英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.31 2019

研究部門Ⅰ 英語能力テストに関する研究

Note-taking organizerを用いた読解測定法の提案  
― 読み手の心的表象に基づいて ―

研究者:群馬県/前橋市立荒砥中学校 教諭 川島 葉月(申請時:筑波大学大学院 在籍)

▼研究概要
本研究はテキスト中の概念間の関係を図式的に描写したもの(Kools,van de Wiel,Ruiter,Crüts,& Kok,2006)と定義されるグラフィックオーガナイザーを,読解測定に用いる方法を検証した。読み手が読解中に構築する心的表象に基づきテストを作成するため,調査1では,日本人英語学習者が英文読解中に行うNote-taking を観察した。調査2では,Note-taking を基に,グラフィックオーガナイザー型テストを作成・実施し,テストの得点と読解熟達度,テキスト理解度の関係性を考察した。また,グラフィックオーガナイザー型テストと多肢選択式テストの解答方略の違いについても分析した。調査1の結果から,学習者はテキスト構造に応じたNote-taking をすることが示された。調査2では,読解熟達度とテキストの筆記再生率が高い学習者ほどグラフィックオーガナイザー型テストで高得点を得ることが示された。また,アンケートの結果,グラフィックオーガナイザー型テストでは設問の影響を受けずに学習者の理解を測定できることなどが示唆された。

実践部門Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

次期学習指導要領における3つの資質・能力を測るスピーキング評価ルーブリックの有用性

研究代表者:東京都/東京大学教育学部附属中等教育学校 教諭 樫尾 文雄

▼研究概要
本研究の目的は,次期学習指導要領における「話す活動[やり取り]」に関する評価方法として,ルーブリックの有用性を検証することである。研究内容としては,(1)次期学習指導要領で求められる三つの資質・能力を測るルーブリック評価の作成手順について示し,(2)そのルーブリックによる評価の信頼性, 妥当性をどう判断するのか,(3)作成したルーブリックによる評価が生徒の学習意欲にどのような影響(波及効果)を与えるのか,について調査・研究を行った。また,やり取りを評価するにあたり,次期学習指導要領とCEFR-J の目標を参考にしながら,生徒とともにルーブリックを作成し,2回のパフォーマンス評価による調査と1回の質問紙調査を実施した。その結果,ルーブリックを用いて「評価の視点がわかる要素を示すこと」で,二つの資質・能力を評価することが有用であることが示唆された。

実践部門Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

英語での知識構成型ジグソー法の効果を最大限に引き出す日々の帯活動

研究代表者:埼玉県/埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課 指導主事 鈴木 誠

▼研究概要
本研究は,埼玉県教育委員会が東京大学の大学発教育支援コンソーシアム(Consortium for Renovating Educationof the Future [CoREF])と連携し,平成22年度より県内の高等学校で実践・研究を続けている「知識構成型ジグソー法」を外国語科の授業において,どのように位置づけ実践していくべきかについて論じた報告である。全5回の「知識構成型ジグソー法」を用いた授業記録から生徒の英語発話の変容を考察した。英語の発話量を増やし,話の内容を深めることを目的とした帯活動を継続して行ったクラスの学習者は英語の発話量において一定の成果がみられた。しかし,話の内容の深まりまでは至らなかった。

実践部門Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

母語話者との文字によるコミュニケーションを行うことによる使用語彙に与える影響

研究者:愛知県/名古屋大学大学院 在籍 高瀬 奈美

▼研究概要
大学生の英語学習者を対象に母語話者とEmail を利用した文字のやり取りを実践し,語彙の使用率の変化を分析した。コンピューターツールを利用した実践報告は多数あるが,本実践は英語学習者が使用した語彙と母語話者が使用した語彙の含有率(出現率)が事前事後のライティングテストではどのように変化するのかを分析対象とした。結果,Emailを利用し母語話者とやり取りを行ったグループは母語話者とやり取りを行わなかったグループに比べて,語彙の種類と総単語数,特にレベル1の基礎的な語彙が増加した。要因として受信したEmail の回数と学習者のスピーキングの能力が影響していることが示唆された。また,事例分析から学習者が母語話者の表現を取り入れてまとまりのある文章に発展させている例がみられた。Email を利用した文字によるやり取りは,母語話者が偶発的に使用する語彙の影響を受けながら,語彙の習得に貢献する可能性がある。

実践部門Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

高校における三角ロジックを利用した思考力向上を目指す指導の提案
―新学習指導要領に基づいて―

研究者:埼玉県/早稲田大学本庄高等学院 教諭 細 喜朗

▼研究概要
本研究はライティングの指導に三角ロジックの概念を取り入れた事例研究である。新学習指導要領の「書くこと」の目標に基づき,論理的な思考力を育成するために有効とされている三角ロジックの概念をライティング指導に取り入れた研究である。本研究の目的は次の3点である。(1)論理的に書くために,三角ロジックの概念をライティング活動に取り入れることができるのか。(2)三角ロジックの3つの構成要素である「主張」,「根拠」,「論拠」が満たされていることを,どのように検証できるのか。(3)三角ロジックの3つの構成要素を十分に満たしたライティングには,どの程度の語数が必要か。5ヶ月の指導の結果,(1)指導支援として,グラフィック・オーガナイザー,ピア・レビュー活動,質疑応答活動を活用したことで,三角ロジックの概念をライティング活動に取り入れることができた。(2)検証方法として,ルーブリック評価を開発した。(3)3つの構成要素を満たしたライティング語数は平均244.32語(n = 17)であることが明らかとなった。

実践部門Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

中学生の英文読解における再話の効果

研究者:東京都/葛飾区立四ツ木中学校 教諭 前田 宏美

▼研究概要
本研究は,英語授業において,再話が中学生の英文読解に与える影響を検証することを目的とする。再話は,文章を読んだ後にその内容を人に語るという言語活動であり,読んだ内容をより深く理解させ,記憶保持を促し,話すことの流暢さや正確さを高める。中学3年生を再話の有無によって実験群(26名)と統制群(26名)に分けて,再話指導後における筆記再生により,(1)読んだ内容の保持(再生量),(2)重要な情報の再生率(IU)および,(3)質問紙を用いて指導前後における読解に関する動機づけの変化を調査した結果,実験群の方がより読んだ内容を保持し,重要な部分を再生していた。また,実験群においては,動機づけの高低を問わず,どの学習者も外発的動機づけが高まることが明らかになった。このことから,再話が中学生の英文読解に関して,読んだ内容の保持や読みを深める言語活動であり,動機づけに影響を与えることが示唆された。

実践部門Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

実践的な学術英語能力習得のための大学ライティング教育の実践:
TBLTのライティング教育への導入

研究者:米国/ハワイ大学マノア校 在籍 松谷 優花

▼研究概要
本教育実践では,大学生の実践的な学術英語能力習得の支援のため,TBLTを導入したライティングカリキュラムの開発と指導を行った。対象となったのは,ハワイ大学マノア校英語教育課程(ELI)が提供する,大学院生を対象とした上級アカデミックライティングクラスである。本稿では,まずニーズ分析に基づき開発されたライティングカリキュラムの概要を紹介する。次に,開発したカリキュラムのうち,とくに文献レビューモジュールの教育実践を取り上げ,その概要,教室での学習の様子,文献レビューモジュールに対する学生からの評価について詳細に紹介する。TBLT のライティング教育への適用例は非常に限られているが,本研究実践は,TBLT のライティング教育への適用は可能であり,学生からの評価が非常に高いカリキュラムの開発と指導を行えることを示す。また本稿では,TBLT に基づいたライティングカリキュラム開発を促進するためには,学術的研究報告だけでなく,教師やカリキュラム開発者に向けた実践報告も必要であることを指摘する。したがって本教育実践は,実践可能な一つのライティングカリキュラムのモデルとその結果を提示することで,日本の大学を含む様々な英語教育プログラムにおいて,TBLT に基づいたライティングカリキュラム開発の促進に貢献することを目指す。  

実践部門Ⅶ 英語能力向上をめざす教育実践

発信力・対話力の向上を目指した高大連携の英語授業プログラムの開発

研究者:東京都/東京学芸大学附属高等学校 教諭 光田 怜太郎

▼研究概要
本実践は,大学の附属高等学校において大学と連携をとり,主に大学に所属している留学生を高校に派遣し,高校の授業に参加する授業プログラムを構築することである。生徒は,目の前に英語話者がいて教室にいながら英語を話す必然性を創出し,効率よく会話を行わせる経験を積む。そこから得る異文化交流・理解の経験も貴重である。また,自己評価や意識調査のアンケートを大学に送り,分析をすることで授業改善につなげる。生徒の英語使用についての自己評価は年間を通じて大きく上がることはなかったが,授業内容が難しくなっていても総じて高い自己評価を維持していた。アンケートでは授業の難しさに応じて英語を使うことなどの意識について,やや後ろ向きな回答が見られた。自由記述による感想では回数を重ねることで少しずつ話せるようになっているというなど,意義を感じている回答が多く見られた。今後も検証を重ね留学生を授業に参加させるという良いモデルを提示したい。

調査部門Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

語彙知識の多面性に基づく語彙学習方略と語彙力の関係性:
スピーキング能力の観点から

研究者:米国/オレゴン大学大学院 在籍 江口 政貴 (申請時:ハワイ大学マノア校 在籍)

▼研究概要
本研究は,個人差要因の1つである語彙学習方略使用傾向が第二言語の語彙力を予測するか調査した。具体的には,語彙力を知識と発話上の使用の2側面から定義した上で,(a)語彙使用を予測する知識側面は何か,並びに(b)それらの語彙知識を予測する学習方略は何かを検証した。日本人英語学習者(大学学部生)計55名を対象に,(a)質問紙を基に語彙学習方略,(b)計5つの語彙知識課題によって語彙知識の広さ・深さ・速さ,そして(c)漫画描写発話課題により多様性・洗練性・複数語ユニット(Multi-word unit)の洗練性の3つの概念に代表される語彙使用の豊かさを測定した。回帰分析の結果(1)語彙使用の豊かさの各測面は,それぞれ異なった語彙知識の測面の組み合わせで予測できること,(2)少なくとも2つの語彙知識の側面が特定の方略使用によって説明できることがわかった。本結果により,特定の知識側面が異なる語彙使用に関連する点で両者が多面的な概念であること,語彙学習方略がより強く関連する語彙知識側面があるという2点が示唆された。

調査部門Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

小学校英語教材 We Can!と中学検定英語教科書のライティング活動の分析

研究者:北海道/ニセコ町立ニセコ中学校 教諭 中村 洋

▼研究概要
本研究では,入門期にふさわしい書く活動について考察するため,英検Can-do リストやCEFR-J との比較を行い,2018年度から新たに小学校で使われているWe Can! で扱われる書く活動を分析した。あわせて,現行の中学校英語教科書の書く活動とも比較検討を行い,We Can! の活動レベルを考察した。本研究ではさらに,2018年度にWe Can!を用いて小学校5, 6年生の授業を担当した英語教員を対象にアンケート調査も行い,その結果を基に,小学校段階にふさわしい書く活動について検討した。結果、中学校英語教科書に掲載されている書く活動と同じ言語材料を使用する活動や,同等のテーマの活動が扱われていることから,WeCan! で扱われる活動の内容や,そのレベルの高さが明らかになった。また,We Can! で扱われている書く活動は,分量的にはちょうど良いと考えているものの,内容的には難しいと捉えている小学校教員が多いことも明らかとなった。

調査部門Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

教室におけるPaired oral testの診断的評価
および学習者の受容に関する調査
―混合研究法を用いて ―

研究代表者:東京都/早稲田大学大学院 在籍 松村 香奈

▼研究概要
Paired oral test は,面接官と受験者が対話を行う面接型のスピーキングテストとは異なり,英語学習者同士が対話を行うテスト形式である。本研究では,英語を専門としない大学生を対象に,教室でPairedOral Test( 以下,Paired oral とする)を実施した。研究目的は,本研究で用いた評価表の信頼性・教室での実行可能性を検証することと,新形式の英語スピーキングテストおよび受験者の長短所が詳細に提示される診断的フィードバックを学生がどのように受容,認識したかを,コメントシートとインタビューで質的に調査することである。ペアの発話は個別に分析的評価がされ,EBB(Empirically, Binary-choice, Boundarydefinitionscale)ルーブリック(4.4.1参照)を用い,各観点で得点化した。さらに,各得点から学生の個人属性の推測(プロファイリング)を行うクラスター分析(5.3参照)で探索的にグループ分けのあと,量的データと質的なデータを統合,解釈するという混合研究法を用いた。