生徒も教員も変えた「英語で行うことを基本とする」授業
創立から111 年目を迎え、長い歴史が息づく奈良県立桜井高等学校。前身は桜井高等女学校であり、祖母・母・娘の3 代で通学する家庭もある。現在は共学校だが、生徒の6 割を女子生徒が占める。文法訳読型の授業から、学習指導要領の求める英語によるコミュニケーション活動中心の授業へと転換していった。
その過程における、英語教員たちの奮闘の様子を振り返ってもらった。
生きた英語に触れてモチベーションを維持
谷垣康校長
「自分で創る自分の未来 ~ Create a bright future formyself」を学校目標に掲げる桜井高校では、進路指導と生徒会活動を学校生活の中心に据え、自律した生徒を育てる。普通科高校でありながら、1 学年8クラスのうち、より専門的な学びに特化した「英語コース」と「書芸コース」を各1クラス設置していることは、特色の1つと言えよう。
谷垣康校長は「『生きた英語を身に付ける』ことを目標に、日本人教員とALTによるティームティーチングを中心に、スピーチやディベート、プレゼンテーションなどの言語活動を取り入れています。また、留学生との交流やイングリッシュキャンプ、シンガポールなどへの修学旅行を通じて、英語学習へのモチベーションを高めています。さらに、英検などの資格取得にも取り組み、2 年次修了までに準2 級、3 年次修了までに2 級取得を目指して事前学習や面接練習を重ねて、合格へと導いています」と説明する。桜井高校では3 年前より文部科学省の研究指定を受け、学年進行で「英語で行うことを基本とする」授業へと転換した。今年度で全学年が「英語で行うことを基本とする」授業を行っているが、英語コースはその中心となっている。
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生徒が主役となる授業で生徒も教員も笑顔になる
中永利法先生(右)と杉浦朝香先生(左)
「英語で行うことを基本とする」授業は、1 年生担当の英語科教員4 名で始め、徐々に全員で行うようになった。「当初は一言一句、50 分の全てを英語で教員が話すことだと思っていた」と振り返る中永利法先生。しかし、実践していくうちに、教員が英語を使うことが重要ではなく生徒がいかに多くの英語を使うか、そして、その英語の質をいかに高めるかが重要であることを理解できたという。
授業は次第に、教員主体の知識注入型の授業から、生徒が主体となって情報や考えや気持ちを伝え合う授業へと生まれ変わっていった。それにより、中永先生が英語で話し活動を促すと、生徒は目をきらきらと輝かせ、笑顔で英語を話し出すようになった。また、ペアワークやグループワークを積極的に取り入れ、生徒が英語を使う機会を増やしていった。
「『英語で行うことを基本とする』授業では、生徒がよく考え、自分の伝えたい内容を持ち、それを伝え合うことが大切だと思います」と中永先生は強調する。
授業改善は英語科教員全員がチームとなって取り組んだ。互いの授業を見せ合い、良い部分は取り入れ、課題とされる部分は解決策を一緒に考える。そして、目の前の生徒たちを見ながら、日々、授業の進め方を変えていった。
「small talk のトピックも共有し、どんな話し方をすれば生徒を引きつけられるかを考えました。時には、教員は役者となって生徒に語りかけ、生徒の発言を引き出し、役者として1 時間の授業を演じ切ることも必要だと思います」と、杉浦朝香先生が言葉を添える。
試行錯誤の日々をチームで乗り切った
授業改善に取り組むにあたり、英語科教員はさまざまな研修会に参加しては指導法を学び、研修会で学んだことを教員同士で共有し、明日からの授業に取り入れた。また、各自が指導法について書かれた書籍を読んだり、さまざまな講演を聞いたりして研究を重ねた。昨年度は、文部科学省初等中等教育局太田光春視学官に5 名の教員の授業を見ていただき助言をいただいた。この貴重な機会は教員の意識改革を促し、授業改善のターニングポイントとなった。
「当時は試行錯誤の日々で、成功しては喜び、失敗しては悩み、一歩ずつ前に進んできました。でも、1 人で取り組んでいるのではないということが心強く、1つのチームとして他の先生方とともに歩み、励まし合いながら、いろいろなことを学んでいきました」と杉浦先生は語る。
内容理解がさらに深まる合いの手リーディング
小さな成功体験の積み重ねが、英語力向上の原動力だ
「英語で行うことを基本とする」授業は、英語コースだけではなく、一般コースや書芸コースでも行っている。課題は、「英語が好きでない生徒の学習意欲をどのように引き上げるか」ということ。教員は全員が発言する機会を作り、英語に対する苦手意識を持つ生徒に、「自分にもできた」「英語が読めた」「英語を聞けた」という小さな成功体験を与え、彼らの「英語を話したい」という気持ちを引き出すことが大切なのだ。
そこで、同校で力を入れたのが「音声指導」だ。さまざまな読み方を取り入れた。教員の後について読む、教科書を見ないで読む、一部分を隠しながら読むなど、生徒が楽しみながら読める工夫をした。なかでも英語科教員たちが独自に名付けた「合いの手リーディング」は、教員が英文を読む時に、Who?”“What?”“When?”“How?”などと英語で問いかけてから、英文を読み、それを意識して生徒が英語でリピートするもの。文の構造をつかみ、和訳をしなくても内容理解を深めることができるのだ。
同校では、本文の和訳を配布することはしない。それは音読活動で生徒が自分で内容を理解し、「英語が読めた」「英語が分かった」という体験をしてほしいというねらいがあるからだ。そして、そのような成功体験を積んだ生徒を教員は褒めたたえ、つまずいている生徒には励ましの言葉をかける。
中永先生は「生徒が主体のペアワークやグループワークを通じて生徒がともに学び合い、成長を喜び合う関係ができます。たとえ、答えを間違えても、勇気をもって発言した生徒を褒め、受け止めるのです。すると『間違えても恥ずかしくないんだ』という雰囲気が生まれ、教員と生徒、生徒同士の親和関係が築かれていくのです」と強調した。
英語の授業が変わり学びへの意識が変わった
こうして英語の授業が変わると、英語の授業外でも良い影響が見られるようになった。ホームルームで生徒が活発に意見交換するようになり、生徒同士で問題を解決しようとする姿勢が見受けられるようになったのだという。また、他教科の教員も積極的に言語活動を取り入れるようになってきた。英語科教員を中心として、学校全体が変わり始めたのだ。
生徒の大学進学への意識にも変化が現れた。以前より英検受験に取り組んできたが、文部科学省の英語教育強化地域拠点事業の指定を受けてからは、当協会による検定料の補助もあり、より多くの生徒が英検を受験するようになった。そして、英検資格を大学入試でも活用しようとする生徒も増えてきたという。
昨年度は英語コースの2 年生39 名全員が準2 級に合格した。3年生になった今年度はすでに半数が2級に合格しており、その中で準1 級に合格する生徒も現れた。このように、英検合格を目標とすることで生徒の英語力が着実に高まっている。
「準1 級に合格した生徒は、自分が進学したい大学の推薦基準に英検準1 級が指定されていたので、積極的に学習に取り組み、合格を勝ち取りました。また、国公立大学の推薦基準となる2 級合格を目指す生徒も数多くいます」と、中永先生は英検による学習効果を説明する。杉浦先生も「本校では就職をする生徒もいるのですが、外国からの観光客に英語で奈良の良さを説明できるようになりたいと英語学習をがんばり、2 級に合格した生徒もいます」と加える。
英語を学び、視野が広がった生徒たちは、将来の可能性も広げている。大学入試は生徒たちにとって、通過点にすぎない。「生徒たちには目的意識を持って英語を学び、生涯にわたって英語を学び続ける姿勢を身に付けてほしい」と谷垣校長は願っている。
英検 英語情報 2014年 12月・1月号 掲載