英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.35 2023

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

読解中のノートテイキングが一貫した心的表象に与える影響 —再話による読解情報の復元を通して―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 小野 由香子

▼研究概要
本研究では, 読解中の活動であるノートテイキングがテキスト内容の記憶にどのような影響を与えるのかを検証することを目的に, アンダーライン/ キーワード抽出/ 図式化のいずれかの読解タスクを与え, 読解後の再話プロトコルを比較した。二元配置分散分析の結果, 各タスク条件で再話の成績に有意性は見られなかったが, 熟達度の主効果は有意であることが明らかになった。また, 非テキスト情報について, 熟達度上位群の方が有意にSUB の出現率が高かったが, ADD やSUMについては熟達度間で差はなく, 各タスク条件間でも有意な差は見られなかった。さらに, 協力者のノートと再話プロトコルの質的な分析から, ノートの取り方と再話成績には関係がある可能性が示唆された。本研究から, 生徒にノートテイキングを指導する際には, 生徒の熟達度を考慮し, 英文の構造がわかるようなノートをとることを伝えることで, より強固な心的表象を構築できることが示唆された。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

グラフィックオーガナイザーを用いた心的表象構築プロセスの視覚化と評価

東京都/安田学園中学高等学校 教諭 (申請時:茨城県/筑波大学大学院 在籍) 工藤 大奈

▼研究概要
昨年度施行された学習指導要領では,深い学びまでの理解が求められている。深い学びに繋がるために,視覚情報をリーディングに使用することが有効である。今回の調査では,リーディングに,本文の内容を図式化したグラフィックオーガナイザー(Graphic Organizer,以下GO)を取り入れた。現状の英検問題において,GO を作成する問題を設けることが可能なのか,過去問題を精査し調査した(調査1)。加えて,リーディングの最中にGO を作成させるタスクを課し,これにより読み手が作成する読解のイメージを視覚化し,評価までできるのかを調査した(調査2)。結果として,調査1ではメール文と論説文がGO 作成に適していると判断された。これは,時系列が明確であったり,複雑な情報の整理が可能であるためである。また調査2では,読み手が作成したGO を評価として活用することによる有益な結果は得られなかった。GO の活用については内容理解のサポートとなることは判明したが,評価の作成については今後の大きな課題である。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

英字幕付き音声動画の視聴による第二言語の偶発的語彙学習  ―使用する音声動画マテリアルに関わる変数が持つ影響―

宮城県/東北大学大学院 学術研究員 (申請時:東京都/東京外国語大学大学院 在籍) 黒川 皐月

▼研究概要
本研究は,英語を外国語として学習する日本人大学生148名を対象に,第二言語で動画を観る際にいかに字幕が偶発的語彙学習に役立つかを調べた。具体的には(1)英字幕の効果,(2)語彙カバー率の影響,(3)日本語字幕と英字幕の連続的な使用の効果である。参加者を4つの実験群と2つの追加グループに分け,実験一日目に3種類のターゲット語彙事前テストを行った。1週間後の二日目に指定の条件で内容理解を中心に動画を2回視聴してもらい事後テストを行った。これら語彙テストの正誤データに対して,一般化線形混合モデルのロジスティック回帰分析を行った。結果は,どのグループも動画視聴による語彙の学習が見られたが,英字幕,そして日本語字幕と英字幕の連続的な使用による効果は見られなかった。また,字幕の有無に関わらず,95% 以上のカバー率がある学習者は有意により多くの語彙を習得できていることが分かった。第二言語での動画視聴に関する教育的示唆についても議論していく。

研究部門 Ⅳ 英語能力テストに関する研究

複数テキスト読解でのつながり形成が日本人EFL学習者の統合的理解に与える影響の検証

埼玉県/駿河台大学 助教 (申請時:東京都/東京都立国分寺高等学校 教諭・茨城県/筑波大学大学院 在籍) 三上 洋介

▼研究概要
本研究の目的は,複数テキストを読解した際のテキスト間のつながり形成と読後の統合的理解の関係を,即時処理と事後処理の2つの測定方法で調べることである。実験では,4つの異なる関係性で構成される複数テキストセットが用意され,協力者はテキストセットを読みながら,テキスト間のつながりを特定し記述することが求められた(即時処理)。読解後,統合的な理解を測定するためライティングによる要約設問が与えられた(事後処理)。その結果,総つながり数に関しては,テキスト要因での影響は見られなかった。一方,熟達度の主効果が有意で熟達度が高い人はつながり形成数が多く,熟達度要因はつながり形成に影響していた。また個別に形成されたつながりの数と要約ライティングスコアにおいて,正の相関関係が見られた。つまり複数テキストを読解した際のテキスト間のつながり形成と読後の統合的理解には関連性が見られた。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

高専生による説明文理解を深める協同的な再話活動 ―状況モデル構築につながる質問項目の比較・検討―

茨城県/茨城工業高等専門学校 講師・茨城県/筑波大学大学院 在籍 伊東 賢

▼研究概要
本研究の目的は,英語による再話を授業に取り入れた場合に,(a)発話流暢性が向上するのか,(b) 英語による再話が内容理解をさらに深めるのか,(c)どのような足場がけの質問が再話者の状況モデル構築につながるのかを検証することである。国立高等専門学校の学生が5週にわたり,英語による再話を取り入れた授業に参加した。分析の結果,再話中のポーズ時間は減少し,発話量,発話スピードは一定程度向上するが,言いよどみ数は変化しないことが示された。また英語による再話では,学習者はテキストの表現そのものに注意を向けるようになり,テキストベースの記憶が強化され,テキストの内容にそぐわない情報に気づく可能性が高まることが示された。一方で,状況モデルの構築を促す効果は確認できなかった。再話が滞った際の足場がけの質問については,授業者が用意した質問よりも,聞き手自身が語彙レベルで記憶の想起を促す質問を考えて行うことが多かった。足場がけの質問はテキスト情報をより多く再生することに寄与するが,必ずしも滞った再話を再開させることが,再話者がより豊かな状況モデルを構築することにつながるわけではないことが示された。 より長期間にわたって同様の研究を行うことの重要性が示唆される結果となった。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

日本人高校生に対する,短期間でより効果的なスピーキング活動:「タスクの繰り返し」の検証

福岡県/北九州市立高等学校 教諭・茨城県/筑波大学大学院 在籍 上野 正和

▼研究概要
本研究は発話流暢性の向上を調査したものである。日本人高校生を対象とし,絵を見てその内容を英語で描写するタスクの繰り返しを週3回,2週間という比較的短い期間で実施した。そして,どのような発話流暢性の向上が図れるかについて調査した。また,ブロック型(1回目:AAA,2回目:BBB,3回目:CCC)とインターリーブ型(1回目:ABC,2回目:ABC,3回目:ABC)という学習方法を1週目と2週目で様々な組み合わせで行った場合,どのような型の組み合わせで行うことがより発話流暢性の向上に効果的かを調査した。その結果,発話流暢性では「発話の割合」,「文と文の間のポーズの長さ」,「文と文の間のポーズの数」の3観点に向上が見られ,型の組み合わせでは1週目をインターリーブ型で行い,2週目もインターリーブ型で行う「インターリーブ型・インターリーブ型」が最も効果的であることが示唆された。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

未知語推測トレーニングの効果:品詞への注目を促す明示的指導を通して

群馬県/関東学園大学附属高等学校 教諭 岡田 龍平

▼研究概要
本研究では日本人英語学習者の未知語推測能力を高める2種類のトレーニングの効果を検証した。1つは品詞を同定する形式中心のもの, もう1つは未知語を推測するために必要な文脈的手がかりを同定する意味中心のものである。トレーニング前とトレーニング後の結果を比較したところ, 時期による影響は見られたが, 2種類のトレーニングの間には違いは見られなかった。この理由として, 未知語推測には学習者の背景知識や熟達度など, さまざまな要因が関係していることが考えられる。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校の「読むこと」におけるMediation活動を通した思考・判断・表現力の育成

兵庫県/兵庫県立芦屋国際中等教育学校 教諭 (申請時:兵庫県/兵庫県立芦屋国際中等教育学校 教諭・兵庫県/神戸市外国語大学大学院 在籍) 林 さなえ

▼研究概要
本実践は,Mediation 活動により,読み物教材に対する中学生の思考力・判断力・表現力を高めることを目的とした。Mediation は,受容産出スキルとされ,他者と関わることで成立する。授業では,3年生20名がペアワークの形態で,別のペアとは異なる内容の物語文・説明文を読み,その内容を相手に伝える活動を行った。その中で,聞き手には話を聞きながら内容に関する質問を行うことを,また話し手には読んだ内容をもとにそれらの質問に答えることを求めた。読み物教材の字義的な理解度は筆記再生テストで測定した。思考力・判断力・表現力については,生徒のやり取りを質的に分析した。その結果,Mediation 活動は,読み物教材のジャンルに関わらず生徒の英文理解を促すことがわかった。さらに生徒のMediation 活動のやり取りから,内容に関する質問や推論を活用した質問など,生徒が内容理解を深めるために辿った様々な過程が確認できた。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

AIツールを活用して日本人中高生の学習の主体性を高めることをねらったライティング指導

新潟県/新潟県立津南中等教育学校 教諭 松井 市子

▼研究概要
本研究は,「主体性」を「自律学習能力」と捉え,日本人中高生を対象にAI ツールを活用して学習の主体性を高めることをねらったライティングタスクを指導に取り入れた。生徒は,タスクでフィードバックの特徴が異なる複数のAI ツールから主体的に選び,教師の支援がほとんどなくてもAI が出した結果(フィードバック)を読み取り,自力でのCEFR レベルアップをねらった。アンケートを用いた分析の結果,CEFR_A 学習者は自力でのレベルアップは難しく,教師不在への不安も大きいが,見通しを立てたり振り返ったりして自らの学習を自覚的に捉えるなど自律学習能力の育成が可能であることが分かった。学年の特性を踏まえて本タスクを取り入れることで,教師のフィードバックの負担減や学習者のライティング活動機会増が期待でき,教育AI を活用して公立学校で「1人1台端末」を使いながら最適な個別学習のための持続可能なライティングタスクを生徒主体で推進できる可能性が示された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

学習者の英語観と情意要因 —グローバル英語に焦点を当てて―

広島県/広島商船高等専門学校 准教授 (申請時:広島県/広島商船高等専門学校 講師) 池田 幸恵

▼研究概要
本研究は,高専生を対象として,母語話者英語とグローバル英語に対する意識の違い,さらに英語観が動機づけを含めた情意要因とどのように関連するかについて検討することを目的とした。質問紙調査の結果,英語観には「母語話者英語志向」,「アイデンティティ」,「グローバル英語志向」の3因子が見出され,母語話者英語志向がアイデンティティおよびグローバル英語志向よりも有意に高いことが示された。一方で,母語話者英語志向とグローバル英語志向の間には中程度の相関関係が示され,母語話者英語志向とグローバル英語志向を対立する概念とは捉えていないという高専生の英語観の特性が示唆された。さらに,英語観が動機づけ,英語完璧主義,スピーキング不安に及ぼす影響について検討した。その結果,母語話者英語志向,アイデンティティ,グローバル英語志向のいずれもが動機づけに対して正の影響を与えているが,グローバル英語志向が最も強く影響していることが示された。またアイデンティティはスピーキング回避に負の影響を及ぼす一方で,英語完璧主義には正の影響を与え,さらに英語完璧主義は動機づけに正の影響を与えていることが示された。これらのことから,グローバル英語志向と日本人英語話者としてのアイデンティティを涵養していくことが重要であることが示唆された。