中国山地の緑豊かな高原に位置する広島新庄中学校・高等学校は、生徒一人ひとりの個性を尊重する教育により、日本や世界の平和・文化に貢献する有為な人材育成を教育目標に掲げる。地域の有志によって1909(明治42)年に設立され、地域の人たちに支えられながらその歴史を刻んできた同校は、現代においてはどのような教育を行っているのか。英語教育と国際交流をテーマに、田村亮介教頭と英語科主任の山田眞介先生に話を伺った。
自ら道を切り拓く力をつける6年間
生徒と教員が強い関わりを持つ家庭的な雰囲気のなかで、広島新庄の学校生活は営まれている。徹底的に個人に関わる愛情豊かな指導を通じて、教員は生徒一人ひとりの個性を見極め、伸ばすことを心がけているという。中高一貫教育の良さを生かして、同校では6年間を2学年ずつに区切り、成長過程に応じた3つのステップによるカリキュラムを組んでいる。そうすることにより、従来は学年で分断されていた各教科の学習を並列・継続させ、系統に連続性を持った指導を行うことができるのだという。
まず「土台形成」の時期である中学1・2年次は、自分の将来の夢や目標について新入生合宿で発表し合うことからスタートする。そして、学校生活での様々な経験により、幅広い視野を身につける。続く「実力充実」の時期にあたる中学3年・高校1年次には、読解力や表現力を高め、進路の実現に必要な基礎学力をしっかりと身につける。最後に「進路実現」の時期となる高校2・3年次は、進路を深く追求し、基礎学力の充実とともに、受験に必要な演習も行う。こうした6年間の一貫教育により、生徒たちは自ら道を切り開き、自ら選んだ進路を歩むことができるのだ。
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同じ時代を生きる同世代の現状を知る
田村亮介教頭
なかでも、中高を通して、英語教育には力を注いでいる。公立のほぼ2倍にあたる授業時数を確保するだけでなく、基礎・基本を定着させるための課題や小テスト、補充授業なども取り入れている。国際交流活動にも重点が置かれ、18年前より行っているバングラデシュのボラボ・アイデアル小学校への訪問交流および支援活動は、同校の伝統でもある。中高の生徒会を中心に学校行事を通じて募金活動を行い、集まった援助金を持って現地を訪れるのだが、生徒会代表の生徒2名と中学3年以上の生徒を対象に参加希望者を募り、選抜された生徒が渡航するものだ。渡航に際しては、学校の代表者ということで、校内に置かれる「新庄学園国際文化交流基金」から渡航費の補助をしているそうだ。田村教頭は、「身の回りに物があふれる環境下で生活している生徒たちは、アジア最貧国と言われるバングラデシュを訪れ、同じ時代を生きているにもかかわらず、自分たちとはまったく違った環境で生活をしている人々がいるという現実を目の当たりにします。それまで持っていた価値観が大きく揺さぶられ、進路が変わった生徒もいるほどです。過去には、バングラデシュを訪れたことで、JICAの仕事に興味を持ち、国際関係や国際法などを学べる大学へ進学したいと、明確な目的意識を抱いた生徒もいました」と、活動がもたらす意味を述べる。地域のため、社会のために貢献する人物を育てたい、という同校の願いが表れる活動の一つだろう。また、台湾との交流の準備も進んでいる。地元で起業し、台湾に工場を開設した卒業生のサポートのもと、単なる人的交流に留まらず、科学教育の側面で、現地の教育機関との共同実験や研究を進める予定だ。さらに、イギリスの中高一貫校と姉妹校提携を結び、現在、webを通じた交流の環境整備も進めている。山間にある学校ながらも、常に世界へ視線は向いており、世界の同世代とともに学び合い、刺激し合う環境が用意されているのだ。
英検受験で進路を広げる
山田眞介先生
各種検定試験も積極的に受験している。なかでも、英検は41年にわたり地区の公開会場としても取り組んでいるが、中学生には、授業で英検の内容を取り入れた指導を行い、全学年に、そして高校生には、1・2年生全員に受験させている。あえて学年による目標級は設定をしていないが、それは、生徒自身の向上心を大切にしているからだという。山田先生は英検の効果について、次のように語る。「英検の級設定は、中高の学習到達段階とちょうど合致し、中学1年生から段階的にステップアップしながら受験できるのがいいですね。本校でも、3級から準1級まで、生徒が各自の実力に応じて受験していますが、生徒には大学受験の際に優遇措置があるという直接的なメリットも響くようです。それだけではありません。英検は資格として有効期限がないので、一度取得すれば生涯、英語力の証明になります。また最近では、海外の大学へ留学する際にも英語力の証明となり、世界的に通用する資格です。生徒たちにとって、英検の取得が進路選択の視野を広げるきっかけになりましたね」
同校で6年間すごし、英語教育や国際交流の活動などを通じて身につけてほしい力は何だろうか。山田先生に尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。「生徒たちには、人の生命を大切にする人に育ってほしいですね。英語という言語は世界のどこで生きるにも、コミュニケーションのツールとして必要であり、それを使いこなせることで、世界のどこでも、誰とでもうまくやっていけることにつながると思うのです。言語が原因のコミュニケーション不足から、誤解が生じることで相互理解を妨げてほしくないのです。単に受験に合格するための英語力だけではなく、本校で英語を学ぶことで、世界中のどこででも生き抜いていく力を身につけてもらえたらうれしいですね」
地域社会の人材育成を目的として、地域の有志によって設立された広島新庄中学校・高等学校。長きにわたって受け継がれてきたその思いを、教員たちは今も大切に受け止め、生徒の輝く未来を築くために情熱を注いでいる。そして、この学び舎で育った生徒たちは、自らの手で夢をつかみ、地域のために、世界のために貢献しようとする気持ちを抱いて、社会へ巣立っている。校舎に足を踏み入れたときの心温まるような空気は、そうした思いが根づいていることからにじみ出てくるのに違いない。
英検チャレンジャーにインタビュー!
いつか世界で活躍するために発進力を高めていきたい
新見雅志さん
(中学2年・2級合格)
いつか世界で活躍するために発進力を高めていきたい
英語との出会いは小学校1年生でした。英会話教室で、外国人の先生と会話して英語が通じるのがうれしくて通い続けました。本格的に英語と向き合うようになったのは小学5年生からです。その年、英検5級に合格しました。6年生では4級に合格し、中学に入学して、すぐに3級と準2級をダブル受験して合格。中学1年の終わりには、2級にも合格できました。今は準1級を目指して勉強中で、最終目標は1級に合格することです。中学に入り、英文日記を書くことを日課にしています。山田先生が丁寧(ていねい)に添削し、表現の間違いや、よりよい表現を教えてくださいます。1年半続けて、自分でもずいぶん書く力がついたことを感じます。僕たちがこれから生きていく社会では、英語の力は不可欠です。だからこそ、英語で話したり、書いたりできる発信力を高めていきたいと思います。
STEP英語情報 2013年1月・2月号 掲載