英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.37 2026

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

英語 4 技能のパフォーマンスにおける明示的知識,自動化された明示的知識,および暗示的知識の相対的重要度の解明

大阪府/大阪星光学院中学校・高等学校 教諭 石原 健志

▼研究概要
本研究は,日本の中学生を対象に,文法知識の種類(明示的知識・自動化された明示的知識・暗示的知識)が英語4技能にどのように寄与するかを検討した。私立中学校2年生175名を対象に,文法性判断テストと意味性判断テストを用いて各知識を測定し,英検 CSE スコアを技能の指標とした。構造方程式モデリングの分析の結果,自動化された明示的知識は,受容(聞く・読む)および産出(話す・書く)の両技能に安定して有意な正の影響を示した。一方,明示的知識は技能に直接的には影響しなかったが,自動化された明示的知識への正の影響を通じて媒介的に技能を支えていた。暗示的知識は,いずれの技能に対しても有意な寄与を示さなかった。これらの結果は,Skill Acquisition Theoryが示す「明示的知識が練習によって自動化され,実際の言語使用に結び付く」という発達的プロセスを支持するものである。教育的には,文法規則を単に理解させるだけでなく,素早く正確に運用できるよう繰り返し活用する練習設計が重要であることが示唆された。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

高等学校の観点別学習状況の評価における教室内英語テストの妥当性検証と改善

神奈川県/神奈川県立七里ガ浜高等学校 教諭・東京都/東京学芸大学連合大学院 在籍 大鋸 雄介

▼研究概要
本研究では,Kane(1992)が提唱し,Chapelle et al.(2008), Chapelle and Voss(2021)が発展させた論証に基づく妥当性検証アプローチ(argument-based approach to validation)を用いて,教室内英語テストの妥当性を,七つの推論のうちの領域定義推論(Domain Definition Inference)及び波及効果推論(Consequence Implication Inference)の観点から検証することを目的とした。具体的には,筆者の勤務校において,英語科教師への質問紙調査,生徒への質問紙調査,言語テスト分野の専門家による文書レビューを実施した。その結果,教師は授業や教科書との整合性を重視してテストを設計している一方で,単元計画や Can-do リストとの接続には課題が見られること,構成概念への理解にばらつきがあることが明らかとなった。また,生徒質問紙調査により,定期試験がリーディングや語彙・文法の領域に対する学習動機づけに一定の影響を及ぼしていることが示された一方で,リスニングについては波及効果が限定的であり,配点や出題の有無が学習行動に影響している可能性が示唆された。これらの知見は,論証に基づく妥当性検証における領域定義推論及び波及効果推論の前提を支持する証拠の一部を提示しつつも,教室内テストに内在する課題を提示するものであり,高等学校における教室内英語テストの妥当性論証の構築に寄与するものである。一方で,その他の推論に関する証拠は本研究の範囲外であり,それらを今後の研究で補完することで,より包括的な妥当性検証が達成されると考えられる。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

生成 AI を用いたルーブリック評価の妥当性と可能性の探究:教員評価と生成 AI による評価の比較研究

高知県/高知県立室戸高等学校 教諭(申請時:米国/ハワイ大学マノア校大学院 在籍) 大和田 彩

▼研究概要
本研究の目的は,高校生の英作文に対する従来の教員による評価(以下,教員評価)と,生成AI(ChatGPT)による評価結果を比較し,生成AI を活用したルーブリック評価の妥当性と可能性を検証することである。近年,生成AI を教育評価に活用することで,評価の効率化や公平性の向上が期待されているが,その評価結果が教員評価とどの程度一致するのか,またAI 評価に特有の傾向が存在するのかについては,十分に検証されていない。本研究では,高校生30名の英作文を対象に,教員20名による評価とChatGPT の評価を比較した。分析の結果,文法・語彙・構成といった形式的観点ではAIと教員の評価が高い一致度を示すことが確認された一方で,主体的態度といった主観的観点では,AI は教員よりも過小評価する傾向がみられた。さらに,Technology Acceptance Model(TAM)に基づくアンケートでは,教員はAI の有用性や効率性を一定程度認めつつも,「主観的観点の判断は人間が担うべき」とする慎重な姿勢が示された。

研究部門 IV 英語能力テストに関する研究

基本的心理欲求の充足が小学校における外国語学習の楽しさと学習者エンゲージメントに与える影響

大阪府/関西大学大学院 在籍 中西 洋平

▼研究概要
2020年度の小学校学習指導要領改訂により,小学校5・6年生に外国語科が導入された。このような改訂の背景,また,第二言語習得分野において児童を対象とした実証研究の数に限りがある現状を踏まえ,本研究では,日本の小学校5・6年生の計369名を対象に,基本的心理欲求の充足が外国語学習の楽しさを媒介してエンゲージメントに及ぼす影響を検討した。分析には,理論検証を目的とした共分散構造方程式モデリングではなく,モデルの予測に重点を置く部分最小二乗構造方程式モデリング(Partial Least Squares Structural Equation Modeling)を用いた。得られた結果より,基本的心理欲求の充足が外国語学習の楽しさの三つの因子それぞれに有意な影響を与え,さらに外国語学習の楽しさがエンゲージメントに影響を及ぼすことが示された。一方で,モデルに含まれる基本的心理欲求,外国語学習の楽しさ,エンゲージメントの各要因については弁別的妥当性が十分に担保されず,児童を対象に複雑なモデルを検証することの難しさも明らかとなった。

研究部門 V 英語能力テストに関する研究

多肢選択式読解問題における本文の語を含む割合を調整した正答選択肢の調査 ― 生成 AI を用いた選択肢の作成方法の検討 ―

千葉県/千葉大学大学院 在籍 若松 千智

▼研究概要
本研究の目的は,多肢選択式読解問題の正答選択肢における「本文の語を含む割合」を調整した場合,項目正答率・自信度・弁別力のそれぞれがどのように変化するのか検証することである。また,テスト作成者である教員の負担軽減のために,生成AI を用いた効率的な選択肢の作成方法を検討した。英検2級の読解問題(オリジナル)と,正答選択肢のみを生成AI で再作成した問題(パラフレーズ)の二種類のテストを国立大学・大学院に所属する65名に実施した。その結果,本文の語を含む割合を低くした正答選択肢を用いた場合,自信度・弁別力ともに有意差は見られなかった。一方で,本文中の語を多く含む正答選択肢を用いた場合と比較して,正答選択肢に含まれる本文中の語の割合が低い場合には,項目正答率が有意に低下することが確認された。また,いずれのテストにおいても高い信頼性が示された。以上より,生成AI を用いたパラフレーズは項目の信頼性や弁別力を損なわずに活用可能であり,効率的な問題作成に有用な可能性が示唆された。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

高等学校における CLIL を用いた思考力・表現力を養う授業の開発と評価

英国/ウォーリック大学大学院 在籍(申請時 大阪府/港南造形高等学校 教諭) 出尾 美由紀

▼研究概要
本実践研究では,高等学校において,内容言語統合型学習(Content and Language Integrated Learning:以下 CLIL)の枠組みと,対話型鑑賞(Visual Thinking Strategies:以下VTS)を取り入れた英語授業を開発・実践し,生徒の思考力と表現力の向上にどのように寄与するかその効果を検証した。特に,英語が苦手な生徒でも取り組みやすいように,段階的な思考的・言語的スキャフォールディング(足場かけ)を授業に組み込み,英語による絵画鑑賞タスクを実施した。事前・事後タスクにおける発話を質的に比較分析した結果,理由や根拠を伴う説明の増加,創造的・推測的発話の活発化,生徒同士の協働的な対話や構文的多様性の拡大が見られた。これらの変容は,語彙や文法の習得にとどまらず,英語による論理的かつ相互的な対話能力の向上を示しており,開発したVTS 活用授業が高校生の思考力・表現力育成に有効である可能性を示唆している。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

教科横断型英語指導によるaudience awareness と語彙の育成 ― 家庭科との横断を通して ―

阪府/大阪教育大学附属池田中学校 教諭 鳥居 敦子

▼研究概要
本研究の目的は,教科横断型英語学習により,(1)生徒のライティングにおけるaudience awareness が向上し,かつ,別ジャンルのライティングにもそのaudience awareness は転移するのか,(2)生徒の語彙の幅は向上するのか,を検証することである。大阪教育大学附属池田中学校の中学1年生が6か月にわたり,教科横断型英語学習によるライティングの授業に参加した。生徒の事前· 事後の意識調査やライティング課題を分析した結果,教科横断型学習は教科内容を自然に統合でき,現行カリキュラムの枠内でも十分実践可能であることが明らかになった。また,アンケートや作文分析からは,生徒のaudience awareness に肯定的な変容が見られ,他者を意識した語彙の使い方や構成の工夫が増加した。さらに,一部の生徒では語彙の多様性にも伸びが認められた。これらの結果は,教科横断型英語指導が生徒の表現力の向上に有効であることを示唆している。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

イントネーション指導を統合した音読活動:発話のComprehensibilityと語彙保持に及ぼす効果

東京都/東京大学教育学部附属中等教育学校 教諭 根子 雄一朗

▼研究概要
本研究では,日本語を母語とする高校生を対象に,明示的なイントネーション指導を統合した音読活動の効果を検証した。リズム・強勢・イントネーションの指導を行った介入群とリズム・強勢のみの指導を行った対照群を比較し,実験1で発話のComprehensibility への効果を,実験2では語彙保持への効果を測定した。実験1の結果,両群とも発話のComprehensibility が有意に向上した。既習の文章の読み上げ課題では両群に有意差は見られなかったものの,初見文章の読み上げ課題では介入群が対照群を有意に上回った。一方,実験2では,低得点層において対照群が介入群と比べ有意に高い成績を示した。これらの結果から,イントネーションの統合的指導は未知の文脈における発話のComprehensibility の向上に有効である一方,学習者の習熟度や教材の難易度に応じた指導の設計が重要であるという教育的示唆が得られた。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

個別最適な学びを実現する複線型の英語科授業を志向した探究的実践

愛媛県/弓削商船高等専門学校 助教 濱田 活仁
愛知県/豊田工業高等専門学校 講師(申請時:広島県/広島大学大学院 在籍) 新美 徳康
茨城県/筑波大学大学院 在籍 福光 将仁

▼研究概要
本実践は,ライティングの「構想- 執筆- 修正」という一連のプロセスを経て意見文を書き上げる活動(プロセス・ライティング活動)において,学習者が各段階の学び方を選択する「複線型」の授業形態は,指導者が各段階の学び方を指定する「単線型」や「準複線型」の授業形態に比べて,学習者集団,学習者個人におけるライティングの質やライティング方略の変容にどのような違いをもたらすのかを把握することを目的とした。高専2年生3クラスに「単線型」,「準複線型」,「複線型」の授業形態を割り当て,2回の授業実践を行った。その結果,プロセス・ライティング活動による「複線型」授業は,「単線型」授業に比べると学習者集団におけるライティングの質の向上に一定の効果があることが示された。一方で,ライティング方略の使用の増大にはほとんど効果が示されなかった。また,「複線型」授業でライティングの質が向上していない学習者の一部には,単一の観点から単一の学び方を繰り返し選択して使用している特徴が発見された。本実践から,学習者が複数の観点から複数の学び方を選択して使用し,自身の学習スタイルを拡張していく意義が示唆された。

実践部門 V 英語能力向上をめざす教育実践

高等学校のライティング指導における生成 AI の活用とその効果 ― 機能的適切さ(Functional Adequacy)に着目して ―

神奈川県/神奈川県立総合教育センター 指導主事(申請時 神奈川県立藤沢工科高等学校 教諭/横浜国立大学教職大学院 在籍) 渡邊 大志

▼研究概要
本研究は,高等学校における英語ライティング指導において,生成AI を活用した学習が学習者のパフォーマンス,とりわけ「機能的適切さ(Functional Adequacy)」に与える効果を検証することを目的とした。神奈川県内の公立高校1年生356名(分析対象214名)を対象に,事前・事後テスト,生成AI を活用した練習課題,およびアンケート調査を実施した。評価は教師3名とGoogle Gemini により,機能的適切さの4観点(内容・タスク達成度・理解のしやすさ・一貫性と結束性)に基づき行った。分析の結果,教師評価とAI 評価の間には中程度の相関が認められた一方,AI は一貫して高めに評価する傾向があった。混合計画分散分析では「内容」で時間×練習の交互作用が有意となり,練習あり群のみで事前から事後に有意な向上が見られた。他の観点では時間効果は一部認められたものの,練習効果は限定的であった。アンケート調査では,効率性・即時性・気づきの促進・心理的安心感が肯定的に評価される一方,英語の基礎力不足やAI 依存への懸念も示された。以上より,生成AI は機能的適切さに基づくライティング指導の補助的ツールとして有用であり,その効果を最大化するには,教師による足場かけと批判的活用を促す指導デザインが必要であることが示唆された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

動機づけ方略に対する英語教員の認識と実際の使用の関係についての考察

大阪府/大阪公立大学工業高等専門学校 講師・大阪府/関西大学大学院 在籍 川光 大介

▼研究概要
外国語(L2)学習者の動機づけを高めるためにL2教員が行う働きかけは,「動機づけ方略(Motivational Strategies; 以下,MS)」(Dörnyei,2001)とよばれる。先行研究から,L2教員のMS 使用には様々な要因が影響を及ぼすことや,その要因は教育環境によって異なることが指摘されている。本研究では,近畿の工業高等専門学校(高専)で英語の授業を担当する教員を対象に2つの調査を行い,彼らのMS 使用に影響を与える要因を検討した。調査1では,MS に関する先行研究と同様,当該高専の英語教員が特定のMS を効果的だと認識していても,その認識が必ずしも実際のMS 使用につながっていないことが明らかになった。さらに調査2では,英語教員のMS 使用に影響を与える要因として,先行研究で示されている要因に加え,調査の対象とした高専特有のものと考えられる要因もあることが明らかになった。