高知県編
青い海、輝く太陽、
羽ばたけ高知の子どもたち

高知県は幕末から明治維新にかけて日本の新しい国造りに貢献した人物を多数輩出した県である。彼らのうち特筆すべき2人の人物がジョン万次郎こと中浜万次郎と坂本龍馬である。中浜万次郎は1859年に幕府の名を受けて『英米対話捷径』と呼ばれる日本で最初の英会話教本を作成した。坂本龍馬は1867年の暗殺前に、和英辞典である『和英通韻伊呂波便覧』の編集を海援隊に指示していたと言われている。彼らは共に幕末の動乱期にいち早く日本人の国際化や英語学習の重要性に着目していたのである。そのような2人の偉大な人物が生まれ育ったのが高知であり、そこでは現在どのような英語教育研究が行われているか、平成22年度の活動を振り返りながら、その概要を紹介する。
1)英語スピーチ大会の開催
まず、県下の幼児・小学生を対象に、国際人としての感覚を身につけ、将来国際社会で活躍できる人材を育てる一助となることを目的として毎年開催されている大会の一つに、「高知県こども英語弁論大会」(NPO県生涯学習支援センター主催)がある。今年38回目を迎えるこの大会には3~12歳までの43名(幼児20名、小学校低学年17名、小学校高学年6名)が参加し、身ぶり手ぶりを交じえ、英語で熱弁を振るった。もう一つは「第6回高知県小学生外国語暗唱大会」(学校法人明徳義塾主催)である。同大会には英語と中国語部門があり、小学生3年生以上の生徒50名が参加した。この2つの大会に毎年出場していた高知市城東中学校1年の宇田周平君は、11月下旬に開かれた高円宮杯全日本中学校英語弁論大会で、見事7位に入賞した。
中・高校生を対象とした英語スピーチ大会も、生徒の英語力向上や世界に向け視野を広げることを目的として、毎年広く県下で開催されている。県中学・高校英語弁論大会(県教育文化祭運営協議会、土佐教育研究会、毎日新聞高知支局主催)は第63回を迎えた。中学生81人と高校生21人が流暢(りゅうちょう)な英語を披露した。中学生は1年が教科書などの暗唱、2・3年は暗唱とスピーチの2部門、高校生は自由なテーマで、それぞれ4~5分の持ち時間で身ぶり手ぶりを交じえ、聴衆に語りかけながら日常の疑問点などについて堂々と演説した。その他、高知県西部黒潮町で開かれた「第45回幡多地区中学校英語暗唱大会」には61人の生徒が、また、高知市の東隣りに位置する南国市で開かれた「第13回中学生英語弁論大会」(市外国語活動・英語教育研究会、市立教育研究所、市教委主催)には市内の4つの中学校から22人が出場した。高校生を対象とした、「高知県英語ディベート大会」(県教育文化祭運営協議会、県高校教育研究会、毎日新聞高知支局主催)は10回目を迎え、5校から12チーム42人が参加して、「日本は移民政策を大幅に緩和すべきである」というテーマで英語で議論を行った。
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2)地域密着型の取り組み
県下では小学校英語活動のみならず幼稚園と小学校英語活動の連携を視野に入れた取り組みも行われている。文部科学省英語教育研究開発事業との関係では、平成16年には高知市内の4つの小学校が教育特区の指定を受け、英語活動に着手した。県東部にある室戸市教育委員会は、保育・小学校間の連携強化の一貫として、保育段階で学習規律を身につけ、「小学校からの英語学習にスムーズに移行できる」ことを目的として、8月の夏休みには、2人のALTを同市の全保育所13か所に重点的に派遣した。高知市からさらに東に車で50分の距離にある安芸郡田野町では、幼稚園、小学校、中学校までの10年間という長期的な見通しに立った町ぐるみの英語教育が実践されている。県下の中核となる高知市では、小・中授業改革推進のために小学校外国語活動研修会を積極的に開催したり、生徒が主体的にテストに取り組むための学習習慣確立プログラムを実施している。国際交流との関連で、県下の中学・高校では様々な取り組みがなされているが、県西部、足摺岬で有名な土佐清水市は中浜万次郎の故郷であり、その縁で、米国マサチューセッツ州フェアヘーブン、ニューベッドフォードの両都市と姉妹都市の締結をしている。地元にある県立清水高校は昭和63年から今日まで100名を超える多くの生徒を両都市にある学校に派遣し、異文化交流を推進している。
3)英語教育研究の推進
平成21年から、新しい英語教育研究の創造を目指して、英語教師の連携を図る「高知英語Connection」が推進されている。英語担当指導主事・中学・高校・大学の英語教師の連携のもと、例えば、これまで研究大会などの活動を別々に行ってきた土佐教育研究会外国語部会(中学校)と高知県高校教育研究会英語部会(高校)は、昨年、共同で第1回の大会を「今、求められている英語力とは――確かな英語力を目指して――」と題して夏休みの2日間にわたって高知大学で開催した。このように、県下の中・高校の英語教師は連携して、アクション・リサーチの研究、高知県英語ディベート大会ルール・規則集の作成、英語授業改善、中学生のための高知県語彙の選定などの教育研究に幅広く取り組んでいる。さらに、平成20年4月からは、高知英語学英語教育研究会(平成22年に高知言語学言語教育研究会から変更)が英語学および英語教育学の推進を図ることを目的として高知大学を拠点として発足し、2か月に1回研究会を開催している。また、毎年一回、外部講師を招いているが、第2回の今年は高見健一教授(学習院大学教授)が「授業に役立つ英文法講義」と題して、講演を行った。当日は学生や高知市内の英語教師総勢100名が出席し、大盛況であった。
4)おわりに
このように、平成22年度を軸にして、高知の英語教育研究を振り返ってみたが、本県では、小学校英語活動必修化を目前にして就学前や小学校低学年から行われる英語教育の低年齢化、英語スピーチ大会の活発な開催、地域や学校独自の英語教育の取り組みが推進されている反面、いかに中学・高校生の英語基礎学力を定着し伸ばすか、また、いかに小学校英語活動に向けて教師の研修を推進するかは大変重要な課題である。そのような状況の中で、英語授業改善や英語教師指導力向上に向けて小・中・高の英語教師の間で教育研究上の連携が推進される環境が少しずつ整いつつあることは大変良いことと言える。
最後に、限られた紙面の中で高知県の取り組みについて過不足なく伝えることができたかどうか、はなはだ疑問であるが、国・公・私立校を問わず、県下の多くの教育機関や英語教師が英語教育の改善や向上に向けて日々熱心に取り組んでいることを申し添えておきたい。そして、このような環境のもと、高知の子どもたちが中浜万次郎や坂本龍馬のように大きく羽ばたいていくことを切に望みたい。
STEP英語情報 2011年3・4月号 掲載