英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.28 2016

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

日本人英語学習者の聴解時の統語的一時曖昧文の処理における韻律情報の影響
―ゲーティング法を用いた検討―

愛知県/名古屋大学大学院 在籍 後藤 亜希

▼研究概要
本研究は,英語学習者と英語第一言語話者が,聴解時の文処理において,韻律情報をどの段階で活用しているのかを明らかにすることを目的とする。調査では,ゲーティング法を用いたリスニングの課題を行い,分析においては,学習者のリスニングの習熟度,文構造,学習者の動詞使用の選好性を要因として扱った。その結果,(1)英語学習者は,音声言語処理の早い段階では,動詞の選好性の影響を受けるが,提示が広がるにつれて韻律を用いた文構造の予測が可能となること,(2)英語のリスニング習熟度の高い学習者ほど,提示される文構造によっては韻律情報に対して敏感であり,文構造の予測が正確であること,(3)英語第一言語話者は,英語学習者と比較して,文処理において,より正確に韻律情報を活用している可能性があることが示された。これらの結果から,英語第一言語話者のみならず,学習者においても,韻律情報を活用して,文構造を予測することが明らかとなった。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

読解テストにおける英文間の情報統合能力の測定
―日本人が苦手とする照応解析に焦点を当てて―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 Eleanor DOWSE

▼研究概要
本研究は,日本語にはない文法項目である「冠詞」の知識を利用した照応解析処理を中心に,英語リーディングにおける情報統合能力を測定した。具体的には,日本人大学生を対象とし,ペーパー版の文法性判断課題を用いた2つの調査を実施した。調査1では,様々な種類の文法機能を持つ定冠詞が含まれた英文を用いて,ペーパー版の文法性判断課題が機能すること,定冠詞の機能によって照応解析の難しさに差が見られることを確認した。調査2では,定冠詞の機能の中からdirect anaphor とassociative anaphor に絞り,文法性判断課題の正答率および解答の自信度を測定することで学習者の情報統合能力を検証した。その結果,(a)照応解析のマーカーである定冠詞が誤って使用されていたとしても学習者はそれに気付かない,(b)気付いたとしても解答の自信度は高くない,そして (c)direct anaphor による非容認文の項目弁別力が最も高かったことが明らかになった。本稿では最後に,日本人英語学習者が持つ冠詞の知識と照応解析に基づく情報統合能力の関係について分析している。これらの調査から,テキストの情報統合能力を測定することに関し,示唆が得られた。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

オンライン英会話の学校現場における可能性と導入

神奈川県/聖光学院中学校高等学校 教諭 佐藤 貴明

▼研究概要
本研究は,昨今急速な成長を見せる「オンライン英会話」に着目し,学校現場における導入事例をまとめた実践報告である。導入には何が必要とされ,どのような手順を踏めばよいのか,その流れを注意点も含めできるだけ詳しく記した。導入に際し,オンライン英会話講座が学習者の英語力向上にどれだけ寄与するのか,実験群と統制群を用意して,プレテストとポストテストを実施することで検証を試みた。また,受講後にアンケート調査を実施することで,オンライン英会話講座が英語学習におけるモチベーション向上に作用するのかについても検証した。今回の実験では,リスニングにおいてわずかな伸びが観察されたが,リーディングやライティングにおいては,有意な結果は見られなかった。しかし,アンケート調査では,オンライン英会話講座が学習者のモチベーション向上に多大な影響を与えることが明らかになり,学校現場における大きな可能性を示唆する結果となった。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

説得型プレゼンテーション能力の向上
―国際バカロレアの探究型学習を取り入れる―

東京都/東京都立国際高等学校 主幹教諭 赤塚 祐哉

▼研究概要
本実践は, 探究型学習(Inquiry based Learning, IBL) の手法を取り入れた英語プレゼンテーション指導の試みである。IBL は, 批判的思考力を育成する手法として知られるが, 筆者は, IBL を日本の英語教育に取り入れることで, 英語の表現能力の向上に資するだろうと考えた。本実践では, 高校生を対象に説得型プレゼンテーション(Persuasive Presentation, PP) の授業を11週にわたり実施した。授業では高校生に求められる程度の学術英語の基礎を内容とし, 1)学術語彙リスト(Academic Word List, AWL)(Coxhead, 2000)を活用した学術語彙・表現の指導と, 2)PP のトピックを自ら設定し, 概念的な問いを立て, その答えを探究する指導,の2点を重点的に行った。こうした指導を行ったところ, 説得型の英文の特徴とされる①具体的な事例, ②客観的な事実, ③学術的な英語表現等, を含んだ発話がみられるようになった。生徒の発話を分析すると, AWL に含まれる語彙を含む英文も出現するようになった。本実践の成果は, 本来は外国語の指導法ではないIBL の手法を用いて英語を指導することにより, 英語の表現能力が向上することを示した点であろう。無論, 課題も少なくない。PP は高度な言語活動であり, 内容が学術的であることから継続的, 体系的な指導の重要性が示唆される。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生の英作文における「文章のまとまり」に焦点をあてたピア・フィードバック活動の効果

茨城県/茨城県立水戸桜ノ牧高等学校 教諭 野上 泉

▼研究概要
本研究は,生徒同士でのフィードバック活動を英作文の授業に取り入れ,構成,結束性,一貫性といった文章のまとまりに必要な要素に注目させることによって,生徒の作文を書く力が向上するかどうかを検証したものである。高校3年生57名が約6ヶ月間に5つの作文タスクに取り組み,事前・事後に行った作文テストおよびアンケートによって変化を調査した。その結果,作文を書く力が質,量ともに改善したこと,生徒の作文についての感じ方も全体的には肯定的に変化したことが分かった。また,生徒がどのような点に焦点を当ててフィードバックをしたかを,フィードバック・シート上のコメント数で調査したところ,構成,内容,一貫性,結束性に関するコメントが多いことが分かった。一方で,英語熟達度別に結果を見たとき,熟達度下位群は「結束性」について実際の作文の点数が伸びており,フィードバックではコメントもしているにも関わらず,自信をもって使えるようになっていないことが分かった。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生のためのESD指向型モデルユニット英語教材の開発と公開

兵庫県/神戸大学附属中等教育学校 教諭 岩見 理華

▼研究概要
ESD(Education for Sustainable Development)の視点は各教科の学習指導要領にも盛り込まれており,関連する様々な分野や世界観をつなげる多元的思考を育成するには教科横断的な指導が有効であると考えられているが,このような視点に基づく体系的な授業実践研究はあまりない。ESDが教育現場で普及していない理由としては,適切な教材,指導カリキュラム,評価方法の不足が考えられる。本実践研究の目的は,ESD の指導経験がない教員でも平易に指導できる英語の「ESD 指向型ユニット教材」を開発して共有することである。具体的には「水」と「食料」問題に関する自作教材を用い, 多元的思考力を高めるためのツールを応用した提案発表型の授業を設計した。その効果を学習者の意識調査により検討した結果, 本授業は学習者に好意的にとらえられたことがわかった。 今後の課題としては,学校全体でESD を推進するカリキュラムの導入や指導資料をWeb上で公開するにあたってICT 推進体制を改善することや,英語の授業における思考力の向上を計量的に評価する方法の検討があげられる。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

ユニバーサルデザインの視点を取り入れた通常学級の授業の考察
―生徒、教員対象のアンケート調査を基に― [共同研究]

北海道/寿都町立寿都中学校 教諭 中村 洋

▼研究概要
本研究では,「特別支援教育の視点を通常学級の授業に取り入れることは,すべての生徒にとってプラスの効果はあってもマイナスの効果はない」との仮説の元,通常学級の授業のユニバーサルデザイン化に取り組んだ。また,実践と合わせ,英語を苦手と感じる生徒が中学校の前半から増えだすという実態を鑑み,生徒たちはどのような時に学習の困難さを感じるのか,どのような配慮を求めているのかを明らかにすべく,本格的な英語学習を始めた中学校1年生を対象にしたアンケート調査を継続して行った。さらには,英語教員を対象にしたアンケート調査も行い,生徒たちが求めている配慮と,教員が行っている支援のあり方の差異について比較・検討を行った。結果,板書の際のチョークの色遣いや,授業案を作成する際に生徒の認知特性に合わせるなど,教員の意識的な働きかけで解決できる項目も少なくはないことが明らかとなった。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

データ駆動型学習における「気づき」の生起の諸条件

茨城県/筑波大学大学院 在籍 若松 弘子

▼研究概要
複数の英文の形式を観察することで喚起されることばの意味について,1)学習者の気づきは語彙サイズと相関関係にあるかどうか,また,2)学習者の気づきは気づきに要する時間と相関関係にあるかどうかを調査した。筆者は,気づきの度合いを検証するために,複数の簡易な英文から他と異なる意味の形式や構造を含む英文を1つ選ぶ構成の「ちがい発見クイズ」を作成し,調査協力者の回答を分析した。調査の結果は,気づきは,学習者の語彙サイズとは有意に相関があるとは言いがたい一方,少なくともある特定のタイプの学習者に関し,気づきに要する時間と相関関係にある可能性があることを示した。このことは,語彙サイズが十分ではない学習者でも,データ駆動型学習(data-drivenlearning: DDL)において,適切な用例と設問,および十分な時間が与えられる場合には,ことばの規則性に気づくことができることを示唆する。

調査部門 Ⅲ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

音読タスク中心の英語授業が学習者の英文記憶能力・英語学習意識にどのような影響をあたえるか

福岡県/北九州工業高等専門学校 准教授 渡辺 眞一

▼研究概要
本研究は①1年間音読タスクを中心とした授業を受けた学習者の英文暗記能力は, そうでない学習者に比べてより向上するか, ②1年間音読タスクを中心とした授業を受けた学習者とそうでない学習者との間で,英語学習に関する意識にどのような違いが生じるか, の2点をリサーチクエスチョンとして行われた。 実験参加者は高専1年生2クラス89名で, 事前に質問紙調査, 英文暗記テストを行った後, 実験群44名は1年間音読タスクを中心とした授業を受け, 統制群45名はそうではない授業を受けた。そして約1年後事前調査と同じ質問紙・暗記テストを実施した。その結果,(1)英文暗記能力に関しては, 暗記テスト得点で実験群にのみ有意な伸びが見られた。また(2)英語学習に関する意識の変化についても, 質問紙調査で実験群にのみ2つのカテゴリー「英語授業に対する意識」「音読学習に対する評価」での有意な上昇があった。