自ら発見し、学び、判断・実行するための
火種を与える
大正7年(1918年)に大阪府立第11中学校(旧制中学校)として創立された当初から現在まで、“自由と創造”の精神を脈々と受け継いできた大阪府立高津高等学校。自由な校風の進学校として知られる同校の新たな取り組みについて、尾上良宏校長と22年度の2年生を受け持つ英語科の3名の先生方にお話を伺った。
1)生徒の心に自発性の火を灯す
尾上良宏校長
学校へ一歩足を踏み入れると、自由な服装で行き来する生徒たちが元気に挨拶をしてくれた。高津高校では基本的に生徒の自主性に任せた指導方針をとっており、指定された制服はない。「初代校長の提唱した“自由と創造”の自由とは、主体的に判断・決断・行動し、結果に責任を負ってこそ自由であるということ。そして創造とは、客観的に物事を捉え、分析・評価し、オリジナリティを持って改革せよということです。第2代校長の“日新日進”という校是と併せて、生徒たちには折りに触れてこの精神を伝えています」と尾上校長は語る。
高津高校が目指すのは、家庭や地域のリーダーとして社会に貢献し、“大阪”を担う人材の育成だ。「内なる国際化の進んでいる大阪で通用すれば、世界中どこでも活躍できると思っています。そんな人材になるためには、知識だけでは足りません。知識+α、つまり、自主性や積極性が必要なのです。生徒たちには、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら判断・実行していく、そのための火種となるものを作ってやりたいと考えています」と尾上校長は語ってくれた。
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2)達成感を得られる中間目標を設定する
松下信之先生
その火種の一つとして、高津高校は昨秋、新たな取り組みを試みた。2年生全員に英検2級の受験を呼びかけ、その結果、248名(357名中)が、英検2級を受験したのだ(2010年度第2回検定)。英語科の松下信之先生に実施の経緯を伺った。
「私たちは普段から、生徒たちに“できる実感”を味わわせることを意識して授業を組み立てています。小さな達成感を得られる中間目標を設定し、ハードルを一つひとつ越えていくイメージですね。そのハードルの一つとして、英検2級という明確なレベルを提示したのです。英検は二次面接試験でスピーキング力も試せるので、普段の授業のアウトプットの成果を実感するための良い機会になるという思いもありました。ですから、日常の授業の中で、英検受験のための対策は特にはしませんでした」
実施前の昨年9月には、(財)日本英語検定協会の講師派遣制度を利用し、大阪樟蔭女子大学の菅正隆教授を講師として招き、英語学習の意義や勉強法についての講演会が開かれた。当初は受け身だった生徒たちにも、徐々に緊張感が生まれたという。「高2の秋頃は中だるみしやすい時期なので、生徒の気持ちを引き締める目的もありました。生徒はなかなか自分からチャレンジしないんですよね…。でも背中を押してあげると、受けるからには受かりたいと、目標に向かって努力するんです。私たち教師としては、そういう場を設けて後押ししてあげることが大切だと改めて感じました」と松下先生は話す。
3)約70名の生徒が自主的に英検を受験
田中良幸先生
野田玲子先生
248名による受験の結果、3分の1以上にあたる92名が2級に合格した。田中良幸先生は、「合格した生徒はモチベーションが上がったでしょうが、不合格だった生徒も、悔しい、再チャレンジしたいという思いを持ったようです。大切なのはプロセスなんですよね。ですから、私たち教師は、生徒がものごとに取り組まないときは、その姿勢を注意しますが、できないことを責めるということはしません。できなければ次にどうすべきかを考えればいいんです」と語る。
そんな先生方の思いは、生徒たちにも届いたようだ。第3回検定については特に受験の呼びかけをしなかったにもかかわらず、なんと約70名もの生徒が自分の意思で英検に挑戦したのだ。野田玲子先生は、「正直、びっくりしましたね。今回の受験者には、前回、受験できなかった生徒だけでなく、不合格で再チャレンジした生徒もいれば、2級に合格してさらに上を目指して準1級を受けた生徒もいました。みんな強くなったな、と感じました」と、驚きと喜びを隠せない様子だ。
4)全員が一つのことに取り組むことの意義
先生方によると「言えば素直に聞き入れ、取り入れることのできる生徒」という高津高生だが、その素地は入学当初の徹底的な指導によって形成されるのだ。110を超える中学校から高津高校に集まってきた生徒に対して、高校での勉強や家庭学習、そして音読学習の方法まで、自主性が身につくよう熱心に指導を行うのだ。課題をやってこない生徒に対しては、その理由や原因を見つけて一緒に解決策を考え、放課後に補習を行うという。
「私たち3人の教員はもちろん三者三様ですが、とにかく頻繁に話し合って方針がブレないようにしています。みんなが同じ方向を向いてがんばることで、生徒からの信頼も得られると思っています。今回の英検受験もそうですが、生徒も教師も全員が一つのことに取り組むことの意義は大きいですよね」と松下先生。高津高校では習熟度別の授業は行っていないが、田中良幸先生はその理由をこう語る。「例えば、英語が苦手な生徒が間違ったら、それは得意な生徒にとっても気づきのチャンス。いい刺激になるんです。ミスは恥ずかしいことじゃない、みんなで学ぼうという雰囲気が生まれ、連鎖的にクラス内にプラスの化学反応が起こるんですよね」
高津高校の英検2級の受験という新しい取り組みは、生徒にとってまさに“火種”となったようだ。学びへのモチベーションに火がついた生徒たちは、今年、大学受験という新たな至難に立ち向かう。そんな高津高生の更なる活躍に期待したい。
英検チャレンジャーにインタビュー!
海外で刺激を受けてモチベーションアップ!
櫻勇人さん
(高2・準1級挑戦中)
海外で刺激を受けてモチベーションアップ!
僕はスーパーサイエンスハイスクールの研修でオランダとカナダに行ったのですが、そこで文化の違いなど本当に色々な刺激を受けました。英語については、慣れてくるとなんとかなると感じつつも、伝わらないもどかしさも痛感し、英語の勉強へのモチベーションがぐんと上がりました。英検2級合格で弾みがついたので、現在は準1級にチャレンジ中です。理系の研究者になるという夢に向かって、英語の勉強も理科の勉強もがんばろうと思います。
予想外にうれしかった英検2級合格
村上雅哉さん
(高2・2級合格)
予想外にうれしかった英検2級合格
もともと英語は好きで勉強への抵抗はなかったのですが、学年で英検2級を受験すると聞いたときには、正直面倒だなって思いました。でも合格できて、すごくうれしかったです。僕は学校の課題をきちんとこなせば力がつくと考えているので、塾などには通っていません。どこでどんな仕事をするにせよ英語力は必須だし、英語が使えてあたり前の時代になると思うので、しっかり勉強を続けようと思います。
短編集や映画を通して英語を楽しむ
糀谷友里さん
(高2・2級合格)
短編集や映画を通して英語を楽しむ
私にとって英語は、「勉強するもの」というよりも「楽しむもの」という感じです。さらっと読める英語の短編集を読んだり、好きな映画を英語字幕で観たりと、普段から楽しみながら英語に触れています。英検2級を受けたときにも、対策は特にしませんでした。海外の文化などに興味があるので、大学では外国語学部に進み、カナダやオーストラリアに留学したり、海外旅行に行ってみたりしたいと思っています。
STEP英語情報 2011年3月・4月号 掲載