英語教育に関する論文・報告書

STEP BULLETIN vol.19 2007

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

項目応答理論を応用した英作文評価者トレーニングの有効性について

兵庫県/神戸市立大池中学校 教諭 占部 昌蔵

▼研究概要
自由英作文を評価するときに,評価の信頼性を議論されることがある。では,どのようにしてその信頼性を高くすることができるのか。本研究では,トレーニングを受けた評価者が行う評価が,前回の評価に比べてどの程度変化するのかを調べることによって,項目応答理論を応用した評価者トレーニングの有効性を検討した。同時に,評価者の背景によって信頼性に違いが見られるのかも検討した。評価基準は,ESL Composition Profileを使用した。この評価基準は,内容,構成,語彙,言語使用,(句読点,文法などの)メカニクスの5観点から構成されている。12名の英語科教員と8名の大学院生が,100名の高校生が書いた英作文を,この評価基準を用いて評価した。 結果,今回の評価者トレーニングは効果があることが確認された。また,評価者の背景によって信頼性に大きな違いは見られなかった。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

単語認知における概念表象
―刺激語の抽象度、親密度、翻訳方向、学習者の熟達度が語彙テストに与える影響―

東京都/東京都立青山高等学校 教諭 中村 徹

▼研究概要
本研究では,日本人英語学習者の語彙認知においてL1語彙表象,L2語彙表象,概念表象がどのような関係を持っているか,またどのような要素が単語認知に影響を与えるかという問題を解明するため,語の属性その他の条件を操作した実験を行い,その差を検討した。その結果,語彙認知における「具象・抽象」効果については,実験参加者の「L2熟達度」によって効果がさまざまに変化することが示された。また,具象名詞については低熟達度群ほどL2→L1方向の語彙処理が正確であることが確認された。語の属性についての実験の結果,語の「親密度」と「イメージのしやすさ」いずれもが客観的ではなく主観的な指標であるということが再確認された。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

基幹部と選択肢の関連強度が語彙テストパフォーマンスに及ぼす影響

茨城県/筑波大学大学院 在籍 中川 知佳子

▼研究概要
本研究は,語彙知識の有無によって語彙ネットワークの関連強度(リンク強度)がどのように変化するのかを検証する実験1と,多肢選択式語彙テストにおける基幹部(stem)と選択肢の関連の強さがテストパフォーマンス(正答率,選ばれる選択肢の種類)に及ぼす影響を検証する実験2から構成されている。 実験1においてはパラディグマティック(paradigmatic),シンタグマティック(syntagmatic),音韻(phonological)の3種類のネットワークの発達を学習者の反応時間をもとに検証し,以下の2点が明らかとなった。(a) 語彙知識が深まることによりパラディグマティック,シンタグマティックネットワークが発達する。また,(b) 語彙知識がない場合には音韻関連を中心としたネットワークが構築される。 実験2においては基幹部の影響を,(a) 基幹部として与えられる文の種類,(b) 基幹部に含まれる目標語と正答選択肢のリンク強度,そして,(c) 基幹部に含まれる手がかり(目標語の同義語)と正答選択肢のリンク強度,以上の3つの観点から分析を行った。 主な結果は以下の3点である。(1)基幹部が例文の場合,定義文を与えた場合よりも正答率が高くなる。(2)目標語や,基幹部に含まれる同義語と正答選択肢のリンク強度は正答率に影響を及ぼさない。また,(3) 目標語が未知語である場合には,音韻的な類似性を持つ錯乱肢が選択されやすい。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

小学校英語教育における動詞の役割と子供のSchema Formation
―子供の認知プロセスに着目したアニメーション教材の開発を通して―

奈良県/奈良市立三碓小学校 教諭 柏木 賀津子

▼研究概要
本研究では,「動詞の島仮説」(The Verb Islands Hypothesis(注1))を聞いてやり取りをする子供が,その意味にどのように交渉し推測しているのかを観察した。また,子供のSchema Formation に着目して作成した「基本動詞20」のFlash アニメーションソフトを授業に導入し,その効果を検証した。その際,動詞はCorpus などを参 考に選んだ。 被験者は6年生132名で,アニメーションを導入した実験グループとTPR(注2)(Asher, 2000)やジェスチャー中心の統制グループを比較し,授業後,記述テストやリスニングテストで分析を行った。 その結果,TPRやジェスチャーでは推測しにくい抽象動詞(need, smell など)があり,そのような動詞ではアニメーションの効果も高く,導入前に比べて伸びが見られた。最初は動作を名詞的にとらえた記述もあったが,学習頻度や質が増すにつれてVOcombination(動詞と目的語の結合)の記述が多くなった。事後リスニングテストでは,両グループの差はなかったが,全体平均は90%を超え,子供はインプットを何らかの方法で分析しながら動詞の意味を推測していると考えられる。今後もVO-combinationからVO-segmentation(動詞と目的語の分化)に向かうまでの子供の理解プロセスを観察し,子供の言語スキーマを育てるような指導の在り方を探りたい。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

TPRS を用いた生徒のスピーキング力を伸ばす授業

高知県/私立清和女子中高等学校 教諭 松尾 徹

▼研究概要
この実践研究は元来アメリカで外国語としてのスペイン語教育のために開発されたTPR(Total Physical Response)Storytellingという教授法を用いて,生徒のスピーキング力を伸ばすのにどのような効果があるかを検証することを目的としたものである。本報告書ではTPRSが日本ではまだ新しい教授法のため,まず最初にこの教授法の理論背景,基本的な指導手順,そしてテクニックを解説している。次に実際に行ったレッスンを実践例として詳しく記述している。その後,スピーキング力の伸びを測るために用いた2種類のタスクの説明とそのデータ収集法を説明している。そしてその後にそのデータから見えてきた生徒のスピーキング力の伸びをいくつかの視点から分析し,考察したことを記述している。最後にこの研究の課題とこの教授法で行う場合の問題点を提起して,研究報告をまとめている。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校英語表現活動指導の改善【共同研究】
―タスクは実践的コミュニケーション能力の育成に効果があるか―

千葉県/市原市立国分寺台西中学校 教諭・代表者 村井 樹代実

▼研究概要
本研究は千葉県内5地区の英語教員が,「タスク」(task)が日本の中学校でどの程度有効なのかを検証したものである。日本の中学校で従来行われてきた「導入」(Presentation),「練習」(Practice),「表現活動」(Production)の指導過程で,「導入」と「練習」は授業の中で十分に行われてきたが,実践的コミュニケーション能力育成に欠かせない最後の「表現活動」はなかなかできていない現状がある。そこで,中学校の英語教師がめざしている実践的コミュニケーション能力を育成するために「タスク」に着目し,「表現活動」の段階に「タスク」を活用することでどのような英語力を中学生に身につけさせ,またどのような力を引き出せるかを検証した。 本研究では学習指導要領に示されている実践的コミュニケーション能力の基本的要素を,語彙数,流ちょうさ,正確さ及び意味交渉ととらえた。5つのタスクの実践前後に「事前テスト」(Pre TEST)と「事後テスト」(Post TEST)を実施し比較することにより,「タスク」の有効性を検証した。指導過程は基本的にはWillis(1996)のタスクフレームワーク(表1)を参考にした。また,Schmidt(1990,pp.129-158)の「言語の意識化が言語習得を促進させる」という理論に基づき,タスク終了後の振り返りの場面を重視した。生徒自らが使用した英語の表現や文法表現の誤りや不十分さに気付き,自らが修正できるような「気付かせる」時間をタスクフレームの中に位置付け,同じタスクをそれぞれ2回ずつ行った。本研究は「語彙数」,「流ちょうさ」,「正確さ」,「意味交渉」が量的,質的にどのように変化したかの実践報告である。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

日本人中学生のメタ認知能力を育てるためのパラグラフ・ライティングの指導
―自己評価と相互評価を生かして―

青森県/弘前市立第二中学校 教諭 丹藤 永也

▼研究概要
本研究は,パラグラフ・ライティングの指導を通して,日本人中学生の英作文におけるメタ認知能力を育成するために,パラグラフに対する自己評価と相互評価及び教師の添削とフィードバックの有効性を検証した。 調査の結果,パラグラフに関するアンケートでは,事前と事後の比較で,表現,構成,内容,メタ認知の各領域で事後が高く,有意差があった。また自己評価と相互評価の事前と事後の比較でも,内容と表現の領域で事後が高く,有意差があった。プロトコル・データの分析も,内容,構成,表現の各領域でメタ認知が活性化していることが検証された。 これらの結果から,自己評価と相互評価及び教師の添削とフィードバックは,メタ認知能力を育成し,パラグラフの質を改善させるものであると言える。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

シャドーイングを用いた英語聴解力向上の指導についての検証

東京都/東京都立深川高等学校 教諭 鈴木 久美

▼研究概要
シャドーイング訓練が聴解力の向上に寄与するのではないかという研究(玉井,1992, 2005)を受け,教室でシャドーイングを用いた指導が多く見られるようになった。 この研究では,シャドーイング指導をどのように行うと,聴解力向上に結び付くかに焦点を当て,3回の実証授業を行った:(1) 5日間でのLL教室における授業で,未知・既知の英語のシャドーイング訓練を行い,聴解力伸長の差を比較,(2) 普通教室において,前回と同じ条件で,(3) read and look-up,repetition,シャドーイングのグループに分け普通教室で活動を行い比較。 結果は,意欲のある生徒は,未知の教材で,あまり英語に気持ちが向かない生徒には,既知の教材でシャドーイングを行うと聴解力が向上したというものであった。repetition は,意欲のある生徒なら聴解力に寄与することがわかった。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

発音指導におけるインプット強化と意識化の重要性の検証

山形県/鶴岡工業高等専門学校総合科学科 助教授 阿部 秀樹

▼研究概要
本論文は発音指導におけるインプット強化(input enhancement)と意識化(consciousness-raising)が教室における音韻習得に与える影響を検討する。発音指導におけるインプット強化とは,学習者を音声形式へ注意を誘導しながら中間言語の音韻体系を構築することに寄与するものである。その指導効果の研究のために,初級から中級レベルの学習者90名が被験者として教室内実験に参加し,実験群と統制群合計3クラスに分かれて実験を行った。実験群Ⅰ(IEEグループ;インプット強化+説明),実験群Ⅱ(IEIグループ;インプット強化+インタラクション),統制群(NIEグループ;インプット強化なし)である。指導効果は事前と2度の事後テストによって検証され,2度の事後テストにおいて実験群と統制群の間に有意差が見られただけでなく,2つの実験群の間でも,実験群Ⅰと実験群Ⅱの間に有意差が観察された。このことより,教室環境における発音指導において,指導方略の1つであるインプット強化と意識化の重要性を提案する。

実践部門 Ⅶ 英語能力向上をめざす教育実践

ジャンル・アプローチを高等学校ライティングに生かす指導法
―形成的評価、カウンセリング、コーチング、LLを用いて―

岩手県/岩手県立一関第二高等学校 教諭 德江 武

▼研究概要
ジャンル・アプローチ( the genreapproach,以下,GAと略)は,豪州で発達した,テクストを作る力を育てる英語教授法である。これを日本の高等学校で生かせれば,実践的コミュニケーション能力を養うとともに,自ら学び,考え,表現する力など「生きる力」も育成できると考えられる。 そこで,本研究では,アクション・リサーチにより,GAを日本の高等学校で生かす指導法を作った。それは次の技法・発想から成る。 ① 日本の高校生のニーズに合わせる。 ② 形成的評価の諸技法を生かす。 ③ カウンセリングとコーチングを生かす。 ④ 誤りを直す際は,ヒントで気付かせる。 これらの技法・発想の下に,具体的技法を開発した。そこでは,LL とフロッピー・ディスクを用いる。研究の結果,次の課題が明らかになった。 ① クラスの全員が意欲的に取り組めるようにする。 ② GA にリーディング指導を取り入れる。 ③ GA に基づく教科書を作る。

実践部門 Ⅷ 英語能力向上をめざす教育実践

自主的語彙学習者育成のための語彙指導
―lexical approachの指導法の検証―

アメリカ/Columbia University Teachers College 修士課程・在籍 國分 有穂

▼研究概要
本研究は,語彙力の質的側面に焦点を当て,複数の日本語訳がある基本動詞を使い分けつつ使い切る力を養うために,① 学習者にformulaic sequences(定型表現)の気付きを促し,それを「観察―仮定―検証―確認」という段階を踏み,分析的に学習することの指導効果を検証すること,② 学習者主体の効果的な語彙学習のための指導法及び教材開発の提案を目的として行った。研究では,2つの実験群における適正処遇交互作用の存在が認められた。このことから,言語学習において,学習目標を同一に設定し,到達させるためには,学習者の特性の差異に応じて指導法を変えていくという点に留意する必要性が示唆された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

小学校英語研究開発校に見られる英語能力の検証【共同研究】
―表現及び語彙における理解度と記憶の定着度を中心に―

奈良県/奈良女子大学附属中等教育学校 非常勤講師・代表者 福智 佳代子

▼研究概要
平成9年から10年間英語活動を行っている研究開発校と,平成18年度より同様の英語活動を行った小学校,及び当地域の児童が進学する中学校1年生に対して,活動の中で取り扱われた表現や語彙がどの程度理解され記憶の中に取り込まれるか,評価や活動の種類が違ってくる中学校英語学習における言語理解や表現にいかに寄与するかをテーマに,仮説として次の3項目 1. 背景や場面などから,ルールによらない定型表現を理解する力に差があるのではないか 2. 文法的結束性のある表現ばかりでなく,意味的に一貫性のある適切な応答の表現の理解にも差ができるのではないか 3. 理解できる語彙に差があるのではないかを設定し,測定可能な規準テストを用いて測る。結果から,合計得点及び各問題の正答率による比較,分散分析による比較を行う。さらに分散分析で有意と認められる結果が出た問題に関しては因子分析を行う。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本の小学生の英語に対する動機・態度と英語の熟達度との関係
―児童英検参加者の分析を通して―

東京都/津田塾大学大学院 在籍 カレイラ 松崎 順子

▼研究概要
本研究の目的は,英語学習にとって重要な要因である内的動機づけ,道具的動機づけ,外国に対する興味,不安,親の励ましに注目し,これらの情意要因と英語の熟達度の関係を調べていくことにある。本研究に参加したのは2006年10月に実施された児童英検を受験した小学校3年生から5年生の児童80名である。児童英検のグレード別に情意要因と児童英検の正答率の関係を調べた結果,最も難易度の高いGOLDでのみ,内的動機づけ,道具的動機づけが正答率と弱い正の相関を示し,不安は弱い負の相関を示した。なお,BRONZEとSILVERではそのような相関は認められず,親の励ましと弱い負の相関が見られた。すなわち,最も難易度の高いGOLDを受験した児童においてのみ情意要因と英語の熟達度が関係していたことから,学習歴が長くなるほど情意要因が英語の熟達度に影響を与える傾向があると考えられる。

調査部門 Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

小学校におけるALT と子供のかかわりの変化の一例
―子供の発音に対するALTの応答に注目して―

京都府/京都大学大学院 在籍 黒田 真由美

▼研究概要
ALT主導で行われる英語活動を観察し,ALTが問いを発する場面の変化について検討した。9月から3月に実施された,小学校4年生の授業を対象に分析を行った。カテゴリー分析からは,ALTの個々の子供への働きかけが減少すること,学級担任への問いが増加することが見られた。また,子供の不適切な応答や無反応な状態に対して,ALTは子供に他の可能性を提案していた。さらに,事例分析から,ALTの変化として,子供の発話を活発化させ,クラス全体を巻き込んだ授業へと移行すること,1つの問いの機能を複雑化させること,子供観の変化が見られた。授業実践を通して,ALTの発話には「教師」らしさが現れるようになったと言えよう。