英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.24 2012

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

英検取得級は高校3年間の学業成績と学業試験にどのように影響を与えるのか

兵庫県/神戸学院大学附属高等学校 教諭 船越 貴美

▼研究概要
高校3年間の学業成績は定期考査の素点だけでなく、課題や宿題の提出や授業参加度などを考慮して決められている。客観的なテストの点数だけでなく、担当教員の主観的な見解が学業成績には含まれているのである。一方で、英語検定試験や模擬試験、GTECのような資格試験や全国規模の学力試験は、受験者の知識や能力を客観的な数値として相対的に評価している。本研究では、高校3年間の学業成績と学力試験の成績を時系列的に比較し、英検取得級が両方の成績にどの程度影響を与えているかを分析し検証した。英検取得級が成績を向上させている1つの要因と仮定して、3年間で英検の取得級が高くなるほど学業成績と学力試験の両方の成績が向上するという仮説を立てた。調査には私立高等学校生188名の成績データを使用し、高校卒業までに取得した英検最終取得級と各学年末の評点および模擬試験の結果を共分散構造分析の手法を用いて、縦断的モデル、成長曲線モデル、潜在構造分析の3つの手法で分析した。結果は、英検取得級が学業成績や学力試験の成績にそれほど大きな影響を与えているという知見は認められなかったが、学業成績と模擬試験の両方の成績を3年間で向上している生徒は、高校2年生の後半から3年生の前半で英検取得級を高くした生徒であり、大学入試に対する学習の動機づけが非常に高い生徒であるということがわかった。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

OCの授業におけるメタ認知指導が日本人大学生に与える影響
―自律した学習者の育成に向けて―

大阪府/関西大学大学院 在籍 香林 綾子

▼研究概要
本研究では日本人大学生を対象としたオーラル・コミュニケーションの授業において、メタ認知指導を実施し、その指導の影響を自己調整学習理論の観点から考察した。指導後では実際のオーラル・コミュニケーションの会話にどのような影響が現れるのかを見るために、インタビュー、および、会話分析を行った。さらに、指導に対する学生の意見を分析することで考察を深めた。結果、インタビューからは、指導後、学生はコミュニケーションのためのメタ認知方略とコミュニケーション方略をより使用するようになったことが明らかになった。また、会話分析からは、指導後、学生の英語使用者としてのオートノミー(自律性)が高まったことが観察された。さらに.学生の意見より、メタ認知の働きが自己効力感(学生の目標や課題を達成できるという感じ)の高まりに影響し、メタ認知方略やコミュニケーション方略を実践することが、それらの意義を知ることにつながるという知見が得られた。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

Latent Semantic Analysis(LSA)による空所補充型読解テストの解明
―文レベルの意味的関連度を観点として―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 名畑目 真吾

▼研究概要
本研究は概念間の意味的関連度を産出するLSAを用いて、空所補充型の英文読解問題の特性を解明しようとしたものである。2つの調査を行い、空所が含まれる文の意味的関連度と項目の難しさとのかかわりを検証した。 調査1では、英検の複数の受験級で用いられている問題を対象とした分析を行った。その結果、上位の級では下位の級と比べて、空所を含む文とその前後の文、および異なるパラグラフに含まれる文との意味的関連度が有意に低いことが示された。 調査2では、空所補充問題を学習者に解答させ、そのデータから算出される項目の難しさと空所が含まれる文の意味的関連度のかかわりを検証した。その結果、熟達度の低い学習者では、空所が含まれる文と正答となる語の意味的関連度が高い場合にその項目の正答を導きやすくなる可能性が指摘された。 本研究における2つの調査から、空所補充読解問題の難易度には、空所が含まれる文の意味的な関連度がさまざまな形でかかわることが示唆された。

研究部門 Ⅳ 英語能力テストに関する研究

語彙運用能力の測定における読解イメージの利用可能性

茨城県/筑波大学大学院 在籍 長谷川 祐介

▼研究概要
学習課題後に行われる文脈内語彙テストの成績が、文脈の質や学習者の能力とどうかかわるかを検証した。特に、文脈の質として「文脈内で記述された状況のイメージしやすさ」という要因に注目した。 実験の結果、イメージしやすい文脈を用いた条件ではすべての学習者群が高い得点を挙げたのに対し、イメージしづらい文脈を用いた場合は、語彙熟達度の低い群の得点だけが低下した。 つまり、語彙力の低い学習者にとって読解時のイメージを語彙知識の習得に活用することは難しく、イメージしづらい文脈が弊害効果をもたらしていた。 さらに、語彙力の他に読解力や学習方法を観点とした検証も行ったが、語彙力以外の要因はイメージしづらい文脈による弊害効果を予測できなかった。このことから、文脈から得られたイメージを語彙習得に生かすという能力は、語彙力と最も深く関係すると想定できる。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

音の出る絵本を取り入れた中学年のための小学校外国語活動【共同研究】
―高学年の外国語活動の準備段階としての活動―

東京都/新宿区立戸塚第一小学校・愛日小学校 外国語活動コーディネーター・代表者 執行 智子

▼研究概要
本研究は新宿区立の小学校4年生の外国語活動に、音の出る絵本を使用した課題解決の活動がどのような効果をもたらすかを調査したものである。 その結果、第1に英語を読むことに対する態度や意欲に項目について対応のあるt検定を行った結果、有意な差は見られなかった。よって、本活動が児童の英語を読むことに対する態度や意欲を高める効果が見られたとは言えない。 第2に、語彙に関する10項目について対応のあるt検定を行った結果、8項目において有意に差が見られた。よって、本活動が児童の語彙力を高める効果があったと言える。 第3に、活動を楽しんだかどうかの問いの平均値は、3.16であり、加えて児童の自由記述からも本活動を楽しんだ様子がうかがえたことより、音の出る絵本を使うことについて児童が肯定的にとらえていることが見られた。以上のことより、本活動を中学年に取り入れることは外国語活動の準備段階として意義があるものと考えられる。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

「国際バカロレア・中等教育プログラム」の教育方法を取り入れた授業実践とその効果

大阪府/帝塚山学院中学校高等学校 教諭 道中 博司

▼研究概要
本研究では、国際バカロレアの「中等教育プログラム(Middle Years Programme :MYP)」の教育方法を取り入れた英語授業を行い、その効果を調査した。 中学1年生42名に約9か月間の実践を行った。MYPでは、包括的な学習、多文化理解、コミュニケーションという3つの概念を基本に据え、自己の価値観を築きながら、国際的視野を発達させる生徒の育成をめざす。 その目標を実現するために、教科ごとの目標や評価規準が設けられている。また、教科の指導内容を生徒の実生活に結びつけるための仕組みが作られている。それらを盛り込んで、「単元プランナー」と呼ばれる授業案を作成し、授業実践を行う。 調査の結果、MYP教育を取り入れた英語授業を行うことで、生徒の英語学習意欲と異文化交流志向が高まり、「英語学習の実利的な動機」、「英語を学ぶ意欲」、「異文化交流志向」について統計的に有意な差が見られた。英語力についても、聞く力、読む力ともに得点が上昇した。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校における協同学習の効果
―ディクトグロスの検証―

茨城県/龍ケ崎市立愛宕中学校 教諭 根本 章子

▼研究概要
本研究は協同学習のタスクとしてのディクトグロス(聞き取った英文をグループで再構築する)活動が中学校の英語の授業において効果的であるかどうかを検証したものである。 協同学習は、学力面(動詞の過去形の習得と過去形を用いた英文を書くこと)と、意欲面に効果があるかどうかについて、従来、教室の中で行われているような個別学習と比較した。 また協同学習クラスの生徒がグループ活動のときにどのような活動を行っているか、についての分析も行った。その結果、学力面、意欲面ともに、有意な差は見られなかったが、英文を書くことについては、協同学習クラスの生徒の数値の方が個別学習クラスの生徒よりも高く、活動にも好意的な傾向が見られた。 また、協同学習クラスではグループのメンバーとかかわりながら意欲的に学習に取り組む様子が見られた。 その反面、課題についての話し合いが進まない、話し合いに参加しない生徒がいるなどの諸問題も見られた。このようなことから、協同学習は長期にわたる継続した研究が必要であると言える。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校段階におけるTSLT(Task Supported Language Teaching)シラバスを基にした英語指導の研究

愛知県/名古屋市立守山東中学校 教諭 山田 慶太

▼研究概要
本研究では、第2言語習得研究で注目されているTask Based Language Teaching(TBLT)の理論を基に、より小学校段階の英語学習者に適しているとされるTask Supported Language Teaching (TSLT)の理念(Ellis、2009;高島、2000、2005)を基礎とした英語指導を実践する。 中学3年生を対象に設定したTSLTシラバスにおいて、7月、10月、12月、2月と計4回の「タスク活動」を実施した。「タスク活動」に取り組む学習者の発話を録音し学習者自身に振り返らせ、指導者は発話に共通して見られる誤り等を分析し学習者自身の「気づき」を重視しながらフィードバックとしての文法指導を行った。 学習者がタスク活動の最中にやり取りするメッセージの中心となる「過去形」と「現在完了形」の正確かつ適切な使用に着目しながら、シラバスの根幹となる、①文法指導→②タスク活動→③フィードバックとしての文法指導、という指導手順の有効性を授業実践を通して検証した。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

英語多読の実践が英語運用能力の向上にもたらす具体的効果
―「英検 Can-do リスト」を通して―

山口県/徳山工業高等専門学校 准教授 高橋 愛

▼研究概要
直読直解ができる英語で舎かれた図書を大量に読むという英語多読の実践が、リーディングおよびリスニングの能力の向上に効果があることは先行する事例で指摘されてきた。 しかしスピーキングとライティングに対する効果や多読の実践で修得される具体的なスキルについては、検証が進んでいなかった。本研究では、英語運用能力を測る指標として「英検Can-doリスト」を用い、継続的な多読の実践がどのような英語運用能力の向上をもたらすかを検証した。 徳山高専本科2年生に多読授業を実施し、授業開始から6か月後と11か月後に英語使用に対する自信について問うアンケート調査と、多読授業導入の前後に実力試験を実施し、その結果を分析した。 アンケート調査と実力試験の結果から、英語多読の実践がリーディングとリスニングの能力の向上につながっていること、スピーキングとライティングの能力の向上にも効果をもたらす可能性が高いことを確認した。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

ノンネイティブ・スピーカー講師が高校生に与えた影響
―英語と日本語の発表・交流活動より―

宮城県/白石高等学校 教諭 佐藤 幸恵

▼研究概要
日本の英語教育界では英語教師と言えばネイティブ・スピーカー(NS)が好ましいというネイティブ信仰が根強いと言われているが、英語を世界諸英語としてとらえ、使用者同士での有効な英語使用に重きを置く昨今の動きなどに着目すると、ノンネイティブ・スピーカー(NNS)教師を積極的に活用することで独自の効果を生むことができるのではないかと考えられる。 この仮定をもとに、高校2年生対象の選択科目においてNNS講師を迎え発表活動を行った。 2期を設定し、各期の最後に高校生は講師たちの国について英語で、講師は日本語で日本と自らの母国についての発表を行い、その後、英語・日本語の交流会を持つというものである。 結果として、講師たちがNNSとして英語を使っていることが高校生にとって英語学習の強い動機づけとなる点などが明らかになった。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

中等教育現場に有意な資格試験のあり方に関する研究
―実用英語技能検定とTOEIC,その他資格試験との比較,および今後における課題―

三重県/日生学園第一高等学校 教諭 山西 敏博

▼研究概要
本論は以下の8点に対して分析を行い、提言をしていくことを研究目的とする。 1.英検とTOEIC.TOEIC Bridge、工業英検における中等教育現場に対する有益性 2.英検の優位性:英検とセンター試験との関連性、TOEICとの比較 3.英検のTOEIC、TOEIC Bridgeと比較しての課題 4.英検の中等教育現場への取り組み方 5.中等教育学校現場の教員が欲している資料 6.保護者に対して有益性を訴える資料 7.その他に対する意見・提言 8.総括:課題と提言 これらに関して、外部試験として定評のある資格英語試験である英検とTOEIC(Bridge)を、大学入試センター試験英語科目との獲得得点などの相関性と比較検討しながら、今後の指標としていくことをめざす。 その結果、英検は中等教育現場において、語彙や学習内容項目他の点でTOEICやTOEIC Bridge、その他の試験よりも優位性を示すことがわかった。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

英文読解力評価のための英文和訳テストの信頼性と妥当性

大分県/大分県立大分上野丘高等学校 指導教諭 麻生 雄治

▼研究概要
日本の高等学校における英語教育において、英文和訳テストは多用されているにもかかわらず、これまで英文和訳テストの信頼性や妥当性について検討した研究は少ない。 そこで、本研究では、日本人高校生の英文和訳テストの解答サンプルを用いて、現職高校英語教員がどのように採点するかを調べ、評価者間信頼性と評価者内信頼性を検討した。 さらに、多肢選択クローズテストの結果と比較し、基準連関妥当性を調べた。その結果、評価者間信頼性、評価者内信頼性ともに比較的強い相関関係があることがわかったが、かなり低い相関も見られ、採点結果は絶対的なものではなく、採点者に依存することがわかった。 また、英文和訳テストと多肢選択クローズテストとの比較においては、強い相関関係は認められず両者のテストでは読解力の測定する部分が異なっているということが明らかになった。

調査部門 Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

海外留学は学習者の何を変えるのか
―英語圏長期留学が学習者の情意面に与える影響を探る―

大阪府/関西大学大学院 日本学術振興会特別研究員DC・在籍 植木 美千子

▼研究概要
本研究では、海外留学前・後に収集した質問紙データを用いて、大学生英語学習者のL2学習にかかわる情意(L2動機、L2不安、自己効力感)の変化を、L2 Motivational Self Systemの枠組みを用いて調べ、海外留学の効果を情意面から検証した。 本研究の参加者は、1年間の海外留学プログラムに参加した日本人大学生英語学習者151名。彼らに、留学前・後において質問紙調査を実施し、データを得た。これらのデータをもとに多母集団同時分析を行った結果、 1)留学前においては、理想L2自己(L2学習者としてこうなりたいと思う理想自己像)がL2動機の主な原動力だったのに対し、留学後は自己効力感もあわせて原動力として作用すること、 2)留学前は、義務L2自己(L2学習者としてこうならなければならないと思う義務自己像)はL2不安に強い正の影響を与えていたが、留学後では、L2不安ではなく、L2動機づけの方に正の影響を与える傾向があること、 3)留学前は、L2不安がL2動機づけに負の影響を与えていたが、留学後には、ほとんど影響がなくなったこと、そして 4)留学後にL2動機が有意に向上し、また、多くの要因によって、より安定した状態で支えられていることなどが、本研究から明らかになった。