コミュニケーション活動を通じて高まる
総合的な英語力
10年前に新潟市立沼垂高等学校から改組・改称して誕生した新潟市立万代高等学校は、全日制の単位制高等学校だ。総合選択制の「普通科」と、県下唯一の「英語理数科」からなり、生徒一人ひとりの進路希望をかなえる学校として人気が高い。「英語理数科」の英語コースでは、英語教員が一体となって、ディベートやライティングなどの指導に取り組み、生徒の表現力を高めている。生徒の英語力向上のために日々奮闘する先生たちの熱い想いを聞いた。
英語で考え、伝える力をつけるために
山田寿子校長
「国際社会を生き抜く人を育てたい」と考える山田寿子校長は、かつて自身も英語教員として教鞭(きょうべん)を執っていた。「そのような人が育たなければ、日本は沈んでしまいます。そのためには、教員が意識を変えなければ。英語の授業は、英語運用力を高めるために、英語で考える力をつける場です。だからこそ、教員が英語で授業を行い、生徒に英語で活動をさせることが必要なのです」と語る。
英語理数科は、1学年のうち1クラスだ。生徒は入学時点で、英語コースと理数コースのいずれかを選択する。毎年、40人の生徒がおよそ半数ずつに分かれるため、授業は20人程度の少人数制で、個々の進度を把握しながら指導できる。英語コースでは1年次の英語が週8単位で、「総合英語」や「異文化理解」といった専門性の高い科目が用意されている。情報機器を活用して、英語でのプレゼンテーションの資料をまとめる活動にも取り組む。
山田校長は、「2年生のプレゼンテーションの授業で、ある生徒は世界のヌードルについて調査した結果と考察を英語でまとめ、発表しました。質疑応答の場では、用意した英語をただ話すだけでなく、臨機応変に考え、答えていました。国際社会で必要とされる力が養われています」と喜ぶ。
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教員同士のチームワークで受け継ぐ万代の英語
英語コースの目標は、「英語で自己表現のできる高校生」だ。1年生のうちから、グループでのプレゼンテーション、ミニディベート、スピーチを取り入れ、実践的なコミュニケーション能力を磨く。
校内での発表の場も多い。入学後初めてのプレゼンテーションの場は、夏休みに開催される「一日体験入学」だ。新潟市内外から1,000人ほどの中学生が来校するイベントで、英語コースの1年生20人が、4人組のグループをつくり、先輩たちの発表内容の映像を参考に、PowerPointでまとめたスライドを用いて、学校生活について英語で説明する。
2、3年生になると、教科書の内容をグループでまとめて発表したり、10年後の自分にあてた手紙を書いたり、オリンピックなどのイベントについて調べた内容を発表し合ったりするなど、身近な話題から社会的な話題まで幅広く、英語で自分の考えを伝える力をつけていく。
英語科主任の三本朗子先生は、「実践的なコミュケーション能力は真の英語力」と信じて指導にあたる。その想いは、英語科教員全員に共通し、教員各自の取り組みは、プレゼンテーションの見学や教材の共有により受け継がれていく。コミュニケーション活動の進め方に関する資料もあるため、新任の先生でも、ほかの先生同様に授業を進められる仕組みが整う。1年生でプレゼンテーションの機会があれば、2、3年生の教員も担当生徒と共に見学し、3年生のスピーチを1、2年生の教員も担当生徒と共に見学する。そして、授業後に意見交換をして、次へとつなぐ。こうしたチームワークが万代高校の英語教育を支えているのだ。
英検を活用した指導
授業風景
コミュニケーション活動を中心とした授業を、いかに大学入試へつなぐか。同校では、授業はコミュニケーション活動中心で、家庭学習での課題、補習や土曜講習などでその対策に取り組む。その際に役立つのが英検だという。2年生対象の土曜講習では、英検準2級と2級の長文問題を活用して、60分の授業で問題を解き、解説を行う。3年生でも過去問題を使い、初見問題に取り組む実践的な学びを取り入れている。平井望先生は、「長文問題のテーマが毎回新しいため、生徒が興味を持って読める内容であり、トピックセンテンスがわかりやすいと思います。問題も良質で解説しやすいですね」と話す。
土曜講習を受け持つ教員は、「英検による入試や就職での優遇措置」を説明し、英検の過去問題に触れて、生徒の英検受験意欲を引き出す。一次試験直前には放課後に対策講座を開き、一次試験合格者には、英語科教員とALTで面接指導を行う。渡邉大介先生によれば、平成23年度第2回ではわずか10人程度だった英検受験者が、平成24年度同回では30人に増え、「今後はさらに受験者を増やしたいですね。平成25年度からは英語コースの英検受験必修化も検討しています」と意気込んだ。
英語を実践の場で使う日のために
三本先生は、「日々の授業は練習の場、発表会は練習試合、そして本番はホームステイや卒業後に出会う人々と英語でコミュニケーションするとき」だと説明する。海外からの留学生と英語で話したり、海外へ留学して現地で英語を使って生活したりする交換留学の体験は、実践の場であった。2012年度からは1年生の希望者を対象とした新たな海外研修制度を開始し、年度末の春休み中に、カナダ・バンクーバーを訪れる予定だ。山田校長は、「感性が柔軟な10代のうちに海外を見ることは、生徒の心に大きな種をまくことになります」と語る。
国際化が進むなか、国際共通語としての英語の重要性が高まっている。渡邉先生は「海外旅行で見聞を広める、洋画鑑賞の際に字幕では表現しきれない微妙なニュアンスに触れるなど、英語は生活の幅を広げます。英語によって広がる世界を伝えていきたいですね」と話した。
平井先生は「新潟や日本、そして自分について英語で語ることができる“国際人”として、世界へ飛び出してほしい」と望み、三本先生は「そのために自分の隣にいる人と話すことから始めましょう。相手を知ろうとすること、自分について話せること。真のコミュニケーションが取れる人は、世界のどこでも、コミュニケーションを取れます。その共通言語こそが英語なのです」と強調した。
万代高校の校内研修
英語力アップのために教員も校内研修
小池和公教頭によれば、「万代高校の英語科教員はドリームチーム」とのこと。一人ひとりが「英語」という教科に対してしっかり向き合い、自身の英語力を伸ばすことに日々努力し、その成果を授業の場で生徒たちに還元している。そんな互いの姿勢に触発され、教員は毎回英検が実施されたあと、英検1級の最新の読解問題やTIME誌の英文を素材に学習会を実施している。
英検チャレンジャーにインタビュー!
字幕翻訳家になる夢をかなえたい
木村 絢さん
(3年生・準1級合格)
字幕翻訳家になる夢をかなえたい
父の仕事の都合で小学5年から中学2年まで米国で過ごしました。高校入学後、英検準1級に挑戦してきましたが、あと一歩のところで不合格に。そこで、単語に焦点を絞って学習し続けたところ、長文を読むスピードが速くなりました。授業で取り組んできたライティングの力も役に立ち、念願かなって合格。夢は映画の字幕翻訳家になること。英語でなければわからない微妙なニュアンスを日本語で伝えられるように、日本語力も同時に高めていかなければと思います。
苦手な英語がいつしか得意に
神田采茄さん
(3年生・2級合格)
苦手な英語がいつしか得意に
私は英語が得意ではなく、高校卒業後は歯科衛生士になるつもりでした。でも、海外ホームステイを経験して、夢が一変。英語を話す楽しさを実感して英語が好きになりました。すると勉強が楽しくなり、学習法も変わりました。文法だけでなく、リスニングやディクテーションにも取り組んでいます。そして、実力を試すために挑戦した英検2級にも合格。自信がつきました。他教科のやる気も出てきて、最近は数学の成績も伸びています。いつか1級に合格するためにも、英語と向き合い続けます。
STEP英語情報 2012年3月・4月号 掲載