英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.32 2020

研究部門Ⅰ 英語能力テストに関する研究

ライティングタスク(技能独立型 vs. 統合型)が発表語彙とその測定に与える影響 :   
TAALES による語彙の洗練性分析を基に

研究者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 小室 竜也

▼研究概要
本研究は英作文に含まれる発表語彙の 洗練性 を 数値化 す る ツ ー ル Toolfor Automatic Analysis of LexicalSophistication(TAALES)を用いて,技能独立型および技能統合型のライティングタスクと発表語彙のかかわりを検証した。 調査1では英検1級から3級で用いられているテキストを対象とし,受験級ごとにどのような洗練性指標が分類を予測するかを分析した。その結果,上位の受験級では心理言語学的な要因である長い反応時間や英語母語話者の習得年齢が高い語彙が使用されていることがわかった。 調査2では大学生を対象に独立型および統合型のライティングタスクを実施し,タスクの分類を予測する洗練性指標を分析した。その結果,発表語彙における語と語の結びつきの強度,音韻的に類似する語彙,内容語の多義性の3点がタスクを分類するのに寄与していることが示された。

研究部門Ⅱ 英語能力テストに関する研究

自動英文解析ツールを用いた英作文採点の妥当性検証:Coh-Metrix と Text Inspector の指標に基づいて

研究者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 佐々木 大和

▼研究概要
本研究では,英文解析ツールであるCoh-MetrixとText Inspectorの自動英作文評価への利用可能性に関して2つの調査を行った。まず,調査1では,Coh-Metrixと Text Inspector を用いて,英検が公表している1級から3級の英作文の模範解答例のテキスト分析を行い,テキスト特性を検証した。結果として,受験級が高くなるほど,トピックが難しくなり,幅広い単語や時制・相を用いた難易度が高い英作文を書くように求められていることがわかった。次に,調査2では,Coh-Metrix と Text Inspectorを用いて,実際の日本人英語学習者の英作文のテキスト分析を行い,算出された指標の傾向と英語力との関係,英作文得点との関係を調査した。結果として,英作文のテキスト特性に関しては,受験級が上がるにつれて,英作文の馴染みやすさや時制や相の利用,難易度,語の多様性が増加する傾向にあることがわかった。一方,求められる語数が多くなるほど,簡単な馴染みのある文や同じ動詞を繰り返し使うことがわかった。算出された指標と学習者の英語力の関係に関しては,求められるトピックや語数が異なることで,英語力を予測する指標が変わる可能性が示唆された。算出された指標と英作文評価との関係性については,受験級ごとに英作文評価と関係のある指標が異なっていたが,全ての受験級を通して,語の長さや頻度,親密度,多様性のような指標が予測変数に含まれていたことから,語に関する指標が自動英作文評価に影響を与えている可能性があることが示唆された。

研究部門Ⅲ 英語能力テストに関する研究

英語学習者のライティングにおける一貫性・結束性の量的分析から質的分析へ
―「読み手からみた不自然さ」を左右する要因とは ―

研究者:岐阜県/岐阜県立 関高等学校 教諭 福田 陽子(申請時:名古屋大学大学院 在籍)

▼研究概要
本研究は,ライティングにおける文章の一貫性・結束性に焦点を当て , 英語学習者の表現にはどのような言語的特徴があり , それらがエッセイ評価(Essay Score)にどう影響を及ぼしているのかを検証した。 調査1では, 日本人英語学習者と英語母語話者によって書かれたのべ1,020エッセイを比較した。その結果, 学習者の表現には主語の人称代名詞や , 文頭・節間におけるつなぎ語の過剰使用がみられた。また , つなぎ語の誤用によって , 内容面における論理の飛躍や因果関係の欠如など, 一貫性が損なわれていることも確認された。 調査2では, 3名の読み手によって評価されたエッセイ内の一貫性・結束性指標と Essay Scoreとの関連性を分析した。その結果 , Score と一貫性・結束性には有意な相関があり, 特につなぎ語・指示代名詞がエッセイの不自然さを左右する要因になると示された。 高熟達度の学習者ほど ,「より自然な表現」ができ, それがエッセイの高評価につながっていることから , つなぎ語・指示代名詞の適切な使用に伴い , 内容面の論理性・因果関係を構築する学習を継続的に行うことが, ライティング能力の習得に貢献する可能性がある。

研究部門Ⅳ 英語能力テストに関する研究

多様な言葉の働きを引き出すタスクタイプの組み合わせ
― 言語機能分析による提案 ―

研究者:茨城県/筑波大学大学院 在籍 前田 啓貴

▼研究概要
多様な発話を学習者から引き出すことを目的に指導や評価の場面でコミュニケーションタスクが使用されるようになってきている。本研究では,コミュニケーションタスクで代表的なジグソー,情報ギャップ,問題解決,意思決定,意見交換,ナレーションの6種類のタスクタイプの特徴を,タスク中に引き出される言語機能の観点から調査した。その結果,与えられたものを描写するタイプ(ナレーション,ジグソー,情報ギャップ)と意見を考えて伝えるタイプ(問題解決,意思決定,意見交換)のタスクに分類することができた。さらに,同じ「描写」型のタスクと「意見」型のタスクの中でも,引き出される言語機能の数がタスクタイプによって異なり,最低で1種類,最高で9種類の言語機能を1つのタスクで引き出すことが可能であった。本研究の結果から,タスクを使用する際に,どのようにタスクを選び,組み合わせるかについて,言語機能を考慮した方法を提示した。

実践部門Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

ルーブリックの事前提示がライティングパフォーマンスに与える影響

研究者:東京都/中央大学附属中学校・高等学校 教諭 岩本 祐樹

▼研究概要
本研究は,パフォーマンス課題などを評価する際に使用されるルーブリックが,ライティング力の向上に有効かどうかを調査した。ルーブリックは評価基準が記述されているので,それを参照した上でライティングに取りかかれば,パフォーマンスの質が向上することが予想される。対象とした中学1年生(計60名)のうち1つのグループ(30名)には,ルーブリックを事前に提示した上で、ライティングを行ってもらい,フィードバックもルーブリックとスコアの両方を提示した。もう一方のグループ(30名)は,ルーブリックを提示されずにライティングをおこない,フィードバックとしてルーブリックに基づいて採点されたスコアのみを返却した。以上のライティングを3回実施し,その内容面と言語面のスコアを比較したが,グループ間で有意な差は見られなかった。以上の結果を踏まえると,ルーブリックの効果を高めるためには,ルーブリックの評価基準の明確化や,自己評価などのメタ認知活動や相互評価などを併用することが重要であるのかもしれない。

実践部門Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

学習者のスピーチとモデルスピーチの比較による主体的な「気づき」を促すスピーキング指導

研究者:東京都/青山学院 高等部 特別教諭 江下 陣(申請時:福岡県立 小倉南高等学校 教諭)

▼研究概要
本研究は学習者がスピーチを行った後に,モデルスピーチと比較させることでどの程度主体的な「気づき」が起き,その後のスピーチが変容するかを実践的に調査したものである。日本人高校1年生10名の実験協力のもと,スピーキングタスク(英検準2級面接問題Q 2・Q3)を行ってもらい,自身のスピーチとモデルスピーチを比較させ,気づいたことを筆記ランゲージング(言語面や内容面に対して学習者が気づいたことや考えたことを筆記という形で文字化して,理解を深めさせる手法)という形で言語化させた。その後、直後と1週間後にそれぞれスピーチを再度行ってもらった。筆記ランゲージングで表出された言語に対する「気づき」を分析し,指導介入した後のスピーチの変容を流暢性と正確性の観点で評価・分析した。結果としては,学習者はモデルスピーチとの比較で語彙的な要素に気づくことが多く,次に文法面に注意を向けていた。さらに, 気づいたことと実際のスピーチを分析した結果,英検準2級のQ 2でターゲットである現在進行形や,Q3のターゲットである,soやbecauseの接続詞といった文法形式にも気づいた可能性のある学習者もいたことがわかった。さらに , 学習者の指導介入後のスピーチの流暢性と正確性は両方とも向上し,モデルスピーチとの比較+筆記ランゲージングの手法にスピーチの質を向上される効果がある可能性が示唆された。本研究はスピーキング指導に対して,新しい指導方法を提案している。学習者のスピーチに対して即座に誤りを訂正するなどのフィードバックをするのではなく,一度学習者自身でモデルスピーチとの比較などを通じて自分で誤りやモデルスピーチとの違いに「気づく」機会を与え,それを筆記ランゲージングなどの方法で言語化させるという主体的・自立的な学習方法を少人数での研究ではあるものの, 教育的応用の可能性が高い研究結果であると考える。

実践部門Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

AI を活用したライティング能力の育成
― CEFR B1 から B2 へのレベルアップを狙って ―

研究者:新潟県/新潟県立 津南中等教育学校 教諭 松井 市子

▼研究概要
本研究ではライティング力をCEFRAからBレベルへ上げることを狙った指導の転換を目指し,人工知能(AI)によるフィードバック機能を持つWrite&Improveを活用した指導の効果を検討した。その結果,A2レベルの生徒において,AIfeedbackが有効であることが分かった。B1からB2へのレベルアップは外部指標では見られなかったが,定期考査に位置づけた評価タスクでは見られ,活動を継続することで次回の外部指標で示される可能性が高いことが分かった。AI を活用すると,スペルミスなどは生徒自ら修正でき,読みやすい出来栄えになった。また,AIが出すCEFR判定の結果が思ったより良いことに励まされた生徒も多かった。日本の高校生は「話す」「書く」のアウトプット技能の育成に課題があることが指摘されているが,ICT 環境や教材を活用すれば自立学習を促進することができる。多くの時間を割いてきた文法学習や「読む」「聞く」のインプット活動を見直すことになり、結果的にアウトプット活動の時間を確保できることにつながる。今後は,浮いた時間でより生徒同士や教師との「やりとり」を楽しみ,「話す」「書く」のアウトプット技能を育成しながら,読み応え,聞き応えのある教材を生徒と共に味わいたい。

実践部門Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

Pre-reading でのトップダウンアプローチとPost-reading の統語処理活動を取り入れた高校生の多読授業実践

研究者:東京都/東京都立 国分寺高等学校 教諭 三上 洋介(申請時:東京都立 大田桜台高等学校)

▼研究概要
本実践研究では,校種や生徒レベルを問わずに活用でき,多読活動時に生徒の興味を喚起し,総合的な英語力を向上させるためのワークシート型多読学習の支援ツール(Odyssey Reading Worksheet=ODR)の開発を試みた。この ODR は,生徒の興味を喚起させる内容推測などのトップダウン処理と,サマリーライティングやペア活動などの統語処理活動を取り入れている。 ODR を用いた多読を実践したところ,処置群には外部試験のリーディングスコアの上昇や速読スピードの向上が見られた。また,多読読書語数は上昇し,ワークシート型の多読による「読みの変化」や統語処理のアウトプット活動による多読意欲の向上も示唆され,アンケート結果から情意面の変化も見られた。学習者の背景知識を活性化させることで,英文の読書負担の軽減,本文の理解度の向上や,統語処理活動による未知の単語を読み飛ばす頻度が低下するなど,英文を深く捉える傾向につながったと言える。さらに,従来の多読に比べて意欲が高まり,想像力が刺激されるなど,学習者は ODR を肯定的に評価した。 今後の課題として,学習者の更なる動機付けのため,ODRの理論的背景や意義を学習者へ理解させることや,ワークシートの使用に伴って減少する授業内多読時間への対処が挙げられる。また,効果的な使用法の提案として,小中学生にも使用可能な簡易版を開発することや,多読図書に限らず,英語雑誌や評論文など多様な英文素材読書へODRを応用することも検討できると考えられる。

実践部門Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

高等学校での内容言語統合型学習(CLIL)による他教科と連携した授業の実践と効果の検証

研究者:栃木県/栃木県立 宇都宮南高等学校 教諭 渡邉 聡代

▼研究概要
本研究 で は,新学習指導要領 を 踏 まえ,公立高等学校における英語の授業改善を目指し,他教科と連携した授業実践の過程とその効果を明らかにした。具体的に授業では,他教科の持つ内容と英語の学びを統合し思考と協学を促す,内容言語統合型学習(CLIL)により,本研究者が担当するコミュニケーション英語Ⅰの授業を現代社会および保健体育の担当教員と共に実践した。授業はコミュニケーション英語Ⅰの検定教科書を用い,現代社会との連携で2回,保健体育との連携で1回行った。それらについて①授業準備の記録,②授業観察,③生徒への質問紙調査,④連携した他教科教員へのインタビューおよび本研究者による授業のふりかえり,を記録した。その結果 CLIL による授業での他教科と連携した教科横断的な学びが生徒の学習動機を高め,学びが教科間でつながり,広がりのあるものとなるということが分かった。また,今後のさらなる実践と検証の必要性が挙げられた。

調査部門Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

学習者の視点から見た英語による専門科目(EMI)に必要な英語力のニーズ分析

研究代表者:東京都/早稲田大学大学院 在籍 太原 達朗
共同研究者:埼玉県/早稲田大学本庄高等学院 非常勤講師 工藤 秀平
東京都/早稲田大学大学院 在籍・日本学術振興会特別研究員 守屋 亮

▼研究概要
本研究の目的は学習者の視点から見た日本における英語による専門科目(English-Medium Instruction,EMI)に必要な英語力を把握することであり , そのためにニーズ分析 (Needs Analysis)を実施した。研究対象は EMI プログラムを開講する学部・研究科を持つ関東の私立大学で , 参加者はEMIの実施形態のうち, ほとんどの科目を英語で開講する English-Taught Program (ETP) 型と, 選択必修科目にEMIが多いSemi-Structured(SS)のいずれかのプログラムを経験した学生もしくは卒業・修了生であった。本研究は複数の段階におけるデータ収集・分析を行った。最初にインタビューデータからEMIで経験する47個のタスク一覧を作成し, それを元に各タスクにおける頻度・難度を4段階評価で回答するアンケートを作成し実施した。各タスクを頻度・難度の平均値の高低を元に4種類に分類し, ETP型とSS 型の両 EMI 実施形態における共通点・相違点を明らかにした。同時に , 自由回答記述形式でEMI に必要な能力・必要なサポートの意見も調査した。本研究は日本の大学において強化の優先順位が高いEMIに必要な英語力を特定し, 同時に, 今後のニーズ分析の方法論的貢献も示唆した。

調査部門Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本人大学生の英語学習における自己調整学習能力尺度の開発:英語資格試験に向けた自主学習に焦点を当てて

研究者:東京都/立教大学大学院 在籍 福田 晶子

▼研究概要
本研究の目的は,大学生の英語資格試験に向けた自主学習に焦点を当て, 自己調整学習能力を測るための尺度を開発し,その妥当性を検証することにある。自己調整学習の理論的背景をもとに情意尺度,動機づけ調整方略尺度,学習方略尺度の3点からなる自己調整学習能力尺度を作成した。先行研究とインタビュー調査を通して計122項目を作成したのち,5件法により356人の日本人大学生から回答を得た。それぞれの尺度に対し探索的因子分析を実施し,情意尺度で3因子,動機づけ調整方略尺度で2因子,学習方略尺度で5因子の因子構造が得られた。この尺度の信頼性と妥当性を確認するために,確証的因子分析・相関分析・重回帰分析・パス解析を行ったところ,いずれも,これら3つの尺度が自己調整学習方略尺度として一定の水準に達していることが明らかになった。