英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.36 2024

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

英語学習者エンゲージメントに関する文脈的モデルの妥当性検証

東京都/明治大学大学院 在籍 樫村 祐志

▼研究概要
本研究は,英語学習者におけるエンゲージメントに関する文脈的モデルの妥当性検証を行うことを目的とする実証研究である。関東の中学校,高等学校,大学に通う英語学習者753名を対象に,エンゲージメント,および,その先行要因(心理的欲求,動機づけ)とアウトカム(習熟度)に関する質問紙調査を実施した。予備的分析として因子構造を確認したのち,記述統計にて全体傾向を把握した。次に,多母集団モデルによる共分散構造分析を行った結果,英語学習における心理的欲求・動機づけ・エンゲージメント・習熟度に関する文脈的モデルが妥当であることが示された。最後に,心理ネットワーク分析の結果,変数同士がポジティブに関連しあったシステムを形成しており,中でも自律的動機づけの3変数(内発的,統合的,同一視的)が中心的な役割を果たしていることが明らかになった。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

結束性指標に基づく日本人英語学習者のエッセイライティングスコアの予測

茨城県/筑波大学大学院 在籍 久保 佑輔

▼研究概要
ライティングタスクでは,語彙や文法の正確性に加えて,テキストの一貫性や論理性の観点からの指導や評価も求められる。このようなテキストのまとまりを測定する指標の1つに結束性が挙げられる。しかし,どのような結束性の特徴がライティングスコアに寄与するのかは十分に明らかになっていない。そこで本研究では,日本人英語学習者の作成したライティングスコアの予測に寄与する結束性指標を調査した。具体的には,テキストの言語的特徴に基づいて結束性指標を算出するTool for the Automatic Analysis of Cohesion(TAACO)を用いて,テキスト一貫性の判断とエッセイの質を予測する変数の特定を行った。その結果,テキスト一貫性とエッセイの質の両方において,内容語の重複がマイナスの影響を与えることが示された。また,3人称代名詞を使用して同じ名詞の過剰使用を避けることで,エッセイの質が高まることも確認された。以上のことから,テキストの一貫性やエッセイの質を高めるためには,隣接文間で同じ内容語の繰り返しの使用を防ぐための指導やフィードバックをする必要性などが示唆された。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

英検の長文テキストの読解に接辞の知識はどれくらい必要か? ― Morpholex Affix Profiler を用いた検討 ―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 駒野 樹

▼研究概要
本研究では,英検の長文読解テキストを対象に,オンラインテキスト分析ツールのMorpholex Affix Profiler を活用して,テキスト中に含まれる派生語の割合,登場する接辞の種類や頻度,語彙カバー率への寄与度について,受験級による違いを観点に分析を行った。分析の結果,受験級が上がるにつれて,見出し語の割合は減少し,屈折語・派生語の割合が増加していることが分かった。また,接辞のレベル(Bauer & Nation, 1993)別に見てみると,高いレベルの接辞ほどテキストに含まれる割合は少なくなっていた。さらに,受験級が上がるにつれて,登場する全派生接辞のタイプ数とトークン数は増加しており,特定の派生接辞が高頻度で使用されていることが分かった。テキストの語彙カバー率への寄与度に関しては,受験級が上がるにつれて,語彙カバー率95% 及び98% 到達に必要な派生接辞のタイプ数は増加していた。本研究の結果は,異なる難易度のテキストとそれらに含まれる接辞の割合・種類の関係を明らかにし,語彙・読解指導やテスト作成,文章の難易度評価に示唆を与えるものである。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

ディベートスキルとジャッジスキルの向上を目指した高校生英語ディベート初心者への効果的なフィードバック

福岡県/福岡県立春日高等学校 教諭 坂口 寛子

▼研究概要
本研究は,「論理・表現」の重要な活動の一つであるディベート指導に焦点を当てた。通常,ディベートでは,試合後,ジャッジよりディベーターに口頭で判定結果と共にフィードバックが与えられるが,本研究は,口頭以外の方法によるフィードバックが,ディベートスキルやジャッジスキルの向上に効果があるかを明らかにすることをその目的とした。具体的には,英語ディベート初心者の異なる3グループにそれぞれ,教師から口頭フィードバック,フローシート・フィードバック,グラフィックオーガナイザー・フィードバックのいずれかのフィードバックを与え,各フィードバックが,ディベートスキルとジャッジスキル向上に効果があるか,また,教師ジャッジの判定決断までの思考過程の伝達に効果があるかを質問紙調査と自由記述調査により明らかにした。その結果,グラフィックオーガナイザー・フィードバックにはディベートスキルにおいて有意な差が見られたが,ジャッジスキルにおいては有意な差が見られたフィードバックはなかった。また,自由記述回答からは,3種類のフィードバックは,ロジックの吟味,異なる主張間の整合性の確認,議論展開の理解といった,ジャッジの視点や方法に関する学びを促すことも分かった。英語教育ではこれまで,ディベートのフィードバックのあり方についてはほとんど研究がなされてこなかったが,本研究結果より,勝敗よりもスキルや思考方法の習得が重要視される教育ディベートでは,今後,口頭フィードバック以外のフィードバック方法の授業導入の必要性が示唆された。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

明示的知識を外化して正確性の向上を目指す指導の効果 ― 長期的なランゲージング・エピソードの分析を中心に ―

東京都/筑波大学附属高等学校 教諭 髙木 哲也

▼研究概要
本研究は,長期的なランゲージング活動の学習効果を検証した。日本語を母語とする高校1年生61名を対象に,約5ヶ月間にわたって30語程度の自由英作文課題に対して間接書記訂正フィードバックを与えて,その後口頭または筆記ランゲージング活動を行う処遇を8回実施した。分析結果より,英文法テストでは口頭ランゲージング群が有意に向上し,筆記ランゲージング群より高い学習効果が示唆されたが,自由英作文テストの正確性は両群共に向上しなかった。記録されたランゲージング・エピソードの字数に2群間の差はないものの,気づきレベルの高いランゲージング・エピソードの頻度数の観点では,筆記ランゲージング群の優位性が示された。さらに,学習活動として行う「思考の言語化」を肯定的に捉える学習者は,ランゲージング活動への関与が強くなる傾向が見られた。本研究より,正確性の向上を目指した効果的なライティング指導法として,口頭または筆記ランゲージング活動を選択して活用することが提案される。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

ディスカッション活動において高校生の発話の量と質を高める取り組み

広島県/広島県立安芸府中高等学校 教諭 久山 慎也

▼研究概要
本研究は,高校2年生1クラスを対象に,英語コミュニケーションⅡの授業においてディスカッション活動に関する指導を2か月間実施した実践報告である。指導においては,ディスカッションを進めるための定型表現,理由を具体的に述べるためのPREP,会話を継続するためのディスカッション方略が取り上げられた。指導の前後で行った生徒のディスカッション活動における発話を分析したところ,英語使用の割合が増加し,理由をより詳しく述べようとする姿勢が生まれ,言いたい表現が出てこないときにお互いに助け合う様子が見られるようになった。また,指導後に書いた振り返りの分析からは,生徒は英語の使用割合が増えたことにより,達成感を持ち,ディスカッション活動に対する不安や苦手意識を軽減させたことも確認された。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

用法基盤モデルに基づいたスピーキング指導が中学生の『即興力』育成に及ぼす効果の検証

秋田県/秋田県立秋田南高等学校 教諭・東京都/昭和女子大学大学院 在籍 吉澤 孝幸

▼研究概要
本研究は,用法基盤モデルに基づいたスピーキング指導の有効性を検証することを目的とした実践研究である。用法基盤モデルの特徴である「語を核に文へ発展させる」という考え方は,メモによるキーワードから話すことと同じ視点をもつ。同時に,話す前のプランニングを効果的にするための指導を模索した。それは,令和5年に実施された全国学力調査[話すこと](国立教育政策研究所,2023)における大問2の1分間の準備時間を生かすことにもつながるからである。 発話の前にキーワードだけによるメモを作成させることを実験群における「事前プランニング」と位置づけた。一方,日本において広く取り入れられている「リテリング」を比較群に取り入れた。比較群では,絵にキーワードを書き込むことを「事前プランニング」とし検証した。分析は,「事前・事後・遅延テストのルーブリック評価」,「スピーキングテスト前の1分間で作成したメモの質(評価)」,「これまで教科書で学習した固まり表現(軸語スキーマ)と自分のメモに書いたキーワードとを結びつけた数」を用いて分析した。
 分析の結果,両群とも時間経過とともにルーブリック評価は向上した。両群の比較においては,実験群の方が,ルーブリック評価と「正確さ」「複雑さ」「流暢さ」の観点からの評価が有意に上回ったものの,その効果は遅延テストまでは持続しなかった。また,実験群の方がメモの質と発話の関係には強い相関が見られ,軸語スキーマとキーワードとの結びつけ数も有意に多かった。このことから,実験群によるメモの作成というプランニングを通して,発話のための認知資源の節約につながり,そのことが3観点(「正確さ」「複雑さ」「流暢さ」)の向上に寄与した可能性がうかがえた。同時に,メモの質が良くても,発話に結びつかないケースも見られ,その学習者の語彙の広さや深さにより,プランニングが効果的に働かないことも示唆され,今後の指導改善の指針を得た。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本語母語英語学習者が使用する定型表現の分析 ―「話すこと [やりとり]」と「話すこと [発表]」の技能育成をめざして ―

茨城県/筑西市立明野中学校 教諭· 茨城県/筑波大学大学院 在籍 小出 凱渡

▼研究概要
本調査では,定型表現の一種である高頻度語連鎖 (Lexical Bundles) を観点に,モノローグとダイアログという話し言葉の2つの形態における日本語母語英語学習者の定型表現の使用実態を明らかにすることを目的とした。英語母語話者と学習者の話し言葉コーパスを比較し,学習者が過剰・過少使用する語連鎖を特定してリスト化するとともに,それらの語連鎖の特徴について分析・考察を行った。その結果,モノローグでは,学習者は特定の句動詞を含む語連鎖や理由を述べる際に用いる表現を多用する傾向が見られた。一方,母語話者と比較して,学習者は多様な句動詞表現や助動詞を構成要素とする語連鎖をあまり使用していないことが明らかとなった。ダイアログでは,学習者は同じ発話の繰り返しで構成される語連鎖やフィラーを含む表現を過剰使用していた一方で,would like to や多様な時制表現を示す語連鎖を過少使用していることが明らかとなった。本調査の結果は,話し言葉における英語学習者の語連鎖の使用実態について有益な情報を提供し,定型表現を効果的に活用した「話すこと[ やりとり]」及び「話すこと[ 発表]」の技能育成に示唆を与えるものである。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

機械翻訳(MT)を学習ツールとするための考察 ― 英作文を学ぶ大学生を対象とした量的・質的調査 ―

大阪府/関西大学大学院 在籍 湯浅 麻里子

▼研究概要
本調査は, 習熟度が低い大学生英語学習者がどのように機械翻訳(MT)を使っているのか, 現状をマクロとミクロの視点で明らかにした。まず, 773名の参加者による質問紙データを用いて,MT を使ってライティングを行う際のエンゲージメントを包括的に測る「MT エンゲージメント」尺度を作成した。18項目から成る尺度は, 行動, プリエディット認知, ポストエディット認知, 情意, 社会の5つの因子で構成され, 信頼性と妥当性が確認された。続いて尺度の5つの変数に基づき, 434名の参加者を類似するグループに分けた。参加者は, ①低エンゲージメント, ②中エンゲージメント, ③高エンゲージメントの3つのグループに分かれた。MT を使って英文を書くことに対する自己効力感は, 高エンゲージメント・グループが高く, 中・低エンゲージメント・グループが低かった。さらにインタビューから,7名の学生がそれぞれの文脈の中で工夫しながらMT を使っていたことがわかった。