーダーとなる人材を育てる教育は、生徒たちに確かな伝統として根づいていると言えそうだ。
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2)ライティング指導に重点を置いた英語教育
武田博行先生
生徒の約9割が中央大学へ進学する同校では、内部推薦を受ける際に、各科目の成績に加え、検定や各種模擬試験も推薦資料になるという。中でも「英検」取得は重要な位置づけとされている。2級取得は不可欠であり、3年生の2学期までに合格することを目指し、生徒たちは学習に取り組む。2年生になると、英検2級を取得していない生徒は「0時限授業」と呼ばれる「英検特別講座」を受講する。同校ではこの講座を必須科目としており、今年度は土曜の始業前の時間帯に80分間実施している。なお、準1級を目指す生徒向けには木曜の17時から講座が開かれている。
毎年、2級合格者は2年次の前半までは学年の5割弱だが、2年次後半から3年次前半には7~8割を占めるようになる。
「日々の地道な学習の成果です」と話すのは、英語科の武田博行先生だ。全学年で週1回、短文完成や単語選択などによる単語テストを実施している。不合格者には追試や課題もあり、入学から卒業まで、着々と実力をつけていく体制が整っている。武田先生の授業では教科書で学ぶだけでなく、授業の冒頭で市販の英語教材や英字新聞のダイジェスト版を用いて速読させるほか、大学入試の対策問題集を用いたリスニングにも取り組む。それらの取り組みの中では、単に設問に答えるだけではなく、ディクテーションやペアリーディング、語彙や表現の確認を行い、4技能をバランス良く身につけるよう意識しているという。
武田先生は前述の「英検準1級特別講座」も担当しており、そこでは語彙、リスニングと並んでライティングに重点を置いて指導している。その方法は、定形パターンを教え、それを元に文章を作るというもので、あたかも数学の公式を覚えて応用するかのような指導法だ。
「電子メールや手紙には決まり切った書き出しと締めの型があり、100ワードの中で、それらに25ワードを使えば、残りは75ワードです。本文では3つの内容について意見を述べなければならないので、25ワードずつでまとめます。その際、英語では、賛成か反対か、良いと思うか思わないか、という自分の立場をまず明確にしてからその理由を説明することを徹底させます。形や決まった表現を教えると、生徒は独自の意見と理由をもとに、基本的な英文を書けるようになるのです」と武田先生は説明する。講座では、生徒に英文を書かせたあと、解答のポイントを解説するが、書き出す前のプラニングについてもアドバイスをする。提示されている問いを明確にし、それらに対する自分の立場を決め、その理由や具体例を簡潔にまとめる。走り書きや箇条書きでも良いので、大枠ができてから書き出すよう指導する。生徒が書いた英文は回収し、翌週に添削したものを返すが、その際にポイントとなるのが、一度提出したら終わりではなく、同じトピックについて何度も書き直しながら完成形に近づけていくということだ。書き直すことにより表現が磨かれ、その文章が本人の中に浸透していく。ライティング力はそうして定着していく。同校の英検受験者のライティング能力の高さは、そのような指導に裏打ちされたものだったのだ。
3)英語力は生徒が自ら道を切り開く後ろ盾になる
武田先生は生徒たちに対し、英語を学ぶことによって広がる可能性を伝えている。「英語力は、自分で道を切り拓いていく後ろ盾となると思います。海外に出れば、自分の持つ知識や価値観、常識が通じず、臨機応変に対応しなければならないことがよくあります。その際、周りに知り合いや頼れる人がいなければ、自分で何とかしなければなりません。不安や孤独を感じる環境の中で、我々は生きる強さを身につけることができます。それと同時に、人のありがたみを痛感し、知らない人とも積極的にコミュニケーションを図ろうとします。そのことに我々は大きなストレスを感じますが、私は生徒にその経験を積んでもらいたいのです。その一歩を踏み出す際、英語力があることは大きな後ろ盾になると思うのです。未知の世界での経験を通して視野が広がったり、世の中の見方が変わったり、自分自身を見つめ直したりして、自分の進むべき方向性が見えてくるのではないでしょうか」
同校では、海外への修学旅行が多いほか、毎年5~10名ほどの生徒が夏休み中に海外でホームステイをしており、学校ではその斡旋を行っている。また、1年間海外留学をしても、帰国後は留学前の学年に戻ることができる制度も整っている。さらに、中央大学でも高校の段階で海外の文化に触れる経験をしてほしいと、附属校の生徒を対象とした推薦入試において、留学経験者に対する特別枠を設けている。そんな恵まれた環境が整い、安心して学ぶことができるのは、大学附属校ならではの特色だろう。
生徒のレベルの高さや大学附属のメリットは確かにある。だが、今回紹介した英語指導の取り組みは、実践に値する内容ではないだろうか。小テストや課題といった日々の地道な取り組みを通して、単語力や文法力、表現力を高め、同校の生徒たちの英語力は伸びている。基礎基本を大切にし、丁寧な指導と地道な働きかけを繰り返す学び。それは揺るぎない実力に結びつくということを示した好例と言えるだろう。
英検チャレンジャーにインタビュー!
英語でコミュニケーションできる楽しさを実感
菊地恭平さん
(高2・準1級挑戦中)
英語でコミュニケーションできる楽しさを実感
小学5年生から英語を学んでいます。英検には5年生から挑戦し、5級、4級に合格しました。その後も6年生で3級、中学2年生で準2級に合格しました。高校入学後は1年生で2級に合格し、今年に入り、準1級一次試験まで合格しています。卒業するまでに二次試験にも合格することが目標で、いつか1級に合格したいですね。
オーストラリアへの修学旅行では、現地の高校生と交流する機会があり、英語でコミュニケーションを取ることができました。英語力があれば、海外の人とも交流を深めることができると実感できました。将来は、自分がまだ知らない場所へ行き、そこでしかできない体験をたくさんしてみたいです。そのためにも英語力を高める努力を続けます。
英検2級合格を導いたリスニング学習と英検特別講座
遠嶋栞奈さん
(高2・2級合格)
英検2級合格を導いたリスニング学習と英検特別講座
本格的に英語を学び始めたのは中学生になってからです。英語ができて良かったと思うのは、映画を観て、セリフを聞き取れ、意味を理解できたときですね。高校に入学してから英検に挑戦していますが、1年生で準2級に合格し、2年生では2級に合格することができました。私はリスニングが苦手なので、リスニング教材を通学時間に聴くようにしていました。また、学校で開かれる英検特別講座を受講し、出題パターンを知り、語彙力を高められたのが合格につながったのだと思います。
将来の夢はまだ決まっていませんが、せっかく身につけたこの英語力は生かしていきたいですね。そして、自分の英語力を試すために、海外旅行にも行ってみたいです。
STEP英語情報 2010年11月・12月号 掲載