「使える英語」と「合格(うか)る英語」の両輪が支える英語教育
「英語の佼成」と称される佼成学園女子高等学校。ネイティブ教員によるイマージョン教育をはじめ、全校生徒で挑戦する「英検まつり」やニュージーランドへの長期留学などを通して生徒の英語力を磨き、国際感覚を養っている。建学の精神に基づいた「国際社会で平和に貢献する人材育成」を軸とし、文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)指定校となった同校の英語教育について取材した。
6 年間を通じて英語力を高める
江川昭夫教頭
佼成学園女子中学校・高等学校の中高一貫の6 年間において、英語教育は「情操教育」や「進路指導」と並ぶ教育の柱の一つである。実社会で役立つ「使える英語」と、大学受験のための「合格(うか)る英語」。この両輪が生徒の英語力を磨いている。
同校がここ数年、国公立大学や難関大学への合格実績を伸ばしている背景には、基礎力を養うための徹底した「演習」と、年2 回全校生徒で挑戦する「英検まつり」といった「合格る英語」への取り組みがある。速読・作文・文法・単語・熟語などを繰り返し徹底的に学び、毎時間のテストで確認する学習法により、
生徒は着実に基礎力を伸ばしていく。そして、身に付いた英語力の指標として英検を活用している。毎年6月と10月の英検受験の2 週間前になると「英検まつり」と称した活動が行われる。生徒は毎朝25 分間、1 枚20 問の英単語と英熟語のテストを何枚もこなし、クラスごとに英単語・英熟語シートの達成数が掲示される。生徒たちは楽しみながら学び、お互いに刺激し合い、2 級や準1 級、1 級など、各自が目標とする級への合格を目指す。
こうして培った基礎力は、生徒が英語を使う際の自信や意欲につながる。英語を使う場は、校内外に広がる。中学では音楽、美術の実技科目をネイティブ教員から英語で学ぶ「イマージョン教育」が特色であり、高校ではネイティブ教員2 人と日本人教員1 人の3 人体制で行う英語会話の授業がある。昼休み中にネイティブ教員が指導にあたる「グローバルセンター」、英語での校内放送、校内のバイリンガル標示など、日々の学校生活の中で自然に英語に触れ、使う環境を整える。さらに中学では、毎年夏休みに希望者を対象に1 泊2 日で異文化を体験する、日本語禁止の「イングリッシュサマーキャンプ」の開催をはじめ、3年3 学期に全員が参加する7 泊8日のニュージーランド修学旅行がある。さらに、今年度入学者より修学旅行後、希望者がそのまま現地に残り、約3 カ月間現地の学校に通学する「中期留学」制度を設けた。
高校では、2 年夏の英国修学旅行と希望者がそのまま40 日間現地に留まる「短期留学」など、英語の学習意欲を高めるさまざまな行事がある。中でも「特進留学コース」の生徒は、全員が2 年次にニュージーランドで約1 年間の「長期留学」を経験する。入学直後から留学に向けて、クラスが一丸となって留学という目標を目指して準備を重ね、現地ではホームステイまたは寮生活をしながら提携校で学ぶ。ボランティア活動などにも参加し、実用的な英語力を磨くだけでなく、国際的な感覚も養う。留学後は身に付けた英語力を生かして、英検準1 級や1 級に挑戦したり、難関大学合格を目指したりと、クラスで一致団結してお互いを高め合いながら、それぞれの目標に向けて努力を惜しまない。
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英語教育がもたらす「学習の転移」
江川昭夫教頭は「本校の魅力は、①行事が人をつくる②英語の佼成③難関大学合格実績―の3 つ」だとし、さまざまな学校行事により、生徒はクラスごとに一体感を強めながら「小さな成功体験」を積み重ね、努力は必ず報われることを実感していくという。そして、春の体育祭(SF:スポーツフェスタ)と秋の文化祭(乙女祭)という二大行事を通じてクラスの団結が深まった直後に、クラス単位で英単語・英熟語を覚えて成績を競う「英検まつり」を実施することで、生徒たちはクラスの団結力と個々の英語力を高めている。
「行事は人を育てます。『英検まつり』も同様で、生徒たちはお互いに学び合い、教え合いながら合格に向けて努力しています。そして、年間を通じてクラスで行事に取り組むことで、一人一人に自立心が芽生え、一生寄り添える友と出会うのです」と江川教頭は笑みを浮かべる。
さらに「英検は生徒の目標となり、実力を測るのにふさわしい検定試験だと思います。下位級は設問指示が日本語なので、中学生も取り組みやすい試験です。また、保護者の多くの方々も英検の受験経験があるため実施することに理解を示してくださいます」と話す。現在、中学卒業時には準2 級、高校卒業時には3 割以上の生徒が2 級以上の取得を目標としている。昨年度は中学で準1 級に合格した生徒が3 人おり、高校では毎年のように1 級合格者を出しているという。
同校が英語教育に力を注ぐのには理由がある。それは「学習の転移(transfer of learning)」にある。多様な側面から英語教育に取り組みながら、生徒は「英語はやらなければならない教科」という自覚を高め、英検合格などの成功体験の積み重ねにより、英語への苦手意識をなくす。そして、英語が得意科目になることで、学習意欲が高まり、それが他の教科にも転移する。そうして総合的に学力が向上し、国公立大学をはじめ早慶上智やGMARCHなどの難関大学にも合格できる実力が付く。この好循環が、近年の同校の躍進の背景にある。
グローバル社会で生き抜く力を
今年、同校は文部科学省によるSGHの指定校に選ばれた。「英語の佼成」から「グローバルの佼成」へと、さらなる発展を目指す。SGHではグローバルリーダーの育成が求められ、同校はフィールドワークを通して、他民族社会がどのように平和的な発展を遂げるのか、またそれに対して、日本や日本人はどう関わるべきか、といった世界的な課題についての研究に取り組む。特進文理コース内には「スーパーグローバルコース」を設置し、 「異文化研究」と「国際文化」の授業を行う。
江川教頭は「今後は“超英語力”を身に付ける英語教育へと発展させていきたいと考えています。プレゼンテーションやディベート、ディスカッションなども授業に取り入れ、人前で自信を持って話し、相手を納得させる力を培い、グローバル社会で生き抜く力を養っていきます」と、今後への期待を込めて語った。
生徒の声
世界の人々と共に働く日を夢見て
佐藤愛恵さん 3年生
準1級合格
世界の人々と共に働く日を夢見て
小学生のとき、シンガポールで生活したことをきっかけに、英語への興味が湧きました。特進留学コースを選んだのは、英語力をもっと高め、留学もしたいという希望があったからです。準1 級には高校1 年から挑戦し続け、2 年次の留学を経て、今回ようやく合格できました。留学で身に付いたリスニング力を発揮し、「英検まつり」で語彙力を付けたことが合格に結びついたと思います。大学では英語以外の言語も学び、将来は世界の人々と共に働ける環境に身を置きたいです。
どうしても合格したかった準1 級
中山栞里さん 3年生
準1級合格
どうしても合格したかった準1 級
高校2 年の3 学期に準1 級に挑戦するも、1 点足らずで不合格という悔しい結果に。だからこそ、今回はどうしても合格したくて、語彙力を付けながら苦手な英作文にも取り組みました。「英検まつり」は、クラス対抗のため、他のクラスには負けたくない一心でみんなで勉強し、英語力が伸びるので、モチベーションが上がります。次は第2 回検定で1 級に挑戦する予定です。高校卒業後は日本の大学で経営学を学び、中国語やスペイン語も習得したいです。
留学を経て大幅に伸びた英語力
森屋実結さん 3年生
準1級合格
留学を経て大幅に伸びた英語力
高校2 年で1 年間のニュージーランド留学を経験しました。英検2 級に合格しないまま留学したので、現地ではなかなか英語でコミュニケーションが図れず苦労しました。3 カ月めで聞き取れるようになり、6 カ月めで意思を伝えられるようになって、ようやくコミュニケーションが成立するようになったころで帰国。もっと勉強したいという気持ちが高まりました。帰国後はまず2 級に合格し、3 年生で初めて準1 級に挑戦して合格。留学の成果を実感しています。
英検 英語情報 2014年 10月・11月号 掲載