「文武両道」「自学自習」「基本的生活習慣の確立」を教育の3本柱に掲げ、たくましく知性ある男子の育成に力を注ぐ本郷中学校・本郷高等学校。創立以来“面倒見の良い学校”として知られた同校は、10年ほど前から“生徒の自主性”を重んじる学校へ転換し、自ら考え行動できる生徒が増えてきたという。英検も、教員が手取り足取りで対策を講じるのではなく、生徒自身が定めた目標を達成するために自発的に取り組むもので、その結果、年々合格率を上げている。生徒の自主性をいかにして育んでいるのか、中学校の英語科を例に同校の教育を紹介する。
1)“away”の環境で実力を試す
山形幸恵先生
2009年度の中学2年生に対しては、入学当初から英語科の山形幸恵先生を中心に、英検を積極的に活用してきた。ただし、最初から上位級に挑戦するのではなく、5級から段階を踏んで受験し、着実にステップアップしていくことを重視した。
その目的について山形先生は、「1年次の第1回検定でまず5級には合格できます。“合格する”という達成感を味わうことで、英語を好きになるきっかけになるのです」と説明する。第2回検定では4級に、そして第3回では中学卒業程度とされる3級に挑戦する。中学1年修了時には、100名ほどの生徒が3級を、そして2009年度中学2年修了時には110名ほどの生徒が準2級を取得した。その結果、生徒たちの間には「3級合格は当然、2年生で準2級まで合格する」という空気が自然に生まれ、なかには2級合格を果たした生徒もおり、英検への意識が高まっている。
これほどまでに生徒の間で浸透している英検だが、試験は校内で実施しない。本郷では、英検以外にも、個々の生徒の実力伸長度を測る英語の検定試験を年1回、“ホームグラウンド”である校内で受験させている。だが、英検はあえて校外の会場で受験させることで、“away”の緊張感の中でいかに実力を発揮できるかを試させ、精神面の成長を促しているのだ。それは同時に大学入試への予行演習ともなる。中学1年次から高校2年次までの5年間で、年3回、合計15回の英検受験の機会を経て、大学入試に向かう。試験で実力を発揮することはもちろん、指定の開始時刻に間に合うように自宅を出て、指定の時間内で問題を解くといった受験のイロハを身につける場としても活用している。
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2)中学2年次での準2級への挑戦
かつては英検受験者を集めて放課後に対策講座を設けたこともある。だが現在は、受験対策の場は設けていない。あくまでも生徒の自主性に任せている。
「英検は授業の延長線上にあります。日頃からしっかり授業を受け、予習・復習をしていれば、英検3級までは難なく合格できます」と山形先生。「英検合格に向けて教員が手をかけるのはそれほど難しいことではありません。でも、それでは本当の意味での力はつきません。生徒はわかった気になって自分で勉強しなくなってしまうからです。そこで、自学自習を実践する手段として英検を活用し、生徒たちの目標でもある大学入試に結びつけ、付加価値をつけられればと考えたのです」
しかし「3級までは自主学習で順調に合格できても、必ず準2級の壁にぶつかるときがくる」とも話す。単語数が増え、文法事項でも高校の履修内容が含まれるため、合格するにはひとやま越えなければならない。そこで、準2級以上の受験者には、二次試験を想定した練習の機会も用意している。そうしたなか、生徒たちは中学2年修了時点で、学年全体の96%が3級を、およそ100人が準2級に合格している。
3)自らの足で歩ける人間を育てるために
佐久間昭浩教頭
こうした取り組みを通じて、生徒の英語学習への姿勢にも変化が見られる。特に、例年実施している中学2年生の学年行事「Show & Tell」では、その変化が顕著に現れている。英検の二次試験を通じて、人前で英語を話すという場数を踏んだ経験が生き、行事当日、生徒たちは自ら考え、堂々とプレゼンテーションすることができている。
佐久間昭浩教頭によれば「真面目で素直な生徒が多い」という本郷中学校。英検に合格した生徒が学習意欲を高め、自信をつけているだけでなく、そうした上級生の姿は、下級生にも良い影響を与えている。1年生は2年生を身近な目標とし、自分もそうなれるとの期待感を持って、意欲的に学習に取り組んでいるのだ。それは実際に結果として表れ、2009年度末の1年次修了時点で、英検3級取得者は130名となり、2年生の前年の結果を上回るまでになった。
「教員や保護者といった大人の言葉より、身近な先輩の言葉のほうに耳が傾くのでしょう」と佐久間先生。生徒どうしの学び合いは何よりの成長につながる。「私は日頃から担当クラスの生徒たちに、先生には質問するな、と言っています。先生に質問する前に、まずはクラスの友達に質問して、それでもわからなければ友達と2人で先生のところへ来なさい、と。自分の周りにいるのは敵ではなく、共に学ぶ仲間なのです。共に刺激し合って、共に成長していってほしいのです」
本郷中学校の英検への取り組みは、単に英語力や学習意欲を高めるだけのものではない。大学受験に向けた精神面での成長も見据えた取り組みでもあり、さらには、自ら考えて行動する人間を育てるという人間教育としての意味も併せ持つのだ。佐久間先生は言う。「生徒たちは大学受験でも、社会に出ても、“away”での戦いに直面します。そうした環境の中で、いかに勝負に挑んでいけるか。そのためにも、自分で考えて行動できる力を身につけて、社会へ出ていってほしい。そして社会に出たあとも、自分の足でしっかりと歩いていってほしいのです。私たちは生徒に対し、“歩き方を教える”のでなく、“導く”存在でありたいと考えています」
本当の意味での「自学自習」が実践されるようになってきた今、本郷中学校の教育はますます成果となってその形を表している。
英検チャレンジャーにインタビュー!
高校でも英検受験を継続
桜井勇輝さん
(インタビュー当時高2・準1級挑戦中)
高校でも英検受験を継続
中学のときに山形先生の授業を3年間受けました。先生から教わったように、英検は学校の勉強にも通じ、大学入試の練習にもなるので、高校生になってからも継続して受験しています。今回、4回目のチャレンジで、ようやく準1級の一次試験に合格できました。次回は二次試験の合格をめざします。卒業後は大学の工学系への進学を考えています。英語は得意科目の一つですが、大学を見学した際、理系でも海外の文献を読むのに英語力が必要だと聞き、得意な英語を生かしてがんばろうと思っています。
単語力アップの秘けつは、辞書を活用すること
矢野真隆さん
(インタビュー当時中2・2級取得)
単語力アップの秘けつは、辞書を活用すること
1年間かけて2級に挑戦してきました。第1回は不合格B、第2回は不合格A、そして第3回でやっと合格しました。その過程で単語力が不足していると気づき、英和辞書を眺めては目についた単語の意味を理解し、書いたり声に出したりして覚えました。その結果、英語の成績が伸び、合格できました。最近は「ハリー・ポッター」の原書を読めるようにがんばっています。次は準1級ですが、今はまだ難しそうなので、実力をつけてから挑戦します。
問題形式に慣れることが合格へのカギ
菅原 創さん
(インタビュー当時中1・準2級取得)
問題形式に慣れることが合格へのカギ
僕の英検チャレンジは小学生のときからです。2年生で5級、4年生で4級に合格し、その後は中学受験のため中断しましたが、本郷中に入学して再スタートしました。1学期に3級に、3学期は準2級に挑戦しました。準2級合格に向けては、問題集を解いて問題形式に慣れることに重点を置きました。友達も受験しているので合格しなければというプレッシャーもありましたが、合格したいとの強い気持ちで臨みました。将来、工業デザインの仕事をするために、留学をして視野を広げたいと思っています。
STEP英語情報 2010年7月・8月号 掲載