少人数での徹底した言語活動で、
世界に羽ばたく生徒を育成
大阪府内の公立高校で初めて英語科を設置し、全国でも唯一の国語科を擁する大阪市立南高等学校は、1学年4クラスの小規模校だ。一人ひとりの顔が見えるきめ細かな指導を通じて、言語に特化した授業を展開している。過去に英検の成績優秀団体として複数回表彰された実績もある。同校を訪ね、英語教育の特色や英検への取り組みを取材した。
グローバル人材に重要な国語力の育成
澤井宏幸校長
グローバル人材育成の重要性が叫ばれる昨今だが、大阪市立南高等学校では、時代を先駆けた教育を通じて、世界に羽ばたく人材を育ててきた。「時代が今、ようやく本校に追いついてきた」と語る澤井宏幸校長は、グローバル人材の定義についてこう考える。「果たして『グローバル人材イコール英語が使える人』でしょうか。英語はコミュニケーションを図るツールです。話せることは最低条件ですが、内容のある英語を話さなければ、真のコミュニケーションは取れません」
そこで重要になるのが「国語力」だと澤井校長は強調する。読解力や表現力、論理的思考力を育み、日本の歴史や文化、伝統を知り、日本人として豊かな情緒を培うことがグローバル人材の育成に必要不可欠だと考えるためだ。そして「国語力はすべての基礎となる」とし、「国語力は国語の授業だけで育むものではなく、すべての教科、学校の教育活動などあらゆる場面で育むものであって、豊かな教養と人間性を備えた人材こそがグローバル人材です」と述べた。
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少人数授業で4技能をバランスよく高める
ALTとJTEで行う10人1グループの授業風景
同校では、英語科でも国語科でも、言語活動に重点を置き、自分の頭で考え、自分の言葉で表現したり、意見を述べたりする活動を取り入れている。英語科では、生徒が英語を使う機会を多く創出するため、週2回の英会話の授業は1クラスを4分割し、10人ずつのグループごとに教室を分けて行う。クラスルームイングリッシュに始まり、徐々に使う英語のレベルも高め、学年を追うごとにディスカッションやディベートができるような力をつけていく。また、異文化理解や時事英語といった授業は、教科書のないオールイングリッシュで行っている。20人1グループで、世界の文化や出来事を学び、視野を広げていく。
今年度から英語の授業を「英語で」行うことが新学習指導要領で定められているが、同校ではすでに26年前から、そうした教育が伝統として受け継がれてきた。伊佐達輝先生は、英語で授業を行うには人数が鍵となると実感している。10人1グループでの英会話の授業や、20人1グループでの実践的な授業では、どの授業にも「間違えてもいいから発言しよう」という空気が漂う。さらに、ペア・ワークやグループ・ディスカッションといった生徒が英語を使う活動を取り入れたり、個別に書いたエッセイをスピーチ原稿に仕上げて発表したりといった活動にも取り組む。授業中は「読む・聞く・話す・書く」の4技能を統合的に活用しながら、英語力をバランスよく高め、表現力を培う。海外研修のあとには、研修報告書をA4用紙1枚程度の英文にまとめ、画用紙に研修中の写真をコラージュして内容をプレゼンテーションする場も設けている。
英語に触れる機会をふんだんに用意
姉妹校訪問団と茶道を通じての交流
ALT8名の前でスピーチ・プレゼンテーション
同校では、授業以外にも英語に触れる機会が多く用意されている。1年次の夏季休暇中に2泊4日で開催される「イングリッシュセミナー」も、英語でのコミュニケーション能力を高める絶好の場だ。授業中はもちろん、授業以外の時間も英語を使用し、日本語は厳禁の日々を過ごす。8人のALTと10人のJTEが参加し、1グループ10人でコミュニケーション中心の授業を行う。1年生にとっては入学後初めての大きな行事で、毎年、英語力が飛躍的に高まっている。
また、姉妹校提携をしているアメリカ・アイオワ州のアーバンデール高校とオーストラリア・ビクトリア州のマウントウェーバリー高校への研修旅行が毎年交互に実施され、英語科の生徒80人全員が参加する。現地滞在中は、姉妹校の生徒宅にホームステイするため、異文化交流をしながら、日頃の授業で身につけてきた英語力を実践する機会となっている。毎年、姉妹校から訪問団が来るときには、ホームステイバンクに登録した生徒宅に姉妹校の生徒たちがホームステイをする。また、毎年姉妹校から交換留学生も受け入れており、南高校から留学が決まった生徒宅に2~3カ月間滞在しながら学校に通う。
国際交流部長の武田佐智子先生は「姉妹校訪問団の生徒は、文化祭や体育祭といった学校行事をはじめ、部活動を通じて茶道や華道、箏曲などの日本文化を体験します。生徒たちは進んで訪問団の生徒と交流しています。例えば、国語科の生徒は書道の時間に文字の書き方などを英語で説明する体験に刺激を受け、英語や国際交流に興味を持つきっかけとなっています」とうれしそうに話す。
さらに、校内スピーチコンテストでは1年生がレシテーション、2年生が弁論に挑戦。毎年、出場希望者が多いため、予選を経て選出された代表10名が出場している。さらに上位入賞者は大阪府で開催されるコンテストに出場し、毎年優秀な成績を収めている。
海外留学を目指す大阪府内の高校生を対象とした、大阪府国際交流財団と大阪府が募集する「おおさかグローバル塾」へ応募する生徒も多く、今年度は夏季休暇中に英国に2名、米国に5名が短期留学を経験した。
丁寧な指導で英検合格へ導く
このようにして身につけた英語力をどのように評価するのか。定期テストでは、筆記テストだけでなくインタビューテストも取り入れ、その場で与えたトピックについて生徒が自らの考えを述べる。授業やインタビューテストでの関心・意欲・態度も評価の対象とし、それらの合計点によって、学期ごとにクラスを入れ替える。
英検も積極的に活用し、授業中には二次試験の問題カードを用いて、英語で状況描写をする力を高める。準2級に始まり、2級、準1級とレベルアップしながら、カードのイラストをもとにストーリーを作って発表する活動も取り入れている。英検受験は任意だが、1年次に準2級、2年次に2級に挑戦し、3年次前半までには少なくとも2級までは取得するという目標があるため、多くの生徒が挑戦している。昨年度は2級に51人、準1級に5人が合格し、1級に挑戦した生徒もいるという。英検直前には補習の時間に準2級や2級の過去問題に取り組み、二次試験では英語科教員とALTが一丸となって、1人の生徒に対して何度も面接の練習をする時間を作っている。そうした時間をかけた丁寧な指導のかいあって、二次試験はほぼ100%の合格率を達成しているのが同校の特色でもある。
伊佐先生は「高校3年生にとっては大学入試という目の前の目標がありますが、1、2年生にとってはまだ遠い目標です。英検は身近な目標として設定しやすく、生徒たちは英検への挑戦によって達成感を味わい、英語学習へのモチベーションを高めています」と話す。また、渡部ひろみ先生は「本校が公開会場ということもあり、生徒たちは通い慣れた環境で安心して受験しているようです。そして、英検に合格することで英語に対する自信を得て、海外の大学への留学や英語力を生かした推薦入試に挑戦しようという意欲も高まっています」と、英検の効果について話した。
今後の展望について伊佐先生に尋ねた。「今後はデジタル教科書やICT機器を活用し、授業運営の効率化を図り、生徒の言語活動の時間をより多く設定することと、それらを利用した効果的な言語活動、授業運営についても検証したいと思っています」
時代を見通して、グローバル人材の育成を視野に英語教育と国語教育を両輪とする同校の教育に、これからの日本の英語教育のヒントがありそうだ。
英検 英語情報 2013年10・11月号 掲載