東北地方公立校初の中等教育学校が挑む
「知性・感性・意志」をはぐくむ教育
仙台市立仙台青陵中等教育学校
2014.04.30
2009年に開設された、東北地方の公立校では初となる中高一貫教育校が市立の仙台青陵中等教育学校だ。仙台駅から北西に約5キロの緑豊かな高台に、かつての仙台女子商業高等学校のそれを改修した校舎は、新設校らしからぬ落ち着いたたたずまいが印象的だ。同校が掲げる、「知性・感性・意志」を兼ね備えた人間育成の一環として進められる英語教育についてお話を伺った。
地域初の中高一貫教育校として
かつて宮城県には、男子校である仙台一高、二高、三高、女子校である宮城一女高、二女高、三女高など、いわゆるナンバースクールと呼ばれる公立の伝統進学校があり、長らく地域の高等学校教育の中核を担ってきた。そうした伝統を背景に、県教育委員会では多くの議論を重ねながら、2010年に共学化を達成すると共に、時代に適応した新学科の設置や単位制高校の設置など、数々の施策を推し進めてきた。仙台市教育委員会もこの流れを受け、市立学校の再編の一環として、市立中高一貫教育校の設置を進めた。
今回取材に伺った仙台市立仙台青陵中等教育学校は、そうした背景の中で誕生した東北地方で最初の公立中等教育学校だ。2009年の開校以来、3年間に限って行われた後期課程(高校3年間に相当)の募集も2011年春に完了し、6学年すべての生徒が充足、いよいよ本当のスタートを切った年度の終わりに近いタイミングでの取材となった。
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「知性・感性・意志」を兼ね備えた人間へ
渡辺尚人校長
現在、全国の自治体で中高一貫教育校の設置が進められているが、その多くが「社会のリーダーとなる人材の育成」を掲げ、ともすればエリート教育に傾倒しがちであるとも言われている。そんな中、同校が打ち出す教育方針はユニークなものと言えそうだ。渡辺尚人校長はこう語る。
「地域初の公立中高一貫教育校として、本校には大きな期待が寄せられています。その中には当然、進学実績といった意味での期待があることも承知しています。ですが、それだけが目的化してはいけないというのが本校の考え方です。ではどんな教育を行うのか。中心に据えているのは『知性・感性・意志』を共に引き出し、育てることです。テストでの得点といった狭い意味での学力向上しか見ない教育では、自分の意志で学ぶ力、社会に出て人生を歩んでいく力をつけることはできないと考えるからです」
選別や淘汰(とうた)ではなく、個を尊重しはぐくむ教育への志向。渡辺校長はさらにこう続ける。
「本校では中高の6年間を、根付く、伸びる、花開く、という3期になぞらえて教育を進めていきます。またその過程では、生徒一人ひとりを大切に、それぞれの個性を最大限に引き出すことを目指しています。生徒の学びを植物の成長に例えていることからもおわかりのように、そこでは土台となる『土づくり』が何より大切です。先にお話した知性・感性・意志をバランスよく育てていくことが、その土にあたるのではないでしょうか」
コミュニケーションツールを超えて
糸谷俊哉先生
ここで同校の英語教育について、英語科担当の糸谷俊哉先生に伺った。
「本校の英語教育も、当然ですが校長の話にあった教育方針に沿って行われています。その中では言葉というものを、コミュニケーションの道具であると同時に、論理的な思考を行う上でも大切なものだと位置づけています。そうした発想で設けられているのが、言葉を意識的に論理的な思考や表現に結びつけていくトレーニングを行う『ことばと論理』の時間です。この時間自体は英語を念頭に置いたものではありませんが、考え方は共通しています。そこで、母国語でない英語もそのようなレベルで使えるものにしたいという意味も含めて、本校では通常の中学・高校に比べて、それぞれ2~3割増しの授業時数となっています」目指す学びの質が、その量を規定する。それが同校の英語教育の根底にある考え方だ。
「一方、授業として特徴的なのは『AET(All English Time)』でしょうか。これは通常の英語授業とは別に、生徒たちが自ら話し合ってスキットを作り、演じるなど、『読む・聞く・書く・話す』という4つの力を統合的に生かしてコミュニケーションする能力を高めることを目的とした時間です」と糸谷先生。この授業では、同校に常駐する2名のALTのほか、前期課程と後期課程の先生が一体となって指導にあたっているが、その内容も各先生がそれぞれの得意領域を生かして、音楽や映画を素材に取り入れたり、暗唱によって英語のリズムを身につけることを目指したりと、非常に多彩なものになっている。「大学入試に向けた単なる受験英語なら、こうした授業をする必然性は低いのかもしれませんが、本校の英語教育では、それが知性や感性につながっていくような英語力の習得を目指しています。その意味で、より生きたコミュニケーションの場を意識したAETの時間はとても大切なものです」と糸谷先生は語る。
「英検の受験も、そうした幅広い英語力、コミュニケーション力のために有効だと考えています。そこで本校を準会場とすると共に、生徒たちには英検を自分自身で英語を学ぶ上での目標として、あるいは現時点の力を測る指標として役立つものだと伝えています」。そして英検を受験する生徒に対しては二次面接指導などのほか、質問や疑問点があれば日本人教師やALTに気軽に尋ねることのできる環境も提供している。
中高一貫教育校だからこそできる学びを
このほかにも同校では、基礎的な英語力の底上げのため入学初年度に実施される英語集中講座や、文化理解・他者理解を深めることを目的に、今年度は2年生が3回、3年生は2回、地元の(財)仙台国際交流協会から講師(留学生他)を派遣してもらい、交流する授業が展開されている。また3年次には、研修旅行として大分県別府市に出向き、世界80か国から学生が集まる立命館アジア太平洋大学で海外からの留学生とのディスカッションを通じた体験学習を、5年次(高2)では、北米などへの海外修学旅行が設定されるなど、単なる知識に終わらない生きた英語に触れ、その力を養うための手立てが豊富に、しかも体系的に用意されている。これらはまさしく中高一貫教育校ならではの、6年間という長いスパンで教育を考えられることの強みが最大限に生かされたカリキュラムと言えるだろう。
「仙台青陵に来てよかったなと思うのは、先生から教えられる授業より自分たちで考える授業が多くて楽しいから」。異口同音にそう答えてくれた生徒たちの笑顔が、初めての収穫の時を迎えようとしている同校の教育の大きな実りを予感させてくれた。
英検チャレンジャーにインタビュー!
外国で暮らし、そこの文化を深く知りたい
早坂圭太さん
(中3・2級取得)
外国で暮らし、そこの文化を深く知りたい
英語を始めたのは、幼稚園の頃の英会話教室からです。小さい頃ですから自分の意志で始めたわけではなく、また外国人の先生に話しかけられるのが怖かった思い出があります。けれど次第に慣れてきて、英語で話しかけられることに抵抗はなくなっていきました。仙台青陵に入学し、最初はAETの時間などで少し戸惑いがありましたが、少しずつ確実にわかることが増えていくに従って、楽しさも増していきました。
外国の人の生活や考え方をよく理解したいので、将来はできれば外国に住んでみたいです。そのためにも、自分の力を試す英検への挑戦は続けていきたいですね。
人を支える仕事に就きたい
青木翔太郎さん
(中3・準2級取得)
人を支える仕事に就きたい
英語は世界中で使われている言葉なので、身につければ多くの人と交流できるようになると思います。僕が英語の勉強を始めたのは、小学校のときの外国語活動を除いては仙台青陵に入学してからですが、勉強すればするほど、わかる言葉が増えていくのがとても楽しいです。今では英語弁論大会に参加したり、スキットづくりに挑戦したりして、自分の思いを英文にすることを通じて英語の語彙を増やしています。
東日本大震災があって、人と人の絆について考えるようになりました。僕も将来は人を支えられるような仕事に就きたいと思っています。それに英語が直接結びつくかどうかはわかりませんが、これからも英語の勉強を続け、その力試しとして英検にチャレンジしていきたいです。
STEP英語情報 2012年3月・4月号 掲載