英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.30 2018

研究部門Ⅰ 英語能力テストに関する研究

英文読解におけるモニタリング能力の測定
― 一貫性と結束性の比較を通して ―

研究者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 小木曽 智子

▼研究概要
本研究では,テキストの言語的なつながりである「結束性」と,テキストの内容的なつながりである「一貫性」という2つのテキスト特性に焦点を当てた。2つの調査により,英検の過去問長文テキストの特性を明らかにし,そうした特性を学習者がどの程度モニターしているかを検証した。 調査1では,英検1級から3級までの長文読解問題で使用されるテキストを対象に,テキストの特性(e.g., 結束性)やテキストの読みやすさが受験級によってどのように異なっているかを分析した。結果より,級が上位になるほど,結束性が低くなっていることが示された。調査2では,学習者がテキスト読解時にテキストの特性(i.e., 結束性, 一貫性)に気づいているかどうかを,結束性・一貫性の高い/ 低いテキストを読んだ際の,テキスト特性判断課題の評定値から調査した。結果より,読み手は,結束性はモニターしていないものの,一貫性に関してはモニターしていることが示された。また,一貫性のモニターに関しては,読み手の熟達度によって,読解時の処理が異なることが思考発話の質的分析から示唆された。

研究部門Ⅱ 英語能力テストに関する研究

多肢選択の解答パターンに基づく未知語推測プロセス診断:
形態素・文脈情報の活用から

研究者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 ・ 日本学術振興会特別研究員 神村 幸蔵

▼研究概要
本研究では,英語学習者の未知語推測中に利用される情報に焦点を当て,解答パターンから学習者の従事する未知語推測プロセスを判断することができる多肢選択式テストの作成について示唆を得ることを目的に調査を行った。具体的には,選択肢の内容に目標語中の形態素,特に接頭辞の意味が反映されているもの(形態素情報)と選択肢の内容が問題文の文脈に合致するもの(文脈情報),これらの情報を掛け合わせたもの,そしてこれらの情報がまったく利用できない選択肢を持つ多肢選択式問題を作成した。学習者が目標語を推測した後に選んだ選択肢によって学習者が未知語の意味推測に抱える困難を解明することを目的とした。先行研究の知見を踏まえ,手がかりの使用に影響を与える要因として学習者の語彙サイズと英文読解熟達度を考慮した。結果から,形態素・文脈情報の利用可能性,多肢選択式未知語推測テストの選択肢の選ばれる傾向および学習者の語彙サイズの間に関係性が明らかとなった。また,本研究の結果から,多肢選択式未知語推測テスト作成と教育現場に対する示唆が得られた。

研究部門Ⅲ 英語能力テストに関する研究

RTWタスクにおけるEBBルーブリックの有用性
― 外部英語試験への架け橋 ―

研究者:福島県/福島大学大学院 在籍 久保田 恵佑

▼研究概要
本研究は,技能統合的ライティングタスクの採点における妥当性や診断的機能を高める方法の検討を目的とし,TEAP(Test of English for Academic Purposes )のRTW(Reading-to-WriteTask)タスク(ライティングタスクB)向けのEBB(Empirically derived,Binary-choice, Boundary-definition scale)ルーブリックを作成し,多相ラッシュ分析を用いて得点化推論と波及効果推論について妥当性検証を行った。そして,TEAP ルーブリック(Weir. 2014,pp. 16-20)と比較した際の診断的機能についても検証を行った。
その結果,本研究にて作成されたEBB ルーブリックは,(1)得点化推論において,7個の前提のうち4個の証拠を提示できた,(2)波及効果推論において,2個の前提のうち2個の証拠を提示できた,(3)TEAP ルーブリックに比べて診断的評価に適している,ということが示された。 本研究から,EBB ルーブリックは,TEAP ライティングタスクB において,(1)採点の信頼性向上に寄与する,(2)採点のしやすさや採点結果の解釈のしやすさ向上に寄与する,(3)TEAP ルーブリックに比べて診断的フィードバックを受験者に与えるのに適している可能性があることが示唆された。

研究部門Ⅳ 英語能力テストに関する研究

スピーキング練習における特定文法項目に焦点を当てた
直接的修正フィードバックの効果検証

研究者:愛知県/名古屋大学大学院 在籍 小林 真実

▼研究概要
本研究の目的は,英語のスピーキング指導における焦点化修正フィードバックの効果検証である。教師が学習者に多くのフィードバックを与えた場合,アップテイクにつながらないとの指摘がある(Truscott,1996,1999)。本研究は,動詞の過去形に焦点を当てた焦点化修正フィードバックと,動詞の過去形,定動詞の欠落,目的語の欠落,前置詞の欠落,能動態のエラー,受動態のエラーについて修正フィードバックを行う非焦点化修正フィードバックの効果を比較し、学習者の文法的正確性に効果的な修正フィードバックを検証した。実験参加者を3群に分けて,焦点化修正フィードバックを与える実験群,非焦点化修正フィードバックを与える比較群,修正フィードバックを与えない統制群を設けた。その結果, 事前テストと3,4週間後の遅延事後テストの比較において,動詞過去形のエラーの減少は有意傾向がみられたが,3群の差はみられなかった。

研究部門Ⅴ 英語能力テストに関する研究

パラフレージング・レベルによる錯乱肢の作成
― 誤答分析に基づくテキスト理解度の診断に向けて ―

研究代表者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 政所 里佳

▼研究概要
本研究では,パラフレーズ質問の選択肢における言い換えの程度について,原文の語句を含む割合であるパラフレージング・レベルの観点から,現状の調査および実証研究を行った。調査1では現行の読解テストのパラフレーズ質問の選択肢を対象に,記述と英文中の語が重複している程度について比較した結果,パラフレージング・レベルが低い選択肢の割合はテスト間で異なることがわかった。調査2では,パラフレージング・レベルに基づいて選択肢を作成した読解問題を実施した結果,正答・誤答選択肢の組み合わせによる選択率と魅力度への影響は,テスト得点群によって異なることが示された。テスト得点がより低い受験者は,正答選択肢のパラフレージング・レベルが低い場合に,よりレベルが高い錯乱肢を多く選択し,魅力的だと判断する傾向が見られた。結果より,パラフレーズ質問の選択肢作成には,文章中の記述を含む割合や選択肢間の関係性を併せて検討することが重要であると示唆された。

実践部門Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

CAN-DOリストとCAN-DO Check Sheetの導入が高校生英語学習者の
自己調整学習と英語力向上に及ぼす効果

研究者:兵庫県/兵庫県立川西緑台高等学校 教諭 津田 敦子 (申請時:神戸大学附属中等教育学校 教諭)

▼研究概要
本研究では,4年生( 高1)のコミュニケーション英語Ⅰの授業において,自律的学習に効果的であると考えられるCAN-DO リストとCAN-DO Check Sheet を導入し,認知・行動・情意面を包括した概念である自己調整学習と英語力の変化を調査した。4年生全員に自己調整学習に関する質問紙調査を3回実施し,実践を行ったクラスの生徒(実験群)とそれ以外の生徒(統制群)の変化を比較した。その結果実験群の生徒の平均値は統制群の生徒よりも高くなったことから,CAN-DO リストとCAN-DO Check Sheet の活用が,自己調整学習者の育成に有効であることが検証された。また本実践で使用したCAN-DO Check Sheet やReflection Sheet の記述内容や自己評価を分析したところ,生徒は自分に厳しくなり過小評価しがちで自己効力感を失っていく可能性があることも明らかになった。そこからCAN-DO リストとCAN-DO Check Sheet を導入する際には,ただ導入するだけでなく「できる感」を実感させる配慮や工夫が必要であるという教育的示唆を得た。

実践部門Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

ルーブリックを用いて段階を踏んだ、継続的なスピーキング活動の実践

研究者:埼玉県/川口市立県陽高等学校 教諭 鶴田 京子

▼研究概要
本研究は「話すこと」の指導にルーブリックを活用して段階的に指導を行った実践報告である。「話すこと」を「発表」,「やりとり」の2つの領域に分け,2種類の質問を帯活動で継続的に扱った。本校の生徒の実情に合わせた評価項目,評価基準を設定しルーブリックを作成した。ルーブリックは生徒と共有し,毎時間評価項目から1つ焦点をあて教師は生徒に意識させるように支援を行い「話すこと」の活動を実施した。活動後に自己評価を行い,実技テストまで自己評価を継続した。
事前,事後で行ったスピーキング抵抗感尺度では有意な差は見られなかったが,取得級,項目別の分析では差が見られる部分があった。自己評価は回を重ねるごとに評価が上がっており,自由記述からも継続的な活動が生徒の自信になっていることがわかり,自己肯定感を高めることにつながる指導の可能性になると考える。

実践部門Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生を対象にした「書くこと」に焦点をあてた協働学習が
英文エッセイにおけるCEFRレベル別語彙使用に与える効果

研究者:愛媛県/愛媛大学附属高等学校 教諭 三好 徹明 (申請時:愛媛大学付属高等学校 教諭)

▼研究概要
本実践研究は,協働学習の一形態であるピア・レスポンスによる相互評価活動とそのあとに行ったリライト活動が英文エッセイにおけるCEFR レベル別語彙使用に与える効果の定量的分析を目的とする。筆者は「国際理解」をテーマに設定した英文エッセイの作成を夏休み課題(プレタスク)と冬休み課題(ポストタスク)として与え,それぞれのプロダクトを両方とも完成させた90名の日本人高校生に電子データで提出させた。ポストタスクの英文エッセイについては,プレタスクの英文エッセイをリライトしたものを提出させた。プレタスクとポストタスクにおける英文エッセイのプロダクトの使用語彙を,English Profile で公開されているText Inspector によって,CEFR の6レベル(A1~ C2)の語とレベル付けされていない語(Unlisted)に分類した。そのあと,プレタスクとポストタスクの英文エッセイにおけるCEFR A1からC2までの語彙数に関して,上位・中位・下位の成績群別に分析を行った。結果として,ピア・レスポンスとリライト活動のあとでは,CEFR A レベル,特にCEFR A2レベルの語彙が有意に増えており,成績上位群・中位群・下位群のいずれの参加者も読み手に分かりやすい単語を使用したことが示唆された。

調査部門Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

LFCにおけるcore項目の学習:日本人英語学習者に関する音響分析

研究者:神奈川県/慶應義塾高等学校 教諭 北川 彩

▼研究概要
本調査の目的は,日本人英語学習者が共通語としての英語(English as aLingua Franca: ELF)使用者として必要な能力を身につけるにあたり,学習や指導が必要とされる発音項目における学習の困難度について,音響分析の手法を用いて調査することである。清水(2011)に基づいて学習や指導が必要と思われる項目をcore とし,当該項目に関して3人の英語母語話者と24人の日本人英語学習者のデータを分析した結果,/t/ の気音,/v l ɪ/ の調音,狭いフォーカスと文構造などに依存して決定される音調核の位置の学習の困難度が高いことが分かった。また,語のアクセントについても,全体的には困難度が高いわけではないが,弱音節の短さやあいまいな母音の質を生成することの困難度は高かった。一方で,/w/ の調音,上昇調を核音調として使うこと,広いフォーカスの場合に音調核を正しく置くことは困難度が低い項目であることが示された。こうした結果は,ELF 時代における発音学習や指導の方向性について新たな示唆を与えるものと期待される。

調査部門Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

発話の諸側面に対する意識の質問紙尺度の開発と妥当性の検証:
発話生成モデルの観点から

研究者:英国/ランカスター大学大学院 博士課程 在籍 鈴木 駿吾

▼研究概要
本研究では,個人差要因としての「発話に対する意識」を包括的に捉える質問紙尺度の開発と妥当性検証を行う。加えて,本研究の発話意識尺度を用い,発話に対する意識が実際の発話運用に与える影響を考察する。質問紙尺度の作成には,発話生成モデルやCAF 指標などの理論的背景に加え,インタビューや発話課題を通した再生刺激法などを用い,学習者の観点を取り入れた。質問紙尺度の妥当性検証には,106名の日本人英語学習者(大学学部生)に対し,質問紙調査を実施し,探索的因子分析を行うことで妥当性の高い質問項目を選定した。その結果,学習者の発話に対する意識は,発話生成モデルの構成要素(概念化,言語形成,調音)を反映したものであることがわかった。加えて,48名の日本人英語学習者を対象に,発話意識尺度と意見を述べる発話課題を実施した。相関分析の結果から,発話に対する意識は,発話運用の発話量,統語的複雑性,正確性,流暢性に影響を与えることが示唆された。