英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.29 2017

研究部門Ⅰ 英語能力テストに関する研究

ライティング・タスクとCEFR CAN-DOリストとの関係
― タスク困難度からの探求 ―

研究者:神奈川県/神奈川県立白山高等学校 教諭 大井 洋子

▼研究概要
日本人英語学習者の大半は、Common European Framework of Reference for Languages (CEFR) のA1 レベルに属するのではないかと言われている。では、日本の高校生用の英語教科書で扱われているタスクの大半もこのA1レベルに属しているのだろうか。それとも、同Aレベルであっても、タスクによってその困難度に違いはあるのだろうか。本研究の分析対象として、『英語表現I』の教科書7冊を取り上げ、その中から100の英作文タスクを見つけ、CEFRのレベルに分別した。しかし、A1にのみ属するタスクはなく、書き手の実力によって、A1以上のB ・Cレベルのタスクなるものが大半だった。タスクの内容としては、自己を説明的(narrative)に表現するタスクが半分強だった。他者を詳述(describe)するタスクは1割強であり、議論的(argumentative)なタスクが占める割合はわずかであった。また、タスクの困難度についてラッシュ・モデルを使って分析を行った所、自己紹介に関する英作文のタスクの困難度が一番高いことがわかった。これは、他のタスクに比べ、英文の結束性(coherence)を図るのが難しかったからだと推測される。教師は英作文の指導の際に、固定概念に縛られずに、タスクそれぞれの困難度を考えながら、英作文トピックの提示や扱いを工夫することが求められる。

研究部門Ⅱ 英語能力テストに関する研究

日本人英語学習者の回避行動に基づく多面的な言語能力テスト開発のための基礎的検討

研究者:東京都/東京外国語大学大学院 在籍・ 日本学術振興会特別研究 高橋 有加

▼研究概要
名詞の回避現象がどの程度起きているかをCEFR レベル別に明らかにし,学習者の能力測定への回避を考慮した誘引タスクの適用可能性を検討することを目的とする。英語学習者のパフォーマンスをいかに測定するかということが近年盛んに検討されているが,学習者の回避行動をどう考慮すべきかという点は十分な検討がなされていない。本研究では,93名の日本人英語学習者を対象に,同一実験参加者による1)通常の自由英作文,2)関係詞を使うよう指示した英作文,3)関係詞を誘引するテスト, の3つを用い,関係詞の使用傾向をCEFR レベル別に比較した。調査の結果,1)通常の英作文では産出されなくとも, 使うように指示があれば産出される関係詞が大幅に増加すること,2)関係詞のエラー率がレベル判定に役立つことから,誤りを恐れて回避していると考えられる中間レベルがあること,3)英作文には出てきにくい項目がレベル判定に有効であること,4)回避の様相はレベルが上がるにつれて変化することが明らかとなった。これらの結果をもとに,より的確に英語力レベルを推定できるテストの可能性を考察する。

研究部門Ⅲ 英語能力テストに関する研究

CONTRIXを用いた実践的コロケーション知識の測定
― 頻度とcongruencyの観点から ―

研究者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 多田 豪

▼研究概要
本研究は,実用レベルに近いコロケーション知識を測定するテスト形式の1つであるCONTRIX(Revier, 2009)を用い,日本人英語学習者のコロケーション知識を測定した。コロケーションの学習難易度は使用頻度や一致性(語の組み合わせが日本語と同じか否か)などによって左右されることが知られているが,より具体的に,どの程度の使用頻度がどの程度の語彙熟達度に対応するかといった,学習や評価の指針に貢献するような知見はいまだ得られていない。本調査では日本語と一致するコロケーションと一致しないコロケーションをCONTRIX 形式で出題し,同時に行った語彙サイズテストとのスコアのリンキングを通じ,語彙熟達度の各発達段階で問うべきコロケーション知識に関する示唆を与えることを目的とした。しかし,分析の結果からは使用頻度と項目難易度の間に対応が見られず,この結果は協力者の熟達度を問わず同じであった。このことから,コロケーションの使用頻度による学習順序や難易度への影響は単語の場合ほど支配的でなく,使用頻度により難易度を推定することが不適切となりうる可能性が示唆された。

実践部門Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

音声学に基づく, ICTを活用した小学校外国語活動での発音評価システムについて
― 音声分析ソフトPraatを活用した評価と指導 ―

研究者:兵庫県/姫路市立八幡小学校 主幹教諭 岡本 真砂夫

▼研究概要
小学校においてICT 機器を活用して発音指導を行い,音声分析ソフトPraat を活用して児童の発声を評価した。[?] 音は日本人にとって発声が難しいが使われる頻度が高く,学習する価値が高いと考え,[?]に焦点を絞った。発音指導の授業では,Praat のVowel エディタ機能やタブレット型パソコン等を活用した。またフォルマント値を入力することで調音点が表示されるエクセル教材を作成した。パソコン教室では児童にPraat とエクセル教材を操作させ,調音点を意識しながら練習をさせた。授業実践後,児童158名の音声からフォルマント値を算出し,発音を評価した。児童の音声を分析するための設定値を発見することができ,全員の音声を客観的に把握することができた。また,調音位置図を児童に渡すことにより,発音を上達させるための形成的評価を行うことができた。Praat は学校で活用できる可能性が高いソフトウェアであることが確認された。

実践部門Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

聴覚障がい生徒に対する日本手話を用いた英語指導法の開発

研究代表者:東京都/明晴学園中学部 教諭 岡 典栄

▼研究概要
本実践研究は主として特別支援学校((聴覚障害):以下ろう学校)中学部・高等部に在籍する聴覚障がいを持つ生徒に対する,手話を用いた英語指導法の開発を目指したものである。 日本の公立ろう学校においては,基本的に手話を教室内で指導言語として用いる教科指導は行われておらず,英語の授業も他教科同様,基本的に音声日本語で行われ,それを補助するために単語レベルでのアメリカ手話(ASL),指文字の使用や板書の多用等が行われている。従来の教育法では,学年相当の英語指導が行われなかったり,英語の初級文法の知識ですら,最低限の理解もできていないことがある。その結果,ろう生徒・成人の中には英語を苦手とする者が多い。本研究では聴覚障がい当事者の成人から聞き取りを行い,中学校の学年配当の語彙,文法にこだわらない,手話を媒介とする英語教材を試作した。それを複数の異なるろう学校に通う,中・高の学年の異なる生徒に試してもらい,その効果を検証した。現時点では2課分に相当する教材しか作成できておらず,その効果が確認できる状態には至っていないが,理解の向上と苦手意識の軽減は見られるので,今後さらに教材の数を増やし,指導を重ねることによって,定着に結びつけられることが期待される。

実践部門Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

聴覚障がいをもつ生徒の英単語の読みと綴りの関係性理解向上のための自作デジタル教材の作成と活用

研究代表者:千葉県/筑波大学附属聴覚特別支援学校中学部 教諭 廣瀬 由美

▼研究概要
聴覚に障がいをもつ生徒の中には英検3級一次試験に合格する力を身につけているにもかかわらず,音読の誤りが多い生徒もしばしば見られる。また,t とf,t とr,dとcl といった,視覚的な類似性はあるものの英単語の読み方を意識していれば起こらないであろう綴りの誤りもよく見られる。また,通常の中学生と同様,英単語はローマ字と比べ音と綴りの間の関係性が複雑なため,英単語習得につまずきを覚え,学習への意欲を無くしていくこともある。そのような状態を改善するために,英単語習得の際に音声情報と文字情報を関連付けていくことで効果的に学習を進めることができることに気づかせ,英単語をよりスムーズに習得させることを目指し,フォニックスを活用した教材の試作版を作成した。本研究では,試作版の教材を聾学校の英語教育に関わる教員に公開し,アンケート結果を元に改善点を考察し,教材の修正を行った。生徒自身がより主体的,積極的に英語学習に取り組めるように検討し,新たに追加した演習編,応用編の拡充や修正,教材の効果の客観的な検証が課題となった。

調査部門Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

英語の照応表現に対する記憶方略及び保持へ多重知能(MI)が及ぼす影響

研究者:群馬県/共愛学園中学・高等学校 教諭 亀山 孝

▼研究概要
本研究では,扱う英語の照応表現(以下照応表現と呼ぶ)を前方照応と後方照応,橋渡し推論に限定した。また,本研究への協力者を英語力テストの結果に応じて,上位群と下位群に分けた。そして,両群に対して独自の14種類に絞った記憶方略が照応表現に関するテストに対してどの程度用いられたのかを調べた。その結果,両群において用いられた記憶方略の比較では,下位群の方に記憶方略をやや多く用いる傾向が確認できた。また,各記憶方略とGardner (1983, 1993, 1999)により提唱された8つの多重知能(MI)との関係を調べた結果,限定的ではあるが統計的に有意な相関が認められた。その統計結果から,上位群では多重知能が記憶方略に多く関係することが分かった。さらに,両群の間ではワーキングメモリ容量の違いに有意差が認められ,上位群のワーキングメモリ容量が,下位群のそれと比べ大きいと判断された。しかし,両群において,ワーキングメモリ容量と照応表現テスト結果の間には統計的に有意な相関は確認されなかった。

調査部門Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

英語学習に対するDirected Motivational Current(DMC)の形成及び減衰過程の探索的研究

研究者:新潟県/長岡市立東北中学校 教諭 野口 裕太

▼研究概要
「成功する外国語学習者とそうでない外国語学習者を分けるものは何であろうか」この問いに対して,これまでに様々な研究がなされてきた。この問いに,心理学的な観点から迫った研究があった。学習者の動機づけに着目し,どのようにすれば学習者が自律的に学習をし続けるのかを明らかにしようと試みてきた。 第二言語(L2)学習の動機づけ研究として,Dynamic Systems Theory(DST)に基づいた研究がこれまでに数多くなされてきた(D?rnyei,2 0 0 9 ; L a r s e n - F r e e m a n , 2 0 0 7 ; W a n i n g e ,D?rnyei, & De Bot, 2014)。これにより,L2学習者の言語学習への動機づけが様々な要因により常に変動しているということが明らかになった。しかしながら,自律した学習者を育成するためには,より長いスパンでのL2学習者の言語学習への動機について調べることが必要となった。Muir and D?rnye(i 2013)はこれまでのL2動機づけ研究で,そのことが調べられていないことを指摘し,Directed Motivational Current (DMC)という概念を提示し,長期のL2学習者の言語学習への動機のメカニズムを解明しようと試みた。 日本ではまだDMC の調査が行われておらず,日本人英語学習者にDMC が存在するのかどうかまだ実証的に確かめられていない。また,成人ではなく思春期のL2学習者にDMC が存在するのかについても実証的に確かめられていない。自律した学習者を育てるためには,DMC の存在が重要であり,まずは日本人英語学習者にもDMCがあるのかどうかを実証的に確かめる必要がある。 本研究の目的は,日本人中学生の英語学習に対するDMC 形成と減衰の特徴を明らかにすることである。具体的には,次の3点である。(1)日本人中学生は英語学習に対してDMC を形成するのかどうかを明らかにする。(2)もしDMC が存在するとするならば,何がDMCの形成に影響を与えたのかを明らかにする。(3)同様に,何がDMC の減衰に影響を与えたのかを明らかにする。

調査部門Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

英語スピーキングテストに関するJTEとALTの意見から見えてきたこと
― 高等学校の教育現場における調査と分析 ―

研究者:兵庫県/兵庫県立武庫荘総合高等学校 教諭 柳瀬 学

▼研究概要
本研究はスピーキングテストの発音評価基準に関する意見を学校現場の教師から集め,今後の発音指導に役立てる目的で行われた。調査対象は日本の高校現場で教える日本人英語教員(JTE)と外国語指導助手(ALT)の計76名で,18項目から成る質問紙を用いて調査を実施した。 結果,以下の3点の特徴が確認された:1.JTE は高校生の「単語」の発音の間違いに関してALT よりも有意に厳しい評価をする 2.ALT は高校生の「音素」の発音の間違いに関してJTE よりも有意に厳しい評価をする 3.「フレーズ」と「文」の発音の間違いに関しては,JTE とALT は, 同程度に寛容性が高い JTE が「単語」の発音を重視する要因としては,現行の大学入試問題に影響を受けていることが予想され,一方,ALT が「音素」,すなわち音の最小単位の発音に重点を置く要因としては,それが日本人の発話内容の誤解を生み出す原因になっているためだと予想される。ここから得られる教育的示唆として,高校生が正確に発話内容を伝達できるようになるため,「音素レベル」での発音テクニックを正しく指導できるJTE の育成が提言される。

調査部門ⅣⅠ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

英語多読導入期に用いる多読図書におけるYL指数とLexile指数の相関調査
― 両指数の教育・学習上の特性の整理とともに ―

研究者:静岡県/沼津工業高等専門学校 准教授 藤井 数馬

▼研究概要
本研究は,日本人英語学習者にとっての英文の読みやすさを示したYL(Yomiyasusa Level)による指数と,語彙や構文の複雑さ等を基準にして読解力及び文章の難易度を示すLexile? による指数との相関を調査し,両指数間の換算値を提案するとともに,それぞれの指標の特性を英語多読指導の観点から論じるものである。本研究では,英語多読導入期や初期の段階で用いられる代表的な多読図書のシリーズとして,Graded Readers から10シリーズ444冊,Leveled Readers から11シリーズ1,596冊,児童書から14シリーズ278冊,合計で35シリーズ2,318冊を調査対象とし,それぞれのLexile 指数を,Lexile Titles Database とLexile Analyzer を用いて調査した。その後,調査対象の多読図書に割り当てられているYL 指数を基準にして(具体的にはYL 0.1~ YL 3.3の各値で),Lexile の平均値を算出した。さらに,両指数間の相関係数をシリーズごとに調査し,調査対象図書全体において両者の間に強い相関が見られることを確認した上で,平均値,中央値等を参照し,YL=Lexile 換算表を試案として作成した。最後に,英語多読指導の観点から,それぞれの指標が持つ教育・学習上の特性を整理し議論する。

調査部門Ⅴ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

学習者の性格が英語運用能力に与える影響:認知行動水準を媒介とした教育的配慮

研究代表者:東京都/早稲田大学 教育・総合科学学術院 助手 安田 利典

▼研究概要
本研究では,学習者の性格(開放性,良識性,外向性,協調性,情緒不安定性)が英語運用能力(発話の複雑性,正確性,流暢性)に与える影響を考察する。特に,認知行動水準(創造性,メタ認知)を媒介としたモデルの作成を試みる。EFL(English as a Foreign Language)環境の日本人英語学習者( 大学学部生)87名に対し,英語スピーキング課題( 英語運用能力),認知課題(創造性),質問紙(性格,メタ認知) を行い,重回帰分析を用いてモデルを作成した。その結果,性格から英語運用能力への直接的影響,および認知行動水準を媒介とした間接的影響の両者が明らかとなった。例えば,間接的影響として,興味が広く好奇心が強いほど(開放性),連鎖的に発想を増やしていく思考が可能であり(創造性),そのような思考が可能であるほど発話速度が速いこと(流暢性)が明らかになった。それぞれの影響について考察し,教育実践的な配慮についても述べる。