英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.26 2014

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

読みの流暢さを測定する Moving-Window 版テスト
―コンピュータ利用の新たな視点―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 田中 菜採

▼研究概要
本研究では、コンピュータベースのチャンク提示読解タスクを応用したテストを試案し、日本人英語学習者の読みの流暢さの能力の検証を試みた。このテストでは各チャンクに対し個別に読解制限時間が定められ、自動的に進む。読み手は読解後にテキストの理解度を測定するための筆記再生課題を行い、その指標によって流暢さの能力を測定するというものであった。まず調査1ではチャンク提示速度の参考とするため大学生を対象にチャンクごとの読解時間を測定した。その結果、1分間におよそ100語、130語、170語の提示速度を決定した。また、調査2ではこの読みの流暢さを測定するテストを別の協力者に実施したところ、熟達度上下群で理解度の違いが見られた。熟達度の低い学習者は英文の内容よりも処理速度に困難を抱えていたため、このテストが流暢さの能力を測定していると考えられる。この他に、チャンク提示読解で制限時間を設定する場合の示唆が得られた。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

スピーキング能力と語順知識の関連性における調査

茨城県/筑波大学大学院 在籍 佐瀬 文香

▼研究概要
本調査は、スピーキングと語順についての関連性を調査することを目的とする。現行の中学校学習指導要領において、語順指導の重要性が明記されている。また、語句整序問題は、英検や大学入試センター試験などさまざまな試験に採用されているが、語句整序問題が何を測定するものなのか明らかにされていないのが現状である。本研究では、予備調査と本調査の2種類の調査を実施した。 予備調査では、本実験において焦点を当てる文法項目を選定した。その結果から本調査でのマテリアルを作成し、協力者83名に再話課題と語句整序問題、そしてSentence Buildsの3課題を課した。語句整序問題の結果から、協力者は上中下の3群に分けられ、それぞれの得点の結果を比較した。その結果、語句整序問題における得点が高ければ高いほど、再話課題において高得点を獲得したことがわかった。これらの結果から、文脈提示の重要さが支持され、さらに質的な調査の結果から、協力者の発話において簡易化という特徴的な産出が見られた。これより、語順指導は語順単体で指導するよりも、文脈を伴った語順指導の重要性が示唆された。

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

英語リスニング不安とリスニングの下位技能の関係
―リスニング不安の概念の細分化によるリスニング指導への具体的提案―

広島県/広島大学大学院 在籍 山内 優佳

▼研究概要
本研究の目的は、学習者がリスニング時に抱く不安とリスニング力の下位技能の関係を詳細に明らかにすることである。リスニング不安は6種類の要因(実生活におけるリスニング、学習場面におけるリスニング、学習者の不十分な知識、テキストの難易度、ボトムアップ処理、メタ認知的活動)、リスニング力は4つの下位技能(単語、音変化、推測、ワーキングメモリ)の観点から、それぞれの概念がどのように関連しているのかを調査した。調査の結果、「学習場面におけるリスニング」に対する不安はすべての下位技能と負の相関があり、本研究で対象としたリスニング力と最も関連が強いことが示された。不安軽減のための示唆としては、音変化を聞き取る力をつけること、そして適切なレベルの教材を使用することが挙げられた。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

自尊心をもって主体的に英語の授業に参加できる生徒の育成
―音韻認識への気づきを高める取り組みを通して―

三重県/津市立美里中学校 教諭 森 雅也

▼研究概要
読み・書きに特別に困難さを示す英語ディスクレシア(読字障がい)を持つ生徒への支援のあり方について研究を進めた。その中で、マーガレット・コームリーの多感覚学習法にある91種類の音素カードを習得させることで、音韻認識を高め、中学校で学習する英単語のほとんどを読めるようになることがわかった。また、英語四線ノートに代わる七線ノートを導入するとともに、ポメラ(電子メモ帳)でタイピングを徹底的に練習することによりハンドライティングでの英語筆記への苦手意識を軽減した。英語の音声とつづりの関係がわからず、英語を読むことや書くことを苦手にしている生徒への指導の参考になると思われる。 また、自己効力感を高める4つの方法(成功体験、言語的説得、ソーシャルモデル、心理的圧迫の除去)を実践し、学習障がい(Learning Disability:LD)を持つことにより低下している自尊感情を高め、英語授業へ意欲的に参加できる生徒の育成をめざした。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

中高一貫校での英語多読指導の科学
―統計,言語分析による,英語力,言語力,自己効力感の変化を予測する科学的指導モデルの提案―

兵庫県/神戸大学附属中等教育学校 教諭 増見 敦

▼研究概要
本研究では、授業中の10~15分間を利用した授業内英語多読活動にかかわる中高一貫校生の英文読語量、読書などの意識調査およびGTEC for STUDENTSスコアの分析結果に基づき、多読活動による学習者の能力(英語力、言語力)・意識(自己効力感を含む5観点意識)の関係について、授業内英語多読指導効果モデルの構築を試みた。 授業内英語多読活動を通じ、学習者は一定量の読書を行い、文法訳読精読型の英語の読みではなく、多読型の新しい読みのストラテジーを学習者に獲得させる上で統計上有意な効果が確認された。また、学習者の読みに対する自己効力感の大幅な上昇も確認され、GTECで測られる英語リーディング力をも向上したことが明らかになった。一方でこの活動の限界も示唆され、本研究の分析結果に基づき、「強制的読み」から「自律的読み」、あるいは「学び読み」から「楽しみ読み」に向けた、より広義の言語力獲得へ拡張できる新しい多読プログラム開発に向けた課題をまとめた。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

多読は速読に有効か?
―音読・心内音読・黙読の違いが読解速度と内容理解に与える影響―

東京都/東京都立白鷗高等学校 主任教諭 中野 達也

▼研究概要
高校1年生全員を対象にして、9月から2月末まで、約半年間にわたって多読プログラムを実施した。Oxford出版のGraded Readersシリーズをそろえ、生徒には原則1週間に1冊ずつ読ませた。約半年間の読了総語数は、平均で133、833.9語、読了平均総冊数は18.9冊、最高は48冊であった。多読プログラム開始時の9月と終了時の2月に、それぞれプレテストとポストテストを実施し、語彙力、文法力、読解力および読解速度の伸びを統計的に比較した。その結果、いずれの領域においても有意差があり、多読の効果があったことが認められた。 また、多読プログラムと並行して、心内音読についての質問紙による調査を年に4回実施した。この調査の結果、8割以上の生徒が心内音読をしていることがわかった。心内音読をしない生徒たちは読了総語数が多かったことから、心内音読を伴わない「よい読み手」になるためには、大量の英文を読み、概要をつかむことができるようになったり、語彙を増強することが有効であることもわかった。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

授業内英語活動「4/3/2」は高校生のコミュニケーション能力と批判的思考態度を育成するか【共同研究】

鹿児島県/鹿児島県立加治木高等学校 教諭・代表者 市原 賢優

▼研究概要
本研究では、流暢さを伸ばすことをめざした授業内活動「4/3/2」を、ワードカウンターを用いて実践し、その効果を検証した。授業内活動「4/3/2」とは、相手を変えながら、同じ話題について時間的プレッシャーの中で話す活動である。聞き手の生徒はワードカウンターにより相手の発話語数を記録する。生徒の批判的思考態度と英語表現力に関する調査が授業内活動「4/3/2」の前後で2回ずつ計4回実施された。また活動後に、生徒は活動を通して感じたことをそれぞれ自由記述式で書いた。 結果として、授業内活動「4/3/2」によって英語の流暢さが伸びることが示唆された。また授業内英語活動「4/3/2」が、批判的思考態度の育成に寄与するという結果は得られなかった。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

生徒の自己発音モニタリングが正確な発音の定着に与える効果

東京都/東京都立白鷗高等学校 教諭 小林 翔

▼研究概要
中学で3年間英語を学習してきたにもかかわらず、高校生の英語の発音能力はあまり高くない。調音方法を知らなければ、正確な音を出すことは難しい。また生徒は自分自身の英語の発音を振り返って聞いた経験もほとんどなかった。本研究では、生徒自身の発音の誤りに対する気づきと修正がどのように推移していくのか、モニタリングを繰り返し検証することで正確な発音が定着できるのか、どの程度発音に対する意識は変化するのかを分析し、検証した。 調音方法を知り、発音への関心が高くなると、自分の発音に自信が持てるようになる。モニタリングを繰り返すにつれて正確な発音ができる。または自分の誤った発音に気づき、修正もできるようになるという仮説を立てた。調査には公立高等学校1年生41名のデータを取り、事前と中間と事後において、発音に対する意識調査の結果を分散分析の手法で分析した。結果は、すべての項目において事前から事後において発音に対する意識・知識・能力の値が上昇した。次に、発音モニタリングテストの結果を分散分析の手法で分析した。結果は、繰り返し自分の発音を聞くことで、正確に発音する力をつけることができることがわかった。また、自分の発音の誤りに気がつき、注意していれば修正もできることがわかった。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生の英作文力とリスニング力の向上におけるディクトグロスの効果

広島県/広島県立広島井口高等学校 教諭 久山 慎也

▼研究概要
本研究は、まとまった英文を聞いてメモを取り、そのメモをもとにペアあるいはグループでその英文を再現する活動であるディクトグロスを高校3年生1クラスを対象に実施し、その効果を検証した実践報告である。指導は3か月間で合計15回行われ、指導の前後で対象生徒の自由英作文における正確性・流暢性・結束性の変化が4つの指標(理解不能な文の数、総語数、アーギュメント重複値、結束語の出現頻度)を用いて分析された。あわせて、リスニングテスト得点も分析されたが、その結果から、ディクトグロスは自由英作文の得点が低い生徒およびリスニングテストの得点が低い生徒に対して有効な活動であることが明らかとなった。また、テキスト内のどの文法事項に対して「気づき」がもたらされるかについては、取り組む生徒によってばらつきがあり、望ましい「気づき」をもたらすためには指導者の適切な介入が必要であることが確認された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

Peer Coaching が授業改善に与える影響・効果の検証
―拠点校・協力校制度の中での英語教師の意識―

秋田県/大仙市立大曲中学校 教諭(兼)教育専門監 吉澤 孝幸

▼研究概要
本研究は、同僚とのティームティーチングを通した授業改善であるPeer Coachingの影響・効果を「拠点校・協力校制度」の中で検証しようとしたケーススタディである。実践の切り口として、暗記や原稿を読み上げて話すスタイルからの脱却をめざした「メモに基づいたスピーキング指導」を設定し、授業改善を拠点校と協力校で共通実践した。これらの実践項目を、拠点校から協力校へ波及させる際に、教員が受ける影響・効果は拠点校と協力校の間で、どの程度違いが生じるのかどうかについて教師や生徒への質問紙などを中心として調査した。この実践で取り入れた指導に対する「肯定の度合い」は3校の間で有意な違いはないものの、Peer Coachingの実施回数に起因すると思われる違いは認められた。また、協力校の教員はPeer Coachingに対してどのような意識を持っているか、この点についても明らかにすることを試みた。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

新旧中学検定教科書のメタ分析
―語用論的観点からのテキスト分析―

東京都/上智大学大学院 在籍 日浅 彩子

▼研究概要
本研究は、平成20年に改定された新学習指導要領の影響を調査目的とし、学習指導要領が規定する「言語の働き」という項目に着目して、教科書会話文の言語機能としての取り扱いのされ方、すなわち語用論的観点に着目して教科書の新旧比較を行い、指導要領の改訂と教科書の変化の関係について検証した。中学3年生の英語教科書6種のうち、会話文を対象に、指導要領「言葉の働き」の具体例の項目を基にして類型化し、主として量的な分析を行った。分析の結果、「言葉の働き」の扱いについて、教科書間で共通した変化の傾向は見られなかった。指導要領による「言葉の働き」の取り扱いに対する教科書への直接的な影響はなかったということが示唆されたのである。本研究の結果を基に、「言葉の働き」にも十分な配慮をした教科書の作成が望まれる。

調査部門 Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

定時制高校における英語学習にかかわる学習者要因
―ビリーフと動機づけに注目して―

神奈川県/厚木清南高等学校定時制 教諭 小金丸 倫隆

▼研究概要
本研究では、高等学校定時制課程に在籍する生徒による英語学習にかかわる学習者要因について、英語学習についてのビリーフ(学習観)や動機づけに注目して調査した。具体的には、高等学校定時制課程に通う生徒148名対象に、「英語学習についてのビリーフ」と「英語学習への動機づけ」についてアンケート調査を行い、探索的因子分析および共分散構造分析を用いて結果を分析した。生徒による自由記述も参考にしながら考察したところ、英語によるコミュニケーションに対して肯定的なビリーフを抱いている生徒が比較的多い反面、従来の英語授業に対しては否定的なビリーフを抱いている生徒が比較的多いことや、自らの英語力について否定的なビリーフを抱いている生徒が多いことなどがわかった。また、英語によるコミュニケーションに関してどのようなビリーフを抱いているかということが、英語学習への動機づけの度合いに大きく影響していることなども明らかになった。

調査部門 Ⅳ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

新課程版高校検定教科書における英検 Can-do リストと関連のあるタスク【共同研究】

新潟県/長岡工業高等専門学校 准教授 田中 真由美

▼研究概要
本研究では「英検 Can-do リスト」、英語教科書に見られるタスク、そしてパフォーマンス評価の関係を明らかにし、教材、指導そして評価のあり方について示唆を得ることを目的として2つの調査を行った。調査1では、「コミュニケーション英語Ⅰ」と「英語表現Ⅰ」の検定教科書における「英検 Can-do リスト」と関連のあるタスク数を調査した。その結果、教科書内の「書く」タスクと「話す」タスクのほとんどが「英検 Can-do リスト」の「まとめ表現」と関連することがわかった。調査2では教科書のタスクが英語の授業でどのように修正されているかを調べた。教科書のタスクはそのまま使われるのではなく、話題の修正やパフォーマンス評価基準の設定により生徒の実生活や英語力に合った難易度に変えられることがわかった。

調査部門 Ⅴ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本とフィンランドにおける英語教育の比較

東京都/上智大学大学院 在籍 中村 啓子

▼研究概要
英語が国際社会で共通語として使用されることが多い現代では、日本と同様フィンランドでも多くの人々が英語を学んでいる。日本語の言語の系統は不明であるが、フィンランド語はウラル・アルタイ語族に分類され、両言語ともインド・ヨーロッパ語族に属すると考えられている英語とは語族が異なる。両国では英語を外国語として学習する環境にあるものの、その英語力には差があるように見える。例えば、両国のTOEFL iBT(January 2012からDecember 2012まで)の結果では、フィンランドはリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングの平均スコアが95(フルスコアは120)という好成績である。これは、英語と同じインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に分類されるドイツ(スコア96)やデンマーク(スコア98)に近い水準である。一方、日本の平均スコアは70で、アジア30か国中、下から3番目の成績である。そこで、本研究では、フィンランドの英語教育の現状を調べる一方、日本の現状や英語教員25名を対象としたアンケート調査の結果を比較しながら、日本の英語教育における課題と向上のヒントを探りたい。

テーマ指定研究部門1 Ⅰ 「英検Can-doリスト」に関する研究 <個人または共同研究>

能力記述文による自己評価と実際のスピーキング能力の関係
―英検 Can-do リストと CEFR-J を使って―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 横内 裕一郎

▼研究概要
本調査は、英語スピーキング能力を英検Can-doリストやCEFR-Jの記述文を用いた自己評価が、再話課題への回答で得られた実際のスピーキングパフォーマンスとどのような関係があるかを調査したものである。近年、英語スピーキング能力の評価を大学入試でも行おうという動きがある中、実際に中・高等学校でスピーキング能力を評価する機会は多くない。また、各中・高等学校が学習指導要領に基づいた学習到達目標をCANDOリストの形で具体的に設定するよう文部科学省が提言したことにより、今後CAN-DOリストの開発と妥当性の検証を行うことが多くなると考えられる。本調査では、Shojima(2007a、 2007b)による潜在ランク理論を用い、自己評価と再話課題のパフォーマンスから得られた潜在ランク推定値をクロス集計によって比較した。その結果、英検Can-doリストとCEFR-Jの能力記述文を使用した自己評価は同じ方向性を示したものの、再話課題によるパフォーマンスとの関連性は低かった。