大分県編
温泉以上に熱い大分県の英語教育
大分県立臼杵高等学校 教諭 加藤 史章
2014.04.30
はじめに
皆さんは、大分と聞くと、まず何を想起されるだろうか。大分県は別府温泉をはじめ、西日本の軽井沢とも称される由布院温泉など、温泉地として広く日本全国に親しまれているのではないだろうか。しかしながら、温泉以外にも、最近ではB級グルメとして、県北のから揚げや県南のごまだしうどんなどがメディアに取り上げられており、豊富な食文化を持つ県でもある。ここでは、その豊富な食文化にも負けない大分県の英語教育の取り組みについて、高校の現場からレポートしたい。
次を見るopen
別府羽室台高校の取り組み
別府市の高台に位置する別府羽室台高校では、平成17年度から3年間、SELHi指定校として「高大連携によるスピーキング能力の向上をめざす指導方法及び評価方法の開発」という課題のもと、(1)音読基盤授業 (2)科目間連動 (3)到達目標設定の3点に重点を置いた研究開発が行われた。
(1)音読基盤授業では、CALLを活用しつつ、バリエーション豊かな教科書の徹底した音読を基本とした、「mechanical training(機械的な反復練習)→pseudocommunication activities(類似コミュ活動)→realcommunication activities(本物コミュ活動)」へと活動を変えていくことにより、「input→intake→output」のサイクルで授業を展開し、文字の音声化からスタートする学習活動を、出口であるパブリック・スピーキングにつなげる授業へと変化を重ねていった。
(2)科目間連動では、それぞれの科目を独立させず、「英語Ⅰ」と「コンピュータLL演習」を連動させたりと、同じ教材や内容を扱いながらも、異なる科目間でinputからintake,outputまでを行うことで、内容理解やQA,summaryなどをリーディングで行い、グラマーではそのPartの文法事項の確認と英作文、発表まで扱い、LLではそのPartの音読活動を重点的に(例えば、あるPartでは「破裂音(p/b)の徹底」というふうに)行った。
(3)到達目標設定としては、「発音(a)」「統語(b)」「論展開(c)」「コミュニケータとしての態度・技能(f)」、また、話のやりとりを維持・発展させるための「情報量・発語数(d)」および「即時性(e)」を「指導の観点6項目」として、それぞれの技能が段階的に到達する時期とレベルを、8期にモジュール化した一覧表として‘Hamurodai CAN-DO GRADE’(以下HCDG)が策定された。これは、項目を細分化することで、県内のほかの高校のCan-doに大きな影響を与えた。
〈Post SELHiとしての取り組み〉
羽室台高校はSELHi指定終了後もHCDGで残された課題を見直しつつ、校内レシテーションコンテストのみならず、Hamuro English Fairの中で、中学生レシテーションコンテストを行ったり、家庭科との協同インターナショナルクッキングを行ったりと、様々な取り組みを行っている。
大分県高等学校教育研究会英語部会
大分県高等学校教育研究英語部会は毎年様々なコンテストやプログラムを開催しており、県内の英語好きな高校生がときには競い合い、ときには英語で楽しみながら、他校の生徒との交流を深めることを目的として取り組みに参加している。
1)English Fair
年に一度、県内の高校の英語部やESSの生徒が集まり、英語劇や英語の歌の発表が行われている。昨年度は本校の生徒も参加し、プロジェクターを活用しながら、生徒たちの力で「白雪姫」を上演し、高い評価をいただいた。
2)ディベート大会などの英語の大会
毎年、秋に英語弁論・暗唱大会が開催され、最近はその人気が高まっている。特にディベート大会は、参加校、参加チームも年々増え、今年度は九州大会が大分県で開催される。
3)大分県高校生英語夏季セミナー
例年、夏季休業中に、多い年で200名近くの高校生が英語漬けの2泊3日を体験する。スタッフも日本人教師よりALTの方が多く、セミナー中は日本人教師もすべて英語で生徒に対応することになるため、registrationのときに不安そうな顔を浮かべていた生徒も、他校の生徒やALTとの活動を通して貴重な体験をする。Closing Ceremonyでは、別れを惜しんで泣き出す生徒もいるほど、参加する生徒には思い出深いものとなっている。
大分県英語授業研究会
大分大学の御手洗靖先生と、大分上野丘高校の麻生雄治先生を発起人に、平成16年に大分県英語授業研究会が発足した。毎回、英語教育に関する興味・関心事や問題点、悩みを共有し、その改善や解決を図り、さらに英語授業に有益となる技術(アイデア)を共有することを目的として、英語教育実践において顕著な成果を挙げている先生を全国各地からお招きして、講演・発表・協議を行う研究会を実施している。研究会は3、4か月に一度開催されており、参加者は県内や近県の小・中・高・大学の教員や指導主事から、未来の英語教育を担う教育学部の学生まで幅広い。参加するたびに英語教師としての力量がアップし、また校種を超えてネットワークを広げることもできる研究会である。
普通科進学校としての本校の取り組み
筆者の勤務校は、人口約4万3千人が住む臼杵市で唯一の普通科高校として、様々な学力層の生徒が入学してくる。生徒の英語力向上に向けての取り組みを、簡単ではあるがご紹介したい。
1)定期考査における設問ごとの正答率の算出
従来、校内でのテストを採点する際に、小問ごとに小計を出したものを電卓で合計するという作業を、電卓の代わりにパソコンのテンキーに打ち込み、数式を入れておいたエクセルシートにデータとして入力することで、各クラスやコースの小問ごと(文法項目別など)の正答率を算出し、弱点や傾向を把握し、次回への 参考にしている。
2)模擬試験の結果から、分野別の「差」を分析
大問ごとの全国平均、県内平均正答率の差を出し、弱点を分析し、以降の指導に活用している。
3)Usuki Can - Do Itinerary(You can do it!)(UCDI)以後の研究
県内には、中津南高校をはじめ素晴らしいCan-do Listに基づいて教育活動をされている学校がすでに多数あり、本校でも、英検Can-doを参考に、4技能の能力を段階的に伸ばすことができるCan- do Listの研究を進めている。英検Can-do Listのスピーキングの項目には、3級では「日常生活の行動」、準2級では「自分の感情表現とその理 由」、2級では「日常生活の身近な状況の説明」がそれぞれできることが明記されている。このスキルは、英検のみならず、英語を使用する様々な場面で必要と なってくる。
ここ数年、大学入試や模試の英作文の傾向も変わってきており、日本語を英訳するものから、図やグラフ、はたまた漫画やイラストが与えられて状況を描写したり、登場人物の心理状態を説明したりするような問題が増えてきている。
例えば、昨年度のある模試において、母親に隠れて朝食の一部を学校で飼育しているウサギに与えるという4コマ漫画を説明する出題があったが、1コマ目が、 男の子がカバンの中に野菜を入れている場面であった。その場面を描写した多くの生徒がHe enters some vegetables in his bag.などの間違いをしていた。しかしながら、UCDIのスピーキングの項目に身の回りの人物描写を設定し、リストを与えてトレーニングをした成果もあ り、今年度の生徒は、enterとせずにput ~ intoが使えている生徒が多かった。
おわりに
今回のレポートでは大分県の英語教育を語り尽くせませんでしたが、県内の英語教育で尽力されている先生方、特に、今回の執筆にあたってご協力いただいた 羽室台高校の長屋先生、上野丘高校の麻生先生には重ねてお礼を申し上げます。大分県では、平成27年度に全英連大分大会を予定しています。これからも大分 県の英語教育の熱い取り組みにご注目ください。
プロフィール
大分県立臼杵高等学校
〒875-0042 大分県臼杵市大字海添2521
TEL:0972-62-5145
FAX:0972-62-5146
STEP英語情報 2012年5・6月号 掲載