
福岡教育大学 教授 高梨芳郎
2014.04.30
福岡県は韓国、中国に近く、古来から大陸との交流も盛んであったためか、進取の気性に富み、開放的で自由闊達な人が多いと言われます。確かに芸能人も多く出ていて、金八先生のように「コミュニカティブ」で情に熱い人が目につきますが、ここでは福岡県での地道な英語教育の取り組みについて静かに紹介しましょう。
小学校
福岡県での小学校英語活動の実施状況は、平成15年度で既に98.4%(全国では88.3%)に及んでいます。このことから、小学校英語活動に対する県民の期待と先生方の熱意が十分うかがえます。福岡県教育委員会は福岡県教育センターと連携して、早くも平成12年度から13年度にかけて小学校英語活動に関する調査研究を行い、平成14年に「エンジョイイングリッシュ」という明快な手引書を発行しています。さらに、福岡県教育センターでは、平成17年に、この手引書を発展させた形で、自校の英語活動実施状況に合わせて実施可能な基本型、関連型、発展型の各授業プログラムを提案しています。これらのプログラムでは、授業作りの理論・方法や指導事例が、教師の目線からQA方式を使ってわかりやすく書かれていて、小学校英語活動への福岡県の地道な取り組みの姿勢がよく理解できます。
文部科学省認定の「小学校英語活動地域サポート事業」では、福岡市教育委員会と福岡女学院大学の連携事業、大牟田市教育委員会の取り組みが目立ちます。ともに、スキルを重視した小学校英会話活動の取り組みで手引書の作成と配布・普及を行いますが、前者はゲストティーチャーの支援事業や指導者研修などの指導力育成プログラムが特色で、後者はネイティブによる動画の発声練習やスキットなどを含み、学級担任でも英会話活動の指導が可能なウェブコンテンツ(「小学校英会話活動事例集」)を作成・利用する点が特徴です。
構造改革特別区域(特区)では、嘉穂郡頴田町において、国際社会で貢献できる児童生徒の育成を目指して、独自の小学校英語科カリキュラムを作成し、小学校1年生から6年生まで年間33時間~35時間の英語活動を平成17年度から実施していますが、今年度で終了するのは残念です。特区以外では、飯塚市立片島小学校が平成12年度と13年度の県教育センターの研究協力校として小学校英語活動を始めました。現在は、毎朝リスニングを行い、健康観察も英語で行うほど熱心に取り組んでおり、9割以上の児童が「英語活動が好き」と答える結果には目を見張ります。
小学校英語活動自体の評価が気になりますが、北九州市では、「小さな国際人育成事業」において、市内の全小学校にALTを配置して小学校英会話体験学習を行っており、中学校でのALTの活用も含めて、教育成果を検証中です。北九州市教育委員会指導部の「小・中連携英語教育プログラム」(改訂版/全238頁)も、活動事例が豊富で、授業作りに最適です。
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中学校
平成14年度から平成16年度にかけて、文部科学省と各都道府県教育委員会との連携・協力の下、小学校と中学校で学力向上フロンティア事業が実施されました。この事業は、個に応じた指導のための教材・指導法の開発や指導体制・評価の工夫が主眼ですが、福岡県では、県内の小学校32校と中学校16校がこの事業に取り組み、その成果を公表しています。例えば、宗像市内のある中学校では、学習スタイルを生かした英語授業を公開しています。PISA2003の学習到達度調査の結果を受けてこの事業をさらに進め、「確かな学力」の育成を目指した事業が文部科学省の「学力向上アクションプラン」です。福岡県でも平成17年度から平成19年度にかけて学力向上拠点形成事業に取り組んでいます。例えば、筑紫野市学力向上推進協議会では、筑紫野南校区において、小・中9年間の学びをカリキュラム・授業研究・学習環境の関連で研究し、昨年10月の発表会で大規模な授業公開をしています。
高等学校
文部科学省指定の学力向上フロンティアハイスクール事業については、福岡県は平成15年度から平成17年度にかけて筑豊地区県立高等学校12校と福岡地区県立高等学校2校の計14校が取り組んでいます。これらの成果は「研究報告集」で見ることができますが、専門学科・総合学科高校が9校も加わり、環境教育と結びつけた英語指導を英国で行うなど、積極的な取り組みが見られます。さらに、中学校と同様、平成18年度からの3年間で、「確かな学力」の育成を目指した学力向上拠点形成事業が進められ、現在、4校が推進校として、実践研究に取り組んでいます。英語の習熟度別指導に加えて、早朝リスニング指導などの興味深い工夫も見られます。
SELHiについては、福岡県では香住丘高校、福岡女学院高校、西南女学院高校の3校がそれぞれ特色ある取り組みを行っています。香住丘高校は、本誌でも紹介されていますが、3年間の四技能統合型シラバスを作成、各技能の到達指標をCAN-DO方式で明確に設定し、3年次に英検準1級合格を目指すほどの高度で充実した授業が展開されています。私立福岡女学院高校は、全国でも数少ないSELHiの継続指定校として、リーディング指導を生かした英語の総合力の育成を目指し成果をあげています。また、私立西南女学院高校は、スピーキング力の段階別指導法、プロセスライティングによるライティング指導と評価の工夫に積極的な取り組みを行い、スピーチコンテストでの生徒の活躍が目立ちます。今後のSELHiは普通科、専門学科・総合学科へのさらなる広がりを期待します。
大学
福岡教育大学は九州地区で唯一の教員養成大学であり、一貫して教員養成をその使命としている
福岡教育大学では、附属中学校3校との共同研究が宝です。3年間のサイクルでテーマを設定し、理論に則して授業研究を行い、研究発表会を実施します。スピーキングの指導から始まったこの研究会は、始まってから40年ほど経過しました。附属中での実践を経て、数多くの先生方が県内の英語教育で主導的な役割を果たしています。また、本学では平成2年に大学院英語教育専攻(修士課程)を設置し、私も国内外に約40名の指導生を送り出しました。遠くは広島から通学して修了した現職教員もいます。学部・大学院の卒業生・修了生が県内・県外の大学、高等専門学校、高等学校、中学校、小学校などで教員として活躍しているのは心強い限りです。現在、福岡教育大学は春日市教育委員会と提携協定を結び、小学校英語活動を推進しています。教職大学院の設置は緊急の課題ですが、今後も福岡から日本の英語教育の改革に向けて努力をしていく所存です。
英検 英語情報 2008年3・4月号 掲載