「英語インタラクティブフォーラム」と英検で意欲ある生徒を伸ばす
英検への団体受験参加率が全国トップクラスの茨城県では、中学生を対象にした「英語インタラクティブフォーラム」という独自の大会を開催しており、県内の中学校では大会に向けた熱心な指導が行われている。英語インタラクティブフォーラム開催の経緯や目的について県の教育委員会にお聞きした。また、その指導法を取材するため、大会で優秀な成績を収めてきた坂東市立岩井中学校を訪ねた。
双方向性を重視した会話形式の大会
髙野香保里指導主事
「英語インタラクティブフォーラム」は、1999年度から開催されている県独自の大会だ。英語による実践的なコミュニケーション力を養成するためには、従来の文法や読解重視の指導では不十分であるという課題を踏まえ、中学生に英会話の練習機会を与えることを目的に企画された。茨城県教育庁義務教育課の髙野香保里指導主事は、「国際的に活躍できる人材を茨城から輩出したい」と意気込みを見せる。
生徒は3人1組になり、学年ごとに与えられたテーマについて5分間話し合う。テーマは、“School events(学校行事)”や“How can we make school life better?(どうすれば学校生活をより良くすることができるだろうか)”など、生徒にとって身近な題材だ。各地区から選ばれた代表が県大会に出場し、「表現力」「内容」「態度」の3つの観点から審査が行われる。
自己発信型のスピーチコンテストとは違い、双方向性を重視した形式の英語インタラクティブフォーラムでは、自分の意見を一方的に話すだけでなく、相手の意見を聞き、会話をすることが求められる。英語教員としても豊富な指導経験を持つ髙野指導主事は、「最初は数分間話し続けるのにも苦労していた生徒も、次第に長い時間、深い内容について話せるようになります。そして何より、いきいきと話すようになります。『言いたいこと』があると、生徒は自発的に先生に質問したり調べたりして、どんどん伸びていくのです」と、自らの経験から語る。
今年で15年目を迎える本大会だが、その課題として髙野指導主事は、「テーマのバリエーションと評価方法・基準」を挙げる。テーマが定型化し、あるテーマについての会話や話題の広がりがマニュアル化してしまうのは避けたいが、あまりに難しいテーマだと参加者の裾野が広がらない。そのため、「生徒からクリエイティブな意見や展開が引き出せるよう、中学生にとって一歩先を行く目線でテーマを選んでいくつもりです」と今後の方針を述べる。さらに、より公正な評価方法や基準の確立を目指して、新評価検討委員会を立ち上げ、研究に取り組むこととしている。「正しく評価し、生徒の素質を引き出し、その力を伸ばしてあげられるチャンスの場としたい」と今後の展望を語る。
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フリートークとして授業にも取り入れる
英語科の林久悦先生、内田亨先生、小暮三保子先生、張替美紀先生
「英語インタラクティブフォーラム」で毎年優秀な成績を上げているのが、坂東市立岩井中学校だ。一昨年は、県知事賞と県議会議長賞をダブル受賞した。各校の出場枠が決められているため、岩井中学校ではオーディションでチームのメンバーを選んでいる。その際には、英語力だけでなく、英語学習への意欲、態度や人柄、表現力、コミュニケーション力などを総合的に判断して選ぶという。「英語インタラクティブフォーラムでは、相手の意見を聞いたり、自分以外の2名にバランス良く話を振ったり、話題の軌道修正をしたりと、会話を円滑に進めるための術や相手を思いやる気持ちが必要になるのです」と、英語科の林久悦先生は話す。
岩井中学校では、オーディションで選ばれた3年生6名、2年生6名の計12名でチームを編成し、放課後だけでなく、部活動後や週末にも練習に励んでいる。ときには、県西地区の4校が集まって合同練習をすることもある。
「大切なのは、与えられたテーマをいかに広げ、深めていけるか、ということです」と述べるのは、内田亨(ゆき)先生だ。先生は、テーマを紙に書き出し、その関連事項をネットワーク状に書き出していく「マッピング」をし、話題の広がりを予想して準備しておくよう指導している。また、会話を広げていくポイントとして、「Ask(尋ねる)、Answer(答える)、Add(追加する)」を3Aとして提示し、話題の軌道修正法なども例を挙げながら説明している。
岩井中学校では、通常の授業にも英語インタラクティブフォーラムを取り入れてきた。授業のウォーミングアップとして、会話の基本文や例文のプリントを配布し、「インタラをやってみよう」とフリートークの時間を設けているのだ。授業での紹介をきっかけに、大会に向けてチームに参加したいという生徒もいるという。「本校の授業では、4技能を総合的に育成することを目指しています。そのためには、4技能につながりを持たせた指導が重要だと考えています。読んだこと、聞いたことを話してみる、書いてみる。英語インタラクティブフォーラムのようなフリートークは、これの非常に良い機会だと思います」と林先生は話す。さらに、この春に新任教諭として赴任した張替美紀先生は、「自分が生徒の頃から、英語インタラクティブフォーラムは県内で広く知られていました。茨城が誇れる素晴らしい取り組みだと思うので、今後は教員として、生徒の指導にあたっていきたい」と抱負を述べる。
英語インタラクティブフォーラムへの取り組みで英語の4技能の育成に力を入れている岩井中学校では、身につけた英語力を測る機会として、英検への取り組みも進んでいる。その背景には、坂東市が2011年度より展開している「検定取得率100%で日本一」を目指すプロジェクトがある。
坂東市のプロジェクトで英検取得を推奨
児矢野康之指導主事
これは、市内の小中学生に検定取得を推奨する取り組みで、3年目となる今年は、小学1~4年生は漢検、小学5~中学2年生は数検、そして中学3年生には英検の取得を推奨し、年1回、各種検定の検定料を市が半額補助する。坂東市教育委員会の児矢野康之指導主事は、「中学3年間の集大成として英検3級を取得し、意欲と自信を持って高校へと進学してほしい」と思いを述べる。市では成績優秀者を表彰しており、なかには、準2級や2級の取得者もいるという。また、市では各種検定対策のために予算を設けており、各校では教材の購入費などにあてている。
岩井中学校でも、各学年の各クラスに英検対策用の問題集を配布し、1、2年生から英検への意識づけを行っている。昨年度は3年生の約4割が英検を受験し、今年度はさらに増える見込みだ。英検対策には、英語科の全教員が携わり、二次面接試験の対策では生徒一人ひとりに対して模擬試験形式で実施している。その結果、昨年度の第3回検定では、二次試験の合格率は100%で、準2級や2級の合格者も出た。
英検のメリットについて、小暮三保子先生は、「英検はどこへ行っても通じる資格であり、校内の定期試験とは違う面で、生徒にとって基準となり自信にもつながります。英語ができる生徒はもちろん、苦手な生徒でも自分の実力に合った級が受けられることが、英検の優れている点だと思います」と話す。
新たな学習指導要領においては、「・・・については、理解の段階にとどめること」という記述が取り払われ、指導できる内容の幅が広がり、各学校がそれぞれの創意工夫を生かした特色ある授業を展開できるようになった。それを受けて林先生は、「横並びの指導だけではなく、英語インタラクティブフォーラムや英検を通して、能力の高い生徒や意欲のある生徒をどんどん伸ばしていけるような環境を整えていきたい」と考えている。コミュニケーション能力を高めるための英語教育のあり方が問われている今、茨城県の英語インタラクティブフォーラムや岩井中学校を例とした各中学校での取り組みに、県外からも注目が集まっている。
英検 英語情報 2013年6・7月号 掲載