英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.23 2011

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

多肢選択式問題は公平か
―記憶保持の強さから―

茨城県/筑波大学大学院 日本学術振興会特別研究員DC・在籍 高木 修一

▼研究概要
多肢選択式問題における錯乱肢の重要な役割として、正答する能力のない受験者が当て推量により正答選択肢を選ぶのを防ぐことがある。そこで、本研究は、より効果的に機能する錯乱肢について、錯乱肢情報の記憶保持の観点から現状の調在および実証研究を行った。まず、現在運用されている読解テストの中から英検、センター試験およびTOEICを対象とし各テストにおける錯乱肢に記憶への保持のされやすさの観点がどの程度反映されているのかを調査した。その結果、いずれのテストにおいても記憶保持の観点はほとんど反映されていないことが明らかとなった。その上で、記憶に保持されやすい錯乱肢と保持されにくい錯乱肢を含んだ読解問題を作成し、日本人大学生に解答させた。その結果、記憶に保持されにくい錯乱肢は効果的に機能していなかったが、記憶に保持されやすい錯乱肢は特に得点が低い受験者に対して従来の錯乱肢よりも効果的に働くことが明らかとなった。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

どうして「つながりのある文章」が書けるのか
―文法処理速度に焦点を当てて―

東京都/東京学芸大学大学院 在籍 鈴木 祐一

▼研究概要
高校英語教育のライティング指導では「正確さ」にのみ重点が置かれ、「流暢さ」という側面の重要性の認識が欠けている。そこで、「単文」レベルで言語処理の流暢さがつながりのある文章を書くために重要であることを証明するべく本研究を実施した。大学生を対象に、単語並び替えテストで単文の文法処理速度を測定し、漫画のストーリーを書くライティングタスクを行わせた。ライティングタスクでの結束詞の使用を分析し文法処理速度と比べた結果、文法処理速度が速い学習者は文と文の関係に注意を向けて結束詞を多く使い、語数も多い文章を書くことができることが明らかになった。また、長い英作文を書いた経験の頻度によって、結束詞の使用の追いを調べた結果、ライティング経験が特に重要な役割を果たす部分がわかった。同時に、長い英作文を書いた経験より、文法処理速度が多くの語数を書けるようになるために必要だということが明らかになった。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

豊かなコミュニケーション活動を実現するOutputの創造【共同研究】
―地域外国語活動補助教材「Joy!Joy!English!」を活用した外国語活動の試み―

北海道/旭川市立北光小学校 教諭・代表者 小山 俊英

▼研究概要
児童にコミュニケーション能力の素地が求められている外国語活動。筆者は一人一人の児童に、素地にとどまらず、コミュニケーション能力を無理なく高めていくことをめざし実践を行っている。本研究では、次の2点を実践した。 ①単元を通して活動意欲の持続を促すために、OutputもしくはOutput的な活動の充実を図る実践 ②地域教材「Joy! Joy! English!」を制作し、Output的な活動で活用し、コミュニケーション能力を育む実践 筆者が平成15年に設立したAEENの会員にも実践協力してもらい、児童の自己評価(活動評価)の分析をすることを通して上記2点の検証にアプローチした。現在使用している「英語ノート」では、OutputもしくはOutput的な活動を仕組むことはなかなか難しい。しかしながら、充実したOutputは、児童の活動意欲を持続させること、および、本研究で多くの児童に試用してもらった「Joy! Joy! English!」が、コミュニカティブで児童が意欲的に取り組むことのできる教材であることを検証することができた。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

小学校外国語活動における評価の可視化【共同研究】
―客観的な評価規準作成の試み―

福岡県/大牟田市立明治小学校 校長・代表者 馬場 直子

▼研究概要
小学校外国語活動の評価について、文部科学省は、平成22年5月に「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善などについて」の通知を出している。 明治小学校では、この通知の内容を踏まえながら、外国語活動の客観的な評価の実践研究をめざし「単元の評価規準の作成」、「毎時間の評価規準と評価方法の設定」、「評価補助簿の作成」および「個人カルテの作成」を図ってきた。(中略)これら一連の方途により教師の主観的・慾意的判断を退け、客観的な評価規準を作成することができた。また、評価の可視化が図られ、そのシステムが構築できた。それによって、子どもの状況を多面的、多角的に把握し、個々に応じた手立てを講じることができるようになってきた。まさに、指導と評価の一体化が図られたものと考える。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

英語スピーキングテストにおける対話者の存在がスピーチパフォーマンスに与える影響

兵庫県/宝塚市立御殿山中学校 教諭 柳瀬 学

▼研究概要
現在、英語学習者のスピーキング能力を測るためのさまざまなテストが実施されている。それぞれのテストの特徴の違いの1つが対話者(話し相手)の存在の有無であるが、先行研究においてスピーキングテストにおける対話者の有無は、発話者のジェスチャー頻度に大きな影響を与え、ジェスチャー頻度の違いはスピーチにおける流暢さと正確さの数値と高い相関があることが実証されている。ただ、それらのデータは母語(L1)話者やESL環境の英語話者から得られたもので、EFL環境の日本入学習者に関するデータはほとんど存在しない。そこで本研究ではスピーキングテストを行う際、対話者の存在が日本人上級英語学習者のスピーチパフォーマンスにどのような影響を与えるかを検証した。結果、対話者が目の前に存在した場合、存在しなかった場合よりも有意にジェスチャー頻度、およびスピーチの流暢さ、正確さの値が伸びていた。最後にこれらの結果から今後の英語スピーキングテストの在り方に関する提案を行っている。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

中学生のパラグラフ・ライティングにおける事前プランニングとしてのマインドマップの有効性

大分県/九重町立野上中学校 教諭 立川 研一

▼研究概要
中学生のライティング活動にパラグラフ・ライティングの手法を取り入れることは、「コミュニカティブ・ライティング」の力を伸ばすことへとつながる有益な手段である。またライティングにスムーズに取り組ませるためには、その前段階としての事前プラニングが不可欠である。特に中学生のような初級学習者には、単にプラニングの時間を保障するだけでなく、その中で行う手立てを具体的に与えることが必要である。そこで筆者が注目したのは、「マインドマップ」を利用した事前プラニングである。 中学生のパラグラフ・ライティングの事前プラニングとしてのマインドマップの有効性を検証するため.本稿では形式を統一した「3-2-1マッピング」を考案した。「3-2-1マッピング」をパラグラフ・ライティングの事前プラニングとして用いることで.中学生のライティングの「流暢性」、「正確性」、「複雑性」、あるいは構成や論理性などの内容がどのように変化していくかを検証した。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

タスク後に行う活動の違いがその後のタスク遂行時の言語使用に与える影響
―協働的振り返りをどのように行うか―

神奈川県/南足柄市立南足柄中学校 教諭 内藤 篤

▼研究概要
本研究は、学習者がコミュニカティブなタスクを行った後に行うタスク終了後の活動において、ある種の指導を受けてから自分たちの発話について協働的振り返りを行うことで、その後のタスク繰り返し時における学習者の言語運用に影響が及ぼされるかどうかについて調べるものである。デザインは、実験群の学習者に対して1回目のタスク終了後の活動として2つの活動(明示的指導を行ってから協働的振り返り、モデル提示を行ってから協働的振り返り)を行わせる。そしてその後のタスク繰り返し時と2週後に閉じタスクを行った際に、学習者が産出する言語について、正確さと流暢さの面で何の活動も行わずタスクを繰り返した統制群と比較する。また、学習者が行った協働的振り返り中の対話を質的に分析することで、実際に学習者がどのようなことに注意を向けているかについて調査する。それらを検証することにより、中学校における文法指導と言語活動の在り方を提案したい。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

ライティング活動におけるピア・レスポンスと教師フィードバックの効果
―生徒の自律性を高める教師の介在場面についての考察―

兵庫県/西宮市大社中学校 教諭 神原 克典

▼研究概要
本研究の目的は、中学校でのライティング活動においてピア・レスポンスを導入することにより、教師の修正(correction)のみに頼るのではないライティング活動を行ったとき、生徒の心情面と、生徒が書く文章にどのような変化が見られるか、また教師がフィードバックを行う際には、どのような点に留意すればよいかを検証することにある。そこで、中学2年生を対象に、帯学習の形態でライティング活動を行い、創作ライティングタスクとして、年間を通して6つのタスクを生徒に与え(2か月に1つの割合)、書いた作品はファイルに綴じさせた。教師フィードバックとともにピア・レスポンス(peer response)を実施することで,生徒たちに書きながらコミュニケーションを行うことを体感させるとともに,文を作る上での相互アドバイスを行わせた。ここでは、6つのタスクのうち、主に後半の2つのタスク(タスク5とタスク6)を取り上げて報告する。タスク後に生徒に実施した自由記述アンケートをカテゴリ分類した結果、ピア・レスポンスに関しては生徒にメタ的に振り返らせることが難しかったものの、ピア同士でアイデアを出し合い、読み手意識が深まるとともに、より良い文章にしようとする内容重視のアドバイス交換ができ始めていることがわかった。また、教師フィードバックで顕著な項目は、未習の文法事項などのアドバイスであることがわかった。ピア・レスポンスにより書く意欲が高まる反面、個々の生徒に合わせた教師の適切なフィードバックが重要であることが明らかになった。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

小学校外国語活動嫌いを誘発させる要因
―学習者の質的データと量的データの分析を中心に―

和歌山県/和歌山大学教育学部附属小学校 教諭 辻 伸幸

▼研究概要
児童たちの外国語活動嫌いに焦点を当てた研究は数が少なく、児童の個性や学習環境を熟知している小学校教員の視点から客観的になされたものは.ほとんどない。本研究では、その小学校教貝が外国語活動嫌いを誘発させる要因を量的研究と質的研究の両アプローチで明らかにしようとした。 量的研究では、外国語活動嫌いとは対極である好意的因子を探るための因子分析を行い第1因子「英語運用力向上希望因子」をはじめとする5つの因子を特定することができた。質的研究では、量的研究のデータから外国語活動嫌いの児童と嫌いでも好きでもない児童を特定し個別にインタビュー調査を行った。その中で、外国語活動のさまざまな活動で嫌いな場面や好きな場面を特定し理由も聞き出すことができた。外国語活動嫌いでは、英語のスキル面、指導方法、指導内容の順位で嫌いにさせる要因を特定した。また、外国語活動嫌いの児童たちは、授業中ほめられる経験が少ないことも判明した。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

高等学校ライティング教科書における「書くこと」の課題比較分析

茨城県/筑波大学大学院 博士後期課程・在籍 小早川 真由美

▼研究概要
高等学校ライティング教科書23冊における「書くこと」の課題を分類し、どのような課題が教科書内で多用されているのか、それらの課題は学習指導要領が求めるライティング能力を育成するのに適切な課題か、分析を行った。各ライティング教科書では制限作文や和文英訳の課題が多く設定されていたが、全体的な特徴として、誘導作文と自由英作文の課題の占める割合は少なかった。さらに、現行の学習指導要領の記述内容がどのように教科書内でライティング課題として具現化されているか、検証した。自由英作文の課題として、自分の考えなどを整理して書く活動や、文章の構成や展開に留意しながら書く活動は設定されていたが、書き直す活動や読み手を想定して書く活動を設定している教科書は少なかった。そのため、教科書内の自由英作文の課題にこのような書く活動を取り入れていくことにより、「実践的コミュニケーション能力」の育成を支援する必要があると示唆される。

調査部門 Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

高校生の会話における対人コミュニケーション指導の効果

東京都/立教大学大学院 博士課程・在籍 行森 まさみ

▼研究概要
本研究の目的は、(1)高校生の英語での会話における対人コミュニケーションへの意識と動機づけの関係、(2)指導・練習という教育介入を受けることによる、意識と動機づけの変化を明らかにすることである。(1)については、言語行動よりも非言語行動により多く依存しており、「話し手として相手に返してもらえるような話題選びや話し方」、「聞き手として、興味・関心を示しながら質問をする」などという相手にも話しやすい配慮をするという点において特に改善の余地が見られ、それらは動機づけとも関係していた。(2)については、指導・練習後、言語行動に対する意識の高まりが確認され、実際の会話にもそれが表出している例が見られた。しかし動機づけについては、教育介入による意識の変化のみが動機づけに影響を与えているとは言いきれないことが明らかとなった。

調査部門 Ⅳ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

読解ストラテジー調査と語彙ストラテジー調査から見る自立的学習者の傾向について

新潟県/新潟県立長岡工業高等学校 教諭 根本 栄一

▼研究概要
新潟県立柏崎翔洋中等教育学校SELHi研究『自立的・自発的学習者の育成を目指した中高一貫リーディングプログラムの開発』は、英検2級取得者は自立的学習者である、と定義づけ、研究を行ったが、統計的に定義を実証するに至らなかった。今回はその継続研究として、英検2級取得直後と2級取得後1年経過した同じ生徒の読解および語彙ストラテジー意識調査を分析し、生徒が自立的学習者となりうる転換点を探し出すことを目的とした。各ストラテジーから3要因[トップダウン(TD)、トップダウン+ボトムアップ(TD+BU)、ボトムアップ(BU)]の計6つの質問項目群を抽出し、分析を行った。その結果、2級取得直後と2級取得1年後でともに整合性が示された質問項目は読解BU、語彙BU、読解TD+BUの3群であった。次に読解と語彙ストラテジー意識の変化を検討するため、下位尺度得点の平均点を比較した。この結果、読解TD(r = .50、p < .01)、読解TD+BU (r=. 77、p<.001).語彙TD(r= .51、pく.001)、語彙TD+BU(r=.63、p<.001)の4群で有意であったが、読解BUと語彙BUでは有意でなかった。最後に読解および語彙の下位尺度聞における2級取得直後と1年後の関係を検討し、読解と語彙との問で中程度の相関が認められた。認知ストラテジーならびにメタ認知ストラテジー意識の変容は.自立的学習者の特徴である、スキルの自動化が図れるレベルに達しておらず、2級取得1年後では英文読解における自立的学習者への変容は期待できないと結論づけた。

テーマ指定 Ⅰ 「英検Can-doリスト」に関する研究

到達目標,指導,評価の一体化の在り方の研究
―PCPP法による英語で行う授業への英検 Can-do リストの活用―

石川県/石川県立金沢桜丘高等学校 教諭 前田 昌寛

▼研究概要
平成25年度より、新高等学校学習指導要領が施行される。新指導要領では、(1)授業は英語で行うことを基本とすること、(2)4技能の総合的、統合的指導を行うことが特徴とされる。(1)については、EFLの環境において、JTEが無理なく行える教授法としてPCPP法を本研究では採用し、(2)については、英検Can-doリストを用いた4技能総合・統合タスク型授業を実践した。つまり、PCPP法による英語で行う授業へ英検Can-doリストを到達目標、評価の道具として活用することで、到達目標、指導、評価の一体化の在り方を本研究では扱っている。PCPP法による英検Can-doリストを活用した授業を実践した結果、生徒の4技能に対する運用能力の自信の度合いは向上し、特に読むことのタスク達成率が向上した。PCPP法による英検Can-doリストを活用した英語で行う授業の1つのモデルとして提案したい。