自分の思いを伝える力を培い、
世界で活躍できる人材を育成
「気高」の愛称で地域の人々に親しまれている宮城県気仙沼高等学校。それぞれが長い歴史を持つ男子校の気仙沼高等学校と、女子校の鼎が浦(かなえがうら)高等学校の2校が再編統合して、2005年に開校した共学校だ。未曾有の震災から1年半が経ち、生徒たちは今、自分たちが復興の力になろうと意識を高め、日々、学業に、部活動にと打ち込んでいる。同校が育成したい生徒像と目指す教育、そして生徒たちの現状を取材した。
地域のために、世界を舞台に活躍できる人を育てたい
庄子英利校長
宮城県北端に位置する気仙沼市。太平洋に面した沿岸域は、変化に富んだリアス式海岸を形成し、大島を抱く気仙沼湾は四季静穏な天然の良港だ。だが、昨春の東日本大震災が状況を一変させた。押し寄せる津波に飲み込まれ、火事によって焼き尽くされた町は、前日までの町とはまったく別の光景だった。
あの日から1年半が経ち、気仙沼の町は少しずつ活気を取り戻している。至るところに積まれた瓦礫(がれき)の山は片づけられ、商店は仮店舗で営業を再開し始めた。震災による大きな被害はなかった気仙沼高校だが、震災直後は避難所生活を余儀なくされた生徒たちも少なくなかった。
「震災直後でも、生徒たちは明るく振る舞っていたものでした。家庭では大変な思いをしていたはずですが、学校では、そんな素振りは一切見せず、何事にも一生懸命に取り組んでいました」と語るのは庄子英利校長だ。生徒たちには、「高校卒業後、一度は町を出ても、いつか故郷である気仙沼へ戻り、地域のために自分の持てる力を発揮できる人になってほしい」と願っている。
7年前に再編統合して新生・気仙沼高校として出発した同校は、統合前の各校が持っていた良さを教育の基盤として発展していくことを目指した。「1+1=2」以上の学校になれるようにと、学業はもちろん、学校行事も、部活動も、様々な場面で生徒たちの活躍を教職員と保護者が一体となり、応援している。生徒の活躍ぶりは目覚しく、伝統あるフェンシング部、軟式野球部は全国レベルの実力を誇り、文化部も全国高校総合文化祭などに参加している。学校行事では生徒会を中心に、運動祭や文化祭(気高祭)、球技大会、合唱コンクールなど、大きな盛り上がりを見せている。
庄子校長は「港町である気仙沼は、海外との交流なくしては町の経済が成り立ちません。そのため、地域全体として海外へ目が向いています。そうした意識を教育の場にも生かし、市内の小中学校はすべてユネスコスクールに加盟し、国際理解教育に力を入れています。本校も鼎が浦高校からの伝統を受け継ぎ、国際理解教育を推進してきました。本校での学びを通じて、世界を舞台に活躍できる人材に育ってほしいものです」と話す。
次を見るopen
震災の経験を糧に力強く歩き始めた生徒たち
震災後、同校へも全国各地から様々な支援が寄せられた。なかでも、海外への短期留学の機会が企業や団体などから提供され、今年の夏、同校では26名がアメリカやカナダ、ベルギーなどへ2~3週間の短期留学を経験したという。ホームステイをしながら現地の同世代と交流したり、ボランティア活動に参加したりするなどのプログラムが組まれた。庄子校長によれば、参加した生徒たちは、世界の人々へ感謝の気持ちを自分の言葉で伝え、心を通わせるという貴重な機会を得たことを喜ぶと同時に、「もっとコミュニケーション能力をつけたい」と英語学習への意欲を高めて帰国したそうだ。
今年9月に校内で開催されたスピーチコンテストでは、そうした海外での経験を通じて感じたことや、自身の成長について語る生徒もいた。震災というつらい経験をしながらも、それを糧にして乗り越えていこうとする生徒たちの芯の強さが感じられるスピーチが披露された。
「スピーチコンテストの出場者は、全員が流ちょうな英語で発表したわけではありませんが、自分の考えを伝えようとする一生懸命な気持ちが前面に出た、良いスピーチばかりでした。そのなかでも、上位入賞を果たした生徒は、総合的に英語力がついており、英検でも上位級に合格しています。英検は自分の英語力がどれだけついたかを測ることができ、英語学習の上でのよい目標になるものです。生徒には単なる資格試験とは捉えずに、モチベーションの向上に役立ててほしいと思います」と庄子校長は話した。
コミュニカティブな授業で総合的な力が培われる
寺田信也先生
来年度から実施される新学習指導要領に向けて、同校でも「英語で授業を行う」ための準備を着々と進めている。英語科の寺田信也先生は「少しでも生徒が英語を話す時間を多く持てるようにと考え、指示は英語で、生徒が主体となって活動する指導を心がけています。生徒が英語を話す雰囲気をいかに作ることができるかがポイントになるでしょうね」と話す。
コミュニカティブな英語の授業で、大学入試に直結する英語力の低下を懸念する声もあるが、4技能を統合した授業を行うことで、英語力は総合的に伸びていくとも言われる。
「英語を聞いて、話せるようになれば、読む力や書く力も結果的につくのではないでしょうか。そうして総合的に学ぶことが、大学受験にも通用する力につながると思います」と庄子校長。現役で大学に合格する力をいかにつけるかを念頭に置いて、「英語力をつけることはもちろん、同時に国語力を伸ばすことが重要だと考えています。いくら英語の力があっても、国語の力がなければ、最終的に英語を『言葉』として使うことができませんから」と国語力の重要性について強調する。また、理系分野においても英語力が必要であることを説き、「研究者の間では、英語力があることが、これからの活躍の条件になってきているという現状があります。理系を目指す生徒にも、英語力をつけていってほしいですね」と話した。
今、気仙沼の町では、働き盛りの若い世代が町を出てしまっている。そうした現状を目の当たりにして育ちながらも、震災を受けて故郷への思いを強くした同校の生徒たちは、「大学を卒業したら気仙沼に戻ってきて、町のために働きたい」と口を揃えるという。「高校を卒業して地元で市職員となる生徒たちと、大学進学で一度は町を出て卒業後に戻ってくる生徒たちが、いつか共に手を取り合い、この町の復興のために力を注いでくれる日が来ることを待ち望んでいます」。未来の気仙沼に思いをはせ、庄子校長は力強く語った。
英検チャレンジャーにインタビュー!
自分の意見を伝える力の重要さをニューヨーク訪問で感じました
飯味千秋さん
(2年生・2級合格)
自分の意見を伝える力の重要さをニューヨーク訪問で感じました
今年3月、東京のNPO法人提供のプログラムでニューヨークを訪れ、現地の中高一貫校で、授業や課外活動に参加しました。ディベートやディスカッション形式の授業では、現地の生徒はしっかりと自分の意見を発言しているのに、私は何も発言できず不甲斐なさを感じました。苦しい状況を乗り越えて進もうとしている私たちの姿を伝えたいという気持ちと、震災支援への感謝の気持ちを込めてスピーチをする機会もいただきましたが、英語を話すことの難しさを感じると同時に、もっと話す力をつけたいと意欲が湧きました。私の夢は中学校の英語教師になること。英語嫌いの生徒を作らない指導がしたいと思います。そのためにも、これからも英語を学び続けます。
ヨーロッパで美術鑑賞する日を夢見て、がんばります
加藤裕佳さん
(2年生・準2級合格)
ヨーロッパで美術鑑賞する日を夢見て、がんばります
小学校では「聞く・話す」が中心だった英語が、中学生になって「読む・書く」中心となり、難しさを感じるようになっていました。高校生になってからは、単語や文法を中心に家庭学習を進めています。単語は発音記号を辞書で調べてから、何度か声に出し、動詞などの関連語句も一緒に覚え、文法は文型をノートに書き出し、テスト前などに確認しています。そうして力がついたのか、英検準2級に合格できました。今年は2級に挑戦します。いつかヨーロッパに行き、美術館や歴史的建造物を見て回るのが夢です。その日のためにも、これからも英語の勉強をがんばります。
STEP英語情報 2012年11月・12月号 掲載