英検受験は英語への意識向上のきっかけ
八幡市教育委員会、八幡市立男山東中学校
2014.04.30
京都府八幡市では、中学生の英語に対する意識向上の取り組みの一環として、2012年度から公費補助による英検の全員受験を導入している。八幡市教育委員会と市立男山東中学校を訪れ、英語教育への取り組みから英検全員受験導入の経緯や成果、学校現場における英検の活用状況について取材した。
英語への関心と学習意欲の向上のため、英検に着目する
谷口正弘教育長
「ユニバーサルデザイン」を教育目標に掲げる八幡市では、子どもの様々な特性やニーズに応じた学校教育を目指している。英語教育においても、中学生の英語への関心を高めるため、色々な方法を試みてきた。例えば、一昨年まで10年間続いた「英語フェスティバル」には、幼稚園児から高校生までが参加し、英語での寸劇や暗唱、スピーチなど、学年に応じた英語活動の成果を発表した。昨年度からは市内の中学生を対象としたスピーチコンテストをスタートさせ、今後は市のイベントとしての定着を図る考えだ。また、今年度から各校に1名ずつ外国人講師を派遣し、国際理解力や英語によるコミュニケーション力の向上にも力を入れている。
谷口正弘教育長は「これからは、今まで以上に英語が身に付いていることで可能性を広げることができる時代。子どもたちの未来のために、英語力の養成をサポートしていきたいですね」と述べる。同時に、「学力としての英語力向上だけでなく、英語や世界のことに興味を持ってほしい」とも考えている。そこで、英語への関心を高め、英語学習への動機付けを図るため、英検に着目した。近隣の京都府綾部市や滋賀県草津市の公費補助による英検全員受験の事例を参考にしながら導入方法を模索し、家庭の経済的負担も考慮した上で、「受験料全額補助による全員受験」に踏み切った。受験料の一部を公費で負担する自治体は見られるが、全額負担は全国的にも珍しく、八幡市では今後も全額補助を続けていく予定だ。
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合否結果ではなく、目標に向かう姿勢が大切
北 和人教育部次長
小山和幸指導主事
導入1年目の昨年度は1年生を対象に実施した。今年度は2年生にも枠を広げるが、3年生は高校受験を控えているため、対象から外している。1・2年生ともに受験回は第3回検定とした。生徒はそれぞれの学力に応じた級を受験できる。中には2年生で準2級に挑戦する生徒もいる。八幡市では「中学卒業までに英検3級取得」を目標に掲げているが、北和人教育部次長は「結果以上に目標に向かう姿勢が大切」と話す。
また、市では「チャレンジ学習」という学習支援事業を行っている。放課後の空き教室を利用して、地域住民が学習指導員となり、生徒の自習をサポートする取り組みだが、教育部学校教育課の小山和幸指導主事によると、英検の試験前には、この「チャレンジ学習」を利用して英検対策に励む生徒の姿が見られるという。ほかにも各校の図書館に英検対策教材をそろえるなど、英検に取り組みやすい環境を整えている。
「英検に合格できれば、その喜びや達成感を味わうことができ、それが自信やさらなる学習意欲につながります。他教科へもよい影響を及ぼすでしょう。残念ながら不合格になったとしても、『次は受かりたい』『もっと勉強しよう』という意欲につながります。英検を一つのきっかけとして、生徒の英語への興味や学習意欲を引き出していきたいですね」と、谷口教育長は英検に期待を込める。
自学自習に力を入れ、生徒の「気付き」を引き出す
坂口勝久校長
山本泰平先生
八幡市内には4つの公立中学校があるが、「自学自習の力の養成」、「不断の授業改善」の2つを学力向上の柱に掲げる市立男山東中学校では、読書活動などにも力を入れている。坂口勝久校長は「学校全体として落ち着いた雰囲気の中で、学習や部活動に打ち込む環境が整っています」と学校の現状を語る。近隣の2つの小学校との連携も強く、地域が一丸となって子どもを育てようという意識が強い。
学力向上の柱の一つである「自学自習」については、授業用の「Aノート」と自習用の「Bノート」を用意し、特にBノートの活用を進めている。英語科では、定期試験前を中心に、教科書で扱う単語、文法、英文を覚えるまで書くよう指導している。1回の定期試験で1冊のノートを使い切ってしまう生徒もいるそうだ。
英語科の山本泰平先生は「自分で書いて覚えた単語や文法が、コミュニカティブな活動の基礎になる」と考えている。自習に加え、授業の中でも一定の時間を設けて単語や文法を確認する。「大切なのは、『リズム・テンポ・タイミング』」と山本先生は言い、「英語の基本内容をインプットするためには効果的であり、これからも内容、方法を工夫しながら取り組んでいきたいです」と述べる。
また、今年度から外国人講師のプリンセス先生が常駐するようになり、授業の進め方を改めた。新しい表現を学ぶ時には、日本語で文法の説明をするのではなく、プリンセス先生を交えたアクティビティーから入ることも多い。「生徒が日常的に英語に触れる機会が増えたことは非常に大きいですね」と言う山本先生は、生徒に「教える」のではなく、「気付かせる」よう心掛けるようになったと言う。そして、今年度の1年生の授業では、リピーティングやシャドーイングなどの音声重視の学習を早期から取り入れる試みを始めた。「みんな素直に取り組んでくれるので、吸収が速い。これからが楽しみです」と山本先生は笑顔を見せる。
英検を通して、努力する力、チャレンジする力が身に付く
同校では、英検の全員受験導入を受けて、授業や総合的な学習の時間、放課後の「チャレンジ学習」などを活用し、英検対策を行っている。全員が英検を受験することの意義について、山本先生は「インプットはしっかりとできている生徒が多いので、アウトプットする機会を与えることでその力がさらに伸びると思っていました。英検はそのためのとてもよい機会だと思います」と述べる。英検に向けて勉強することで、学力はもちろん「努力する力、チャレンジする力」が身に付く。山本先生は「努力できる、挑戦できるのは、一つの才能」だと高く評価している。
「勉強でもスポーツでも趣味でも、何か一つ得意なことや好きなことを見つけてほしい。それが生徒の自信や自己肯定感につながります」と、坂口校長は述べる。
英検の全員受験導入2年目を迎えた今、同校では山本先生を中心に「英検対策のための授業ではなく、英検の問題などを活用した授業展開を考えていきたい」という声が高まっている。
英検 英語情報 2013年10・11月号 掲載