英語は実技, 語学じゃなくて語楽!
考えて意見を言う子どもを育てたい!
「PEN の会」を訪ねて
「PENの会」というユニークな名前の研究会を、新潟市に訪ねた。「にいがた小学校英語教育研究会」(Primary English in Niigata)がその正式名称。多くの小学校でスタートした英語指導に、早くから自主的に取り組んできた教師たちの勉強会である。
たった4人のメーリングリストから
外山節子先生。メンバーからは「節子さん」と親しみを込めて呼ばれている。PENの会をけん引する、欠くことのできない存在。
「今のうちから英語指導の準備をしておきましょう。早く始めれば始めるほど、あとできっと楽になるから」
7年前のある日、目を白黒させる小学校の先生たちにそう語りかけたのは、敬和学園大学客員教授の外山節子先生。児童英語教育研究の第一人者だ。「近い将来、必ず小学校にも英語指導が取り入れられる」と確信していた外山先生の呼びかけに応えて、有志の小学校教諭や民間の英会話教室関係者が情報交換のためにメーリングリストを立ち上げたのは2002年のこと。「にいがた小学校英語教育研究会」(以下、PENの会)と名づけられたその活動は、以後、年に数回の勉強会「筆箱塾」や年1回のメインイベント「PENフォーラム」などを開催し、新潟県内のみならず広く全国に知られるところとなっている。
「最初は外山先生を含め、たった4人でスタートしたメーリングリストが、いまや160人を超えるこんなに大きな活動になるとは思いもしませんでした」と話すのは、PENの会で代表を務める、新潟市立太夫浜小学校教諭の坂井邦晃先生。
取材当日は、筆箱塾の開講日。休日の、しかも参加費を払っての勉強会であるにもかかわらず、40人収容の会場は定員を超えるほどの大盛況だった。新潟市の中心部に位置する万代市民会館の会場がオープンされると、椅子やパソコンのセッティングなど、参加者各人が積極的に体を動かして準備が進められていった。そして開会。運営メンバーである藤澤京美先生のあいさつに続いて、PENの会の顧問を務める外山先生によるプレゼンテーションが始まった。
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アクティビティーで使う「言葉」の重要性
靴下に目玉ステッカーを張った指人形「ソックパペット」。引っ込み思案の子どもでも、英語のコミュニケーション体験が広がる。
最初のアクティビティーは、受付で参加者に配られたカラフルな靴下を使った『Sock Puppet』。靴下を手にはめ、目玉に見立てたステッカーを貼っただけの簡単な人形だが、これを使うことで子どもが“I’m hungry!”“Me, too!”などのダイアローグを、一人でも楽しく練習できるようになる。引っ込み思案の子どもでも、かわいらしいパペット相手なら言葉が出てくるという解説に思わずうなずく。会話の世界を、人形という道具を使って楽しく広げていこうという外山先生からの提案だ。
次は『Get 21! ゲーム』。素材は「小学生の好きな食べ物トップ10」といった、インターネット上などで手に入る各種のアンケート結果。これを順位を隠した絵カードで提示する。参加者は2つのグループに分かれ、1位から10位を予測して“We think spaghetti is No.8.”のように意見を述べる。先生が順位を発表し、それがグループの得点になるのだが、これを繰り返して得点の合計を早く「21」にできたら勝ち、というシンプルなゲームだ。英語活動だが、簡単な算数も使っている。グループ内での相談は日本語でOKだが、先生の発話や先生との掛け合いはすべて英語。それをグループ全員で行うことで、英語のリズム、シンプルな言い回し、そして何より自分たちの意見を表現する楽しさが身についていく。
魅力的なアクティビティーの紹介が続くなか、そこで使われる言葉の重要性を外山先生は繰り返し語る。対義語や類義語、ある事物に関連した言葉など、意味のある、つながりを持った言葉を選び、リズムやモチベーションとともに学ぶことが大切だとの思いが込められたメッセージである。
英語は実技教科
新潟市のマイスター教師認定を受けている、佐藤貴子さんのプレゼンテーション。国旗を教材に、世界の国々は太陽を何色に見ているか考える。
「自分でハードルを上げすぎないで、子どもと一緒に楽しむ気持ちで取り組みましょう。英語に取り組む先生の姿が、子どもたちにとっていちばんの教材なんですよ」と外山先生。大切なのは、肩ひじ張らずに、英語で思いをぶつける体験だ。そのことさえ見失わなければ、どんな教科やテーマ、どんな時間であろうと、子どもたちの外国語体験をふくらませていくことができると外山先生は熱く説いた。
「小学校では体育や音楽のような実技教科も、みんな担任の先生が教えるでしょう?だからといってどの先生も体育や音楽が得意なわけじゃないですよね。でも、全国一律、どの学校でも、どの先生でもできる活動、と思えば気持ちが楽になるじゃない?」。ユーモアたっぷりに語る外山先生の言葉にうなずく受講者たちの笑顔が印象的だ。
続いて、PENの会メンバーによるショートプレゼンテーションが行われた。模擬授業あり、研究報告あり、自作の教材やICT機器の紹介ありのバリエーション豊かな発表に、会場はまた違った興奮に包まれた。発表者に対してそのつど外山先生から、鋭い指摘や実践に即したアドバイス、温かい励ましが寄せられ、一つひとつのアクティビティーが、「英語活動」を進めていく参加者のイメージの中に、はっきりと具体的に組み込まれていく。指導案や教材の羅列に終わりがちな研究会も見られるなかで、PENの会が多くの支持を受け、力強い継続性を示している秘密は、こんなところにもありそうだ。
教師自ら授業を作ること
筆箱塾が盛会のうちに終了したあと、外山先生とPENの会運営メンバーの皆さんにお話をうかがった。
メンバーのうち数名の先生は、新潟市が10年前に設置した小学校英語活動の拠点校に在籍し、以来、その指導に携わってきた経験の持ち主である。そうした立場から現状を見ると、英語活動の対象が5・6年生に限定されることによって、予算その他のリソースを校内でどう使うか、教師の研修や研究をどう進めるかなどの点で問題も少なくないと感じるとのこと。学年などの枠を超えて、英語体験を豊かにするための取り組みができる環境が必要だとの発言には、切実さが感じられた。
教師が受け身になることなく、主体的に授業を組み立てるためのトレーニングや、その参考となる資料の紹介はこの日もぬかりなく行われていたが、外山先生は、「各学校に配布され、使用の始まった『英語ノート』の単語の選択に、明確なポリシーが感じられないのが気がかりですね。子どもたちに与えるボキャブラリーには、意味と相関性がなくちゃダメ。場面を設定して、それをある視点から見て単語を引き出すことが大切なんです。先生たちにはfunctional dialogs、situational dialogs、つまり場面ごとの決まり文句的対話、という発想を持って言葉を選び、自分ならではの授業を作ってほしいですね」と話す。
「自分ならでは」という指摘には、ALT任せにせず、教師自身が授業を作り、実践することの大切さが込められている。一方で、ALTなどの英語母語話者の力を生かすこともまた大切と、こう続けた。「授業で使うフレーズのチェックはシビアに行いましょう。ネイティブ視点のチェックを怠ったばかりに、実際にはあり得ないような、恥ずかしい言い回しをしてしまうことがとても多いんです。準備さえバッチリしておけば、あとは英語のリズムとコミュニケーションに向き合う姿勢を伝えることに集中するだけ。これからも一緒にがんばっていきましょうね!」
STEP英語情報 2009年9・10月号 掲載