英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.33 2021

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

読み手の理解度を考慮した英作文の正確性指標の量的妥当化:どのような誤りが" 重い" のか

茨城県/筑波大学大学院 在籍 岡 秀亮

▼研究概要
本研究の目的は,(1)英作文における書き手の誤りと,それらが読み手の理解を阻害する度合い(重み付けされた正確性指標:WCR)を調査し,(2)熟達度に応じて,誤りとWCR がどのように変化するのかを明らかにすることである。WCR の長所は,誤りの種類を読み手の理解を阻害する度合いに応じて3段階に同定することで,教師によるフィードバックの与え方や指導方法をより明確にすることを可能にする点にある。一方,短所として,当該指標の評定には評定者の「理解の阻害度」が影響するため,高い信頼性を得ることが難しい。そこで,本研究は,Polio and Shea(2014)にみられる25の文法的誤りがその種類に応じてどのように重みづけされるべきなのか,対応分析を用いて検討した。その結果,3つのカテゴリーが得られ,各カテゴリーで特徴的な誤りの種類を特定することができた。さらに,熟達度間におけるWCR の変化を分析した結果,軽微な誤りは熟達度が上昇するにつれて減少する一方で,読み手への影響度が大きい誤りの数は,熟達度が上がると増加する傾向にあることがわかった。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

タスクにおけるやり取り能力の測定:コミュニケーションストラテジー「交渉の合図」「会話維持の反応」に焦点を当てて

茨城県/筑波大学大学院 在籍 小林 慎太郎

▼研究概要
本調査では, 「コミュニケーション上の問題・困難を解決するために, 学習者が話し相手と協力するだけでなく,相手の助けを借りずに自分で解決策を見つける」行為(Færch & Kasper, 1983, 1984)とされるコミュニケーションストラテジー(CS)を効果的に引き出すことができるコミュニケーションタスクの種類を検証した。  分析1では, 3種類のコミュニケーションタスクを行い, 文字起こしデータから特定のCS の使用頻度を算出した。結果として, 一部のCS ではタスク間の差は見られなかったものの, ジグソータスクにおいて3つのCS(i.e., 確認チェック, 前向きな応答, シャドーイング)の使用頻度が最も高くなった。コミュニケーションを活性化させ,CS の使用を促すタスクとしてジグソータスクが有効であることが確認された。  分析2では, 事後アンケートからタスク別にそれぞれのCS の使用意識を算出した。結果として,分析1と同様に2つのCS ではタスク間の差は見られなかったものの, ジグソータスクでは2つのCS, インフォメーションギャップタスクでは1つのCS の使用意識が最も高くなった。学習者のCS の使用意識を高めるタスクとして, ジグソータスク, 次いでインフォメーションギャップタスクが有効であることが確認された。  本調査全体では, CS の使用を促すタスクとしてジグソータスクの有効性が示されたものの,タスク自体の難易度に代表されるタスク特性要因や, 協力者間の親近度に代表されるタスク実施要因などの要素がコミュニケーションに与える影響の大きさが強調された。そのため, 本調査では調整できなかったこれらの要素を調整することで, さらに活発なコミュニケーションや頻繁なCS の使用が予想され, より精緻な分析が可能になると考えられる。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

弁別力の高い推論質問の解明:読解テストへのRI-Val モデルの応用

茨城県/筑波大学大学院 在籍 西 聖

▼研究概要
本研究では,RI-Val モデル(Cook & O’Brien, 2014; O’Brien & Cook, 2016a,2016b)の受動的な活性化プロセスの仮定に基づいて推論質問を9つに分類し,国内大規模英語読解テストにおける推論質問の出題状況と弁別力の高いテスト作成に貢献する推論質問のタイプを検証した。  調査1では,英検,TOEFL,センター試験の読解セクションにおける推論質問の出題状況を分析した。結果,英検では推論質問の出題がほとんど見られなかった一方で,TOEFL ではアカデミックな文章を読む際に必要な単語統合に関する推論が,センター試験では概要や要点の把握,また書き手の意図を読み取るのに必要な因果的先行詞や感情に関する推論が有意に多く問われていることが明らかになった。  続く調査2では,9つの推論質問の中から推論テストの成績の高い/ 低い受験者を弁別することができる推論質問のタイプを解明した。結果より,照応参照は安定して推論能力の有無を弁別できること,また因果的先行詞は質問タイプ自体の難易度が高くないため推論能力の有無の弁別には適していないことが示された。

研究部門 Ⅳ 英語能力テストに関する研究

中学校英語教科書に提示される語彙の習得度について ― 受容語彙と産出語彙の習得に注目して ―

京都府/京都朝鮮中高級学校 教諭(申請時:千葉大学大学院 在籍)李 貴玉

▼研究概要
本研究では, 教科書で学ぶ語の習得度について受容語彙知識と産出語彙知識の習得に焦点を当て, どのような要因が習得に影響を及ぼしているのかを検証した。語の習得度に影響をあたえる要因はたくさん挙げられるが, 本研究では語に触れる頻度と語の内的な要因である親密度, 具体性, 語の長さ(文字数)を独立変数として分析をした。  まず, 各要因と語彙知識の習得の関連性を調べるため相関分析を行った。分析の結果, 受容語彙テストと産出語彙テストの両テストスコアで, 親密度と具体性との問に有意な中程度の相関があることが明らかになった。また, 産出テストのスコアでは親密度と具体性に加え教科書での提示頻度との間に中程度の有意な相関がみられた。しかし, 各要因がどの程度習得を予測できるのかを調べるために行った重回帰分析の結果, 受容テストの分析ではどの変数も有意な予測度を示さず, 産出テストにおいては親密度のみが有意に予測に貢献するという結果が得られた。したがって, 本研究で得られた結果から教科書で学ぶ語の産出知識の習得度には, 語の親密度が重要な要因として関わっていると考えられる。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

符号付きメタ言語フィードバックが高校生のメタ言語能力と自由英作文の正確性に与える影響 ― 潜在曲線モデルを用いた縦断研究 ―

神奈川県/栄光学園高等学校 教諭 片居木 純太

▼研究概要
英作文のフィードバックは教師にとって負担が大きい。生徒に有益な情報を含むフィードバックを与えようとすると膨大な時間と労力がかかり,簡潔なフィードバックにすると時間を節約できるが,生徒にとって訂正に必要な情報が少ない。上記のジレンマを解消する手法として本研究では「符号付きメタ言語フィードバック」を紹介する。また,その有効性を検証するために,今回は名詞の可算性に焦点を絞って,メタ言語能力が英作文の正確性にどのような影響を与えるかを調査した。さらに,メタ言語能力と英作文の正確性の間にはどのような関係性があるかを明らかにした。日本の高校2年生170名を対象に,統制群を設けず12週間で自由英作文を5回実施したうちの3回分と,メタ言語知識テストを5回実施したうちの3回分を潜在曲線モデルにより分析した。その結果,符号付きメタ言語フィードバックによって名詞の可算性に関して英作文の正確性を増加させる可能性があることが判明した。また,メタ言語能力と英作文の正確性の間には因果関係が確認された。これらの結果より,12週間という短期間においても符号付きメタ言語フィードバックは習得困難な名詞の可算性の習得を促す点で効果的と期待できることがわかった。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

CLIL(内容言語統合型学習)実践におけるtranslanguaging の効果

群馬県/伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校 教諭 河野 和幸

▼研究概要
本稿では主に英語で行われる内容言語統合型学習(Content and Language Integrated Learning)の授業の中で戦略的に日本語を活動の中に取り入れた教育法であるトランスランゲージング(translanguaging)の効果を検証した実践研究について報告する。伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校において令和2年9月から令和2年10月の2か月間, 英語のみのCLIL 授業とトランスランゲージングを取り入れたCLIL 授業を実施し, 効果を比較検証した。 授業実施前後に質問紙による調査を行い, トランスランゲージングを活用した授業のリスニングとリーディング活動における内容理解と英文解釈への影響, スピーキングとライティング活動に際しての思考の深まり整理への影響, また授業活動等に関する生徒の心的情動の変容を検証した。さらに, スピーキングとライティング活動における英語の流暢さの変化についても, トランスランゲージングを活用した場合と, そうでない場合の英語の産出量を比べた。検証の結果, トランスランゲージングがリスニングとリーディングにおける内容理解と英文解釈を促進させ,ライティングとスピーキングにおける思考の深まり, 整理を促し, 学習に対する情緒的な側面への好影響があることも確認された。しかし, その一方で, トランスランゲージングによるスピーキングとライティングにおける英語の産出量にはあまり影響が見られず, その有効性は見られなかった。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生を対象とした反論と反駁を含む英語論証文指導

福岡県/福岡県立春日高等学校 教諭(申請時:福岡県立香住丘高等学校 教諭)坂口 寛子

▼研究概要
本研究は,新設定科目「論理・表現」を見据え,高校生を対象とした明示的英語論証文指導を行い,論証文中への反論と反駁の導入効果と,ライティングに対する意識の変化について検証することを目的とした。具体的には,「論拠」の明確化を目的とした日本語によるアーギュメント指導,他者意見への気付きを目的としたディベート活動などの足場掛けを行いながら論証文指導を行い,事前・事後のエッセイ・ライティングテスト中のアーギュメント要素の頻出回数と,質問紙調査によるライティングに対する意識の変化を,対応のあるt 検定により分析した。その結果,明示的英語論証文指導は,高校生に論証文中への反論と反駁の導入を促し,「読み手意識」,「書き手の立場」,「反論・反駁導入への意識」に変化をもたらすことが示唆された。また,反論に適切に対応した反駁指導の必要性も明らかとなった。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

CLIL(内容言語統合型学習)におけるフォーカス・オン・フォームでの指導が児童に与える影響

大阪府/寝屋川市立第五小学校 教諭 中田 葉月

▼研究概要
本実践研究の目的は, 内容言語統合型学習(Content and Language Integrated Learning=CLIL, 以下CLIL)の枠組みを使用し, フォーカス・オン・フォーム(Focus on Form, 以下FonF)を用いて指導することで, どのような効果が現れるかを明らかにすることである。特に, 児童に文構造への気づきを促し, 英語表現を獲得(習得)させることができるかが焦点である。具体的には, CLIL 授業において内容のあるティーチャー・トークでインプットを与え, 表現や単語を入れ替える活動を行うことで文構造に気づきやすくし, 児童が英語の作り出しを負担なく行うことができるかを,聞き取りクイズや発表の様子, 児童の感想を用いて検証した。また, 学年全体で, 年間を通してCLIL 授業に取り組み, 児童の様子を観察した。  研究の結果, CLIL 授業におけるFonF での指導により, 児童は文構造に気づくことができた。そのことにより, 何度も発話練習をすることなく,スムーズに発話を行うことができることが確認でき, CLIL 授業におけるFonF 指導の有効性が確認された。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校における明示的知識の手続き化を促すpractice の実践と分析

東京都/東京学芸大学附属世田谷中学校 教諭 山城 仁

▼研究概要
本実践研究は,生徒が学習する文法的知識などの明示的知識をより自由に使える状態へと育成するための練習(以下practice とする)のあり方を計画・実践し,質問紙調査,パフォーマンスの分析をもとに成果と課題を検討した。  実践にあたっては,practice を「学習する文法事項を明示的に理解させた上でその形式・意味・機能の結びつきを強化することを目標とし,その手続き化を促す上で生徒が抱える課題の克服に向けた意図的な言語活動をくり返し実施する一連の取り組み」と定義し,その具体化を試みた。実践的な見地からpractice は,(1)生徒が自ら使用する形式を選択する余地のある活動,と(2)生徒の学習文法事項における使用を促す活動に大別された。明示的知識の手続き化を促すという目的に向けて,生徒のパフォーマンスを適宜評価しながらこれらのpractice をくり返し実施した。  実践後に行った質問紙調査のプロトコルをKH-coder を用いてKWIC 分析をしたところ,生徒の多くは文法学習が契機となってこれまでできなかったことができるようになったと感じていることが明らかとなった。また文法をスキルの中で学習し,使えるようになることが文法を理解することである,と考えていた生徒(スキル群)は複雑性における一部の指標(t-unit の長さ,使用文法の種類)を有意に変容させていた。スキル群の生徒がどのような思考を持っていたのかを明らかにするためプロトコルを分析したところ,「英語学習に毎日取り組む」という点が挙げられた。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

発話の流暢性における複数語ユニットの有用性:複数語ユニットの知識と使用の観点から

東京都/早稲田大学大学院 在籍 瀧澤 嵩太郎

▼研究概要
本研究では, 「複数語ユニットの知識」と「発話における複数語ユニットの使用」が, 発話の流暢性の諸側面とどのような関連性を持つかを調査した。発表語彙としての複数語ユニットの知識を測定するため, 今回新たにテストを作成し, 既存の発表単一語彙と受容複数語ユニットの知識を測るテストとの関連性を調べた。日本人大学生63名に発話課題として意見を自由に述べるタスクを実施し, 3つの発話流暢性の側面(speed, breakdown, and repair fluency)を目的変数として, 3種類の語彙テストと, 発話をn-gram 分析したものを説明変数として予測をした。分析の結果, (1)発表単一語彙と発表複数語ユニットは無声ポーズとの相関を示したが, 発表単一語彙の方が予測力は強かった;(2)複数語ユニット使用では低頻度語同士の結びつきの強いn-gram(mutual information)がspeed fluency とrepair fluency を予測した;(3)発表単一語彙の知識がbreakdown fluency を, 複数語ユニットの知識と使用がspeed とrepair fluency を予測した。本研究によって、複数語ユニットと発話流暢性の密接な関連が示された。 ]

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

高大連携を志向した日本人英語学習者の基本動詞コロケーションの発達パタンのモデル化 ― 学習者コーパスを使った研究 ―

岡山県/岡山県立倉敷中央高等学校 教諭 堀家 利沙

▼研究概要
日本人学習者の英語コロケーション運用力の不足は広く知られるところであるが,この点についての対処を考える上では,高校生から大学生による産出を体系的,且つ一体的に分析し,コロケーション使用能力の発達過程をモデル化し,課題を解明した上で,教材や教授法の改善を図る必要がある。本研究は,汎用性の高いコロケーションパタンである基本動詞コロケーションを取り上げてこの問題を議論した。分析の結果,RQ1(学習段階と句動詞使用頻度の関係性)については,学習段階の上昇に伴い,句動詞使用頻度は着実に増加するものの,英語母語話者(以下ENS)と比較すると,大きく不足することが示された。RQ2(各学習段階を特徴づける句動詞と句動詞構成要素)については,高校生は限られた句動詞(go out, get along)を過剰使用する傾向が見られ,大学生になると学習段階が進み,使用種類数が増加するが,これらの傾向はENS の実際的な使用傾向とは乖離していることが明らかになった。その原因を探るために,句動詞を構成要素に分けて,対応分析を行った結果,特に不変化詞成分のコアイメージに対する学習者の理解不足がその一因となっていることが確認された。最後にRQ3(教科書における句動詞の扱い)については,頻度に不足はないが,種類の面から見ると,ENS が多用する句動詞(take on, come down など)を十分に扱えておらず,その種類の偏りが学習者の句動詞使用にも影響していることが示唆された。これらの結果は,英語教材の改善や,英語教育における高大連携の進展のための1つのヒントとなりうるものである。