明示的学習と暗黙的学習

第2言語習得の研究のなかに、explicit learning( 明示的学習)と implicit learning( 暗黙的学習・習得)の違いは、第2言語習得における臨界仮説の関係を説明するうえで用いられることがよくある。たとえば、小さい頃から、第2言語にコミュ ニカティブな環境で自然に触れていると、「暗黙的」にその言語の規則を身につけることができるが、ある一定の年齢を越えると、頭で「明示的」に理屈を考え ながら外国語を学ぶ方が能率的だ、と言われる。そして、「暗黙的」学習よりも「明示的」学習が占める比重が大きくなると、もう子どものようには外国語(第 2言語)を「暗黙的」に「習得」することは難しくなる、というのである。

私たちは日本語を「暗黙的」に身につけたが、外国人に日本語の文法を聞かれると、正しく使えるのに、説明ができない。「は」と「が」の違い、「に」と 「で」の違い(新宿「に」行くが、新宿「で」待つ)などはその表れだと言えるだろう。帰国子女に対して、英語はできるが、文法がわかっていない、という人 がいるが、そういう人は、文法がわかっていなくても、正しく使える、という矛盾に気づいていないのである。つまり、帰国子女は、自然のコミュニケーション 環境のなかだと文法的にも正しく使えるが、これは正しいか間違っているか、という「意識的」で「明示的」な判断をしなければならない時は間違える(日本人 が日本語の文法が分からないのと同じように)のである。さて、英語教員は、何をもって「英語能力」が向上した、と言えるのか、もう一度よく考える必要があ るだろう。

(May 2012)

吉田先生のPROFILE

吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長

専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。

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