山形県編
笑顔に支えられた
中高連携の研究組織と
県のサポートのチカラ

山形県英語教育研究会事務局長(平成22・23年度)山形県立鶴岡北高等学校 教諭 松木 正和
2014.04.30
山形県は、微笑みながら話す人の横顔の形をしている。常に明るく、プラスの姿勢で心温か、元気いっぱいである。内陸部と海浜部を分けるように県を縦断している出羽三山(月山・湯殿山・羽黒山)をものともせず、母なる最上川に抱かれながら県全体が団結しておだやかな笑顔を浮かべているように見える。
60年の歴史を誇る研究団体(県英研)
東北六県研究大会の研究授業風景
山形県には、山形県英語教育の向上を目的とした任意の研究団体山形県英語教育研究会がある。戦後間もない1946(昭和21)年に結成された山形県英語教員協会を前身として、その翌年に創設され、1948(昭和23)年に活動を開始した。県内の中学校と高等学校の英語教員ほぼ全員が所属し連携している、全国的にも数少ない研究会組織だ。現在は、大学教員など個人会員を含め約700人が所属している。
運営は、県内を地域ごと8支部(東南村山・西村山・北村山・最上・西置賜・東南置賜・田川・飽海)に分け、各支部がローテーションで本部事業を担当する。また、各支部単独の事業も行いながら研修を進めている。
1965(昭和40)年に現在の山形県中学校教育研究会英語部会と山形県高等学校教育研究会英語部会が発足してから、研究大会こそ別々の開催になったが、この2つの研究会に支えられながら、中・高が一体となった組織として結束し活発に活動している点が、山形県の英語教育の特徴である。
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中・高を固くつないだ事業
本会は、これまで様々な事業を展開してきたが、特徴的なものは以下の2つである。残念ながら、近年、両方共廃止になったが、画期的かつ情熱的な事業であり、現在の県英研のあり方にも影響を与えている。
≪中学生対象夏期英語講習会≫
1949(昭和24)年の夏休みに山形大学附属中学校で始まった「中学生対象夏期英語講習会」は、翌1950年には全県下で開催された。県内共通のテキストを使用しながら、各支部の英語の先生方(中・高とも)が中学生を相手に1週間の講習を行った。高校側からは中学生の学習内容の把握に、中学側からは生徒の意欲喚起にと、双方にたいへん役に立った。1970年代には30,000人以上もの受講者があり、その後も各支部で工夫して講習が行われ、1998年まで続いた。
≪中学生「英語力だめし」テスト≫
中・高の先生方が協力して問題を作成し、中学生の英語力をテストする「英語力だめし」は、1952(昭和27)年から2008年まで行われた。各支部から問題作成者が編集会議に資料を持ち寄り、それぞれの支部、そしてそれぞれの学校の生徒の学力の現状などを意見交換する貴重機会でもあった。
研修を共有できる体制づくり
会報『山形県 英語教育』
≪『山形県 英語教育』発行≫
1955(昭和30)年に『山形県 英語教育研究会報』として発刊され、名称を変えて現在も継続発行されている『山形県英語教育』は、今年で57号の発行となる。
この会報は、年度末に会員全員に配付されている。内容は、原則として、各支部で企画する特集記事、会員の寄稿、そして各支部・本部の事業報告から構成されており、1年間の先生方の活動や研修の状況などがまとめられる。留学などの派遣・受け入れ状況やJET外国青年配置などの県教委関係資料も掲載。ともすればバラバラになりがちな個人研究、学校研究などの研修活動を、県下の英語教員全員で共有している。
≪英語弁論大会≫
高円宮杯全日本中学校弁論大会や東北六県英語弁論大会の予選となる「山形県中学校・高等学校英語弁論大会」は、1949年から行われ、現在に至っている。毎年、会場や審査員などで担当支部の特色を生かして運営しており、中学校暗唱・スピーチ、高校スピーチの1~3位入賞者には、県知事杯、県英研会長杯、県教育長杯などの副賞が授与される。また、平成17(1995)年度からはゴダイゴのプロデュースで有名な奈良橋陽子さんより、Creativity Prizeを特別賞として授賞している。
県の事業が強力なサポート
ALTが企画・運営する研修
山形県には、英語学科を設置する高等学校はないが、県として強力に英語教育をサポートしている。
県教育委員会指定の英語教育改善推進校である県立鶴岡中央高等学校では、外部講師として東京学芸大学教授・金谷憲先生に助言をいただき、「普通科を対象とした学校設定科目を活用したコミュニケーション能力の育成」を、県立楯岡高等学校では、横浜国立大学名誉教授・佐野正之先生の助言をいただき、「英語で行う授業を通して、自ら積極的に英語を用いて表現しようとする生徒の育成及びそれを達成する授業力を有する教師集団の形成と、校内での共同研究システムの開発」をそれぞれテーマにした研究推進を行っている。
県教育庁高校教育課の事業としては、(1)チャレンジ英検(英検受験実績校に対する英検対策支援)、(2)英語授業改善塾(アクション・リサーチによる授業改善を行いながらの、新学習指導要領対応指導モデルの開発)、(3)英語集中合宿(高校生対象の4泊5日の英語漬け合宿)などがあり、また義務教育課でも、3泊4日の英語合宿「E-CAMP YAMAGATA」(平成18~21年度)の成果をもとにした「中学生英語力向上プログラム」の作成・提供に取り組んでいる。
県教育センターでも、(1)国際理解教育推進事業(今年度はALT28名招致)、(2)英語ステップアップセミナー(中・高・特別支援学校の英語教員対象で「一歩先を行く」英語力と実践的指導力の向上を図る研修)、(3)小学校外国語活動コーディネーター養成講座などをサポートしている。
また、JETプログラム外国語指導助手の指導力等向上を目的とした研修では、県内のALTから事業運営協力者(CCM)および地区アドバイザー(RA)を募り、新規オリエンテーション、指導力等向上研修、地区別研修会などの企画・運営を行っている。新規ALTからも「親しみやすく、実践的である」と評判だ。
今後に向けて
現在は、県全体として小学校「外国語活動」担当の教員・学校との連携や、県立高校の再編整備計画による支部の統廃合などが課題となっているが、これからも熱い心意気で、山形県の子どもたちを支える体制が続いてほしいと願っている。
平成23年度には、長井市で東北六県英語教育研究大会を開催した。東日本大震災の影響の中、東北各県の先生方の熱い気持ちで開催を決定、多数のご参加をいただいた(本誌2011年9・10月号「全英連からの発信」参照)。参加された先生方、運営に携わっていただいた先生方にこの場をお借りして感謝の意を表したい。
STEP英語情報 2012年3・4月号 掲載