英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.27 2015

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

「外国語活動」と「小学校英語」をつなぐ,評価のあり方について
―到達度テストによる授業改善と指導と評価の一体化をめざして―

北海道/中富良野町立中富良野小学校 教諭 久保 稔

▼研究概要
本研究は,外国語活動の良さを生かしつつ,評価規準と単元テストを活用した実践を通して,「慣れ親しむ活動から身に付く活動」へと円滑に移行させる方策についての研究である。  平成23年度より,小学校の第5・6学年で外国語活動が必修化され3 年が経過した。コミュニケーション能力の素地の育成をめざし,全国各地でさまざまな実践が行われている。その外国語活動が,現在教科化に向けて議論が行われるなど,転換期を迎えている。これまで同様,コミュニケーション能力の素地を養うという基本路線は変わらないが,以下の点が変更になる。  ⑴ 授業時数の増加(週1時間から週3時間へ)  ⑵ 検定教科書の導入  ⑶ 話すこと・聞くこと中心の指導から,読むこと・書くことを含めた4技能の育成  外国語活動が教科になるときに,懸念されることの1 つに評価が挙げられる。これまでは,教師による行動観察や自己評価シートなどを活用した「主観的な評価」が行われてきた。しかし,教科になる以上,これまでの評価に加えてテストなどを活用した「客観的な評価」も必要になると考える。そこで,聞くことや話すことについての技能を見取るために,この2つの能力にかかわる確認テスト(到達度テスト)を用いた評価方法について提案していきたい。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

データマイニングの手法を用いた英語ライティングへのアプローチ
―日本人英語学習者のエッセイ評価に影響を与える文法的誤りパターンの検討―

東京都/早稲田大学大学院 在籍 石井 雄隆

▼研究概要
本研究の目的は,データマイニングの手法を用いた日本人英語学習者のエッセイ評価と文法的誤りパターンの関係性についての検討である。日本人英語学習者のエッセイ評価において,文法的誤りがどの程度関係しているかというのは,まだ十分に明らかにされていない。本研究では,その関係性について検討するため,2つの調査を行った。1つは,文法的誤りを20個のカテゴリーに分類し,エッセイ評価別の共起関係についてデータマイニング手法の1つであるアソシエーション分析を用いて,日本人英語教師がライティングを評価する際に寄与する文法的誤りについて検討した。もう1つは,文法的誤りの頻度情報からエッセイ評価の予測をするため,画像処理などによく用いられる手法である最近傍法を用いてエッセイ自動評価の可能性について検討した。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

テスト項目と英文読解ストラテジーの関係
―正誤答時の視線データを基に―

愛知県/名古屋大学大学院 在籍 吉川 りさ

▼研究概要
本研究は,読解力テスト解答中における認知プロセスを明確にするため,日本語を母語とする英語学習者が読解テストに解答する際の眼球運動を計測し,⑴ テスト項目の認知的妥当性の検証と,⑵ 解答者の内的要因と認知プロセスの関連を調べた。具体的に,大学(院)生が英検の読解問題を解答する際の眼球運動の計測と,アンケート・インタビュー調査を実施した。主な結果は以下のとおりである;⑴ 項目正答者は,誤答者に比べて,解答時のテキスト注視時間が短く注視回数が少ないことから,解答該当箇所をより迅速にかつ的確に認識している;⑵ テスト項目正答に至るまでの認知プロセスには読み手のメタ認知ストラテジーが関与している;⑶ 解答時の認知プロセスを解明する上で,研究方法論間のトライアンギュレーションは有効に機能する。⑴を通して,英検問題項目への認知的妥当性が示された。これらの結果は,新たな視点からテスト評価と英語力評価の実現可能性を示唆している。

研究部門 Ⅳ 英語能力テストに関する研究

バックグラウンドノイズがリスニング理解度に与える影響の検証

茨城県/筑波大学大学院 在籍 藤田 亮子

▼研究概要
本研究は,リスニング音声に付加されたバックグラウンドノイズが日本人英語学習者のリスニング理解にどのように影響を与えるかを,ノイズのレベル,学習者の熟達度,リスニング問題の難易度に焦点を当て検証した。協力者102名は,3種類の難易度で異なる度合いのノイズが付加されたリスニング問題に回答した。その結果,ノイズのついた音声は,ノイズの度合いが小さい場合,学習者の熟達度を測定することに適していることが明らかになった。第二に,ノイズの影響は熟達度や問題の難易度により異なるものの,ノイズのレベルが大きいほど,学習者のリスニング理解度が低くなった。第三に,熟達度の影響としては,熟達度が高い学習者であっても,ノイズのレベルにかかわらず,ノイズが付加されていない音声と比較して,ノイズが付加された音声では理解度が低下した。最後に,リスニング問題の難易度によってもノイズがリスニング理解度に与える影響は異なっていた。学習者にとって低い難易度でもノイズがあることでリスニング理解度が低下した。

研究部門 Ⅴ 英語能力テストに関する研究

質問応答モデル QUEST に基づく錯乱肢の作成
―解答収束メカニズムを利用して―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 細田 雅也

▼研究概要
人が質問に答えるとき,候補となる解答から最適なものを決める「解答収束メカニズム」が働く。QUEST はこの解答収束メカニズムによって,質問に対する最適解を生成する質問応答モデルである。本研究は QUEST による解答収束メカニズムを,英文読解テストにおける錯乱肢の作成に利用することを目的とした。調査1では,錯乱肢作成の基盤を築く目的で,QUEST の3つの解答収束メカニズム(i.e., リンク検索,構造距離,因果強度)がどのような順番で働くのかを検証した。調査2では,調査1から示された収束メカニズムの段階性(解答収束ステージ)を利用して,収束メカニズム上最適解に近い,および遠い錯乱肢を作成し,テキスト理解度が異なる受験者の弁別にどの程度有効かを調べた。その結果,最適解に近い錯乱肢は,テキスト理解度の低い受験者をより多く引きつけることがわかった。これらの調査を通し,もっともらしい錯乱肢の性質に対する示唆と,質問応答モデルの言語テストへの利用可能性が示された。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校英語科における強制アウトプットが不定詞の習得に与える影響

大分県/佐伯市立昭和中学校 教諭 山城 仁

▼研究概要
本研究は,英語初学者である中学生に対して強制アウトプット(ストーリーリテリング,ディクトグロス)を取り入れた授業を実践し,不定詞の習得にどのような影響を及ぼすのかを検証したものである。強制アウトプットを取り入れた授業は,それぞれ13時間実施された。授業実践前,直後,4週間後に行った自由英作文テストと文法性判断テストにおける複雑性・正確性・流暢性に関する分析から,ストーリーリテリング群には4週間後においても不定詞の使用数に効果が保持されており,不定詞の使用を促す効果が特に見られることが明らかとなった。ディクトグロス群には4週間後にかけて意味内容に応じてエラーを訂正する問題に改善が見られ,文構造の適切な使用を促す効果が特に見られることが明らかとなった。また,ディクトグロスは実践直後には不定詞の使用種類を,ストーリーリテリングは4週間後にかけて不定詞の使用数を有意に伸ばすことが明らかとなった。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

英文手紙交換がもたらす中学生の異文化理解と英語学習に対する意識の向上

大阪府/大阪市立高津中学校 教諭 伊藤 由紀子

▼研究概要
本研究では,日本とアメリカの生徒との英文手紙交換の活動を通して,両国の生徒のグローバルマインドと異文化理解の変容,日本の生徒の英語の授業における積極性に与えた影響を,質問紙によって検証した。また,取り組みに対する目的と,教師の視点からとらえた生徒の変容を,教師の半構造化インタビューにより分析し,さらに,中学時代に手紙交換を経験した卒業生の半構造化インタビューから,手紙交換が卒業後の進路や,英語学習への意欲に与えた影響について分析した。その結果,異文化理解に関して,日本の生徒の事前と事後で顕著な差が見られ,取り組み後にはお互いの国に対する印象が以前より良くなったことと,日本の生徒は以前よりも英語を使うことに対し自信がついたことが明らかとなった。また,教師が同じ目的を持って取り組んだことで,英文手紙交換が生徒の異文化理解の変容に影響を与え,卒業後の英語学習への意欲の向上につながったことがわかった。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

テレビ会議システムを使用した異文化間プレゼンテーション能力の向上のための指導【共同研究】
―オーストラリアの高校生とのテレビ会議授業を通して―

北海道/北海道千歳高等学校 教諭・代表者 山崎 秀樹

▼研究概要
本研究は,異文化間プレゼンテーションの経験がない生徒が,オーストラリアの高校生とのテレビ会議システムを通じて,英語による異文化間プレゼンテーション能力を,どのように,どれくらい向上させるのか,また,英語による双方向の即時的なコミュニケーションが,英語プレゼンテーションへの心理的障壁を取り除くことができるのかを検証した。その結果,① プレゼンテーションとそれに向けての準備が,英語力(特に話すこと・書くこと)を向上させること,② 異文化にいる相手にも伝わるよう,プレゼンテーションの構成やデリバリーの工夫をすること,③ 異文化間コミュニケーションの差異に気づくこと,④ 同世代の生徒を相手に双方向かつ即時的なコミュニケーションを通して,英語を使うことへの自信が向上すること,⑤ 以降のプレゼンテーションスキルの向上や英語学習への動機づけが強化されることがわかった。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

評価 rubric を活用した英語ライティング力と自己評価力の育成をねらった実践

新潟県/新潟県立松代高等学校 教諭 松井 市子

▼研究概要
本研究の目的は,日本人高校生の英語ライティング力と自己評価力の育成に有効な評価 rubric の活用方法を探ることである。特に,評価 rubric を生徒と作成する段階を指導に取り入れることで,取り入れない場合との違いを明らかにする。本研究では,評価 rubric を生徒が能動的に作成したものを使用する方が,教師が作成したものを受動的に使用する場合よりも,生徒の英語ライティング力の育成に有効だということがわかった。特に,評価 rubric の「内容」の項目は,評価 rubricを活用すると教師の支援なしでも生徒自身でモニタリングできることがわかった。「言語(語彙)」の項目は,評価 rubric を生徒に作成させることで場面や状況を考慮した語彙選択をするという結果が得られた。また,評価 rubric を生徒に作成させることで,生徒が語彙や文法項目の学習を他の項目より重視していることもわかった。生徒の自己評価力に関しては,評価 rubric を生徒に作成させることで「教師評価」との「ずれ」が少なくなることがわかった。CAN-DO リストとパフォーマンスタスク,そして評価 rubric を有機的に指導に活用することが大事で,特に評価 rubric は生徒自身が作成したものを使用することで,生徒のライティング力や自己評価力がより育成され,それら三位一体の活用と教師の形成的評価が生徒の自律を促すことにつながるという結果を得ることができた。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

個別カンファレンスを通しての「自立した書き手」の育成と「学び」の観察

アメリカ/ハワイ大学マノア校博士課程 在籍 今井 純子

▼研究概要
本研究は,個別ライティング・カンファレンスプログラムを,アメリカの大学の第二言語としての英語教育(ESL)課程において試験的に導入し,第二言語として英語を学ぶ大学・大学院生と,チューターとの間のやりとりを,学期を通して経時的に観察した。また,各カンファレンスの後,研究者とともに録画したビデオを見ながら,実践への参加者がカンファレンスについて振り返る時間を設けた。本紙では,チューターの1人(英語母語話者)と日本の大学からの交換留学生の1学期間(全4回)のライティング・カンファレンスへの参加の様子を観察し,事例として紹介する。また,この事例を,同チューターが受け持った他の学生との事例と比較し,ストラテジーへの言及,学習者の気付き,カンファレンスにおける共同作業,研究者の介入という点からその特徴を挙げる。また,プログラムを通して,「自立した書き手」の育成を目的とした支援や「学び」がどのように行われていたか,今後の研究の方向性も含めて考察する。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本人英語教師の英語観
―「国際語としての英語」を中心として―

東京都/立教大学大学院 在籍 行森 まさみ

▼研究概要
本研究では,日本人英語教師の「国際語としての英語」に対する意識とそれを構成する要因を検証し,教師の英語観の実態を明らかにすることを目的としてアンケート調査を行った。調査協力者は288名の高校教師で,t検定と探索的因子分析を用いて結果分析を行ったところ,英語でのコミュニケーション実践において,NS により強い意識を置いていることがわかった。その理由を表す英語観には,規範主義や英語圏への文化的関心,英語への言語学的関心,英語教育の知識志向および実用志向があることが明らかになった。自由記述回答では,実用性を重視する近年の英語教育の傾向が過度に進むことへの懸念も見られ,学校という場における英語教育のあり方を問うものもあった。そのような立場からすると,NNS として,NS だけではなく,より広く NNS とのコミュニケーションをも意識した「国際語としての英語」という概念は,実用主義を単に強化するものとしてとらえられる可能性が示唆された。

テーマ指定研究部門 Ⅰ 「Can-do」に関する研究

スピーキング分野における「英検 Can-do リスト」活用の工夫【共同研究】
―ルーブリックの活用を通して―

茨城県/茨城大学教育学部附属中学校 教諭・代表者 小沢 浩

▼研究概要
本研究は CAN-DO リストについての意義と目的について概観し,真正の評価(authentic assessment)の意義や目的が CAN-DO リストと類似していることについて明らかにする。また,「英検 Can-do リスト」の能力記述文と真正の評価の採点ツールであるルーブリックを統合し,その効果ならびに波及効果について,スピーキング分野に絞り検証する。検証の結果,次のことが明らかになった。教師と生徒が「英検 Can-do リスト」およびルーブリックを単元導入時に共有すれば,めざすべき目標が双方に具体的に設定され, 1 )教師はその目標を達成させようと具体的に支援できる(授業改善につながる)。2 )生徒は身に付けるべき力を身に付けようと努力し,単元末に行うパフォーマンステストに向けて主体的かつ意欲的に学ぶことができる(自己学習力の向上,自己啓発促進,学習意欲向上)。3 )生徒は「英検 Can-do リスト」にある能力を身に付けたと実感することができ,話すことに対して自信を持つことができる(パフォーマンス力の向上)。

テーマ指定研究部門 Ⅱ 「Can-do」に関する研究

医学英語CAN-DOリストの開発【共同研究】

東京都/東京外国語大学大学院 在籍・代表者 高橋 良子

▼研究概要
本研究の目的は,医学英語 CAN-DO リストを開発し,その開発過程を詳細に記述することである。現在,ヨーロッパ共通言語参照枠( Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment, CEFR)や CAN-DO リストの概念は日本の英語教育にも広く応用されているが,その多くが一般英語(English for General Purposes)教育に関連してであり,特定の目的のための英語(English for Specific Purposes, ESP)に関して十分とは言えない。医学英語という高度に専門的な分野において CAN-DO リストを開発し,その開発過程を克明に記録すれば,CEFR やCAN-DO リストの ESP への応用可能性を明らかにできる。本研究における医学英語 CAN-DO リストの開発は,開発目的の明確化→提示方法の明確化→タスクの選定→能力記述文の特徴の明確化→能力記述文の作成,という手順を踏んで行われた。能力記述文の作成過程では,英語圏で出版されている医療コミュニケーション関連の書籍や,医学英語に関する資格試験など,さまざまな資料を参考にした。今後は,本研究で開発された医学英語 CAN-DO リストを実際の授業で活用しその妥当性を検証することによって,より進歩した医学英語 CAN-DO リストを開発したり,他分野の ESP における CAN-DO リストの作成を試みることが必要である。