徳島県美馬市は、日本百名山の剣山や穴吹川、吉野川などの豊かな自然に囲まれた町で、英語の弁論で全国大会出場者を輩出するなど、英語教育に力を入れている。今回訪れた市立三島中学校は、全校生徒64名の小規模な学校ながら英検の受験率・合格率が高く、昨年度に続き今年度も3年生2名が英検2級に合格するという快挙を成し遂げている。同校の英語教育が効を奏した背景を尋ねるべく、取材に伺った。
1)英検の面接問題から学ぶ
「英検から学習効果の上げ方を学びました」と語るのは英語科の福田恵先生。自身も三島中学校の卒業生だ。「10年ほど前、3級の面接問題を見て、速攻で読む・聞く・話すなどができる力の育成を図れば効果的なのではと気づき、4技能の統合を目指した授業を始めました」と語る。福田先生が特に重視するのが、「英語で思考判断する」ことだ。「内容のある英語を話せるようになってほしいんです。英語で思考し、それを表現することで、脳が英語モードになる。そんな真の英語力が身につくような指導を心がけています」と言う。
授業では、スピーキングの大前提となる語彙や文法などの基本事項を重視し、積極的に辞書を引き、語彙を増やせるように指導している。そのうえで、教科書の基本文型をアレンジして会話練習をさせる。特に、ALTのRobin先生とのコミュニケーションは、生徒たちには新鮮で刺激的なようだ。生徒同士での英会話にも、恥ずかしがることなく一生懸命取り組んでいる姿が印象的だった。
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2)わかる喜びを感じてほしい
福田恵先生
「英検のために勉強する、というのは本末転倒だと思います。授業の延長線上に英検に対応できる力の養成を目指してはいます。本校のほとんどの生徒は塾に通っていません。ですから、授業と宿題、家庭学習でつけた自分の力がどこまで通じるのかを確認したり、自信をつけたりしてほしい。そういう思いで英検の受験を勧めています」と福田先生は話す。強制ではないのに自発的に継続して受験する生徒が多いという。受かればさらに上の級へと意欲が湧くし、不合格であっても「悔しい、次は絶対受かる!」と決意表明する生徒もいる。現在の3年生の2年生修了時の英検受験率は100%、合格率も8割に上る。さらに、今年度第1回検定の結果、3級以上の取得者は在籍者の95%を達成した。その3年生の姿を見て、1・2年生もあとに続けと、第2回検定に向けてのチャレンジ精神がみなぎっている。
英検の最大のメリットは、生徒が自分に合った級にチャレンジできることだという。「英語を楽しみながら、意欲を持って自主的に勉強してくれることが私の願いです。自分にとってのハードルを乗り越えることで、自信をつけることができます。そのために『ほめて伸ばす』指導を心がけています。英語を学ぶことは決して易しいことではありませんから、苦手な生徒には、まずは『できるよ、大丈夫!』と明るく励まします。そして、できたらほめます」と語る福田先生の夢は、「卒業までに3年生全員がもう1つ上の級の合格すること」である。「全員で合格を目指し、励まし合い喜びを分かち合いたいです。学校で学ぶということは、共に勉強する、共に生きるということ。互いを認め合い、支え合う中で生きる喜びを知る、それこそが学校教育の意義だと思います」と語る。
3)基礎力の高さが意欲につながる
藤田正治校長
意欲的に取り組む生徒たちの勤勉さは、英検だけに限らない。「本校の生徒は基礎力が高い」と語るのは藤田正治校長。「地域自体が落ち着いていますし、生徒が学習や部活動にしっかりと取り組める環境が整っています。『勉強は学校で教わる』『先生に従う』という基本的な姿勢があり、保護者・地域・学校・生徒間の信頼関係もできています」と言う。三島中学校では、国数英の3教科についてはTT(Team Teaching)体制を整え、生徒の力を伸ばし、学習をサポートするよう努めている。「本校はノーチャイムです。あたり前のことがあたり前にできることは難しいことですが、生徒は時間が来たら着席するし、遅刻もほとんどありません。みな礼儀正しく、思いやりがあり素直です」と語ってくれた。
確固とした基礎力のある三島中学校の生徒たちは、まさに校訓の「強く、正しく、美しく」を体現している。この素直さ、勤勉さ、そしてチャレンジ精神によって、さらに飛躍していくだろう。
英検チャレンジャーにインタビュー!
クリアできる達成感もあるし、自信もつきます
後藤章兵さん
(中3 /中2で3級取得)
クリアできる達成感もあるし、自信もつきます
福田先生に勧められて、中1のときに5級を受けました。一回で合格してうれしかったです。その後、4級、3級と挑戦しましたが、我ながらよく受かったなと思います(笑)。クリアできる達成感もあるし自信もつくので、英検は励みになります。英検対策では、学校の貸し出し用の問題集をやりました。放課後に福田先生が面接試験対策をしてくださったこともあります。将来の夢は電気工事系の仕事に就くことなので英語とは直接関係はありませんが、勉強はずっと続けていきたいです。
ニュージーランドへの留学体験で英語へのモチベーションもアップ!
住友晴香さん
(中3・2 級取得)
ニュージーランドへの留学体験で英語へのモチベーションもアップ!
自分の英語がどれくらい通用するか知りたくて、春休みに、ニュージーランドへ短期留学しました。自分の言いたいことを伝えるのは難しかったですが、もっと色々な人と仲良くなりたいと思い、英語学習のモチベーションも上がりました。英検受験も同じ理由からです。級を取得するごとに、「ここまで来た!」という達成感があります。福田先生が「完璧にできなくても、今の力なら大丈夫よ」と言ってくださったのがとてもうれしく、自信もつきました。英語の先生になるという夢に向かってこれからもがんばりたいです。
菅正隆先生の授業ルポ 生徒が主役の授業が生徒を育てる
大阪樟蔭女子大学 教授 菅 正隆
次のような言葉をよく耳にする。「あの学校は生徒が少ないから手厚い指導ができ、学力も上がる」、また、学力テスト上位の秋田県、福井県に対しては、「子どもは素直で、人数も少ないので学力が上がる」と。本当にそうだろうか。では、少人数クラスであれば確実に学力が上がるのだろうか。これはまさに、教員の逃げの言葉としか聞こえない。ここで取り上げている三島中学校も小規模校である。このような学校はすべて学力を向上させているのだろうか。
福田先生の授業は決して特別なものではない。生徒を中心とした授業を展開しているに過ぎない。生徒が思わず言いたくなるような誘いの言葉、生徒が思わず聴きたくなるような内容を投げかけているだけである。主役は常に生徒。実はここが極意なのかもしれない。先生は目立たず、常に生徒の目線で黒子に徹する。このことが生徒との信頼関係を築き、積極的に授業や英検受験に向かわせているのだろう。また、指導は4技能の統合を意識して組み立てられている。相手の話を聴きながら自分の考えを言い、同時に英文に書き留めながら相手の英文も目で追う。この普段の取り組みが英語への抵抗感を無くし、自ら英語を学びたいと思う子どもたちを育てているのではないだろうか。しかし、決して福田先生の指導力のみによるものではないだろう。地域の積極的な関わり、先生方の不断の努力、これらの地域力・学校力が生徒の学びへの姿勢、そして、英語力に多大な影響を及ぼしているように思う。帰りがけ、生徒たちが深々と頭を下げ挨拶をしてくれた。あの清々しい目の輝きを今も忘れない。
STEP英語情報 2010年9月・10月号 掲載