英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.34 2022

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

マクロルールの階層性に基づく英文読解問題の提案:詳細情報理解から概要把握まで

茨城県/筑波大学大学院 在籍 佐藤 連理

▼研究概要
要約課題に取り組む際に学習者が辿る規則として,マクロルール(削除,一般化,構成)が存在する。本研究では,この規則に基づき詳細情報から概要把握までを問うことが 可能な多肢選択式設問を作成し,既存の設問及び要約課題との比較検証を行った。調査1ではリーディングテストに含まれる設問を分類した結果,英検では準1級と2級を除き, 難易度の高い級の設問の方がより難しいルールを含むなど,その構成内容に有意差が見られた。一方で,高校卒業程度とされている2級も削除することで解答できる設問の割合が高く, 一般化や構成を用いて概要を問う設問は依然として少なかった。調査2では,①新規に作成した一般化,構成を同程度含んだテスト,②従来の削除設問を多く含んだテスト, ③要約テストの3つを大学生・大学院生を対象に実施した結果,多肢選択式テストでは削除と比較して構成設問の方が有意に正答率が低く,また要約では見られなかった一般化・構成 についても多肢選択式で問われれば正答できることが示された。得られた結果について,マクロルールに基づく多肢選択式テストの妥当性という観点から考察を行った。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

日本語を母語とするEFL学習者の暗示的知識の測定:SPRTを用いた実験を通して

東京都/東京大学大学院 在籍 田中 広宣

▼研究概要
本研究は,明示的知識の介入を最小限に抑え暗示的知識を測定することができると考えられているタスクであるSPRT(自己ペース読み課題)を用いた実験を通して,日本語を母語とするEFL 学習者が習得している文法知識の実態を明らかにすることを試みた。対象とした文法事項は,進行形 -ing,過去形 -ed,複数形 -s,三人称単数現在形 -s の4種類の形態素であり, リアルタイムの文処理においてこれらの形態素の脱落エラーに敏感であるかどうかを検証した。読み時間分析の結果から,日本語を母語とするEFL 学習者は,進行形,過去形, 複数形の脱落エラーには敏感であるが,三人称単数現在形の脱落エラーにはCEFR C1レベルの学習者であっても敏感でないことが明らかとなった。このことから,EFL 環境において暗示的知識 の習得に至る可能性のある文法事項とそうでない文法事項があることが示唆された。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

英文要約採点への自動英文解析ツールCRATの利用可能性の検証

茨城県/筑波大学大学院 在籍 丹藤 慧也

▼研究概要
本研究では,自動英文解析ツールであるCRAT(Constructed Response Analysis Tool)の英文要約採点への利用可能性に関して2つの調査を行った。まず,調査1ではCRAT を用いて, 複数の協力者によって作成された英文要約の模範解答のテキスト分析を行い,テキストの特性を検証した。結果として,共通点が見られたが,協力者によって多少のばらつきが見られた。 次に調査2では,CRAT を用いて,日本人英語学習者の英文要約のテキスト分析を行い,算出された指標の傾向とライティング力との関係を調査した。結果として,読解テキストの受験級 が上がるにつれて,同義語や似た意味の言葉に言い換えることが困難になり,原文をそのまま使用してしまう傾向があることがわかった。また,受験級が上がるにつれて,語彙の洗練度が 高くなる傾向があることがわかった。算出された指標とライティング力の関係に関しては,テキストのトピックや語数,さらに要約で求められる語数によって,ライティング力を予測する 指標は異なる可能性が示唆された。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

児童の読み書き能力を成長させるシステマティック・フォニックスの効果検証

兵庫県/百合学院小学校 講師・兵庫県/神戸市外国語大学大学院 在籍
(申請時:百合学院中学校高等学校 講師・神戸市外国語大学大学院 在籍)阿部 友美

▼研究概要
本実践の目的は日本語を母語とする小学生に対するシステマティック・フォニックスの効果を検証することである。指導前の単語の書き取りクイズの結果から見えた課題を児童が どのように克服したかについて,その思考のプロセスの分析を図った。また教師が指導上の問題を解決したり対処したりして変容をとげた過程を記録した報告である。実践では, 小学3年生14名に対して週1回の指導を計11回行った。具体的には,synthetic phonics,analytic phonics,embedded phonics,analogy phonics ,phonics through-spelling および音韻認識・音素認識,発音指導,単語や短い文を書くといった活動を通して文字と音の対応関係を指導した。指導後に単語の書き取りクイズを再度行った結果,指導前よりも 多くの音素を聞き取って書くことができるようになっていた。さらにリスニングの力が高ければ単語の書き取りの力も伸びることが明らかになった。これらの結果と実践内容に対する 改善点も踏まえ,英語の文字の読み書き能力の発達段階に応じたシステマティック・フォニックスの方法を提案する。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

CLIL授業におけるAssessment as Learningの効果

神奈川県/清泉女学院中学校高等学校 非常勤講師(申請時:横浜女学院中学校高等学校 教諭) 白井 龍馬

▼研究概要
CLIL(Content and Language Integrated Learning: 内容言語統合型学習)とは,内容学習と言語学習の両方を学習の焦点とし,それを可能にする言語上のサポートが用いられる教育上 のアプローチである。学習指導要領の改訂にともない,国内の中等教育の領域においてその実践や研究がすすみつつある。CLIL が国内でも効果的であることを示す研究結果もいくつか 見られるが,その学習評価アプローチについての研究や実践はほとんど見られない。理論的にCLIL は学習者の学習モチベーション(動機づけ)を高める効果があるとされており, またこの点を裏づける実証研究結果もある。これをCLIL の大きな特徴のひとつと位置づけた場合,CLIL における学習評価アプローチもそのモチベーションを高めることに貢献 するようなものであるべきだ。そこで,本研究は学習モチベーションを高める評価アプローチとしてAssessment as Learning(AAL)(学習としての評価)を採用し,その評価アプローチ がCLIL 授業において英語運用能力の伸長とモチベーションの向上に与える影響を可視化し分析した。研究手法は混合法(Mixed-methods approach)(浦野ほか, 2016)を採用し, モチベーションと英語運用能力についての量的データをインタビュー調査で得られた質的データとかけ合わせて分析した。結果としてCLIL におけるAAL は学習モチベーションの向上 に寄与する可能性が示されたが,英語運用能力向上への寄与は生徒によるばらつきが見られた。長期的には学習モチベーションの向上が英語運用能力の向上に寄与すると考えられるため, より長期間にわたって同様の研究を行うことの重要性が示唆される結果となった。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

中学生(A1-A2レベル)へのturn-takingのストラテジー指導が,生徒間でのやり取りの量と質に与える影響

富山県/富山大学教育学部附属中学校 教諭 吉崎 理香

▼研究概要
 本研究は,中学生(A1-A2レベル)にturn-taking(話者交代)のストラテジーを「やり取りに便利な定型表現」として指導し,生徒間でのやり取りの量と質に与える影響を調査したものである。 実質約5ヶ月間,毎回の授業で15~20分間,問題解決型のやり取りとそれに伴う指導過程を実践した。学習者のやり取りは全てChromebook を使用して学習者自身が録画し,Google Classroom にアップロードされた。検証の方法として,実践を終了した11月にアンケートを行い,記述式部分はSCAT 分析を行った。また,アップロードされた映像から30本のやり取りのトランスクリプト を作成し,これらを分析した。
 本実践の結果,中学生へのturn-taking のストラテジー指導は,学習者間のやり取りの量に関しては,turn-taking の回数が増え,1回のturn あたりの発話量が減少する傾向があり,総発話語数 が増えることに貢献したであろうことが解明された。また,やり取りの質に関しては,turntakingのストラテジーとして与えた定型表現が,Bejarano, Levine, Olshtain, and Steiner(1997) の示すSocial-Interaction Strategies の使用と結びつき,自分の考えと相手の意見を関連づけながらやり取りを展開し内容を深めていくやり取りに変化

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生の英語リーディング能力の伸長における協同的なリーディング活動の効果
-対話による英語読解方略の獲得を通して-

愛知県/名古屋女子大学中学校高等学校 教諭 サルバション 有紀

▼研究概要
 本研究の目的は,協同的な英語リーディング活動が高校生の英語読解能力に与える効果に関し,読解方略使用の変化に焦点を当てて分析・検証することである。協同的な英語リーディング 活動とは,協同学習の理念と技法を導入した学習者集団での話し合いを中心にした一連の学習活動であり,学習者が仲間との話し合いを通じて読解方略を獲得することを目的としている。
 高校1年生8名に対し,2022年1月から4月までの3か月間,全8回にわたって協同的な英語リーディング活動による調査を行った。参加者の英語読解能力への効果を測定するため,活動前後 に読解力テストを行い,その結果とともに活動期間中に各参加者が行った再話を分析した。活動中の参加者の対話は,使用された読解方略に注目して分析した。その結果,協同的な英語 リーディング活動による学習者の英語読解能力向上は確認されなかったが,学習者が活動を通じて新たな読解方略を獲得する可能性が示唆された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

動機づけ方略に関する英語教員と英語学習者の認識の考察

大阪府/大阪公立大学工業高等専門学校 講師・大阪府/関西大学大学院 在籍 川光 大介

▼研究概要
外国語(L2)学習者の動機づけを高めるために教員が行う働きかけは「動機づけ方略(Motivational Strategies;以下, MS)」(Dörnyei, 2001)と呼ばれる。本研究では, 近畿の 工業高等専門学校で英語を学ぶ学生と彼らの英語の授業を担当する教員を対象に, MS の効果に関する認識に関する調査を実施し, 彼らが効果的だと感じるMS はどのようなものかを 検討した。学生と教員から収集した質問紙項目への回答データ, および学生の英語習熟度指標を用いて統計的に分析したところ,学生と教員が最も効果的であると認識するMSは 「達成感を得られやすい授業を展開すること」であり, 他のMS の効果に関しても学生と教員の認識は非常に似ていることが明らかになった。また, 英語習熟度や英語学習に対する 動機の強さが異なる学生グループ間でも, MS の効果に関する認識に有意な差は見られなかった。本研究で得られた結果から教育現場への示唆を行うとともに, MS 研究の今後の方向性 について議論する。